コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


立春闇夜の肝試し
------<オープニング>--------------------------------------

 ある日の夕方のこと、あやかし荘の玄関廊下に張り紙が張ってあった。昼間は見なかったその紙は隅の方が日に焼けていて、インクもかなり滲んでいたが、はっきりとした大きな文字でこう書いてあった。


―――立春・闇夜の肝試し―――――――――――――――――
日時:今夜子の刻を過ぎし頃
所 :あやかし荘旧館にて
道順:夢幻回廊より旧館に入り、最奥の階段を昇り2階菅の間、
3階竜胆の間、4階輿の間にそれぞれ置かれた札を集め、
再び夢幻回廊へ帰る。
備考:原則として、二人一組とする。

 皆様の御参加、楽しみにお待ちしております。

―――――――――――――――――――――――――――――


------<本文>--------------------------------------

「恵美さん、お約束していたお守りを……っと、アレ?」
 管理人室へ向かう途中、廊下に張り出されてあった古い紙を見つけ、誠は立ち止まった。手に持った数珠がじゃらり、と音を立てて揺れる。
「立春・闇夜の肝試し……?」
 紙の出だし文句に誘われて、誠は食い入るようにその内容を見つめた。眼鏡の下の黒く大きな目が、興奮に見開かれる。
「……面白そうですね!ボクも今晩参加してみましょう!」
 紙の前で一人決意すると、足取りも軽く管理人室へと小走りで向かった。後日こっそりと夜中に寺を抜け出したことが発覚し、罰として寺の中の掃除を命じられることになるのだが、今の誠には知る由もなかった。
 まだまだ遊び盛りの時期なのである。




 時刻は深夜0時過ぎ。ただでさえ薄暗い旧館は夜闇のせいでより一層暗かった。唯一の光源である細い懐中電灯は、今はこの小さい部屋の中をさ迷うように揺れている。その光がある1点でぴたっと止まり、薄闇の中にぼうっと白い紙が浮かび上がった。
「案外簡単に見つかったね」
 戸棚から一枚の札を取りだし、縁樹が言った。確かに数多くのいわくつきの噂話がある旧館にしては、そういう類のものはあまり見受けられなかった。あったのは隠し扉だの抜ける床のトラップだのといった、物理的な仕掛けばかりだ。おばけ屋敷風の肝試しを期待していたのに、まさか忍者屋敷だとは……。
「3階には何かあるかもしれませんよ」
 がっくりと項垂れている縁樹を見上げ、誠が苦笑した。実は彼も少々期待はずれに思っていたのだ。
「どうでもいいから、早くすませるよ」
 そう言うノイは、3階への階段の前で立ち止まっていた。どうやら旧式日本家屋特有の、段の高い階段は、身長50センチ前後のノイが上がるには少々厳しいものがあるらしい。それに気付いてくすりと笑った誠を睨み付け、ノイは縁樹の後ろに回った。どうやら背負えということらしい。
「そうですね。ここでじっとしてても仕方ないですもんね」
 ノイの腕をつかんで肩に引き上げると、縁樹は勇んで3階へと向かった。
 誠もその後を小走りで追っていった。




「竜胆の間は、この廊下の突き当たりにあるみたいです」
 旧館の見取り図を眺めながら誠が先頭を歩く。2人(+1体)だけなので、先陣も殿もないのだが、物理的攻撃を得意としない誠が前、霊的攻撃を得意としない縁樹が後ろということになった。
 ……そう、今回の肝試しの参加者は、たったの2名(+1体)だった。
 恐らくここの住人にとっては普段から見慣れている妖怪やら幽霊というものは、興味の対象ではないのだろう。
「……?如月さん?」
 反応がないのを訝しんで振り返ると、硬直した縁樹の背中が見えた。誠が更にその向こう側を覗こうとした時――
「うわぁぁぁぁぁ!?」
 突然誠の方に向き直った縁樹は、肩に乗せているノイの腕を掴んだままものすごいスピードで誠の横を通り過ぎていった。
 その後ろには通路を塞ぐほどの巨大なバケ蜘蛛が。
 呆気にとられてしばし動けなかった誠の耳に、2人のやり取りが遠く聞こえた。
「ちょっ、縁樹!走って逃げなくてもボクがあんなの仕留めて……」
「絶対ムリです!あんなでっかいの、例えノイのナイフが2、3本当たったところで死なないに決まってます!」
 その台詞にはっとして、誠はポケットを探った。すると除霊用の札と交霊用の札が数枚出て来た。その内の一枚に念を送って、バケ蜘蛛の方に投げつける。
「悪霊退散!」
 札は一直線に蜘蛛の頭部へと飛んでいった。予想ではこれで蜘蛛は元の姿に戻るはずなのだが……。
 蜘蛛の頭部に貼りついた札はしかし、その効力を発揮することなくすぐに剥がれて廊下に落ちた。
 誠は信じられない気持ちで落ちていく札の行方を眺めていたが、迫り来る巨大化け蜘蛛に気付き自分も縁樹達のあとを追う。突き当たりの部屋では縁樹が引き戸を半開きにしたまま誠に早く来るよう手招きしていた。
「急いで下さい!お札はもう見つかりましたし、階段も中に!」




 またもよ薄暗い長い廊下を疲れた面持ちで、3人は進んでいた。逃げるようにして4階に上がって来たはいいが、帰りもまたあそこを通らないといけないことを思うと、知らず溜息が零れる。
「……あの蜘蛛は一体何だったんでしょう」
 落ち込んだ声で誠。札が聞かなかったということが、少々応えているらしい。あれほどまでに大きな蜘蛛がまさか自然にあそこまで成長したとは考えられないから、やはり自分の力不足を疑ってしまう。
「帰りにはいなくなってるといいんですけど」
 虫が苦手な縁樹がぼそっと言った。だらだらと歩いているうちにいつの間にか輿の間に着いていたらしい。ノイが縁樹の肩から滑り降りて、真っ先に引き戸を引いた。途端さっきまでちっとも感じられなかった夜の冷気が、部屋から廊下へと漏れ出してくる。人間2人はその冷気にぶるりと体を震わせて、恐る恐る中へと足を踏み入れた。
「4階は何もないんでしょうか?」
 早々に机の引出しに入っていた3枚目の札を見つけだし、誠が不思議そうに呟いた。ここで行う肝試しにしては呆気ない気がする。もう少し最後を飾るに相応しいことが起こってもいいはずなのだが。
「……終わったんなら帰るよ。まったく、最後までくだんなかったね」
 先ほどの一件で不機嫌になっているノイが欠伸混じりに言った。縁樹もいささか残念な顔で同意し、3人がほぼ同時に振り返ったとき。

 そこには少女の姿があった。

 少女は3人が一枚ずつ手に持っている札を見ると、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「これでやっとあの人の元へ行けるのね――」
 そう言ったかと思うと3人の手の中から忽然と札が消え、それに気を取られている間に少女の姿も消えていた。あまりにも唐突な出来事に3人は暫し立ち尽くしていたが。
「……帰りましょうか」
 縁樹の言葉に誠も頷き、3人は無言で復路を帰っていくのだった。




 はっきり言って、拍子抜けをした。
 帰りの道は行きの道が嘘であったかのように何事も起きなかった。巨大化け蜘蛛はその姿を現すことがなかったし、2階のトラップは行きに引っ掛かったものだけで、帰りは難なくかわせた。
 スタート地点の夢幻回廊に辿り着くと、そこには嬉璃の姿があった。
「どうぢゃった?なかなか驚いていたようぢゃったが」
 くすくすと笑い出した嬉璃を見て、3人ははっとする。
「まさか嬉璃さん、あなたが……」
「近くて遠いのぅ。あの気味の悪い蜘蛛はわしが操っていたが、作ったのは恵みぢゃぞ?2階のトラップも、あやつの案ぢゃ」
 真相を告げられて、3人は安堵の溜息を洩らす。何てことはない、上手くだまされただけなのだ。今回のことは、全部。
 誰からともなく笑い出しながら、ふと思いついたように誠が尋ねた。
「そういえば、4階の少女も嬉璃さんが?」
 嬉璃は少し首を傾げて、逆に不思議そうに尋ね返した。
「何を言っておる。仮にも数百年の歴史を持つこの旧邸が、4階なんぞという縁起の悪い階をつくるはずがなかろうが」
 それを聞いて嬉璃を除いた3人は、一瞬顔を見合わせたあと、茶色い染みの広がる天井を仰いだ。

 ――まったく、最後までいいように扱われたものだ、と。



                         ―了―







□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1431/如月・縁樹/女/19/旅人】お供として人形のノイ
【2662/遠野・誠/男/12/小学生陰陽師】
(※受付順に記載)


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 はじめまして、ライターの燈です。この度は「立春闇夜の肝試し」に参加していただき、ありがとうございました。

 >遠野誠様
 陰陽師の設定があまり生かしきれなかったのが残念ですが……(すいません)年の割にはきっとしっかりしていらっしゃるんだろうと、勝手な思いこみが(汗)。でもきっと同年代の友達と一緒のときはやんちゃなんだろうな〜と、微笑ましくもあり。
 可愛いです、誠君!

 それでは、また機会がありましたら。
 どうもありがとうございました。