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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


1.ネクロ・カウンター ――vsギルフォード

■セレスティ・カーニンガム編【オープニング】

「――探偵。”満月に病める町”から、再びSOSが来ていますよ」
 ゲルニカ内の草間興信所にて。
 机で頬杖をつき、物思いにふけっていた少年探偵――探偵に、青年助手――助手は告げた。その手には、割られたばかりの言霊を持っている。
 探偵は助手に視線を合わせると。
「満月の夜に起こる、狂気的殺人事件?」
 それは以前にもあったことだった。そしてその事件を、探偵は一度解決している。
 助手はYesを飛ばして続けた。
「しかも多発、です。これは明らかに――ネクロ・カウントでしょう」
「ふん」
 探偵は鼻を鳴らして応える。
 ネクロ・カウント――それは死体の数を競うゲームだ。ただしプレイヤーは、自らの手を汚してはならない。あらゆる策を講じて、人を死に追いやってゆくのだ。
「しかし一体誰が”あいつ”と……」
 助手の表情が暗く沈んでゆくのを、探偵はただ眺めていた。
 ネクロ・カウントを楽しもうとする者など、”あいつ”しか考えられない。現に以前ネクロ・カウントが行われた時、それを競っていたのは”あいつ”と――医学探偵だった。しかし医学探偵は、そのゲームに負け既に殺されている。2人は互いの命を賭け、勝負していたのだ。
 助手の視線が、ゆっくりと事務所奥のドアへと移る。その部屋の中には、探偵のために命を賭けて”あいつ”を殺そうとした、医学探偵の遺体が飾られていた。
「――もう、僕のために命を賭けようなどというバカ者は、誰も残ってはいないのだ」
 助手の視線を引き戻すように、探偵は口を開いた。
「だから今回の事件は、本当にただ単純に、楽しんでいるのだろうさ。そしてだとしたら1人、思い浮かぶだろう?」
 探偵と目を合わせた瞬間、助手は閃いたように手を叩く。
「ギルフォード! ……さん、ですか?」
「ご名答」
 嬉しそうな顔をした助手に、探偵は苦笑を返した。
「邪魔をしに行くかね?」
「もちろんです!」
 ネクロ・カウントは、第3者にその策を見破られた時点でゲームオーバーとなる。つまり互いが死体の数を競っているのと同時に、その策の完成度をも競っているのだ。
 それを邪魔するということは、見破ろうとすること。それが狂気的殺人事件の解決にも繋がる。
 そしてこのゲーム自体、”あいつ”が今現在その町に存在しているという何よりの証拠だった。
 探偵は立ち上がり、机上の帽子を手に取った。
「――さあ、追いかけごっこを始めよう」



■旅立ち【都内某ビル:屋上】

 あらかじめ定められた場所。
 そしてあらかじめ定められた――
「――約束の時間ですね」
 以前と同じ言葉で始めたのは、銀時計を片手にした桂(けい)くん。
 それを囲む人々は、以前のちょうど2倍――8人だ。
「これからどこへ行くのか、わかっていますよね?」
 それらの言葉は、桂くんにとって必要な儀式であるのかもしれない。
 それぞれがゆっくりと頷く。
(”満月に病める町”で起きている事件)
 それに関わるために、私は再びゲルニカへと赴く。
 桂くんは皆が頭を上げるのを待ってから、言葉をつけたした。
「自己紹介はいりませんよね? それも既に、わかっているはずです」
(わかっている?)
 言われて人の顔を順に見ていくと、確かに桂くんの言うとおり私は”わかって”いた。ついさっきまでは、知らないと感じていた顔もあったはずなのに……
「確認作業は無駄だというお達しのようです。こうしている間にもゲルニカは動いていますからね。早く、行きましょう」
 私たちを急かしながら、桂くんは銀時計で空間に穴を開けた。
(この穴が、続いている)
 現在ネクロ・カウントが行われている、ゲルニカへと。
(探偵側につこう)
 最初からそう決めて、私はここへやってきた。けれどそれは、探偵の考え方に賛成するという意味ではない。
(私にできること)
 探偵の力になり、事件の謎を解くこと。
(けれど本当に、私がしたいこと)
 それは探偵自身の謎を解くことだ。
 すべての解決を望んでいながら、どこかそれが解明されることを畏れているような探偵。
(私の行動と感情は、必ずしも一致しない)
 それは探偵も同じなのではないか――?
 そう考えたからこそ、より探偵の傍で行動したいと思った。
 ぞろぞろと穴の方へ向かう私たちを、最後に桂くんは振り返って。
「どうしても確認したいなら、後ろの方を見るといいですよ」
 そんなことを告げた。何人かが、後ろを振り返った。



■状況整理【ゲルニカ:草間興信所】

「…………また、人が増えたな」
 草間興信所を訪れた私たちを見て、心底不快そうな顔で告げたのは探偵――少年探偵だ。
「”あいつ”なりに、多くの人との関わりを求めているんでしょう」
 さらりと答えた桂くんに、探偵はより鋭い視線を送る。
「――時計。君はこんな所にいていいのかね? 死体の数を数えるのは君の役目なのだろう?」
「!」
 その場にいた全員が、一瞬にして桂くんを捉えた。その視線の先で、桂くんはクスリと笑う。
「確かにボクは、審判としてゲルニカに来ています。完全なる傍観者は意外と少ないですからね。――でも、だからこそどこにいても”わかる”んですよ」
 その悟りは、きっとさきほど私が”わかる”と感じた事象と同じ種類のものだろう。わからせているのは他の何でもなく、”あいつ”だ。
「……なるほど」
 今度は探偵が笑った。
 その隙をついて、助手――青年助手が私たちを促す。
「さあ、立ち話もなんですから、皆さん座って下さい。”満月に病める町”で起こっている事件について、詳しく説明しましょう」
 もっとも最初から座っている私にとっては、その気遣いは無用であったけれど。



 座っているのは6人。私も一応ソファに身を預けた。前回の様子からいって、探偵は話を早く終わらせたがる傾向にある。だからこそこうしてすぐには移動できないようにすることが、得策と思えたのだ。
 テーブルを挟んで2つあるソファは、それだけで満杯になった。桂くんは既にいない。そしてそれ以外に――
(2人、減っている)
 その事実を、いちいち口にする者はいない。この世界での行動はすべてが自由。”あいつ”の手の平で踊らされていながらもある程度は自由であることを、誰もが知らず理解しているからだ。
 本来ならば草間さんが座っているはずの場所に、相変わらず偉そうに腰かける探偵。
「――さて、僕としては早く向こうに行きたいのでね。質問は1人1つとさせていただこう」
(やはり……)
 私は心の中で笑った。
 その探偵の切り出しに、即行問い掛ける声。
「向こうというのは、”満月に病める町”のことですか?」
「そう。……君の権利はこれで消滅した」
「あ」
 がっくりと肩を落とした彼はヨハネ・ミケーレ。実は彼は、私が以前体験したゲルニカでの出来事を聞き、興味を持って共にやってきたのだ。行くと決心してからは、彼も自然にゲルニカのことがわかり出したという。
(これでフォローになりますかね)
「現在の”満月に病める町”の状況は?」
 私の問いかけに、探偵は軽く頷くと。
「満月のたびにかなりの人数が死んでいる。だがおそらく、”あいつ”とギルフォードのゲームは終わっているはずなのだ」
「?!」
 息を呑んだだけで、誰も喋らなかった。1度きりの質問のチャンスを、じっと窺っている。
 そんな皆を見て、探偵は「ふん」と鼻で笑った。
「賢明な判断だな。続きは自動的なのだから」
 空気はピンと、張りつめたまま。
「結論から言おう。今回のネクロ・カウントには、複数の参加者がいるようだ。調査の結果ギルフォードは明らかに反則負け――それでも殺人が続いているところを見ると、そうとしか考えられない」
「……反則負け、ですか?」
 慎重に言葉を発したのは、アイン・ダーウン。置いた間から、それが考え抜かれた問いであることがわかる。
 それに答えたのは、探偵ではなく助手の方だった。
「”ネクロ・カウントは第3者にその策を見破られた時点でゲームオーバーとなる”――こういうルールがあるのは当然ご存知でしょう? ですがギルフォードさんは、そのルールに最初から無頓着だったのですよ」
 その表現に、探偵は笑って傍らに控える助手を見上げる。
「無頓着、か。相変わらず面白い表現をするな、君は。まあ間違ってはいないがね」
 それからこちらに顔を戻して。
「ギルフォードが他人に人を殺害させる方法は、少し調べただけですぐわかるようなお粗末なものだったということだよ。どんな方法かは、君たちの目で直接確かめてみればいい。彼はまだその方法で、殺し続けている」
「な……っ、止めないんですか?!」
 思わず口走ったのは巽・千霞。口を抑えた時にはもう遅かった。
 ふっと笑う探偵の目には、少しだけ淋しさが見えた。
「残念ながら、警察は死体の片付けと身元確認作業で大忙しなのだ。――あと、犯人逮捕でね」
(そういうことですか……)
 私たちは大本の原因がネクロ・カウントを楽しむプレイヤーたちにあるのだということを知っている。けれど実際にその渦中にある者たちから見たらどうだろう? 直接手を下した者が犯人でしかありえない。まずは彼らを捕まえるのが、確かに筋なのだ。
「じゃあさぁ、探偵がどうにかしたらー?」
 重苦しい雰囲気とは裏腹に、八尾・イナックの明るい声が飛んだ。
「それも残念ながら、無理なのだよ。”探偵”の仕事は謎を解くことと犯人を暴くことだけなのだ。犯人を拘束したり裁いたりする権限はない。だからこそ自由に動けるし、間違いが許される存在でもあるのだがね」
 それに合わせるように、探偵は明るい声で答えた。これで、まだ質問をしていないのは――視線を移した。
(志賀・哲生さん、だけですね)
 志賀さんは逡巡するよう視線を揺らしてから。
「――他に情報は?」
「いい質問だ」
 志賀さんの選んだ問いに、本気かどうかもわからない言葉が返る。
「ネクロ・カウントが3人以上の手によって行われていると考える理由が、もう1つあるのだ」
 ゴクリと息を呑む間を、探偵は置いた。
「死体の出ない殺人――いや、もしかしたら消えた子供らは殺されていないのかもしれないがね。満月の夜に子供が消える事件も多発している。いなくなった子供たちはまだ、誰一人として見つかっていない」
(子供までも、ですか……)
 確かに子供に殺させるのは難しいかもしれないけれど、子供を殺すことは簡単にできる。隠すことだって、そう難しいことではないだろう。
「う〜〜〜〜」
 問いたそうに唸っているのは千霞さんだ。
 探偵は当然それを察していて無視を決めこんでいたようだけれど。
「探偵、お2人にはチャンスを与えたらいかがですか?」
 同情を含んだ助手の声に、揺れる。
「――仕方がないなぁ。ならばさっさと言いたまえ」
 その言葉が出た瞬間、私はヨハネくんに耳打をした。
『”町”へ向かう前に、アトラスへ寄りましょう。探偵くんを誘ってみて下さい』
 ヨハネくんが微かに頷く。その一連の行動は、誰にも気づかれなかったようだ。皆が千霞さんに集中していた。
「その子供が消える事件を起こしてるのが、”あいつ”さんだったりしないんですか?!」
 探偵はゆっくりと――しかし確実に首を振る。
「”あいつ”はそんな生ぬるいことをしないのだよ。子供には手を出すかもしれない――が、だとしても僕を苦しめるために結果をばら撒くだろう」
 それは永い間”あいつ”と対立し続けている探偵だからこそ、出せた答えなのだろう。
「さてそこの神父。君が最後だ」
 急かすように、探偵は会話を進める。ヨハネくんは神妙な面持ちで、まるで作文を読む子供のようにゆっくりと口を動かした。伝えるべきことを、間違わぬように。
「えーと……僕たち、”満月に病める町”へ向かう前に、アトラス編集部に寄りたいと思っているんですけど……探偵さん、お付き合い願えますか?」
「!」
 それは余程意外な言葉であったらしく、一瞬探偵の動きがとまった。それから急に。
「あはははは」
 大声で笑い出す。
「笑いすぎです、探偵」
 そう助手が諌めるほど、探偵は笑い続けていた。それでもやがて落ち着くと、涙(笑いすぎたための涙だ)を拭いながら。
「いいだろう。君たちが望むのであれば」



■捜査開始【ゲルニカ:アトラス編集部】

 前回も通った、アトラス編集部へと続く道。もっと正確に言うならば、アトラス編集部の入っているビルへと続く、だ。
「――着くまでに、お話を訊いても構いませんか?」
 ひとり前を歩く探偵に声をかけた。探偵は先を見たまま。
「”あいつ”がそれを望んでいるようだからな。癪でも答えねば、永遠にアトラスにはつけないだろうさ」
「え……?」
 先ほどから不安そうな顔をしているヨハネくんが、小さく反応した。探偵は歩きながら振り返ると。
「場所と場所の距離なんて”あいつ”の意思ひとつで容易に変わるのだ。今僕たちがこうして歩かされているのは、”あいつ”に話す時間を与えられているだけにすぎない」
「ひぇ……」
(ここは”あいつ”の世界)
 そのことを改めて思い知らされたような、ヨハネくんの感嘆詞(?)だった。
「それで? 何を知りたいのだ」
「キミの”あいつ”に対する感情を」
「!」
 間髪入れず問った言葉に、探偵は足をとめた。私は探偵を通り越し、振り返る。ヨハネくんと私で、探偵を挟む形になった。
「――憎悪以外に、何があるのだ? それに今、この事件になんの関係がある」
「関係があるのは事件ではなく私の心証に」
「君の心証など、僕にとってはどうでもいいことだ」
「ええ、そうですね。たとえ私が死んでも、キミが哀しむ必要はない」
「セレスさん……っ」
 探偵を通して、ヨハネくんの顔が見えた。
「――ないのは必要ではなく、権利だ」
 その切実な響きに、焦点を探偵に戻す。
「そこの神父にあるものが、僕には存在しない。たったそれだけのことだろう?」
 果たしてその会話はかみ合っていたのか――判断がつかぬほど、探偵の言葉は深かった。
「何を――それほどまでに何を恐れているんです?」
 私が口にしようとした言葉を、ヨハネくんが先に紡いだ。
 探偵の足が、再び動き出す。ゆっくりと私を通り過ぎたあと――
「自分の真の感情を、自分自身100%知ることはできない。だからこそ解剖探偵は、人体の中に”精神(こころ)”を探した。見て知ることができるなら、それがいちばんだから」
 それから小さく、付け足した。
「もしかしたらその衝動すら、僕のせいであったのかもしれない」



 そうして探偵は、過去の事件――”あいつ”と医学探偵(探偵は解剖探偵と呼んでいる)が行ったネクロ・カウントのことを語ってくれた。
「”満月に病める町”で、狂気的殺人事件が起こっている」
 その話を聞いた時、探偵はすぐに医学探偵のことを考えたという。何故なら医学探偵は死体を解剖し”精神”のありかを探すことを趣味としていたからだ。
 黙っていても勝手に死体が出る町。そんな町に医学探偵が目をつけないはずはない。
 探偵にとって医学探偵は命の恩人であり友人であったが、しばらく2人は会っていなかった(特に理由はないそうだ)。
 そこで探偵は、その町へ行けばもしかしたら会えるかもしれないと、期待をこめて向かった。
 ――間接的には、会えた。
 目撃者や他の町民の話を聞いて、探偵は1つの仮説を立てた。そしてそれを、我が身をもって証明する。
 おもちゃ屋から買った、月の魔術から身を守るためのお守り。薬屋から買った睡眠薬(それは眠れない人用でもあり、または無意識に殺人を犯さないためにより深く眠るためでもあった)。そして、あえて用意しておいたナイフ(果物はオプション)。
 すべてが揃った満月の夜。惨劇の始まり。
 探偵は”あいつ”の幻覚を見て、助手を殺そうとしたという。けれどその首にナイフを突きつけた時、探偵は正気に戻った(探偵自身正気に戻れることを確信していたようだ)。
 すべてを看破した探偵は、2つの可能性に揺れながらもしかるべき場所へ報告する。しかしその解決が本当は間違っていたことを、探偵はあとから”確認”した。
(――そう)
 探偵はそれが間違いであるということを予感していて、告げたのだ。犯人は言霊屋と薬屋であると。
 すべては、医学探偵をかばうために――。
「怖くて確認できなかったのだよ。睡眠薬――もとい幻覚剤の痕跡を消す薬は存在するのか。もしそれが存在しなければ、真犯人は医者でしかありえない。医者が嘘をついていることになるから。そしてならば、何故医者がそんなことをする……?」
「…………」
 私たちは答えられなかった。
 探偵も答えを期待していなかったらしく、すぐに続ける。
「僕にとって”医者”と呼ぶに値するのは彼だけなのだ。だから僕は最悪の可能性を考えた。そのままいくつかの町を過ぎ、やがてその可能性は現実として僕の前に姿を現す」
「医学探偵に会った……?」
 私の合いの手に、探偵は笑った。
「Yes。しかもその時既に、彼は本当の意味で犯罪者だった。事故とはいえ、人を1人殺していたからね」
「!」
 ヨハネくんが小さく、十字を切る。
「彼は僕の前に姿を現さなかった。すぐ傍に来ていることを、知っているはずなのにね。それで確信したのだ。”満月に病める町”で起きていた事件は、すべて彼によって仕組まれたものであったと」
 そしてネクロ・カウントだったのだと?
「ちょっと待って下さい。もしそれが”あいつ”さんとのネクロ・カウントのせいだとして……事件を起こしていたのが医学探偵さんだけなんておかしくないですか?」
(そう――)
 私もそれが気になった。
 探偵は自らを嘲るようにわらう。
「おそらく”あいつ”には確信があったのだよ。解剖探偵は必ず反則負けする、というね。だから”あいつ”自身が、動く必要はなかった」
「な……っ」
「僕が解剖探偵を死においやる――それが”あいつ”の仕掛けた罠だったのだよ」
(医学探偵は死んだ?)
「では2人は、互いの命を賭けていたのですか?」
 無意味にネクロ・カウントなどしないだろう。”あいつ”はともかく、医学探偵は。そう思って問い掛けると、探偵は小さく頷いた。

     ★

 アトラス編集部へ着くと、探偵のカオで資料室に入れてもらえた。――そう、探偵を誘ったのは、桂くんが同行していないという理由もあったのだ。
 資料室で過去の事件のことをあさってみると、確かに探偵の話とほとんど違わないものが載っていた。それどころか、探偵が言わなかったことまで。
(医学探偵の遺体は、ホルマリン漬けにされて探偵のもとへ届けられた……!)
 そんなことを、探偵には振れない。
「――気が済んだかね?」
 資料を読んでいた目を上げると、椅子にふんぞり返って座っていた探偵が声をかけてきた(どの椅子でもこうらしい)。
「今回の事件も、”あいつ”が何もしていないという可能性は?」
 何せ対するギルフォードは既に、ゲーム上は反則負けなのだ。しかし探偵は、右手をひらひらと振った。
「ありえないね。参加者は3人以上だと言っただろう? ギルフォード以外の誰かは確実に動いているはずさ。少なくとも子供にちょっかいを出しているやつはね」
「でも、”あいつ”さんてそんなに勝負にこだわるタイプなんですか?」
「いや、こだわっているのは勝敗ではなく賭けだろう。負けた方が自分に有利なら平気で負けるのさ。――今回の事件、何を賭けたのかはまだわからないが、自分に意味のない賭けなどするはずがない。君たちも、身辺を気をつけた方がいいかもしれない」
 それはあまりにも意外な言葉だ。
「心配、して下さるんですか?」
「自分のね」
 ニヤリと、笑った。



 それから私たちはついに、”満月に病める町”へと向かった。
 その町はアトラス編集部から驚くほど近く――それなのに、なかなかたどり着くことができない。目の前に見えているのに。
「これも言わなければダメか」
 探偵が小さく呟き、最後の告白をする。
「僕の真の感情は僕にさえわからない。それはもう告げたことだ」
「はい、聞きました」
 律儀に返事をするヨハネくんに、笑みをひとつ。
「でもね、”あいつ”の真の感情ならば、助手が知っているよ」
「!?」
「だが聞き出そうとしても無駄だ。助手は僕の懇願も聞き入れなかった。それどころか、”死んでも喋らない”とね」
「――助手さんはどうして、それを知ったのです?」
「それも”あいつ”の罠だったのだよ」
 探偵は即答した。
「ただそれを語るのは、僕の役目ではないようだ」
「え? ――あっ」
 気がつくと、私たちは既に町の中にいた。



■情報交換【ゲルニカ:満月に病める町――町長の家】

「捜査本部を用意してあるのだ」
 そう告げて探偵は、どこかへ向かおうとした。が、偶然にも道端で、先にこちらへ来ていた助手御一行と合流できた。
(――おや、イナックくんの姿が見当たりませんね)
 訊いてみると、途中で急にいなくなったのだという。
 だが心配ばかりもしていられないということで、人数を増やした私たちはまた探偵のあとに続いた。
 たどり着いたのは町長の家。どうやら町長が、探偵にSOSを送った張本人のようだ。
 皆が席に着くと、まず助手が口を開いた。
「本当に、ちょうどいい所に来ましたね、探偵」
「ふん。日頃の行いがよければ運さえも味方するのだよ」
 ウソかマコトか判別のつかない言葉を返す探偵は、当然のように上座に陣取っている。
「調査は進んだのかね?」
「ええ、現場検証と訊き込み調査を」
「まともなことをやってるじゃないか」
 驚きとも呆れともつかない声音。いつものことなのか、助手は苦笑するだけで何も言わなかった。
「ではとりあえず聞かせてもらおうか」
「じゃあまずは私から」
 千霞さんが手を挙げる。道端で合流した時点ではなんだか顔色が良くないと感じたけれど、大分良くなったようでいつもの顔色に戻っていた。
「私と志賀さんで現場検証を担当したんですけど……現場に残された感情は、次のようなものでした」
 それから千霞さんが羅列したものは――驚愕&恐怖&苦痛、安堵&無念&怨恨&苦痛、恐怖&希望、悦楽&満足、歓喜&期待……
「その&はなんですか?」
 区別を気にして問い掛けると。
「それらの感情を同時に感じた、ということです。混ざりすぎてわけのわからないものもありました」
「負の感情だけじゃなく、正の感情まであるんですか……」
 意外そうに呟いたヨハネくんの言葉を、探偵は聞き逃さない。
「驚くことはないさ。恐らくその半分以上がギルフォードの感情だろう」
「え?!」
「彼に逃げ回る趣味などない。町中を闊歩してターゲットを探しているよ。――まあ、明日になればわかるか」
 探偵はそれ以上ギルフォードについて語りたくないらしく、「終わり」というふうに手を振った。
「で? 訊き込みの方はどうなのだ?」
 アインくんと助手は顔を合わせると、助手がどうぞというようにアインくんを促した。アインくんは頷いて。
「どうもこうも、目撃者が多すぎて話になりませんよ」
「え?!」
 誰かが口に出す。また、意外な答えだ。
「共通しているのは、”突然”人が人を襲った、殺した。この”突然”という言葉です。そして殺害の瞬間を目撃された人たちの半分以上が、既に逮捕され取り調べを受けているという話でした――が、逃げ果せている犯人の中には、ギルフォードの名前も挙がっていました」
「?!」
「だから言っただろう? 少し調べればわかると」
「ま、待って下さい探偵さん! ネクロ・カウントは間接的に殺めることもルールなんでしょう? 犯人に名前が挙がるということは、ギルフォードさんは直接――」
「それ自体は。別にルール違反ではないよ。ただカウントされないだけなのだ」
 挟んだ千霞さんの言葉に、あっさりと返した。
「そう――時計が、数えないだけ。それだけギルフォードは無駄な殺人をしているということだよ。自分が楽しむためだけにね」
 どこか諦めたような表情。おそらく最もどうにかしたいと願っているのは、探偵なのだろう。けれど現時点で探偵ができることは、あまりにも少ない。
(きっと)
 様々な力を有した私たちならば、探偵よりもマシなことができるのだろう。
(――まだ、わからない)
 探偵に協力すると決めた今も、私は揺れている。探偵の本心は一体どこにある?
 医学探偵を庇いたかった探偵。
 自分が指摘することで彼が死ぬことを予期していた探偵。
 それでも言わねばならなかったのは、理由が何であれ人の命を奪う重さを、知らしめたかったから?
(そして自分も、知りたかったから……?)
 すべてが憶測の域をでない。それが優しさであるのかどうかも知れない。
(今は――ただ)
 やはりできることを、やるしかないのだと思った。
(答えはいずれアラワれる)
 その時を信じて――。



■ゲームの始まり そして終わり【ゲルニカ:満月に病める町――道端】

 ついに訪れた満月当日。といっても、事件が起こるのは夕方から翌朝にかけてであり、少なくとも午前中はまだ平和なのだった。
(しかしだからといって)
 部屋の中でのんびり待ってはいられない。もしかしたら殺人の起こる兆候だって、見られるかもしれないのだ。
 アインくんも私と同じことを考えていたようで、彼が先に探偵に提案した。探偵はそれを受け入れ、私とヨハネくんがそれに従うこととなる。
 探偵が助手に残るよう告げたのは、もしかしたら彼自身のためなのかもしれない。その助手に、千霞さんと志賀さんがついて残ることとなった。



「――ところで探偵くん。1つ気になっていたことがあるのですが」
 町を見回り歩きながら、私は探偵に振ってみた。
「なんだね。君はまたずいぶんと質問が多いな」
「僕の分の質問の権利を、セレスさんにあげたんですよっ」
 ヨハネくんが口を挟む。最初の失敗が余程こたえているようだった。
 探偵どころかアインくんまで笑っている。
「なるほど。それでバランスが取れているというわけか。――で? 質問は?」
 私は過去の事件の話を聞いた時から、疑問に思っていたことを口にした。
「何故ネクロ・カウントのプレイヤーに加担する人が存在するんです? 他の多くの人たちを巻きこむことを知っていて……」
 すると探偵は、今度は違う笑いを見せる。
「それは他人よりも自分が大事だからなのだ。ゲームに協力した者は基本的には”殺されない”。それはルールではないけれど、殺してしまったらそこで作戦は一度終わってしまうワケで。そんな面倒なことをわざわざしないだろう」
 なるほど理屈は理解できた。
「殺される場合もあるわけですか」
 問い掛けたのはアインくん。
「作戦がバレかけた時、それを隠すために殺すことはあるのだ。あとは――それこそギルフォードのような方法を用いる輩がいるとね」
「あっ、ギルフォードさんがこ……殺している対象は殺した人なんですか……」
 ヨハネくんが、まるでそれを言葉にすることすら罪のように口にした。
 辺りはまだ、静寂に包まれている。これから起こる惨劇の、片鱗すら窺うことはできなかった。

     ★

「――あっ、探偵さん!」
 不意に呼んだ声に、皆の視線が移る。見ると千霞さんがこちらへ走ってきていた。
「どうしたのだ? そんなに慌てて」
「実はっ」
 息切れで続きを言えない千霞さんに、私は嫌な予感を覚える。
(興信所からは結構な距離がある)
 その距離をこれだけ急いで走ってきたと思えば――ただ事ではないだろう。
「落ち着きたまえ。まだゲームは始まっていないのだ」
 諭すような探偵の言葉に、千霞さんは激しく首を振った。
「志賀さんが……志賀さんが助手さんを連れてどこかへ行ってしまったんです……っ」
(?!)
 また、人が減った。
 しかも今度は明らかに、自分の意思で……。
 それにぼかされた”どこか”は、私には一箇所しか思い浮かばない。助手を連れて行くような場所といったら……
 探偵も当然それをわかっているのだろう。けれどただ一言。
「――そうか」
 呟いた。
「そ、そうかってそれだけですか?!」
 突っ込むヨハネくんも、当然わかっているだろう。
(わかっていて)
 かつこれだけ冷静に対応できるとすれば――
「……なるほど、探偵くんには確信があるわけですね? 助手さんは”まだ”殺されないと」
「!」
 私が口にした言葉に、探偵は深く頷いた。
「そのうち戻ってくるのだ。気にすることはない。私立探偵の方は、どうだかわからないがね」
「一体どうして、そんなことになったんです?」
 首を傾げるアインくん。千霞さんはやっと落ち着くと、町長の家での出来事を皆に話してくれた。



「――その会話のどこかに、彼にとっての”きっかけ”があったのだろうな」
 聞き終えた探偵はそんな感想を漏らした。「助手がかつて探偵を憎んでいた」という私たちが思わず息を呑んだくだりにも、眉1つ動かさなかった。
(だとすれば)
 最初から知っていた、ということになる。
「もしかして探偵くん……助手さんがキミを憎んでいたことと、助手さんが知っている”あいつ”の真の感情には、何か繋がりが……?」
 私が推測を口にすると、探偵は自嘲気味に笑った。
「それは理由と結果なのだよ。助手はそれを知っていたからこそ、会ったこともない僕を憎んでいた。理屈は簡単だろう?」
「「「どこがですか……」」」
 千霞さんとヨハネくんとアインくんが、声を揃えて呟いた。
「そろそろ本部に戻ろう。夜になるまでは何の変化もないようだ」
 探偵が促すと、千霞さんが。
「あ、イナックさんは……?」
「色んな場所を捜し回ってみたんですが、見つかりませんでした」
 答えたのはアインくん。彼が散々走り回って捜したのだ。ただそれでも、見つけることができなかったから。
(志賀さんと同じように)
 それも当人の意思であるのかもしれない。

     ★

 夜――。
 ネクロ・カウントの始まりとともに、私たちは外へ飛び出した。
 町はほんの数時間前までが信じられないほど、人であふれていた。
(――そうか)
 もしかしたら、閉鎖された空間にいる方が怖いのかもしれない。
 これから殺人を犯しそうな人を、見かけで判断することはできない。何故なら今回の事件のポイントは”突然”。それより前に判断できないからこそ突然なのだ。
(ただ)
 私たちには千霞さんがいる。人の感情を読み取ったり、同調することのできる千霞さんが。だから私たちは、見かけで判断するのではなく、中身で判断することができた。
「あの人! 殺しそうですっ」
「任せて下さい!」
「あっ、その人も!」
「OK」
 千霞さんの指差した人物が、次々に倒れてゆく(殺さないように、皆で気絶させているのだ)。ただ私だけは車椅子のため積極的には参加できず、周りに目を配って指示を出していた。
「しかしこれ、わかっていたことですがキリがありませんね……」
 その合間、ため息混じりに呟きたくもなる。
 ――と。
「危ないっ!!」
(?!)
 突然声をあげて、私の方へ猛スピードで走ってきたのはアインくんだ。アインくんはしかし、私をかすめてすぐ後ろの何かを吹っ飛ばした。
(あ……!)
 どうやら私を襲おうとした人を、吹っ飛ばしてくれたようだ。その男性は100Mほども向こうに飛ばされている。もちろん意識はないだろう。
「ありがとうございます、アインくん」
「いえ、俺はこのために来ましたから」
 吹っ飛ばした方のアインくんはぴんぴんとしていて、力こぶを作るような仕草をした。
(本当に、頼もしいですね)
 こんな状況であるのに、口元が笑った。
 そんな中、ふと千霞さんが呟く。
「ギルフォードさん……?」
 それに真っ先に反応したのは、やはり探偵だ。
「掴んだか。どっちだ?」
「多分――向こう」
 千霞さんが指差した。
「行ってみます!」
 その方向へ、すぐにアインくんが走ってゆく。恐ろしいほどのスピードで。
 もちろん私たちもそれを追いかけた。先で見たものは――



 アインくんとギルフォード、そして何故か、W・1105――スカージさんが戦っている。私がそれをスカージさんだと判断できたのはもちろん、ゲルニカへやってくる前に会っているからだ。
 3人の戦いは高度すぎて、私の目には映りさえしない。他の皆も当然手出しできそうにないらしく、だから私たちはとばっちりを喰らわぬよう気をつけながら、先ほどまでと同じように周りの危険因子を排除していっていた。
 そのうち、千霞さんがあることに気づく。
「そう……ギルフォードさんは、脅して殺させていたんですね」
 それは散らばった感情を紐解いた答えなのだろう。
 肯定するように、探偵が言葉を付け足す。
「そのうえで、殺した奴を殺していた、というわけさ。バレないワケがないだろう?」
 襲い掛かる人を器用に気絶させながら。
(だから)
 見ればわかると言ったのだ。さすがにそれは、何の説明もいらない事件だ。
 3人の戦いはさらに激しさを増していた。それは音や動き回る気配でわかる。この辺りの殺人者予備軍は大体取り押えることができたけれど……アインくんに加勢することは、相変わらずできそうになかった。
 ――と。不意に1人の攻撃対象がずれた。
「探偵さんッ!?」
 叫んだのは、誰だったろう。
「危ない――ッ!!!」
 スカージさんが探偵に向かって突っ込んだのだ。今度こそ、アインくんも間に合わなかった。
 辺りが静まり返る。ギルフォードですら動きを止め――何故かニヤリと笑っている。
「探偵さんっ!」
 呼んだのは千霞さんだ。しかし駆け寄ったりはしなかった。砂煙で何も見えなかったからだ。皆が黙って、それが収まるのを待っている。
 やがて少しずつそれが晴れ、黒い影が見えた。
「よかった、無事でしたか」
 誰かが口にしたそれは、ある意味間違っていた。
「――?!」
 その影が本当は影ではなく、人そのものであることに気づくのに、かなりの時間を要した。
「まさか――」
(”あいつ”?!)
 立ち尽くす彼の後ろには、探偵が転がっているようだ。動く様子はない。気を失っているのだろう。
(――でも)
 もしかしたらそれで、良かったかもしれない。
 黒い”あいつ”はゆっくりと右手を伸ばすと、私たちに一枚の紙を見せた。その紙には、神経質そうに角張った文字が書かれている。何故か私にさえ、くっきりと見える文字で。
『もう1人の”方法”も破られた』
 それはゲームの終わりを意味していた。
「なんでぃ、結局あんたの勝ちかよ」
 ギルフォードが残念そうに吐き捨てる。もうこれ以上戦う気はないようで、その手を下ろしていた。
「で? あんたは何を殺すんだ?」
「?!」
(2人が賭けていたのは)
 何かの命……?
 すると”あいつ”が持っている紙の、文字が変わる。
『すでに向かわせた』
「ハッ。準備のいいこって」
 ギルフォードは言い終わると、私たちに背を向けた。
「そこのゴーレムが、あんたに用あるらしいぜ? じゃあな」
 少し振り返ってそう告げると、そのまま歩いていってしまった。
 皆の視線が、そこのゴーレム――スカージさんに移る。
「てめぇに会いたかったぜ」
 真っ直ぐに”あいつ”を睨んで、スカージさんが告げた。言葉をなんと無視して、”あいつ”は歩き出す。――スカージさんの方へ向かって。
「なんだ? やんのか?」
 しかし”あいつ”はスカージさんの横を通り過ぎ、ギルフォードが歩いていった方向と同じ方に、そのまま歩いて行った。
「待てよ!」
 スカージさんが追いかける。――途端。
「え?!」
 2人の姿が視界から消えた。
(消えたなら)
 多分もう、現れないだろう。
 私はすぐに身を切り返し、探偵のもとへ急いだ。
「探偵くん! 大丈夫ですか?!」
「う……」
「しっかりして下さいっ」
 大きな声で呼ぶと、意識を取り戻したようだ。
「すみません、俺がついていながら」
 謝るアインくんを、ヨハネくんが慰める。
「でもさっきのは仕方ないですよ。本当にいきなりでしたから……」
「頭を打ったりしていませんか?」
「ああ……大丈夫だ。一体何が……」
 さらに私が問うと、答えるよう身体を起こした探偵。私たちは思わず顔を見合わせるけれど、誰も何も言うことができない。
(言わない方がいい……ですよね)
 それは暗黙の了解だった。
「――ゲームが終了しましたよ」
 探偵の後ろから、不意にした声は桂くんのもの。
「”あいつ”が勝ったのか? 何を賭けていた」
 下半身は地面についたまま振り返った探偵は、そんな言葉を口にした。一瞬ドキリとしたが、どうやら話を聞いていたわけではなさそうだ。
 いつの間にかそこにいた桂くんは、何故か淋しそうに笑って。
「”一度死んだ者を殺す権利”――だそうですよ」
「?!」
 それを聞いた途端、探偵は立ち上がり走り始めた。
「探偵さん?! 無理をしては……」
 すぐにアインくんが追いかける。
(そうだ)
 アインくんの足は速い。探偵がどこへ向かおうとしているのかわからなかったが、アインくんに連れて行ってもらえばいい。
 アインくんももちろんそう思ったようで、2人は先に目的の場所へと消えた。
「草間興信所ですよ」
 これからどうしようかと迷う私たちに、桂くんが声をかける。
「! ではまさか、医学探偵さんの遺体を……?!」
 私は気づいてしまった。
”一度死んだ者を殺す権利”
 既に死んでいる、医学探偵。そして探偵はその死体を、大事に保管しているようだった。
(それならば)
 それが壊されたら――
 再び、顔を見合わせる。
 すぐにあとを追うことは、ためらわれた。



■再会【ゲルニカ:草間興信所】

 草間興信所には、助手も無傷で戻っていた。けれど代わりに傷を負っていたのは、やはり――
「こんなことをするために、僕に渡したのか!?」
 探偵はまだ、感情を抑えられずにいた。彼の腕の中にいる遺体には――首がない。
(医学探偵は、2度、殺された)
 そして2度とも、”あいつ”の思惑は成功だった。
 探偵は見る影もないほど傷ついている。
(――あれ?)
 そんな様子を見ていて、私の頭にひとつの疑問が浮かんだ。
 確かにこれは”あいつ”の望んだ結末だ。しかし万が一ギルフォードが勝っていたとしたら、ギルフォードがこれをやったことになる。果たしてギルフォードは本当に、こんなことを望んでいたんだろうか?
(いや――疑問はもうひとつだ)
 もし仮にギルフォードが勝っても同じ結末を迎えるのなら。探偵が言っていたとおり、”あいつ”は無理に勝とうとはしなかっただろう。負けても結末は同じなのだから。
 しかし”あいつ”は自分が必ず勝つことを予想した上でゲームを受けたのだ。つまりこの結末は――
(おそらく、ギルフォードが希望したものは違う)
”一度死んだ者を殺す権利”
 ギルフォードは一体それで、誰を殺そうとしていたのだろう?
 探偵ならばわかっているかもしれないけれど……今それを訊ねることは、さすがにできなかった。

■終【1.ネクロ・カウンター】



■登場人物【この物語に登場した人物の一覧:先着順】

番号|P C 名
◆◆|性別|年齢|職業
2151|志賀・哲生(しが・てつお)
◆◆|男性|30|私立探偵(元・刑事)
2086|巽・千霞(たつみ・ちか)
◆◆|女性|21|大学生
0164|斎・悠也(いつき・ゆうや)
◆◆|男性|21|大学生・バイトでホスト
1883|セレスティ・カーニンガム
◆◆|男性| 725|財閥統帥・占い師・水霊使い
2525|アイン・ダーウン
◆◆|男性|18|フリーター
2266|柚木・羽乃(ゆずき・はの)
◆◆|男性|17|高校生
1286|ヨハネ・ミケーレ
◆◆|男性|19|教皇庁公認エクソシスト(神父)
2457|W・1105
◆◆|男性| 446|戦闘用ゴーレム
2430|八尾・イナック(やお・いなっく)
◆◆|男性|19|芸術家(自称)



■ライター通信【伊塚和水より】

 この度は≪闇の異界・ゲルニカ 1.ネクロ・カウンター≫へのご参加ありがとうございました。
 今回は皆さんの行動の幅が広く、人によってはまったく違う行動をとっていらっしゃる方もおりますので、長くて読むのが大変かもしれませんが、他の方のノベルも読んでみるとより楽しめると思います。
 さて、セレスティ・カーニンガムさま。前回に引き続きのご参加、ありがとうございます。ガンガンと探偵の秘密を引き出して下さるので、助かったり怖かったりする存在でございます(笑)。あ、新しい言霊の使用法は次回のシナリオで使おうと思っております。素敵な案をありがとうございました♪
 それではこの辺で。またこの世界で会えることを、楽しみにしています。

 伊塚和水 拝