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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


=命短し恋せよ少女(おとめ)=神城心霊便利屋事件簿:壱

東京都内のちょっと都心から離れた場所、
彩色町緑青にある中規模神社の敷地内にある民家で今日も朝から走り回る音が聞こえてくる。
「もー!なんで誰も起こしてくれなかったのー!遅刻だわ!」
バタバタと騒々しく音をたてた後、その民家の建物から1人の女性が飛び出してきた。
神城・由紀、24歳。長い黒髪をさらっとなびかせ、静かで大人しそうな外見をしているものの、
実は中身はかなり元気でハイテンションなところがある。
「お嬢様、忘れ物ですよ〜!」
「あ!ありがと彰子さん!行って来ま〜す!」
家政婦の吉崎・彰子に見送られて…由紀は笑顔で神社を後にしたのだった。

由紀が向かったのは便利屋の仕事に依頼してきた依頼人の自宅。
比較的大き目の家の門をくぐると…黒服のガードマンらしき男性が由紀を迎え入れた。
家というよりは屋敷、豪邸といった方が相応しい家の応接室に通される。
しばらく部屋の中の調度品を見ながら待っていた由紀の元に、
初老の紳士がその妻と共に静々と入って来たのだった。
「この度は失礼しました。突然、お呼びたてして申し訳御座いません。
本来ならこちらから出向くべきなのでしょうが、あいにく足を患っておりまして」
「いえ…気になさらないで下さい…」
「ありがとうございます…私、この家の主人の八城・隆介…こちらが妻の幸子です」
由紀はぺこりと二人に頭を下げて名刺を差し出し自己紹介を済ませる。
「今回、神城便利屋様に依頼したいのは私の孫に関係する事なのです…」
「お孫さんですか?」
「実は…探してほしい人がいるのです…孫の初恋の相手なのですが…
孫の純奈は今、余命半年との宣告を受けて…病床にいます」

由紀が受けた依頼はどうやら自分だけの手に負えるようなものではなさそうだった。
こういう場合、だいたい由紀は頼る者がいる。
今回も…その人の力を借りようと携帯電話を取り出したのだった。


〓壱〓

 由紀は神社の裏手にある便利屋事務所…と言うか、自宅の一室にて待機していた。
電話連絡を入れた結果…来てくれることになっている人を待っているのだ。
『なあ、由紀…今回の依頼ってなんか切ないな…見つけて欲しいよな…』
「大丈夫よ、焔。みんな頼れる人たちだもの」
 少し切なげに眉を寄せる申の式霊、焔(えん)に、由紀は微笑んで返した。
そこへ、日本建築故の引き戸の音を立てて来訪者が姿を見せた。急いで迎えに出る由紀。
そこにに現れたのは…
「こんにちは、由紀さん…今日もいい天気ですよ?これ、差し入れです」
 ニコっと、紙袋を差し出して微笑んだのは西王寺・莱眞(さいおうじらいま)。
爽やかに髪をサラっとなびかせて…いつものように挨拶をする。
「来てくれてありがとうございます」
「いやあ…由紀さんの頼みなら何なりとお聞きしますよ?」
 勝手知ったるなんとやら、というわけではないのだが、
莱眞は家に上がると、便利屋事務所にしている部屋を通り過ぎて台所に向かう。
家政婦の彰子が雑用を片付けているところで、莱眞の姿を見て慌てて作業の手を止めた。
「いいですよ、気にしないで作業続けて下さい?俺はコレを置きに来ただけですから」
「あら!西王寺様…今回は何を?」
「由紀さんが以前欲しがっていた和菓子の材料の一つですよ…
なかなか手に入りにくいんですけどね…たまたま、取り寄せた材料に混ざってたもので」
「お嬢様の為にいつもどうもありがとうございます」
 丁寧に頭を下げる彰子に微笑んで軽く手を上げて挨拶すると、莱眞は再び事務所へと向かった。
ちょうど由紀が台所に向かってきている途中で、二人並んで入ることになった。
「由紀さん、たまには和菓子だけじゃなく洋菓子も作ってみてはいかがですか?」
「え?あ、でも私…和菓子の作り方しかわからなくて…」
「大丈夫ですよ。俺が手取り足取り…一からお教えしますから…
貴女のその繊細な指先から生まれる西洋菓子を一度でいいから味わってみたい…そう思います」
「あ、ありがとうございます…そうですね…それじゃあまた今度の機会に…」
「ええ、いつでも…」
『はーいはいはいはいはい!!ストップ!そこまで!
そういう世間話は後にしようぜ?今は仕事が先だろ、仕事が!!』
 莱眞と由紀の会話をわざと大声を出してぶった切ったのは、焔。
面白く無さそうに二人の間に割って入り、威嚇するように莱眞を睨みつけた。
莱眞は、ふっと笑みを浮かべて首を左右に振ると、焔の耳元にそっと顔を寄せ、
「キミが由紀さんに好意を寄せているのはわかってる…いいかい?誤解しないでくれよ?
俺は女性全員に優しいんだから…ああ、女性に優しいが為に男に嫉妬されてしまう…罪深い俺…」
『あーはいはい…わかってるよ!それに別に俺は…』
『お!莱眞さんやないか!なんや、今回は莱眞さん来てくれたんか!?』
「やあ、大河君!」
 今度は、莱眞と焔との会話をぶった切って、寅の式霊の大河(たいが)がやって来る。
基本的に莱眞は式霊と言えどもあまり男性と気さくに接する事はないのだが、大河とは何故かよく会話している。
なんでも、莱眞の性格を大河は「ボケ」と判断し「ツッコミ」の血が騒ぎテンポよく会話が出来るから…との事なのだが。
「今日は女性方の姿があまり見えない様子だけれど?もう仕事に出てるのかい?」
『そーなんや。今日はなんや他にも手伝いしてくれてる人がおってな〜もう出払っとるわ』
「なるほど…それは残念」
「―――あの…お話中悪いんだけど、話を進めてもいいかしら?」
「これは由紀さん!俺とした事が…すみません、さあ、どうぞ…」
「いえ、いいんです、仲が良いと嬉しいですから」
 由紀はそう言いながらも、全くタイプの違う莱眞と大河の会話が何故に弾むのか不思議そうな顔だった。
しかしまあ、とりあえず今は仕事の話を進めるのが先決である。
事務所の椅子に向かい合うように座ると…由紀は今回の仕事の詳細を説明しはじめた。
「依頼者は八城・隆介氏。八城株式会社の会長。そのお孫さんの事で依頼を受けました。
お孫さんの純奈さんは14歳の女の子なのですが…現在、病床にいます。
去年、余命半年と宣告されてから…2月の末で、その半年になるとの事でした。
純奈さんは以前から、初恋の相手である剛史という少年に自分の気持ちを伝えたいと思っていたそうで…
今回、依頼者はその剛史さんを探して連れてきて欲しいという事でした…
ただ、同級生の間の噂で剛史さんは去年事故で他界している可能性もある…と言うことまでわかっています」
 なるべく感情を入れないように、事実だけを淡々と伝え終わると、由紀はふうと小さく息を吐いた。
やはり依頼の内容が内容だけに…少し気持ちが入ってしまう。
しかし、気持ちをきっちりと切り替えて。
「生きている可能性から調査をはじめるか、亡くなっている可能性から調査を始めるかは自由にして下さい」
「…なるほど…純奈嬢の為にも…全力を尽くさせてもらうよ…もちろん、生きている可能性を信じてね」
 莱眞は真剣な顔つきでそう告げると、徐に携帯電話を取り出した。
「あまり家の力は使いたくないんだけれどね…今回はそうも言っていられなさそうだ」
 由紀にそう言って微笑むと、莱眞は携帯のメモリから一件を選んでコールした。


〓弐〓

『おまえさー、自分は動かないわけ?』
「由紀さん、せっかくですからバレンタイン用の洋菓子でもお作りしましょうか?」
「え?そうですね…仕事が終われば…」
『って俺はシカトかよ!!』
 便利屋の事務所のソファに座り、紅茶を手にのんびりとしている莱眞に、
焔が色々と話し掛けるのだが、先ほどから全てかすりもせずに通り過ぎていく。
どうせいつもの事だし…と、焔は溜め息ひとつで電話番用の椅子に座った。
「あの…」
「ご心配には及びませんよ…西王寺のネットワークは全国のありとあらゆる所に広がっていますから…
生きているにせよ死んでいるにせよ…”存在”がそこにあったなら…
見つけられないという事はありませんから…ただ、少し時間がかかりますけどね?」
 ですから、座って待ちましょう…と、莱眞は微笑みを浮かべてティーカップを掲げた。
薔薇の花びらを浮かべていて、良い香りが漂っている。
もちろん、カップも葉も花びらも全て彼が持参しているものである。
「ところで今回は俺の他にも協力者がいるみたいですね…?」
「ええ…相澤・連(あいざわ・れん)さんという、製菓会社の方と、
冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)さんという、以前、お世話になった方と…
それから、九重・蒼(ここのえ・そう)さん。アルバイトの方なのでご存知ですよね?」
「男三人ですか…」
 カップに浮かべた薔薇の花びらを指先でつまんで、
ふうっと息を吹きかけるようにして莱眞は「うんうん」という風な仕種で数回頷いた。
そして、カップの中の紅茶に映った自分の姿に目を細めて笑みを浮かべ。
「そうそう、大河君に確認しておきたい事があるんだが…」
 ふと、思い出したように…いや、実際思い出したのだが…顔を大河に向けた。
『なんや?なんでも聞いてや?』
「キミの能力は…誰かの能力を高める事、だったよね?」
『そうやで!それがどんな能力や属性であっても、この俺に任せや!』
 返事を聞いて、莱眞はうんうんと頷いてカップに口をつけた。
願わくば、”能力”を使わなくて良い結果になってくれれば…と、思っていたのだが。
 それから小1時間ほど後。
彼の携帯の着信音が響いて、莱眞は静かに通話ボタンを押す。
「――ああ…そうか…それが結果か?…他の可能性は…?―――そうか…」
 由紀達が見守る中、莱眞はその表情を少し…寂しげに変えた。
どういう結果になったのか、その顔でわかる。
 それと時をほぼ同じくして、由紀の携帯も着信音を響かせた。
相手は、外に調査に出ていた者。
こちらの話の結果も…莱眞の結果も、答えは一致していた。

それは、出来れば考えたくは無かった結果で。


〓参〓

 病院の比較的金銭的に裕福な者しか使えないような個室に、純奈は入院していた。
八城家が会社経営をしていて金銭的に余裕があるから…当たり前の事かもしれないが。
「よ!純奈ちゃん…!俺、じいちゃんの知り合いの相澤・蓮って言うんだ」
「こんにちわ…あの…?おじいちゃんの…?」
 医者の許可を得て、蓮は由紀と共に病室で純奈と面会していた。
見知らぬ来客に首をかしげる純奈は、確かにやせ細ってはいるものの…
余命宣告をされている事など感じさせないくらいの明るく優しげな表情をしていた。
「今日は純奈ちゃんに会わせたい人がいるの」
「――私に?」
「ええ。今から呼んで来るけど…何か、渡したいものがあるのよね?」
 由紀の言葉に、ピンと来たのか…純奈の表情がぱっと変わる。頬を赤くして、戸惑うように視線を動かす。
そして慌ててベッドの脇に置いてある鏡に手をのばし、髪を整え始めた。
「相澤さんと一緒に、待っていてくれる?」
「俺でよければなーんでも話聞くぜ♪こう見えても聞き上手だからよv」
「は、はい!」
 由紀への返事もそこそこに、純奈は服装を整えて…床に置いてある紙袋から何かを取り出しているようだった。
その姿を見つめながら…由紀は小さく微笑みを浮かべて病室を後にした。



「用意はいいかな?」
 純奈の病室の隣室。空き部屋になっているその部屋に、”関係者”が集っていた。
皆、生きている事を信じてあらゆる手段から剛史を捜索していた者達だった。
しかし…抱いていた希望はやがて、現実を受け止める思いに変えなくてはならなかった。
その上で、彼らが選んだ選択。それは…
「こちらの準備は整っています…」
「…剛史さんが呼びかけに答えてくださるかどうかはわかりませんけれど…」
 琉人が準備作業の仕上げを整えながら呟く。
「それが許されない事だとしても…笑顔と生きる希望を彼女に」
 蒼は切なげな瞳を揺らし、祈るように目を閉じる。
「きっと届くと信じて祈れば通じるものさ…協力、頼むよ…?
そして、俺の”言霊”の力を…大河君、増幅のサポートを頼んだよ」
『おう!任せろや!』
 莱眞は、大河の返事を聞いて微笑みを浮かべて目を閉じた。
待機していた式霊達も、外界からの邪魔が入らないようにとそれぞれサポートにまわる。
全員の意識が揃った瞬間、その室内は静寂に包まれた。
 莱眞の言霊の能力を使って”剛史”の霊を呼び寄せる。
そして琉人の能力を使って…ほんの少しの間だけ、実体化して純奈に会わせる…それが選択の結果。
死んでいる事を伝えず、生きている者としての出会いを選んだ最大の理由は、
純奈に”生きる希望を”与えて…できることなら彼女が少しでも長く生きられるようにとの願いからだった。
事実を知るには、あまりにも純奈の心に辛すぎるだろうと…。
「剛史、応えてくれ…」
「私達の声が聞こえているのなら…剛史さん!」
「今の俺には祈るしか出来ないけれど…どうか…」



 純奈の病室のドアがゆっくりと開く。
蓮が振り返ると、そこには1人の少年が立っていた。程よく肌を焼いた…健康そうな少年だった。
その少年は病室に入るなり、蓮に一礼をして純奈のベッドに近づく。
病室のドアの隙間から由紀達が廊下で様子を窺っているのを見て、蓮は立ち上がり廊下に出た。
そこには、心配そうな顔をした…今回の仕事の仲間たちが揃っていた。



「よ、純奈!なんだよ、随分痩せたんじゃねえ?前はデブだったのによ!」
「なによっ…剛史のバカ!久しぶりにあってすぐにそれ!?デリカシー無いよ!もう14歳だもの!」
「まーだ14歳だよ!てめーは大人んなったら結婚してガキも作んなきゃいけねーんだからよ!」
「―――そ、そんなの…あんたに関係…」
「”もう”って言葉はよ、90歳くらいのババアになってから使いやがれ!」
 剛史はそう言って笑うと、純奈の頬を軽く叩いた。
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしながらも、幸せそうに純奈は微笑んだ。
「ね、剛史…今なにしてんの?」
「あ?あー、俺?親の仕事の都合で悠々自適な海外生活って感じかな!」
「海外なんだ…どこ?アメリカ?あ、ニュージーランド?」
「言わねーよ!ま、天国みたいなところって事だけ言っとこう!」
「なにー?教えてくれてもいいのにーケチー!」
「ま、そのうち連れてってやるよ!でもまあ、まだもう少し先だな」
「どーしてよー?少し先っていつ!?」
「ビーチで水着になっても恥ずかしくないよーに、そのまな板の胸がDカップになったら、かな?」
 純奈はただでさえ赤い顔をさらに真っ赤にして枕を剛史に投げつけた。
その枕の下から…赤と緑の包み紙が姿を見せる。
剛史の視線に気付いて、純奈は慌ててそれを取ると、何も言わずに剛史に突き出した。
それを受け取り、剛史は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「なに?バレンタイン?」
「義理よ、義理!」
「そっか?じゃあ俺、来月のホワイトデーには来れねえから、今お返ししといてやろうか?」
「え、別にそんな…」
 純奈がお礼なんて!!と、慌てて剛史に顔を向ける。
その彼女の額に、剛史はそっと唇を寄せた。年齢の割りにキザなことをする。
温かいぬくもりが伝わり…両者とも顔どころか首も耳も真っ赤にして、じっと見つめあった。
それはほんの数秒のことなのだが、数分にも感じられたかもしれない。
不意に、剛史が顔を背けて…。
「もう時間だ!いいか?今度俺が迎えに来るまで待ってろよ!死ぬんじゃねえぞ」
「うるさいわねっ!あんたより先には絶対に死なないわよ!」
「―――ありがとな…純奈…」
 剛史はそう微笑んで、純奈からのプレゼントを軽く挙げて見せると…
ゆっくりと病室のドアを開いて廊下に出る。
切なそうに笑みを浮かべた剛史を、蓮、琉人、蒼、莱眞の四人は黙ったままで迎えた。
そして、そのまま隣室に移動する。
隣室では切なさに耐え切れなくなった由紀が、式霊と共に待機していた。
剛史は部屋に入ると、全員に頭を下げる。
「莱眞さん…呼んでくれて、どうもありがとうございました」
「いや…来てくれて、ありがとう」
「蒼さん、貴方の祈り聞こえました…気持ち、凄く伝わりました…俺、妹さんの幸せを祈ってます」
「ありがとう…」
「蓮さん!あなたのお陰で純奈も俺に会う前にリラックスできたみたいです…」
「いや、俺はその…なんて言うか…くそっ…なんだコレ…鼻から水が出てくるじゃねえか…」
「琉人さん…ありがとうございます。もう、俺はいいですから…どうぞ力を」
「まだ実体化させておくことは出来ますが貴方がそう望むのなら」
 琉人が、剛史にかけていた”術”を解く。すると、それまで実体としてそこにいた剛史の姿は、
霊体となり…能力のある者以外には見ることが出来ない姿へと変わっていった。
「なんで俺、見えてんだろな…」
 蓮が、ぼそっと呟く。
その腕に未来がそっと手を触れる。そして、優しく微笑んでいた。
「純奈さんには生きている貴方とお会いさせてあげたかった…」
『そうですね。俺も、もっと早く純奈に会いに来ていれば良かったなって思います』
「あの、本当に彼女のお迎えは…貴方が?」
『できることならこの先ずっと会う事が無い事を祈っていますが…もし、その時が来たら…必ず』
「そうしてくれ…純奈嬢はきっとキミに会う事を夢見て生きていくはずだから…ね」
 莱眞は真剣な顔をして、剛史に言葉をかける。
それも、ある種の”言霊”。約束という名前の”言霊”。
残り少ない別れの時間を過ごしていた彼らだったのだが―――
「ここで何してるんですか!?」
ガラッと、ドアを開いて入って来た数人の看護婦にそれを中断された。
まさか”降霊”の為に部屋を貸してくれというわけにもいかず、こっそりと使っていたのがバレだのだ。
『すみません!』
 式霊の未来が、能力を使って看護婦を眠らせる。
そして、蓮も無意識に相手を”魅了”させてこちらに対する意識をそらせた。
その隙に全員で病室を後にする。
突然現れた大人数に、患者や看護婦は驚いている様子だったのだが…
何事もなかったかのように…全員で流れるような素早さで病院を後にしたのだった。


〓四〓

 全ての仕事を終え、便利屋…というか、由紀の自宅にて、
由紀の手製の和菓子と琉人の差し入れの緑茶で全員揃って一息ついた後、
とりあえず解散という事になった。お給料の支払いは月末にまとめてというのがここのお約束。
「それじゃあ、由紀さん…またお困りでしたらいつでも呼んで下さい、ね?」
「ありがとうございます」
「ああ。依頼だけじゃなくてお料理の方も、もちろんいつでも」
 にっこりと微笑みを浮かべて、莱眞は由紀の手を取り、挨拶する。
肩口にかかった髪の毛を片手サラリと後ろへと流し、玄関据え置きの鏡で整える。
『大丈夫やて!莱眞さんはいつでもカッコエエで〜!』
「そんな当たり前の事を…でも、そんな正直な大河君が好きですよ」
『照れるやないかー!』
『バカじゃねえの…』
『なんやてー!焔!アホは言うてもかまんけどな、バカは言うたらアカンのじゃ!!』
「本当に…失礼極まりない方ですね…由紀さんも大変でしょう…」
『――うるせえ…』
 苦笑いを浮かべる由紀に、莱眞は微笑み。
「それでは…長居をしてもいけませんので、失礼します…
ああ、この俺の帰途を見守るように太陽が明るく足元を照らしてくれている…
太陽光すらも俺の足元に傅くなんて…俺って本当に…罪な男…」
『とっとと帰れ!!』
 玄関の戸を開いた状態で呟いていた莱眞の背中を…たまらず焔は蹴り飛ばしたのだった。
慌てて由紀と大河が飛び出して行ってフォローしたものの、

―――その後、莱眞が激怒したことは言うまでも無い。



<終>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)   ■
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【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性/84歳(外見20代前半)/神父(悪魔狩り)】
【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男性/29歳/しがないサラリーマン】
【2441/西王寺・莱眞(さいおうじ・らいま)/25歳/男性/財閥後継者/調理師】
【2479/九重・蒼(ここのえ・そう)/20歳/男性/大学生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。
この度は『神城便利屋事件簿』の初の依頼に参加して下さりありがとうございました。
初の異界エピソードだったのですが、楽しんでいただけましたでしょうか?
通常の依頼と違い、NPCの説明の為にNPCの露出度が高くなってしまい申し訳ありません。
 今回の依頼では、あまり暗くならないように…と言うことを心がけて執筆したのですが、
ほのぼのとしていて、少ししんみりしていただけたら…嬉しく思います。
今回、個別に執筆した部分が多いので、
他の方の行動に興味がおありでしたら読んでみて下さると楽しめる…かもしれません。(笑)

今後も、神城便利屋のエピソードをご用意していきますので、
宜しければまたご参加いただけると嬉しいです。

:::::安曇あずみ:::::

>西王寺・莱眞様
こんにちわ。この度は異界へ参加していただきありがとうございました。
相変わらず(?)西王寺様の個性を上手く出せなかった気がします。(^^;
が、凄く好きなPC様なので頑張って楽しみながら書かせていただきました。
便利屋やNPCとの設定も少し創作して執筆させていただきました。
またお会い出来るのを楽しみにしております。

※プレイングに特に記載が無い場合、便利屋との関係を少し創作させていただきました。
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>