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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


=学校童(がっこうわらし)=神城心霊便利屋事件簿:弐


「神城さんは…”学校童(がっこうわらし)”ってご存知ですか…?」
 便利屋に訪ねて来た女性は、事務所の椅子に座るなりそう切り出した。
お茶を出しながら、神城・由紀はいいえ、と聞き返す。女性は、そうですよね…と小さく笑みを浮かべて。
「私の母校の中学なんですが、今年、卒業生を送り出すと廃校になる事が決まっているんです…
子供の人数が減っていたり、不景気で運営も困難になったのが理由らしいのですが…
私は”学校童”が原因なんじゃないかって思うんです」
「はあ…」
「学校童って言うのは学校に住んでいる子供の幽霊の事で守り神みたいなものです。
私の中学に昔から伝説として語り継がれてきた存在なのですが…
その学校童が怒ったり居なくなると、学校は廃校になってしまうという噂なんです」
 女性は、お茶を静かに飲んで徐に鞄の中から1冊の本を取り出した。
それはどうやら卒業アルバムのようだった。女性は数ページ送り、あるページを開く。
卒業生全員と職員の集合写真が掲載されているそのページの一部を女性は指差した。
「ここに映っている女の子見えますよね?これ、この子がそうなんです…」
「ずいぶんとはっきり映ってますね…」
「ええ。この写真は私が卒業した十五年程前のものなんですが…こっちを見て下さい」
 女性は、別の写真を数枚取り出してテーブルの上に並べた。
「見て下さい…右から、十年前、五年前、三年前、去年、そして今年の写真です。
どれも同じ場所で同じように撮影した写真なんですが…」
 十五年前にはっきりと映りこんでいた”学校童”の姿は、
十年前、五年前までは同じような場所できちんと映っていた。
しかし三年前、その姿はどこか後ろを向いているようで、去年の姿はほぼ見えなくなっていた。
そして…。
「…今年、いないじゃないですか?」
「そうなんです!お願いします!だからこちらの便利屋さんのお力をお借りして、
学校童がどうしていなくなったのか…いえ、いるかもしれないけれど…
どうして姿を見せてくれなくなったのか調べて欲しいんです…だって…母校が廃校なんて悲しくて…」
「調べて…それでどうなさりたいんですか?」
「できることなら…学校童の力でもう一度かつてのにぎやかな学校の姿を…」
 果たして本当にその”学校童”が学校の廃校に影響しているのかどうかはわからない。
しかし、依頼人の切な願いでもあり…由紀は仕事を受ける事にした。

〓壱〓

 祀は、自宅で由紀からの連絡を受けて出かける仕度を整え始める。
神城神社の近所に祀の家があって、
子供の頃からよく近道として神社を通り抜けに使う事があった。
その時から自然に由紀と顔を合わせるようになって…
いつの頃からか、よく遊びに出かけたり相談したりし合う仲になっていた。
 特に由紀は祀の能力や家の事についてよく知っている。
それ故に、今回も祀に”仕事”の手伝いをしてもらえないかと連絡をよこしたのだ。
「学校に住み着いてる妖怪、かぁ…」
「祀、出かけるの?」
 玄関に座って靴をはいていた祀の背後から、
まるで母親か姉のように自然に声をかけてきたのは…祀の家に住む、妖怪だった。
じっと様子をうかがうように覗き込んでくる。
「手伝う?」
 ふっと笑みを浮かべて問い掛けた祀の言葉に、
その妖怪は嬉しそうに両手を合わせて「うん、うん」と何度も頷いた。
「ずるい!僕だって祀ちゃんと行く!」
「わたしも!」
 すると、わらわらと祀の元へ他の妖怪達も集まってくる。
それは見た目には人間と変わらない者も居れば、一見して”それ”とわかる者もいる。
少しでも”見える”能力のある者が今訪ねて来たら…ひっくり返ってしまうだろう。
「あんた達ー!呼んでないのに出てこないの!」
「だって!」
「今日は仕事なんだから!呼んだコだけ一緒に行くの、いいね?」
 腰に手をあてて子をしかる親のようにして目の前の魑魅魍魎達を諭す。
そう言われても…と、どこか不満そうにする妖怪達だったのだが…
「わかった」
「でも気をつけて」
「頑張ってね」
 口々に祀にそう声をかけて、それぞれ自分達がいつも”いる”場所へと戻って行く。
そして、いくつかの妖怪を残して…あとは全て姿を消した。
「じゃあ行くよ」
 その残った妖怪達を連れて、祀は玄関の戸を開く。
一歩外へ踏み出した彼女の耳には、
『いってらっしゃい』と自分を送り出す妖怪達の声が優しく聞こえていた。


〓弐〓

 依頼人佐々木に案内されて向かった先は、都内でこんなところがあったのか…という風な、
田畑の広がる場所にある、小規模ではないが決して大規模でもない中学校だった。
佐々木の話によると、現在の全校生徒数はだいたい300名いるかいないか程度。
極めて少ないという事は無いのだが…年々、減少の一途を辿っているとの事だった。
「へぇ〜!なんか思っていたより都会ねー?木造校舎イメージしてたけど、違うのね」
 校舎を見上げながら意外そうにそう呟いたのは花瀬・祀り(はなせまつり)。
「そうだね…この校舎のどこかに”学校童”ちゃんがいるんだね…」
 何故かその祀にだけ微笑みを浮かべながら言うのは西王寺・莱眞。(さいおうじらいま)
「それじゃあとりあえず手分けして学校童さんを探しましょうか?」
 にこにこといつもと変わらない笑顔を浮かべる、冠城・琉人(かぶらぎりゅうと)。
「あ、見つかった後、ちょいと俺は別行動したいんだけど、いいかな?」
 片手を挙げて全員に許可を取る、相澤・蓮(あいざわれん)。
何か考えでも?と全員が視線を彼に向けるが、蓮はニッと意味深な笑みを返すだけだった。
「さて。今回は翼さんと瓜亥さんにお手伝いに来ていただいたんですが…」
『はい!あの、アタシ飛べるし…実体化してないから壁抜けも出来るので、
皆さん、呼んで下さればすぐにそちらに向かいます!ヨロシクお願いします!』
『………えっと…瓜亥、よくわかんないけど…頑張るね』
「可愛らしいレディに手伝ってもらえるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう…」
 にこっと微笑みを浮かべて二人の間に立つ莱眞。
そしてさらにちょうど目の前に立つ祀にも視線を向けて…
「両手だけじゃなく目の前にも可憐な華が…なんていい日なんだろう」
「ちょっと莱眞さん…仕事しようよ、仕事!」
 呆れた顔で言う祀だったが、莱眞はすっかり自分の世界に入っていたのだった。
「あのよ、俺って皆みたいに変わった能力ってのがないから…
瓜亥ちゃん連れて行動したいんだけどいいかな?」
 不意に蓮が再び挙手をして全員に問い掛ける。
「ええ。構いませんよ?私は」
「あたしもいいわよー☆個人的に家から連れてきてるしね」
「そうだな…瓜亥ちゃんと離れるのは名残惜しいけど…仕方ないな」
 快諾する琉人に、なんだか気になる一言付きな祀、そして相変わらずな莱眞の三人から了解を得て、
蓮は瓜亥と共に行動する事になった。ちなみに依頼人の佐々木はロビーで待機する事になった。
「それじゃあ捜索を開始いたしますか…?見つけ次第、連絡するという事で」
『了解』
 声をそろえて琉人に返事をすると、それぞれ思い思いの方向へと散っていった。



「さて、と…”学校童”がまだここにいるんだから、まだ希望を捨ててないって事よね…」
『そうですよね!』
 祀と翼は二人並んで、校舎の3階を歩いていた。家から連れてきた妖怪達も捜索に加わる。
閉っている教室は窓から覗き込んだり、開いている教室は中を丁寧に調べてみたり。
「ねえ!聞こえてるなら、出てきてよ”学校童”!!」
 祀は歩きながら、そう声を張り上げる。祀の本能が、”いる”という事を先程からずっと告げているのだ。
どうやら祀と一緒にいる妖怪達に興味があり、様子をうかがっている…そんな雰囲気が伝わってくるのだ。
「ねえ”学校童”!あたしは花瀬・祀!あたしの話聞いてくれる?この子達とのこと話したいからさ!」
 微笑みながら、祀は廊下に立って…”いる”と感じるほうへと声をかける。
そこには何もなく…他と違うようなところはなにもない空間だったのだが…。
『…そなたは我が見えるのか』
 やがてゆっくりと、小さな呟きと共に”学校童”は輪郭を現したのだった。


〓参〓

 ”学校童”を前にして…琉人、莱眞、祀の三人は正座していた。
中学校にしては珍しく畳敷きの茶華道室があり、そこでじっと見詰め合っていた。
式霊の翼も一応、三人の後ろにちょこんと正座して待機している。
 しばしの重く静かな時間が流れる中、最初に沈黙を破ったのは、琉人。
ちょうどポットがあってお湯が沸いているのを見て、懐から”マイ・ティーパック”を取り出し、
慣れた手つきで人数分のお茶を入れて差し出す。もちろん、”学校童”にもだ。
そしてさらに、どこからともなくお茶菓子を取り出して並べた。
四次元ポケット!?と、思わず祀が呟いたツッコミに、くすっと小さく”学校童”が笑う。
今までずっと無表情だった”童”の笑みに…ほっとした空気が流れた。
「ええっと…自己紹介しておきますね。私は冠城・琉人と申します」
「俺は西王寺・莱眞。某学校で給食のおにーさんをしてます…宜しくね?」
 莱眞はそう言いながら、”童”の手を恭しく取り…軽くキスをする。
少し驚いたような表情を浮かべた”童”だったが、すぐに楽しげな笑みを作った。
「あたしはもう自己紹介済みだから…いいかな」
 微笑みながら言った祀に、”童”は微笑んで頷いた。
『我は随分と久しく誰かと話すことが無かったから…嬉しいぞ…』
 そして、透き通るような声が”童”の口から聞こえてくる。
思っていたよりも子供に近い声だったのだが、話し言葉には年月を感じさせる雰囲気があった。
「さて…早速ですがお茶でも飲みながらお話でも致しましょう?色々と積もる話もあるかもしれませんから…」
「そうだよ?何か悩み事でもあるなら俺に聞かせてくれると嬉しいな…?浮かない顔よりキミの笑顔が見たいからね」
「大丈夫!みんな本気であんたの事心配してるから!ね?話してみなよ!」
 三人のその言葉に、驚いた顔をしてそれぞれの顔を見つめる”童”。
そして何か言おうとが口を開こうとした時―――ガラッと茶華道室のドアを開けて、蓮が顔を出した。
蓮は全員が揃っていることを確認すると…なにやらニコニコとしながら入って来た。
瓜亥もそのあとをついてきて、蓮と並んで和室に座る。”童”を中心にして半円を描くような形で全員が揃った。
「今まで何してたの?蓮さん?」
「ちょっとした野暮用ってヤツさ♪それよりえっと…きみが”学校童”ちゃん?俺、相澤・蓮!
いやー、俺ってさ、ここにいる他の皆みたいに何か能力あるってわけじゃないんだけどさ…
俺でよかったらなんでも相談乗るからさ!遠慮なくなんでも話してくれよ?聞くからさ!」
 蓮は笑顔で一気にそう話すと、ポケットから名刺を取り出そうとした自分に気付き手を止める。
そしてそれを誤魔化すようにポリポリと頬を掻いて視線を彷徨わせた。
『面白い方々よ…こんな我の為にわざわざ…』
 ”童”は全員の目をしっかりと見つめながら、小さく呟く。
そして、ポツリ、ポツリと…自分の”思い”を言葉にして紡ぎ始めた。
 昔は純粋な子供たちが多く、自分の存在を誰もが知り、認めてくれていたと。
時には一緒に遊んだり話したりすることも出来たし、教師をはじめとする大人も認めていた。
それがいつの頃からか…どんどん”学校童”の事を信じなくなる者が多くなりはじめ…
その存在自体を知る者も居なくなり…存在をわかってもらおうとして姿を見せてみても、
見た事を否定して、信じない者ばかりになってしまった…と。
『それに時間が経つごとに…子供たちが姿を消していくのだよ…我の前から子供がいなくなっていく…
あんなにもたくさんの太陽のように輝く子供たちに囲まれていた頃が…懐かしい…』
 遠い昔を思い出すように、どこかここには無い景色を見るような目をする”童”。
しばらくそうやって思い出に浸っていたようだったが、不意にその表情を曇らせて…
『しかも大人達の事が我は信じられぬ…子供が救いの手をのばしてもそれを見ぬふりをする…
見ても振り払う…我の言葉も否定し…かつて自分が子供だった事すらを否定する…
昔はそうではなかった…子供達も先生達も一緒になって…笑いあって…信じあって…』
 寂しげにそこまで話すと、それっきり”童”は黙り込んでしまう。
話したいことは全て話したのか…もう話す気分にはなれないのかわからなかったが、
ただ沈黙が過ぎるだけと言うのもいたたまれず、莱眞が一つ咳払いをして。
「…ストレスは美容の敵だね…早く悩みは解決した方が”童”ちゃんの為にもいい…
こういうのはどうだい?俺はね、愛する人となら…サッカーチームが出来る程の子供が欲しいと思う…
今は子供が少ないけれど、その俺の子供達が大きくなるまで待っててくれないかな?
それにね…教師だって捨てたもんじゃないんだよ?たまたま、ここの教師がちょっとヒネてるだけで。
少なくとも俺の知ってる教師は、真っ直ぐで生徒にも慕われてる可愛い奴なんだ。
俺にはキミが希望を持てるよう祈るしか出来ないけれど…もう少し見守ってくれると嬉しいな…」
 とっておきの微笑みを浮かべて、莱眞は”童”の顔をじっと見つめる。
少しうつむいていた”童”の顔が少し上がって…楽しげに小さな笑みを浮かべた。
『莱眞殿の子供達が大きくなるまでか…悪くはないのう…しかし…』
「えっと…あの、現在の生徒さんたちに”童”さんのことを教えるのに…こういう手段はどうでしょう?
夜のうちにこっそりと学校全体を掃除してピカピカにしておくんです!
もちろん、掃除には私がネクロマンシーの術を使ってたくさんの人手…霊手ですかね…で手伝います…
そして綺麗にした後、人の手では不可能な目立つ場所にこう書くのです…”学校童参上!”どうでしょう?」
 両手で湯飲みを持ちつつにこにこと微笑み言う琉人の提案に、祀は一瞬「は?」という顔をする。
どこぞの族じゃあるまいし!とツッコミを入れたい気持ちはやまやまな彼女だったのだが…
いたって本気で言っているらしい琉人の様子に、あえてツッコミはしなかった。
逆に蓮はどうやらその案が気に入ったらしく、「いいねえ!」を連発する。
そして本人である”童”はと言うと…
『書いたところで…我の事だと気付いて信じてもらえるだろうかの…』
 まんざらでもない様子だった。
「えっと…次、あたしいいかな?」
 祀が、とりあえず許可を得てから話を始める。
「あたしもさ…実はその…妖怪を邪険にしてた時期があって…うん…だから他人事じゃないのよね…
あたしの場合、家にね…いるのよ。いっぱい。そりゃもう尋常じゃないくらい…ずっと昔からね。
だけどあたしは普通でいたくって、それを”見えない、いない”そう思うようにしてた…
本当はその存在をいつも気にしてて認めていたのは他ならぬあたしだったのに、ね?
そんなあたしだったけど、今じゃそのいろいろな妖怪達とすっかり打ち解けてるのよね?ここにもいるし!
別に何かたいしたことがあったわけじゃない…ただ、妖怪達が凄く積極的にあたしに触れてきたんだ…」
 話しながら、祀はどこかその時のことを思い出すように嬉しそうでくすぐったいような表情になる。
祀の話には、”童”だけでなく、琉人や莱眞、蓮も「へえ…」と聞き入っていた。
『―――我も積極的に動けば良いのだろうか…』
「そうよ!じっとしてたってダメだっての!自分から動かなきゃ!!」
『けれど、我もむかし自ら動いた…それでも…誰も認めてはくれなかった…我はもう…』
「諦めるのは、ちょっと早いと思うぜ?」
 寂しげに瞳を揺らしていた”童”の言葉を遮ったのは、蓮だった。
立ち上がって、部屋の窓から外を見下ろしながら…意味ありげに笑みを浮かべる。
「俺は琉人や莱眞や祀ちゃんが言ってた事全部ひっくるめてやってみたらいいと思うぜ?
そうだな、莱眞の子供が大きくなるまで、ひたすら学校の掃除して”参上!”ってやり続けるとか!」
「ええ?…毎日だとさすがの私も厳しいですよー?相澤さん…せめて週に一度ですね」
「いいじゃない!あたしも手伝ってあげる♪」
「まあこの俺に子供が出来て学校に通うくらいに育つまでそう遠くない未来のはずだから…」
 わいわいと盛り上がる四人を、”童”は嬉しそうに目を細めて見つめた。
そして、すっと立ち上がると…四人が見つめる中、丁寧に頭を下げて。
『みなの気持ちはしかと受け止めた…ありがとう…嬉しい…』
「え?それじゃあ…」
『しかし…承知の事だと思うが…この学校はもうすぐ無くなるのだよ…』
「―――やっぱり…そうなんですか…?”童”さんの力では…」
 琉人がためらいがちにかけた問いに”童”は寂しげに首を左右に振って。
『みな、勘違いしておるのだ…。我の力で”学校”が栄えるのではないのだ…
そこに集う子供や先生たちが我のことを感じ、見て、親しんでくれるからこその”学校童”…
子供達の気持ちがあってこその我の力なのじゃ…それが無い今…我はただ消えるのを待つのみ…』
「いや、そうはならねえかもよ?」
 いつの間にか、部屋の窓から外に身を乗り出していた蓮が不意に”童”に言う。
そして”童”に窓の外を見るように言うと…ニッと、嬉しそうな笑みを琉人たちに向けた。
窓の外に何が?と、”童”を筆頭に、全員が窓際に詰め寄る。
身を乗り出すようにして見たもの…それは…
”いたー!!いたよ!!童ちゃんがいたー!!”
”やだ!まだ見えるんだ!嬉しい!こっち見てるよー!わらびー!!”
”見えてるよ…俺にもやっぱ見えてるし皆も見えてるし!”
”久しぶり〜!元気ー!?”
 口々にこちらを見ながら手を振っている、老若男女の姿だった。
そこには依頼人の佐々木の姿もあって。それが一体何の集団だと、疑う余地もなく。
その者達の姿を目にするや否や、”童”は表情をパッと輝かせて…窓から飛び出したのだから。
「―――蓮さん…なーんか企んでると思ったら…!」
「こういう事だってんですねえ?」
「なるほど…俺ともあろう者がそこまで気がまわらなかったよ…」
 三人に、なんとも微妙な笑みで誉められて蓮はへへっと笑いを返す。
「いやー…ほら、過去に”童”ちゃんの事が見えてたヤツが絶対にいるはずだ!と思ってさ…
資料室の卒業名簿を片っ端から電話しまくってたわけ!”皆で気持ちを伝えませんか?”ってな!
どれくらい来てくれるか…そもそも一人でも来てくれるのか正直不安だったんだけど…
ま、結果は見ての通りって言うか!卒業生ってのも捨てたもんじゃないだろ?」
「いろんな年代の人が来てるじゃない!なんか、つい去年卒業したばかりって感じのコもいる!」
「皆さん本当は”学校童”の事、見えていたり気付いていたりしてたんですねえ…
だけどきっと、それは自分だけなのかもしれないと思って誰にもいえなかったんでしょう」
「うん、きっとそうなんだ…見えてたのに認めなかった…昔のあたしと同じだね…」
「ふむ…しかし、これだけの数の卒業生が集まって”学校童”の事を思っているのなら…
それは”童”ちゃんの力になるんじゃないかな…?今ここに集っているあの人たちも…
通っていた時代は違えど、この学校の子供には違いないんだからね」
 窓の外、日暮れが近づいて遊具が長い陰を作り始めた校庭で。
”童”はかつての”子供達”に囲まれて、幸せそうに微笑んでいた。
今はもう子供ではなく、大人としての道を歩いていたり、歩き始めたばかりだったり…
まだ、その一歩手前にいる者達だけれど…”童”にとっては、大好きな”子供達”に変わりは無い。
その”子供達”の思いがあれば、今の子供達とも…打ち解けられるような、そんな気がした。
自分から動かなければ、何も変わらない。
希望を持って…自分が”ここにいる”事を…今の子供達に伝えよう…
もしそれでも駄目で、学校が無くなってしまったとしても…
『我はずっとここに残る…この校舎が消えてしまっても…
我はここで…ここで過ごしたたくさんの子供達の思い出を守っていく…きっと…
そしていつかその子供達がここへ帰ってきた時…その思い出を手渡してやろう…』
 校舎の中と、校庭で。
離れていたはずの”童”と、四人。
しかし、四人の耳には…はっきりと”童”の透き通ったあの声が聞こえてきたのだった。



〓四〓


 学校での一件を終えて、神城便利屋に一旦集合する事にした四人だったのだが、
帰り道の交通手段を各自好きなように選んだせいで、
結局集合できずに個別でそれぞれが挨拶を済ませ帰途につくことになった。
 祀は都電とバスを利用して比較的早く神城神社に着いた。
「お茶でもしていく?」
「そうね〜由紀さんと一緒なら!」
「それじゃあ入れるわね」
 にこにこと由紀は微笑みながら、紅茶のパックをカップに入れてお湯を注ぐ。
てきぱきと作業をしながら…由紀は祀にチラっと視線を向け。
「どうだった?今日の仕事」
「え?うーん…なんか、自分の事とか思い出しちゃってさー…
あいつらの気持ちとか考えて、なんだかいろいろと語っちゃったわ」
「一緒に仕事した人たちはどうだった?」
「あたし、基本的に男って好きじゃなんだけど」
 由紀が差し出したカップを受け取り、祀はそのままの状態で手を止め。
「ま、いいんじゃない?って感じかな」
 ふっと微笑みを浮かべて、紅茶を一口。
思ったよりも熱くて、一瞬口を離して息を吹きかけてから、再び口をつける。
その様子を、由紀はなんだか嬉しそうに見つめていた。
最初は紅茶に気を取られていた祀も、その視線に気付き。
「な…なによ〜!ヤだな由紀さんそんな顔してさー!」
「だって、嬉しいんだもの、祀ちゃんからそんな言葉が聞けるなんて」
「やめてよー!悪かないって思っただけだってば!」
 顔を赤くして、手をパタパタ振る祀。
そんな彼女の様子を、やっぱり由紀は嬉しそうに微笑み、見つめているのだった。
なんだか所在なげに視線を彷徨わせる祀。
ぬるくなった残りの紅茶をぐいっと一気に飲み干すと、立ち上がり。
「それじゃ、由紀さん。あたし帰るね!」
「あら、もう?ゆっくりしていけばいいのに…」
「今日はいいや。あいつらが待ってるから」
 本人は無意識なのだろうが、とても優しい微笑みで言う祀。
以前は見ることができなかったその微笑みを最近よく見ることが出来ることが、
由紀はなんとなく嬉しくて…。
「それじゃ、また!いつでも声かけていいからね!」
 手を振りながらいつもの抜け道の方へと駆けていく祀の姿をいつまでも見送っていた。





<終>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性/84歳(外見20代前半)/神父(悪魔狩り)】
【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男性/29歳/しがないサラリーマン】
【2441/西王寺・莱眞(さいおうじ・らいま)/男性/25歳/財閥後継者・調理師】
【2575/花瀬・祀(はなせ・まつり)/女性/17歳/女子高生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。この度は『神城便利屋』第二回に参加いただきありがとうございました。
前回に続いて参加して下さった方、今回初めて参加して下さった方、
どちらも感謝してもし足りないくらいの嬉い気持ちでいっぱいでございます。
 今回は学校にいる”学校童”を題材にしたのですが、
皆様のプレイングでなんだか思っていた以上にいいお話に仕上がった気がします。(笑)
PC様あっての作品だなあとつくづく実感いたしました。本当にありがとうございます。
 少なくともライター本人は心から楽しみながら執筆させていただきましたのですが、
参加して下さった皆様にも楽しんでいただけたら幸いです。

 今後も、神城便利屋のエピソードをご用意していきますので、
宜しければまたご参加いただけると嬉しいです。

>花瀬・祀様
こんにちわ。はじめまして。ライターの安曇あずみと申します。
この度は異界にご参加いただきましてありがとうございます。
初めてのご参加だったのですが、口調等の丁寧な説明のお陰で、
花瀬様のPCを活発に動かす事が出来ました。楽しんでいただけたら幸いです。
また宜しければご参加いただけると嬉しいです。


:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>