コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


LAST DAY

オープニング


「夫を助けてください」
 草間興信所にやってきたのは女性だった。
「助けてください、とはどういう意味ですか?」
 草間武彦は新聞を机の上に置いて女性の方を向く。
「半年前、娘が死にました。ひき逃げです…ですが…」
 女性は泣きながら話し始める。
 娘、真理という7歳の子供がひき逃げで死んだ事。
 ひき逃げをしたのはまだ中学生の不良グループだったという事。
 そして、父親、女性にとっては夫にあたる男性がそのひき逃げをした少年を殺そうとしていること。
「あなたは憎くないんですか?」
「憎くないわけないでしょう?自分のお腹を痛めた子供が殺されたんですよ?だけど…」
 死んで償わせるにはあまりにも重い罪だから生きて償って欲しい、と女性は言う。
「お願いです。夫を救ってください」
 深々と頭を下げて言う女性に草間武彦は頭を掻いてどうしたものかと考える。
「………分かりました、この依頼引き受けます」
草間は溜め息と共に言葉を出す。
「ありがとうございます」
 女性は再度深々と頭を下げて興信所を後にした。



視点⇒石神・月弥


「…悲しい事件…ですね」
 草間武彦からの電話を受けて、話を聞いた月弥がポツリと呟く。
 事の始まりは不良少年グループが無免許で運転をして、一人の少女を轢き逃げした事が始まりだった。その少年達は未成年と言う事から罪になることはなかった。そして、謝罪もなかった少年達に怒り狂った父親が少年達に復讐をしようとしている。
 草間武彦に依頼に来たのは少女の母親、その男性の妻の関係にある女性だ。
『もし、引き受けたくないなら構わないが、どうする?』
 電話の向こうの草間武彦はそういうが、月弥は断る気にはなれなかった。
「もし…俺の力が少しでも役に立つのなら頑張ってみます」
 月弥は穏やかな口調で言い、電話を切る。外を見れば満月。月弥の能力が強化される日だ。
「今夜も月が綺麗だな…」
 小さく呟きながら月弥は外に出た。コートを着ていても冷たい風が身体を震わせる。
「はぁ…」
 カタカタと震える手に息を吹きかけながら男性の場所へ向かう。草間武彦から聞いた話では公園によく現れているとの話だ。今日もいるかどうかはわからないが、いないという話も聞かないのでとりあえず足を運んでみる。
「…あれ?」
 夜の公園に着くと一人の男性がブランコに座りながら月を見ている。
「…真理、ちゃんのお父さんですか?」
 月弥はその男性の隣のブランコに乗りながらにっこりと笑いながら聞く。男性は怪しい人間でも見るかのような目つきで月弥を見ている。
「子供がこんな夜遅くに出歩いちゃダメだろう」
 やや怒気を含んだ声で男性は月弥に話しかけてくる。
「うーん…そう言われても俺、あなたの奥さんに頼まれてあなたを止めに来たんです」
 月弥のその言葉に男性は驚いたのか目を丸くしながら見ている。
「真理ちゃんの事聞いてもいいですか?」
 キィとブランコをこぎながら言うと男性は下を俯いて口を開き始めた。
「真理、か…。…遅くにできた子だったから…とても可愛かったんだよ…、今年から小学校にも通うんだって大きなランドセルを背負って…妻と真理がいれば他には何もいらなかったんだ…それを…あいつらは…ッ!」
 男性は娘との思い出を淡々と小さく、静かな口調で言う。月弥は話の腰を折ることなく黙って男性の話を聞いていた。
 そして男性が話し始めるのと同時に月弥は自分の能力を使い、男性の心の悲しみと狂気を和らげようとしていた
「おじさん、俺もねおじさんの気持ちがよく分かるよ」
 少し話を聞いてから月弥がボソリと呟いた。月弥も義母と呼べるはずだった人を事故で亡くし、その悲しみで父を喪った身だから男性の悲しみはよく分かるのだ。
「でも…おじさんがしようとしてる事は間違っていると思うんだ」
 月弥はきっぱりと言い切った。曖昧な言い方をしても何も解決しないと考えたから、自分の思っていることをストレートに言おうと思った。
「……………君に何が分かる…」
 男性は月弥の言葉に言い返すことはなく、キィとブランコを揺らしながら下を俯いている。
「復讐は時がしてくれる。人を殺す事は、背中に癒えない傷を負うことなんだ。背中についた傷は、見ようと思わなければ見えない。だけど確実にそこにある。彼らが成長し人を愛しそして子供が生まれた時、人を殺した手でその子を抱ける?その子の成長する姿にも、傷は痛み続けるよ」
 月弥はブランコから降りて、満月を見上げながら言葉を続ける。
「妻子にバレるかもしれない、この子が同じように殺されたら、そう考えながら生きるしかない。子供が無事成長しても次は孫。終わらないんだ。…おじさん、真理ちゃんを抱いた手で、人を殺しちゃいけないよ」
 月弥のその言葉に男性は泣き始める。枯れかけた声でくぐもった声で泣く。月弥は何も言わずに男性のその姿を黙ってみていた。
「おじさん、真理ちゃんとの思い出を汚してまでその犯人を手にかけることはないんだよ。おじさんがそんな事をしたら真理ちゃんきっと悲しくて静かに眠っていられないよ?」
 月弥が言うと、男性は涙をコートの袖で脱ぎながら「そうだな」と小さく呟いた。
「だったら奥さんのところに帰ってあげてよ。心配してたって言ってたから」
「そうする…。キミは…不思議な少年だな。でも…ありがとう」
 男性はそういいながら公園を去っていった。
「…男の子、ってワケじゃないんだけどなぁ…女でもないけどさ…」
 月弥はあははと困ったように笑いながら再び月を見上げた。


 きっと、あの男性はもう大丈夫だろう。
 復讐なんて馬鹿な事をすることはないと思う。
 なぜなら、あの男性は見つめるべき『今』を分かったはずだから。
 たとえ、復讐をしてもいなくなった人間は帰ってはこない。むしろ、むなしさしか残らないはずだ。
「草間さんに報告に行かなきゃなぁ…」
 月弥はブランコに座り、月を眺めながら呟く。風の冷たさはともかく、今はまだ夜空に美しく浮かぶ月を見ていようと思う月弥だった。

 それから数日後、月弥宛に一通の手紙が届いた。例の男性からだった。
 手紙にはたった一行の言葉が書かれていた。


『あの時はありがとう、おかげで真理との思い出を汚さずにすんだよ』



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2269/石神・月弥/男性/100歳/つくも神


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


石神・月弥様>


こちらでは初めまして、『LAST DAY』を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
今回は発注をかけてくださいまして、ありがとうございました><!
いかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださったら幸いです。
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^


              −瀬皇緋澄