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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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エビフライの野望
アンティークショップ・レン。
いつもひっそりと静まり返っているその店では、曰くのあるものばかりが取引されている。
レンの常連客である朝野時人は、いつものように、なにか面白いものはないかと店内を品定めして歩いていた。
「……これは……」
ふと、時人は奇妙なオブジェの前で足を止めた。
そのオブジェは手のひらに乗るほどの大きさであったが、どういうわけか、奇妙な存在感があった。
なにしろ――リアルなエビフライ型なのだ。
「……なんだろう、これ」
時人は首を傾げつつ、手に取ろうとオブジェに触れる。その途端、ばちっ、とエビフライから火花が散った。
そして次の瞬間には、時人はエビフライの着ぐるみを着たような姿になっていたのだった。
「な、なにこれ!」
「ふっふっふ。我輩に触れたのが運のツキよ! 我輩は偉大なるエビフライ魔術士、ロブスターである!」
エビフライ魔術士ってなんだろうとか、ロブスターはきっとエビフライにはしないだろうだとか、色々な考えが時人の頭の中を駆けめぐる。
だが、とりあえず――これは自分にはどうにもなりそうはないなと、時人は人を呼んでもらおうと、蓮に声をかけるべく立ち上がった。
「あ……」
ふとレンの前を通りかかった海原みなもは、店内に珍妙なものがいるのに気がついて足を止めた。
どうやら、見たところ、エビフライの着ぐるみ――のようにも見える。
着ぐるみと聞くと、ついふらふらとそちらに引き寄せられてしまう。みなもはレンのドアを開けた。
すると、エビフライの着ぐるみが振り返る。見返りエビフライの顔は、みなもにも見おぼえのあるものだった。
「ええっと、たしか、いつかの魔法使いの子、ですよね」
「あ、はい、そうです! みなもさんでしたよね」
エビフライの着ぐるみを着た時人は、大きくなんどもうなずく。
「どうしたんですか? そのかっこう」
「実は、今この置物に触ったら……突然こうなっちゃったんです」
「ふ、これぞ我が究極のエビフライ魔法である!」
時人が置物を指し示すと、エビフライそっくりの姿をした、黒マント姿のロブスターが胸を張って答える。
「よくわからないんですけど、それを触るとその姿になるんですよね?」
「ええ、そうです」
「……えい」
きちんと確認をしてから、みなもはその置物に指先を触れさせた。
とたん、みなももいつものセーラー服姿から、エビフライの着ぐるみ姿へと変化してしまう。
触ってみると、まるで本物のエビフライのような手触りで、思ったよりもよくできているというのがわかった。これは、あとで身体をあらわなくては大変なことになりそうだ。
「……みなもさん……?」
それを見て、時人が首を傾げる。
「気にしないでください。なんとなく、そうせずにはいられなかったんです」
カバンをごそごそと探りながらみなもは答えた。カバンの中には、こんなときのためにとカメラが入っているのだ。
「なんだい、いったいなんの騒ぎだい?」
その頃になってやっと気がついたのか、蓮が店の奥から出てくる。
そうしてエビフライの着ぐるみをきたふたりと、黒マントを着たエビフライの姿を目にすると、目をぱちくりとさせる。
「えっと……その。色々と事情があって」
あはは、と時人が乾いた笑い声を立てる。
「あ、時人クンじゃなーい。オハロー!」
そのとき、後ろから声がかかる。みなもが振り返ると、赤い髪に赤い瞳の、勝気そうな小柄な女性が立っている。
「あ、赤羽根さん」
時人は彼女と顔見知りなのか、親しげに声をかける。
「知り合いですか?」
みなもが訊ねると、時人はうなずく。
「ええ、このあいだ、うちの店に来てくれたんです。赤羽根希さんです」
「海原みなもです。よろしくお願いします」
エビフライの着ぐるみを着たままの姿で、みなもは深々と頭を下げた。
そうして顔を上げると、こらえきれなくなったように希が吹き出す。
「やだ、なんなのよ、それ! なんでみんなしてエビフライなわけ!? しかも黒マントのエビフライまで浮いてるし! おかしすぎるわよ、もう!」
ひぃひぃと涙まで浮かべて笑いつづける希を見て、時人はため息をつく。
「あの、えっと……笑ってないで、助けてくれたりしないかな、って」
「え? 助けてほしいの? いいじゃない、おもしろいんだし……」
「イヤです!」
「そう? しょうがないわねえ……」
希は腕まくりをするような仕種をすると、時人に近づく。
そうして、どこかにファスナーがないかとべたべたと着ぐるみに触りはじめる。
「あら、おかしいわね、ファスナーがどこにもないわよ!」
「はっはっは! 我がエビフライ魔法にはファスナーなど必要ないのだ!」
ロブスターが高笑いを上げる。
「きぃ! こうなったら燃やしてやるっ!」
癇癪をおこしたのが、希は手を振り上げる。するとその手の中に、赤々とした炎が燃えはじめる。
「わ、ちょ、ちょっと!」
油でべたべたとした着ぐるみを着ている時人は、おびえたような顔で後ずさる。
「あの、油がついてるものにそれは危ないと思いますよ」
みなもはひかえめに声をかけた。
「そ、そうですよ! 燃やすなんてそんな困ります!」
時人もあわてて言い募る。
「なによ、助けてあげようって言ってるのに……こうなったらあんたを燃やして消し炭にしてやるんだから! いくらなんでも術者が消し炭になったら魔法もとけるものね!」
びし! と希がロブスターに指を突きつける。
ロブスターはたじろいで、蓮のうしろへと隠れた。
「わ、我輩も消し炭は困るのである」
「……情けないわねえ」
ふぅ、と蓮はため息をつき、肩をすくめる。
「まあ、とりあえずは許してやってくれるかい? さすがに、こう頼られちゃあほっとけないからねぇ」
「……しょうがないわね」
不服そうではあるものの、希は炎をおさめる。
「あの、お願いがあるんですけど」
みなもは希に声をかけた。そしてカメラを取り出すと、希に向かって差し出す。
「なに? これ」
「カメラです」
「そういうことじゃなくて……なんで、カメラなの?」
「とりあえず記念写真を撮ろうかと。どうせなので、時人さんとロブスターさんも一緒に写りませんか?」
みなもが誘いをかけると、まず時人がみなもの隣に並び、続いてロブスターが恐る恐るといったふうにふたりの間へふよふよと飛んできた。そんなロブスターを、みなもはぬいぐるみかなにかのように抱きしめる。
「じゃあ、撮るわよ?」
3人がそろったのを確認してから、希がカメラをかまえて言う。
みなもがうなずくと、カメラのフラッシュが光った。
「うん、多分撮れてると思うわ」
はい、と希がカメラを返してくる。
「ありがとうございました」
ぺこり、とみなもは頭を下げた。
「それで、ロブスターさんはどうしてこんなことをしたんですか?」
カメラをしっかりとカバンの中にしまったあとで、みなもは腕の中のロブスターに訊ねた。
「実は、我輩は呪いにかけられているのである……」
「呪い? エビフライになっちゃう呪いとか?」
希が冗談めかして言うと、ロブスターは重々しくうなずく。
「そうなのである。我輩は、100人のエビフライ同志をつくらなければ、下の姿に戻れない上、この置物から離れることができないのである!」
「……あの、エビフライ同志って?」
よくわからない単語に、みなもは眉を寄せて訊ねる。
「このエビフライ魔法の一部を受け継ぐ同志のことである。受け継ぐと、いつでもどこでもエビフライの着ぐるみ姿に変身できるようになるのである!」
「……いらないかも」
希がぼそりと口にする。
ロブスターはががーん! と大げさによろめいた。
「うーん、とりあえず、それを覚えればこれはもとに戻るし、その上いつでもエビフライになれるんですよね? じゃあ、教えてください」
「簡単なのである。このエビフライのブローチを身につけて、『エビフライ・エビフリャー・ラブラブファイヤー』と唱えるだけなのである。変身するのももとに戻るのもそれでOKなのである」
「……」
希はもはやコメントのしようもないのか、半眼でロブスターを見つめている。
「まあ、別に大声で叫ばなくてもよさそうですし……わかりました。そのブローチ、受け取ります」
「おお、ありがたい! とりあえず3人も受け取るのである! これで残り86人なのである!」
どこからともなく差し出したエビフライが浮き彫りになったブローチを、みなもはとりあえず着ぐるみの胸元につける。
「……なんか、大変なんだなあ」
つぶやきながら、時人もロブスターからブローチを受け取って同じようにした。
「……言っておくけど、あたしは変身はしないからね」
念を押しながら、しぶしぶと希が手を出す。ロブスターはその手のひらの上にもブローチを置いた。
「まあでも、どうしようかねえ。そんな置物、置いておくのもどうかと思うし……まあ、かってに触る方も悪いんだけどね」
「……す、すみません」
蓮に言われて、時人が頭を下げる。
「蓮さんのところに飾っておいて、変身してもいいって人に触らせるってどうですか? ……エビフライの置物って、趣味が悪いですけど」
みなもはとりあえず、そう提案してみた。趣味が悪い、という言葉にロブスターがショックを受けていたようだったが、そんなことはみなもには関係のないことだ。
「まあ、そうだね、そうしようか」
仕方がないね、という風情で蓮がうなずく。
とりあえず、どうやらこれで一応は解決したようだ。
みなもは、これは他の人間に持たせても効果があるのだろうか――と、胸元のブローチを見ながら考えるのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生】
【2734 / 赤羽根・希 / 女 / 21 / 大学生/仕置き人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、5度目の発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹です。
今回はエビフライの着ぐるみ! などというキワモノなネタでしたもので、どなたか興味を示してくださる方がいるのだろうかと少々不安だったのですが、ご参加いただけて嬉しいです。
このような感じで、結局は「いつでもエビフライに変身可能」になってみたりしたのですが、いかがでしたでしょうか。やはりこのあとはお姉さんとふたりで変身されたりするのだろうかとか、むしろ一家でエビフライだったらすごすぎる、とか、そんなくだらないことを考えてしまいました。
お楽しみいただけていれば、大変嬉しく思います。
もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますと喜びます。ありがとうございました。
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