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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


死面呪禍

0.オープニング

「面の呪いを解いて頂きたいのです」
 依頼人はそう言った。原因不明の奇病に襲われた、怪奇作家を救う為だと……草間は先を促した。
「実は、その筋では有名な品を先生がお持ちになられたんです。それはそれは見事な面が4枚でして。それぞれが、人間の喜怒哀楽を表現したものです。ただし、これら全ては死に顔を形作ったものだと伝え聞いています」
「死に顔の面?」
「はい、私達はこの面の事を『死面』と呼んでいるのですが、実はこれにはとある伝承がありまして……」
 そこまで言うと、一瞬口を濁す依頼人。
「全てを話して下さい。でないと、調べようがありません」
 草間の言葉に上目遣いに視線をやりながら、依頼人は口を開く。
「とある方法をする事により、面の力を解放し生きたまま極楽浄土へといけるという伝承だったのです。先生はそれを試そうと此処の所、躍起になって文献等を調べて居りましたが結局分らずじまいだったのです。所が、先日ひょんな事から答えを見つけたとかで、お試しになったそうなのです。そして、お試しになった翌日には、既に意識は無い状態で昏睡状態に成られた訳です」
 眉間に皺を寄せて考え、草間は聞く。
「とある方法とはどんな方法だったのです?お聞きになられてます?」
「いえ、私は分かりかねるんですが、面が4つとも別の場所にあったんですよ。それが、方法なのかも……」
「その場所とは?」
「先生の自宅から、東西南北に丁度寺社がありましてね。そこに少しの間安置して欲しいとの事で……」
 草間は黙し、暫く考えていたが一つ頷くと言う。
「分りました、お受けします」


1.受けし者

「と、言う事なんだが……頼めるか?」
「分りました。何とかやって見ましょう」
「助かる。取り合えず、依頼人には話して置く。住所を教えるから、詳しい事は依頼人から話を聞いてくれないか?俺の方も出来うる限りの事はやっておくから」
「はい、分りました」
 草間から教えられた住所を手早くメモ帳に書き留め、携帯の通話を終了する。走り書きの様なその文字を見詰めながら、ボールペンの後ろで頭をカリカリ掻きながら青年は呟く。
「力を解放する事が出来れば、生きながら極楽浄土に行ける……か、好奇心で調べたら正確な方法に辿り着いて試した結果昏睡状態、人騒がせな怪奇作家だ……とは言え、放って置く訳には行かないよな」
 芹沢 青、当年とって16歳。瑠璃色の髪とややくすんだ青い瞳を持つ何処か神秘的な面持ちをした青年である。いや、青年と呼ぶには些か幼さを残し過ぎている感じは有るが、その神秘的な雰囲気が青年と少年の危ういバランスを醸し出していた。眉根を寄せた表情からは、しょうがないと言う様がありありと見て取れる。
「取り合えず依頼人に会わないと意味が無いな。教えられた住所に行くとするか」
 一人ぼやいて肩をすくめ、青は歩き出す。アルバイトが休みであったのが取り合えず良かったと思えた。本来なら喜ぶべきではないが、此方もただ働きと言う訳では無い。それに、何時もやっているバイトと大差無いといえば大差は無い。ゆっくりする時間が勿体無いと思う気持ちも有るが、ただ暇なよりはずっと良いと青は考えた。
「さてはて、一体何をどうしたのやら……」
 歩きながら呟いた言葉と共に、口元には少しばかりの笑みがあった。

 住所に来て見れば、そこは普通の家であった。依頼人が編集者なれば会社か何処かかと思っていたのだが、どうやら当てが外れたようである。
「ようこそいらっしゃいました。え〜と……」
「芹沢、芹沢青です。初めまして」
 軽い一礼と共に青は自己紹介をする。
『全く……せめて名前くらい伝えて置いて欲しいんだがな……』
 内心ちょっと草間に毒づきながらも、依頼人の案内で家の中へと入る。階段を上った一室に案内される。作家の作業場だったのだろう、本棚にはそれと思われる書籍が整然と並び、棚には骨董品や様々な民族工芸品と思えるものが並んでいる。それと同時に目に付くのは、床や壁の奇妙な紋様だった。
「どうぞ、お入り下さい」
「失礼します」
 静かに室内に入ると、何処か重苦しい雰囲気がある事に青は気付き眉根を寄せる。何処かで感じた事のある空気に、辺りに視線を彷徨わせる。
「どうかなさいましたか?」
「あっいえ、別に何も……それより、作家さんを発見した時の状況等を教えて頂きたいのですが?」
 まだ多少の気懸かりは有ったが、早速調査を開始することにした。
「状況と言われましても……この辺りにうつ伏せに倒れて居られた位です。余程苦しかったのか、とても苦しそうな表情でした。現在も意識不明とは言いますが、ずっとうなされておられる状態です」
 倒れていたと思われる場所を指差し依頼人は説明する。
「何かを掴んでいたとか、そう言うのは有りませんでしたか?」
「いえ、発見した時は何も……ただ、先生が御倒れになる前の夜、安置されている寺社の方へ先生から連絡があったそうです」
「どんな内容だったのですか?」
「面は箱に入れて安置されていたのですが、その面を出し本殿に置いておいて欲しいと……そう言う内容だったそうです」
 話しの内容を聞き、青は腕組し考える素振りを見せたが、すぐさま依頼人の方を向く。
「分りました。暫く色々見させて貰っても構いませんか?」
 依頼人は、静かに首を縦に振った。


2.古文書

「良くこんな物を見つけて来たものだな……」
 溜息交じりの呟きと共に、青は背凭れに背を預けた。
 作家の机の上にあった古文書と思しき物を見ながらの言葉だ。目の前に広げられた古びた書物にはびっしりとミミズがのたくったような文字がつらつらと書いてある。
「原文の書物なんて……国宝級に貴重な文献だろうに……それ程、世間に触れる事が無かったと言うべきなのだろうか?」
 ぺらぺらと書物を捲りながらその文字を追っていく。当然、分る訳は無いのだが何となくの行動だ。ふと机のある一点に青が視線を向けると、そこには意訳とも言うべきメモ書きがある。その内容は、あくまでも安置する場所を示すのみで、他の事はまるで書かれては居ない。
「これじゃあ、どうやってあんな状態に成ったのか分らないな……」
 メモ書きに書かれた安置場所とは即ち、喜の面は北、怒の面は西、哀の面は東、楽の面は南である。この配置に、意味があるのか?それとも、前夜に電話して行わせたと言う面の安置方法に何かあったのか?青はその答えを古文書に求めたのだが、読めなければ意味は成さない。当惑した面持ちで、再び古文書を見詰めた。
「失礼します。何かお分かりになりましたか?」
 扉を開けて、依頼人が暖かな湯気の立つコーヒーを差し入れしてくれる。正直、行き詰っていた事もあり、この差し入れに青はほっと胸を撫で下ろす。
「いえ……作家さんがその方法をするに至った書物を読めば分るだろうと思っていたのですが、まさか原文の書物であったとは予想外でした」
 差し出されるコーヒーを受け取りながら、苦々しげに言う。
「先生は以前より、そう行った方面を専行されていましたから……ご自身は多少なりともお読みになれるのでしょうが、私達にはさっぱりでして……」
 依頼人の肩が、力に成れない悔しさから深く沈むのが見て取れる。だが、それは青とて同じ、結局何も分ら無いで居る状況には変わりは無い。
 溜息を付きながら作家の部屋を見渡す青の視界に、一冊の本が眼に止まった。その一冊だけが、他とは違い少しだけ列から出ていたのだ。良く良く見ると、その本には一本の付箋が見て取れた。青は徐に立ち上がると、本棚へと向かいその本を取り出す。タイトルは『面と舞』……
「この本は?」
 思わず青は依頼人に聞いた。
「それは先生が資料として持っておられた物です。確か、著者の方ともお会いになられたとか仰ってました」
 その話を聞きながら、青は1ページ1ページ本を捲る。内容は、面を付けた舞に関する様々な推論や伝承等、日本に伝わる幽玄の奥ゆかしさを伝えた本である。有名な舞から、聞いた事も無い様な舞までその殆どが網羅されていると言っても過言では無い、それ程の物である。
 そんな本の最後の方のページに、一枚の付箋が付けられていた。青は、ゆっくりとそのページを開く。舞いの紹介のページの様だが、その文字は小さく紹介文も短い。恐らく、然程知られて居ない物か廃れてしまった舞なのだろうと青は解釈した。
 付箋のページその一番右下に視線が移った時、青は我が目を疑う。
「四面……五生の奉舞?」
 確かにそこに書かれていた。三行程度の短い紹介文に目を通す。
『四つの面(喜怒哀楽)を着け舞う奉納舞。現在は廃れてしまった舞であり、面の行方も知れないままである』
 青は、すぐさま著者の名を確認した。
「この著者の方に、会う事は出来ますか?」
「はい。確か連絡先を伺っております」
「是非、お願いします」
 依頼人は一つ頷くと部屋を後にする。
「四面五生の奉舞……」
 青は静かに呟いた……


3.舞の意味

 とある一室のソファーに腰掛け、青はあの本の著者を待っていた。その手の中には、あの本が在る。少々、依頼人に無理を言って借りて来たのだ。
「待たせしてしまったようだね。申し訳ない」
 扉を開けた初老の男が、申し訳なさそうに青に謝意を述べる。この本の著者であろう事は間違いない。
「此方こそ、お忙しい中無理を言いまして申し訳ありません」
 立ち上がり、深々と頭を下げる。その気持に偽りは無い、貴重な時間を割いて青との面会を許してくれたのだ。
「まあ、堅苦しい挨拶は無しにしよう。それで?何について聞きたいのかね?」
 青に席に着く事を勧めながら、男もまた対面のソファーへと座る。男が座るのを待ち、青はソファーに腰を下ろすと、付箋の付いたあの本を取り出し、そのページを開いて見せた。
「これは、私が書いたものだね?これがどうかしたのかね?」
 訝しげな視線を向ける男に青は言う。
「四面五生の奉舞とは、一体どんな舞なのですか?」
 青の言葉に、男は懐かしいと言う様な表情を見せた。恐らく、取材に行った時の事を思い出しているに違いない。
「その舞に興味があるのかね?」
「はい。もしかしたら、この舞が原因じゃないかと想っていますので」
 青の言葉に、男は懐古の表情から一変訝しげな表情になる。
「それはどういう意味だね?」
 青は男の顔を正面から見据えると、静かに口を開いた……

「なるほど……」
 青が口を閉じて数瞬後、呟く男の表情は苦渋に彩られていた。
「お願いします。教えて下さい」
 男の表情に少々不安を覚えたのか、青は頭を下げた。
「頭を上げてくれ。すまないね、少々驚いてしまった物でね……」
 苦笑いを浮かべる男の眼を、青は静かに見詰める。
「あの面が、現存して居る事など知らなかったし、万一あったとしても試そう等と言う方が居たとは、予想もしなかったんだ」
 そこまで言うと、溜息一つ。そして、再び口を開く。
「あの舞は、神道の物では無いのだ。あの舞は、四面を着ける事により、五行の司りを体現させるものなのだ」
「五行?陰陽五行ですか?」
「そう、その通りだ。本来あれは、死面である四面を被り、陰成る気を陽へと変換する為に為される舞であって、五人の舞い手が必要とされる。陰を体現する死を模した面を被り、陰の気を集約する四人の舞い手、その陰の気を、陽へと変換させる術舞師が必要だ。逆もまた然り、相生と相克……それを舞にて為していたのだ。しかしながら、術舞師の筋は絶え、この舞は口伝でのみ伝えられている」
 そこまで聞いて、青は一つ疑問に思う事が有った。
「では、あの話は?あの、生きたまま極楽に行けると言う話しは一体何なんですか?」
 男は少しばかり苦笑いし口を開く。
「はっきりとした事は分らないが、恐らく術舞師が長生であった事から来ているのでは無いかと思うんだ」
「長生?」
「伝え聞く話しによると、術舞師はかなり長生きであったようだ。また、その舞は美しく気のバランスを取る際には仄かな光に包まれていたと。恐らく、それを見ていた者達が、生きたまま神になった……そう言う風な話しにしたんじゃ無いかと思うんのだよ。それに、気のバランスを取ると言う事は、術舞師自体の体の陰陽のバランスはかなり保たれていたと言える。推論に過ぎないのだが、それが長生の秘訣であったのでは無いかと、私は想っているのだよ」
 男の推論を聞き、青は考え込む。そんな様子を見て、男は笑顔で言った。
「まあ、最もその話し自体はっきりとした事では無いからね。ましてや、気のバランスを取るとかそう言うのはあくまでも儀式的な意味合いであったと思うのだよ。私はそう思っているよ」
「なるほど。それで、救う手立ては何か有りませんか?」
 その言葉に、男の顔が苦渋に染まる。
「すまないね。私には皆目見当も付かない、口伝のみで伝えられてきた物だしね……」
 男の言う事も最もだと思う。
 確かに、著者である男は口伝を聞いたのみであり、その舞を舞った訳でもなければ面さえ見ては居ないのだ。青は、黙して考えた。暫くそうしていた青だが、不意に著者である男に眼を向けると言う。
「その口伝を伝えている人……お会い出来ませんか?」
 

4.奉舞

 月明かりが仄かに辺りを照らす夜の空気が肌寒い中、青は作家の家から南の方角、神社の境内に立っている。その手には、怒の面を持ち緊張した面持ちで腕に嵌めた時計を見た。
「23時……もう直ぐか……」
 呟き天を仰ぐ。これで上手く行かなければ、手は無かった……

 遡る事、6時間前−青は路上にて草間に連絡を入れる。
「今日の23時半までに、至急三人……誰でも良いので集めて下さい。それと、依頼人の方に連絡を取って、作家さんを東の神社へ連れて来て下さい。此方も23時半までにお願いします!」
 少々焦り気味な青の言葉に、草間が答える。
「何とかやってみるが……何か分ったのか?」
「今は話している時間がありません。三名の方が集まったら、作家さんの家でお話します。兎に角、お願いします!」
「……分った」
 通話を終え、青は走った。向かう先は、面の収められた神社……走る速度のもどかしさに少し苛立ちながらも青は通りを駆け抜けた……

 その更に1時間前、青は口伝を伝える老人の前に居た。
「はっきりとした事は言えぬがのぉ……恐らくは、四つの面に捕らわれて居るじゃろうのぅ……」
 口伝を語った後、老人は自分なりの見解を述べた。
「それを解放する方法は有りませんか?」
「舞うしかなかろう……本来が、決まった形を持たぬ舞じゃ……思い舞う……これしか有るまいて……」
 青は困惑した表情を見せている。
「お若いの……舞と言うのは、本来が思いを舞うのじゃ……何故、神を崇めるのに舞う必要が有ったのか?神楽舞とは……神に対する畏敬の念を……感謝の思いを思い舞う……そう言うものじゃよ……形として有る物は……その猛々しさ……その神秘と共にあろうとする為……形なき舞は……自分の思いを思い舞う為じゃと……わしは思うのじゃが……どうじゃろうのぉ……」
 床の上、老人の優しい笑みが青に向けられる。それは、諭す訳でもなくただ自分の思いを伝えるのみ……青は、静かに頭を下げた。
「お若いの……何を為すにも……思いは在る物じゃ……しっかり……自分の思いを表しなされ……」
「……はい」
 静かに、だがはっきりと青は応えた。

 同日22時頃、草間を含む五人が作家の家に居た。青・草間・碇 麗香・三下 忠雄・碧摩 蓮の五人だ。
「それで芹沢、そろそろ説明をしてくれないか?」
 訳も分らず無理やり連れて来られた、碇達もその視線を青に向ける。
「急にお呼び出ししてすいません。今回の一件の解決には、どうしても俺以外に三人必要だった物ですから」
 そこまで言うと、一旦呼吸を落ち着け青は再び口を開く。
「恐らく、作家さんが試したのは四面五生の奉舞と呼ばれる儀式舞です。本来これには五名必要であり一人で行えるものでは無いとのことです。また、この儀式は陰陽五行相克を体現したものであり、死面による気の収束と解放を司るそうです。そもそも死面は死=陰を表すものです。そして、四つあるのはそれぞれの方位が五行を示す様に、人の感情もまた五行により示されると言う、陰陽の根幹に有ります」
 そこまで説明すると、青は一枚の紙を取り出し全員に見せた。
 そこに書かれていたのは、方位とその位置に表現された感情。即ち、北は喜、西は怒、東は哀、南は楽、そして中央には、苦とある。
「それぞれの方位、司る感情……これらから推測するに、作家さんの魂は現在、苦のみを感受する様になっている筈です。残りは、それぞれの死面が取り込んでいるものと……」
 苦々しげに言う青の言葉に、皆押し黙る。
「解放するには、真逆の手順……本来ある形の配置で行われた物を克すると言う方法であろうと思います。ただ……」
「ただ?」
 碧摩が先を促す。
「これはあくまで口伝を元にした推論である為、成功するとも限りません……でも、これしか思い当たる事も無いんです……」
 青は自信無さ気に言うが、その肩を草間が叩いた。
「何、やってみよう。俺には分らなかった事に辿り着けたお前が言うんだ。大丈夫さ」
 その微笑に、決意の眼差しで青は一つ頷くと、先程の紙に何やら書き始める。そして、書き終わった物を再び全員に見せた。
「相克の配置は、北に楽、東に作家さん、南に怒、西に哀、そして中央に喜に成ります。その位置で、作家さんを除く俺を含む四人で踊ります。ただ、踊るのではなく面を鎮め魂の解放を願い思い踊るなり舞って下さい」
 碇には楽の面を、三下には哀の面を、碧摩には喜の面をそれぞれ渡し、青は怒の面を持つ。
「草間さんは、作家さんの所にいて、状況を知らせてください。ただし、俺達が踊っている間は絶対に邪魔はしないで下さい」
「分った。皆、それでいいな?」
 それぞれに、思う所はあるのだろう、碇と碧摩は静かに頷き、三下はオドオドしながらも頷いた。
「宜しくお願いします」
 青は、全員に向かって深々と頭を下げた。

 腕に嵌めた時計のアラームが鳴る。23時25分−決行5分前……青は静かに、怒の面を被る。その瞬間、訳も分らぬ激しい憤怒に、心がざわめき始める。
「くっ!?取り込まれる訳には行かない!!」
 歯を食いしばり、時計を見やれば23時29分……青は、心ざわめくのを必死に抑え目を閉じ深く深く息を吸い込む。
 ピピッ!
 時計のアラームが一度だけ、時刻の訪れを告げた瞬間、青は静かに目を開き踊り始めた。未だざわめく心が静まります様に……未だ報われぬ魂が静まります様に……在るべき命が生をまっとう出来る様に……願い、想い緩やかにそして軽やかに踊る。
 青には、それは踊りにすらなってないと思えたかも知れない。だが、その踊りは、想いを……願いを……込めた舞いと成った。
 永遠とも感じる時間の中、ざわめく心が静まり行く中、青の顔から面が自然と外れる。
 カタン…… 
 乾いた音を立てて落ちた面を見詰める青の顔には、玉の様な汗が浮かんでいた。そして、携帯電話が着信を知らせる音を鳴らした……


5.安らぎの中で……

 翌日、青と草間の姿は作家の病室に有った。
「この度は、御迷惑をお掛けして本当に申し訳有りませんでした」
 病室のベットの上に身を起した作家が深々と頭を下げる。長い髪がサラリと落ちた。
「いえ、無事で良かったです。これ、在り来たりですけど……」
 苦笑いを浮かべながら青が差し出したのは、花束……草間と二人で買った物だ。
「有難う御座います。これ、お願い出来るかしら?あなた」
「ああ、良いよ」
 微笑み花束を受け取り出て行く依頼人。その姿を見送ると、青は作家の方へ向いた。
「手に入れた物が本物だと分った時、興奮して舞い上がってしまったんでしょうね。何時も何時も、私自身が読者の皆さんにやっては駄目ですよ?って言って居たのに……」
「知ってしまったなら、試したい……人の欲求かも知れません。だけど、貴女にはあの方も居られますし、貴女の本を楽しみにして居る読者の皆さんも居られます。こんな無茶は、これっきりにして下さいね」
 俯く作家に、青は微笑み声を掛けた。それは、青の本音であり願いでもある。顔を上げ青を見詰めると、少しだけ微笑み作家は頷く。
「はい、もう二度と……」
 その言葉を聞いて、青は微笑み頷いた。
「では、そろそろ失礼します。お大事に」
「本当に、有難う御座いました……」
 扉を開けて出て行く青と草間に、作家は深く深く頭を下げた……

「人の想いか……」
 夕暮れ、朱に染まる空を見上げながら青は呟いた。
「色んな想いがあって、色んな人が生きている……この世の中はそう言うものだろ?」
 隣で歩く草間が青の呟きに応えた。空に向けていた視線を、草間に向け静かに微笑む。
「そうですね……だからこそ、人なのかも知れませんね」
 老人の言葉が思い出された。
『何を為すにも……思いは在る物じゃ……』
 その言葉に、青は一人思う。自分が為す事は、自分の思いを現しているのかも知れないと……そんな青の肩を、草間が叩く。
「さっ飯でも食うか?俺が驕ってやるぞ?」
「本当ですか!?じゃあ、行きます!」
 笑顔で答えた青に、草間が微笑む。そして二人は、互いに好物を語りながら歩いて行った。夕暮れが、少しずつ薄れ、薄暗くなり始めた道を……






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2259 / 芹沢 青 / 男 / 16 / 高校生・半鬼・便利屋のバイト

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■         ライター通信          ■
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 どうも、初めまして凪蒼真です。
 この度は、死面呪禍にご参加下さいまして有難う御座います。(深礼)

 今回の依頼は、宗教を題材としております。
 宗教と言うのは、捉え方や思想によって様々な形を見せてくれる面白いものであると想っております。一概にこうだと言う事が出来ない神秘性がそう思わせるのかも知れませんが、兎角興味が尽きないものです。様々な想いがあるからこそ、様々な形に見えてしまう宗教……芹沢さんはどう感じられるでしょうか?
 今回は諸事情により、執筆が遅くなってしまった事深くお詫び申し上げます。
 今後またご依頼がありました際には、この様な事に成らぬ様尽力しますので宜しくお願いします。

 それでは、またお会い出来る日を楽しみに♪失礼致します。