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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 50%オフ

 強い風が吹き抜ける。
 これで何度目になるのか……軽く髪に手をやり、ショーウィンドウに自らの姿を映し出す。髪型は……大丈夫、崩れてはいない。くるくるとはねたくせ毛、直毛ではないことを逆手に取った髪型は、これでいて結構、気に入っている。
「……ん?」
 目の端、ショーウインドウ越しに映るポスターの存在に気がついた。それとなく漂う雰囲気が気になる。もしや、舞台関係かと振り向き、ポスターの内容を確認すると、やはりそうだった。聞いたことがない劇団名だが、上演されるものには少し興味がある。無名……いや、有名なのかもしれないが、自分が知らないその劇団のチケット代はそう高いものではない。
 ポスターを眺め、迷うこと、三秒。
 連絡先の電話番号を記憶し、その場をあとにする。草間興信所に辿り着いたとき、この番号を正しく覚えていたら、購入しよう。忘れていたら……そこまでの縁だ。
 通りを歩き、草間興信所へと向かう。もう少しで扉に辿り着くというところで、功刀の横を中学生とおぼしき少年が駆け抜けた。快活そうなその少年は自分が目的とする扉の前で足を止め、その扉を開いている。
 この興信所は本当にいろいろな人間が出入りをしているものだと思いながら、扉の前へ。ノックをしようと握りかけた手をふと止め、ドアノブへと伸ばす。そして、そっと扉を開けた。
 部屋のなかは静かだった。張り詰めたとまではいかないが、微妙な空気。見知らぬ男と向かいあう草間。どうやら商談の最中であるらしい。では、邪魔にならないように静かにしているかと壁際に立つ。とりあえず、草間と依頼者たる男の話を聞くとはなしに聞いていると、どうやら住宅に関する依頼らしい。建築家としての自分が興味を抱き、耳をそばだてる。
 男の依頼は簡単に言ってしまえば、家の調査だった。家を購入する予定だが、その家には殺人があった、幽霊がでる、妙な夢をみる、音がするといった不穏な噂と住居人がころころと変わるという実績があり、家族が反対をする。その家族を説得するために、不穏な噂は所詮、噂であり、不可思議なことなど何もないと証明してほしいというのだ。
「とりあえず、了解した。それで、実際に幽霊が出るという結果が出た場合は……」
「言ったでしょう? 私はそういうものは信じていません。心霊現象? 超能力? 宇宙人? そんなもの……すべて、政府の陰謀ですよ……」
 男はそれだけ言うと一礼して去った。なんとも言えない顔でそれを見送った草間は、ため息をついたあと場を見渡し、言った。
「……というわけで、壊さない程度によろしく頼まれてくれないか?」
 その言葉が終わると同時に反射に近い速度で、名乗りをあげたのはあの少年だった。
「任せろ! 絶対に心霊現象があることを証明してやるっ」
 ぐっと拳を握り言い切る少年。
「おいおい……」
「だってさあ、その台詞って俺の存在まるごと否定されているようなもんじゃん……」
 俯き加減に少年は呟く。それから顔をあげた。
「そーいうのが一番ムカつく。怖がられたり嫌われる方がまだマシ……ああ、安心しろ、武彦には迷惑がかからないようにやるから。じゃ、行ってくるぜ!」
「いや、そういう問題では……ありゃ、行っちまったよ……」
 草間の言葉が終わる前に少年は颯爽と出て行き、もうその姿はない。
「まあ、気持ちもわからなくもないけどな……で、あいつだけではどうにも不安なんだが?」
 草間は場に残された面々を見回す。
「あ、俺も引き受けます」
 はっとしたようにさらりとした長い髪を後ろで軽く束ねた背の高い青年が小さく手をあげる。
「俺も行こう」
 続いて、真ん中わけの黒髪の向こうの青い瞳が印象的な青年が胸のあたりまで手をあげる。
「はい、これが資料。私もあとで行くから、よろしく」
 すっとファイルを差し出したのは中性的な容貌、そして切れ長の目が印象的な草間興信所の事務員、シュライン・エマだ。これで四人。
「ありがとう。あとは……」
 草間は頷き、それぞれの顔を見やったあと、最後に功刀を見た。
「まあ、勉強がてら見てきますよ。出たら出たで、それを潰せばいいのでしょう? そうですね、礼は……」
 資料を受け取り、功刀は続ける。
「『三月十五日に気をつけよ』」
 にこりと笑う功刀とは対照的な顔で草間は問うた。
「……は?」
「それで結構ですんで。電話番号は……教えるまでもありませんね。草間探偵、あなたは探偵なのだから」
 調べるのは簡単でしょうと言い、功刀は部屋をあとにした。

 調査対象である問題の家は、所謂、新興住宅地、近年になって開発が行われだした場所にあった。
 見事に区画整備され、計算されているだろう景観。公園には子供の声が響き、住民たちの表情も明るい。
「雰囲気は明るいようだな」
 今回、共に調査を行うことになった四人のうちのひとり、香坂蓮が周囲を見回し、言った。黒髪に落ち着きを払った青い瞳を持つあの青年である。
「こうやって見ると土地柄には問題はなさそうに思えますね」
 香坂に相槌を打ったのはもうひとりの黒髪を首の後ろで緩く束ねた背の高い青年。柚品孤月というその青年は、礼儀正しく、穏やかな雰囲気を漂わせている。
「さてと、それはどうでしょうかねぇ」
 功刀は柚品の言葉を受け、聞こえるか聞こえないかという程度の声で言った。
「この辺りの地名は『宮』がつくようです」
 そして、そう続ける。
「宮がつく地名……御霊封じの土地柄……?」
 はっとしたように柚品は呟く。
「どういう意味?」
 歩きながら伍宮春華は柚品を見あげ、訊ねる。心霊現象があることを証明してやると断言したあの少年だ。
「『宮』という地名、例えば、一宮とか四宮とかそういった地名は、何かを祀り、封じた土地につけられることが多いとか」
「ふーん」
 春華は理解したのかしないのか、わりとどうでもよさそうに答えた。
「地図から行くと、件の家はあれということになるが……あれは……」
 住宅街の外れ、境界に位置する場所に建てられた家を見つめ、香坂は足を止めた。小さく息をつき、僅かに表情を引き締めると歩きだす。
「これはこれは……位置的に『最高』ですな」
 周囲を見やり、方向を確認したあと功刀は言った。住宅街を区画とすると、件の家は鬼門に位置することになるから、方位的にはあまりよろしくないが……まあ、これだけではわからない。とりあえず、調べるかと功刀は新しいのに、何故か暗い感じがする件の家を見つめた。
 
 家の中へ足を踏み入れ、最初に思ったことは、空気が重いということだった。
 埃っぽいというわけではない。湿っぽいというわけでもない。だが、どうにも陰気な印象を受けた。
「うわー、とりあえず、窓開けようぜ、窓」
 春華が窓を開けてまわる間に、功刀は図面を片手に家の中を見てまわる。香坂はなんとも微妙な表情で室内を見回し、柚品は春華が一階の窓を開けていることを受けて、二階の窓を開けに行った。
「……なるほど、ね」
 当たり前ながら図面どおりに家は建てられている。水回りが鬼門に集中し、家相的にはあまりよろしくはない。いや、むしろ最悪……立地条件のために、そう建てるしかなかったのかとリビングの窓から庭先を覗いてみるが、そうとも思えない。庭は案外と広く、隣の家との距離も十分なものがある。どうしてもこう建てざるを得なかったわけではないだろう。
 だとすると。
「わざと……こうした……?」
 不敵な笑みを浮かべる功刀の背に、これからどうするという春華の声が届いた。振り向くと三人が一同に会している。
「死体を塗りこんだとかいう話をしていたからな。まさか、そんなことがあるとは思えないが、とりあえず壁を調べてみようと思う」
 香坂は言い、和室へと向かう。そして、壁をこつんと叩き、音を確かめ始めた。
「僕はとりあえず家の中を見てまわるとしますよ」
 そう言い、功刀は図面を片手に室内を見回す。
「俺ももう少しこの家の中を見てまわろうかと。そのあとで、付近の住民に聞き込みをと考えています」
 柚品の言葉を聞き、春華はそうかと大きく頷いた。
「じゃあ、俺、寝る」
「え?」
 柚品はきょとんとする。功刀も図面から顔をあげ、春華を見つめた。
「変な夢を見るって言ってたじゃん。俺、それがすっごく気になっているんだよね。壁とか見てもあまりよくわかんねぇし……とりあえず、幽霊とかいるとしても本格的な活動は夜からだろうしさ」
 邪魔にならないように二階で寝てくるから、それじゃ。春華は軽く手を振ってリビングをあとにした。
 そういえば、妙な夢を見るとも言っていたっけか。功刀は再び図面に視線を落としたあと、リビングの窓から車道の方へと顔を向けた。往来を行き交う車はほとんど、ない。壁に手をつき、それから床に座ってみる。振動は感じられない。次に柱に触れ、状態を見やる。見たところ問題はないが、天井裏と床下を見なければ判断は下せない。
 窓や扉を開閉し、具合をみる。滑らかで歪みなどはない。所謂、欠陥住宅、手抜き工事の気配は感じられなかったが、しかし、家相が悪い。
 コツンと定期的に響いていた音が止まる。香坂を見やると、壁を前に動きを止めていた。もう一度、確かめるように壁を叩く。そして、微妙な表情を浮かべる。
「音が違いますか」
 功刀は図面を見やり、それから香坂に声をかけた。
「そこ、音が違いますよ。中身が……使われている断熱材が違いますからね」
「……詳しいな」
「これでも建築系なもので。あなたこそ、その僅かな音に気づくとは」
 功刀はすっと名刺を取り出すと、香坂へ差し出す。受け取った香坂は名刺に視線を落としたあと、功刀を改めて見つめた。
「だが、それだけではないだろう」
 何かを見透かすような落ちついた瞳。それはどこか自分にも似た気配。表だけではない、裏に通ずる、何か。功刀は目を僅かに細めた。
「あなたもね」
 返した言葉に香坂はふっと笑みを浮かべ、くるり背を向けた。同じように功刀も背を向ける。
 一階をひととおり見たところで、二階へ行ってみることにした。階段をあがり、そして、ふたつある部屋のひとつを覗く。眠っていると思った春華が床に座り、腕を組んでうんうんと頷いていた。
「夢遊病のけらいがあるのですか?」
 寝たのではなかったのかと扉口からそんな言葉を投げかけると、春華はぴくんと反応した。良い反射で言葉を返して来る。
「なんだよ、夢遊病なんかじゃないぞ」
「眠ると言っていたでしょう? てっきり眠っているのかと」
 大げさにかぶりを振って功刀は言ってやった。春華は露骨にむっとする。
「眠れねぇんだよ。なんか、こう……落ちつかなくて」
 周囲を軽く見やり、春華は言う。
「なるほど。では、僕が一役買ってあげましょうか。陰陽五行の術でちょちょいと」
 功刀は指先をくるくると動かしながら、にこりと笑う。春華はじーっと功刀の顔を見つめたあと、それでもこくりと頷いた。
「では、こちらに来て後ろを向いて下さい」
 春華は素直に功刀のもとまで歩き、背を向ける。功刀は目を細めた。いやはや、素直な反応。
「とはいえ、陰陽の術を使うまでもないでしょう。良い夢を、オヤスミナサイ」
 とんと軽く首筋に手刀を見舞う。
「え? あ……」
 春華は何か言葉を口にしようとしたようだが、その前に意識を失う。功刀は崩れる春華の身体を支え、そっと床へと横たえる。そのあと、上着を脱ぐとその身体へかけた。
 
 やはり、気になるところは家相の悪さか。
 まるで手を抜いた気配は感じられないが、しかし、何故にこう建てたのか。そういえば建築設計士の名前を見ていなかったなと図面に目をやる。K.KAGEYAMAというサインがあった。
「かげやま……んー?」
 なんとなく聞いた覚えがある。資料のひとつ以前の入居者のリストを見やる。すると、そこに影山孝一という名前があった。
 影山孝一。
 その名前にもどことなく見覚えがある。功刀はこめかみに手をあて、少しばかり考える。そして、ああと頷いた。
 少しは名の知れた建築家だ。公的な機関の設計も手掛けたことがあったような気がする。現在では引退しているはずだが、晩年に手掛けた四つの館のいずれもで殺傷事件が起こり、呪われているのでは……という噂がたったこともある。
「呪われていたのではなく、呪っていた……?」
 いや、まさかな。しかし、この家を見ているとそんな邪推もしてしまう。
 とりあえず、今はそれは置いておこう。
 影山孝一に対する興味は個人的なもの。今は、この家の調査に建築家として訪れている。その自分だからこそできることしておこう。
 功刀は小さく息をつき、ペンを取り出すと図面に書き込みを始めた。
 
「どう、調査は進んでいて?」
 キッチンの水回りを調べているとそんな声がした。遅れて来ると言っていたエマだった。周囲を見回し、うんと満足そうに頷く。
「器物損壊はしていないようね」
「最も危なそうな彼は夢の中で調査中ですから……と、終わったかな」
 功刀は答える。どたどたどたと階段を勢いよくおりてくる音が聞こえる。そして、リビングの扉が勢いよく開かれた。
「おい!」
 やはり、春華だった。背広を片手にリビングへと現れる。
「はい、おつかれ。どうだった?」
 春華の勢いに反応し、和室から香坂と柚品が姿を現した。功刀もリビングへと移動をする。
「あ、ああ、ばっちりだぜ!」
 どんと胸を叩き答える春華に功刀は手を出した。春華はああそうかと上着を差し出す。功刀はいそいそと上着を羽織る。
「おい!」
 春華は食ってかかってこようとする。そうだろう、言いたいことがある気持ち、それはよくわかっている。
「で、どうだったの?」
 しかし、エマに遮られる。春華は功刀を気にしつつ、夢のことを話しだした。
「暗いところにいてさ、痛い痛いって声がするから、そっちへ行ってみたんだ。そうしたら、白い着物の女がいてさ。足を怪我して動けねぇっていうんだよ」
 思うところがあるのか、香坂は軽く頷いている。春華は話を続けた。
「じゃあ、おぶってやるよ。でも、途中から重くなったりするなよって言ったら、黙っちまってさ。……なんだよ、その顔は! 俺、間違ったことなんか言ってないぞ!」
「そうね、間違ってはいないけど。……いい根性」
 功刀の、いや、おそらく他二人も言いたかったであろう言葉をエマが口にする。
「あ? なんか言ったかよ? ……じゃあ、続きを話すからな。そうしたら、女が……我が身の上に立つ……災いを……えーと、そう、我が身の上に立つそなたらに災いを、でも、痛みを取り除き、酒で祀れば福をもたらすと言ったんだ」
 うーんと唸りながら春華は言い、こくんと頷いた。
「我が身の上……地面に埋められているのか?」
 香坂は床を見つめ、呟く。
「まさか、遺体……?」
 柚品は目を細める。香坂は横に首を振った。
「ここに泊まり、夢を見た奴らの話は、途中までは今の話と同じだった。痛いという声、白い着物の女……彼らは、逃げるか、おぶるかしたそうだ」
「普通の反応ね」
 確かに。エマの言葉に功刀は同意する。
「逃げた奴は、白い蛇に追いかけられ、頭から食われそうになったところで目が覚め、おぶった奴は、女が白い蛇に姿を変え、身体中を締めつけられたところで目が覚めたということだ。……蛇だろう」
「そうだな。俺も蛇だと思う」
 春華はあっさりと同意した。思うところがあるのかもしれない。
「蛇ですか……」
「どうしました、柚品さん?」
 柚品はどこか晴れない表情で呟く。功刀は柚品を見やり、問うた。
「あ、いえ。では、床下を探りますか?」
「そうねぇ。問題は誰が行くかだけど……」
 エマは周囲を見回す。同じように一同が周囲を見回す。そして、その視線は春華に集中した。それは、背の高さからいけば当然の成り行きにも思えた。
「……」
「……」
 沈黙のあと、功刀はキッチンへと歩き、床下収納の扉を開いた。収納ボックスを外し、床下への道を開く。
「伍宮さん、入口はこちらです」
 さあどうぞと功刀はにこやかに告げる。
「懐中電灯だ」
 香坂が懐中電灯を差し出す。
「すみません、お願いします」
 柚品はすまなそうに言う。
「はい、いってらっしゃい」
 ぽんとエマに背を叩かれ、春華は床下へと旅立つ。が、床下へ姿を消すその前に、不意に春華は言った。
「くそっ、ジャンケンだ! ジャンケン、」
 ぽん。皆が手を出す。グー、グー、グー、グー。春華だけチョキ。
「これで文句ないわよね」
「天命だな」
 しくしく。春華は床下へと素直に姿を消した。
 
 春華が床下で白い蛇を発見、その身体を板にとめていたという釘を抜き、そのあとで香坂が浄化のヴァイオリンの音を響かせ、調査はとりあえず終了。草間興信所へと戻り、草間へ報告を行う。
「タンスは大切にすれば家の守り神になってくれますよ」
 ……粗末にすれば祟りますけど。柚品はそう付け足した。
「あいつも酒で祀れば福をもたらすとか言ってるし、問題ナシだな!」
 春華は明るくそう言ったあと、いや、あった、あいつに心霊現象があることを認めさせてこそだったと付け足し、拳を握る。……やる気だ。
「家相が良くないのであまり勧められた物件ではありませんけどねぇ。まあ、タンスと蛇が守ってくれるなら、それを差し引いて、とんとんですかね。ああ、それと、これも依頼人に渡しておいてください」
 功刀は名刺と見積書と書かれた紙をエマへと渡した。
「少し手を加えれば、家相の悪さを解消できます。まあ、無理にやる必要もないですが。やるつもりがあるならば、うちへどうぞってことで」
「やり手ねぇ〜」
「商売人なもので。さて、草間探偵」
 功刀はにこりと厭味にも思える笑みを浮かべると草間へと向き直る。
「な、なんだ?」
「『三月十五日は来たぞ』」
 功刀は言った。
「『来はしたが、まだ、去ってはいない』……ほらよ」
 草間は功刀に封筒を差し出した。
「おや、ご存じでしたか。それとも、有能な事務員さんが調べてくれたのか……いえいえ、仰らなくて結構ですよ、わかっています」
 封筒を口許にあてながら、功刀はちらりとエマを見やる。
「で、それってなんなんだ?」
「では、有名な台詞をもうひとつ。『ブルータス、おまえもか!』……これでおわかりでしょう、草間探偵?」
 
 草間興信所をあとにすると、陽が暮れかけていた。
 功刀はふと思う。
 あの家の家相の悪さ。おそらく、あれはわざとだった。何故にそんなことをしたのか……設計した影山に訊ねてみたくはあったが、だが、なんとなく……本当になんとなくだが、返答の予測はついている。
 そうしてみたかったから。
 実に単純で明快な愚かしい理由。
 そうするべきではない、忌むべきこと、禁忌。だが、それを侵したとき、何が起こるのか……そんな好奇心だったのではなかろうか。人は時に他人から見れば、何故そんなこと……という愚行をしでかす。これも、それかもしれない。いや、そうではないかもしれない。結局のところ、真意は本人に問わなければはっきりとはしない。
 いっそ、本人を訪ねて問うてみるか?
 自分に問いかける。
 ……気が向いたらな。
 功刀は通りを歩きだす。
 問いかけることに意味などないかもしれない。
 何故なら。
 世の中には理由もなく起こる出来事に溢れているのだから。

 −完−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1892/伍宮・春華(いつみや・はるか)/男/75歳/中学生】
【1532/香坂・蓮(こうさか・れん)/男/24歳/ヴァイオリニスト(兼、便利屋)】
【2346/功刀・渉(くぬぎ・あゆむ)/男/29歳/建築家:交渉屋】
【1582/柚品・弧月(ゆしな・こげつ)/男/22歳/大学生】
【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

(以上、受注順)

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■         ライター通信          ■
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依頼を受けてくださってありがとうございました。
相関図、プレイング内容に沿うように、皆様のイメージを壊さないように気をつけたつもりですが、どうなのか……曲解していたら、すみません。遠慮なく、こういうときはこうなんだと仰ってください。次回、努力いたします。楽しんでいただけたら……是幸いです。

はじめまして、功刀さま。
建築家さんということで、おお! 専門職の方だ! と少し緊張しつつ、書かせていただきました。
それと、演劇がお好きということで……ただ、無名の劇団を観に行くのかどうか……ちと不安だったりしますが。演劇の方向性としてもどうなのか。
今回はありがとうございました。またご縁がありましたらよろしくお願いします。
願わくば、この事件が功刀さまの思い出の1ページとなりますように。