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神様の言うとおり
１．
「残念ですが、ご主人は浮気をしておられるようです」
草間武彦がそういうと、草間の前に座っていた女性はうつむいて泣き出した。
「あたし・・・あの人と別れます・・・」
しっかりとした意思を表すかのように女性は泣きながらも、はっきりと言った。
浮気の証拠となる男と女がビジネスホテルへと入っていく写真をかき集め、女性は席を立った。
一組の夫婦がこれでまた離婚するわけだな・・・まぁ、仕事だからなぁ・・・。
妙な言い訳を胸の内で繰り返す草間。
と、背後から声が聞こえた。
「おい。おまえ、今の夫婦をくっつけなおせ」
「・・・はぁ！？」
草間が振り返るとそこには謎の子供が草間の椅子にちょこんと座っていた。
もちろん、その様な子供が入ってきた覚えはない。
「・・・なんだ？ おまえは？」
「なんだじゃないだろう！ おまえが変な調査したせいで、俺が生まれなくなっちまったんだぞ！？」
「変な調査とは失敬な。事実のみを追求した結果をあの女に言ったまで・・・」
「それが事実出なかったとしたら！？ 」
・・・何だかよく分からない展開になってきた。
「ちょ、ちょっと待て。さっき変なことを言ってなかったか？ 『俺が生まれなくなった』とか何とか」
「その通りだ。俺はあの夫婦から２年後に生まれる『福の神』様だ」
えへんと偉そうに胸を張った子供を見て、草間は１人呟く。
「俺のところにまともな依頼はこんのか・・・？」
「とにかーく！あの夫婦を復縁させない限り、俺は生まれることができない。
ということはつまり、お前の貧乏も直らないということなのだ！さぁ、復縁させてこーい！」
子供はとにかく偉そうに、草間に命令したのであった・・・。
２．
「まずさ、『福ちゃん』はなんで旦那さんが浮気してたのは事実じゃないって思うの？」
と、丈峯楓香（たけみねふうか）がまず、自称・福の神の少年に質問した。
「ふ、福ちゃん？ ・・あの男が浮気してたら俺が生まれるわけ無いじゃん」
多少動揺したらしいものの、少年はすぐに訳の分からない自信でそう言いきった。
「・・根拠の薄い理由ね・・」
シュライン・エマは溜息をついた。
「福の神に恩売っとけば何かおこぼれあるだろか・・・」
「・・あっら〜？ 今何か面白いこと言ってなかった？」
向坂嵐（さきさかあらし）の独り言を聞いた蒼樹海（そうじゅかい）はニヤニヤとして突っ込みを入れる。
「独り言デスヨ。・・武彦、調査で作った資料全部出してくれよ。その方が話が早そうだ」
向坂はバツが悪そうに話題転換をした。
「零！ 悪いがこの間の資料全部出してきてくれ」
「はーい！」
奥の方から声が聞こえ、少したつとファイルに閉じられた資料を零が運んできた。
「これで全部か・・」
向坂が１冊のファイルを手に取りパラパラとめくり始めた。
が、蒼樹はそれらには手を伸ばさなかった。
楽しいこと・人が嫌がることが基本の天邪鬼。
それが蒼樹の正体である。
もーちょっと面白くならないかしらねぇ？
蒼樹は１人、そんなことを考えていた・・・。
３．
「こっちは特に目新しいことは無いわね」
眼鏡を外し、エマがファイルを閉じた。
「俺、最初から変だと思ってたんだけど、『ビジネスホテル』ってトコが気にはなるよな。普通はラブホだろ？」
「ラブホよりビジネスホテルのほうが出入りしていても言い訳しやすいからねぇ」
蒼樹は向坂のその言葉をあっさりと否定した。
「・・俺の考え過ぎってことか・・」
「これは私の推測だから、肯定はできないけど否定もできないってことよ」
蒼樹がニヤリと笑った。
否定されたのか、何なのか分からないといった風な顔の向坂に蒼樹は少し満足した。
妙な雰囲気になりそうな気配に楓香が口を開いた。
「ねぇ、この資料持って旦那さんのとこに直に聞きに行った方が早いと思うんだけど」
「・・そうね。どっちにしろ旦那さんの所に行く必要はあると思うし。武彦さん、旦那さんの居場所は分かっているかしら？」
エマが楓香の意見にしばし考えたあと、頷いた。
「あぁ、今は別居中で都内のビジネスホテルで寝泊まりしてる」
「これで、武彦の調査が間違いだったかどうかが判明するわけだ」
ボソッと向坂が漏らした言葉に草間が一筋、タラリと汗を落とした。
「人間ですもの、間違うことはあるわ」
エマが草間にフォローを入れる。
が。
「そうそう。事実関係をはっきりさせるはずの興信所が、調査対象にわざわざそれを訊きに行くだけのことだもの♪」
「蒼樹さん！ トドメ刺してどうすんですか！」
蒼樹のキツイ一言に草間はさらに落ち込み、楓香が思わず突っ込みを入れた。
やっぱりこうでなくっちゃねぇ・・。
「・・とりあえず、旦那さんのとこ行きしょうか。全てはそれからよ」
エマが仕切りなおしとばかりに皆に声を掛けた。
「そうですね！ 呉越同舟・・・あれ？ 乗りかかった泥舟？」
「それは『乗りかかった舟』だ」
気合を入れなおした楓香に静かに向坂が訂正を入れた。
しかし、またも蒼樹は水を差した。
「私は行かないわよ」
３人の冷たい視線を浴びながらも蒼樹はニヤニヤと笑う。
「だって〜。面白くないじゃない？ 嘘から出た真っていう言葉もあることだし、ホントに浮気させて離婚させちゃえばいいのよ」
「ふざけんなー！おまえ、この俺が産まれなくていいって言うのか！？」
蒼樹の散々な台詞に今まで事の成り行きを黙っていた少年が怒りだした。
「蒼樹さんにはここに残ってもらった方がよさそうね。話がややこしくなったら修正できるものもできなくなってしまうわ」
エマが言葉を選んでそう言った。
楓香も向坂もエマの考えに同感といった表情だ。
結局蒼樹と草間と少年とともに３人を見送った。
少しやりすぎたかしら・・皆怒ってたわねぇ・・・。
しょうがないなぁ、と言わんばかりに蒼樹は重い腰をあげた。
４．
「草間さん、奥様の居場所は分かるかしら？」
蒼樹のその言葉に草間は依頼主の住所を教えた。
「でも、どうするんだ？」
草間が不安を隠しきれないようで蒼樹に訊いた。
「・・教えろといわれると教えたくなくなるのよね。まぁ、草間さんたちも旦那様の所に向かってくださいな。きっと面白いモノが見れてよ？」
にっこりと笑う蒼樹に草間と少年は顔を見合わせた。
「・・分かった。とりあえず、あいつらの動向も気になるし、俺たちも旦那の所に向かう」
「では、私はこれで」
ヒラヒラとストールをなびかせて蒼樹は草間興信所を後にした。
某マンションの４階に夫婦の部屋は在った。
蒼樹はそのドアの前に立つと、ピンポンとドアホンを押した。
『・・はい？』
「草間興信所の者ですが、少々お話よろしいかしら？」
カメラ付きのドアホンに向かい、蒼樹はにっこりと笑った。
『・・今開けますので』
オートロックの鍵がガチャリと開き、蒼樹は中に入った。
中では少しやつれた女性が蒼樹を迎え入れた。
「それで、なにか？」
「奥様は、ご主人の浮気についてどうお考えですか？」
単刀直入に蒼樹はそう聞いた。
「・・興信所の方が間違えるわけ無いですもの。事実なんでしょうね」
言葉の端に信じたい気持ちが見え隠れしている。
蒼樹は話題を変えた。
「今、ご主人がどこにいるかご存知かしら？」
「・・都内のビジネスホテルにいると聞いてますけど」
「会ってお話してみたら？事実が見えてくるかもしれなくてよ？」
女の顔が一瞬ハッとなり、だが瞬時に曇った。
「今は・・・会いたくないの」
「・・ホントに人間って厄介よねぇ。本職が言うのもなんだけど、心と裏腹のこと言うんだもの」
クスッと蒼樹が笑い、ヒラヒラとストールをはためかせた。
ふんわりと紫がかった空気が女を覆った。
途端、女は立ち上がり意を決したように部屋を出て行った。
「ちょっとの出来心があれば、行動できるのに・・ホーント人間って面白いわぁ♪」
蒼樹はそういうと、マンションを後にした。
きっと後は楓香やエマ、向坂がうまくやるはず。
わざわざ結果を見に行くことも無いだろう・・と蒼樹はフラフラと繁華街へと歩き出した。
さぁ、次の面白いことは何かしら？
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■□ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） □■
【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
2152 ／ 丈峯楓香 ／ 女 ／ 15 ／ 高校生
0086 ／ シュライン・エマ ／ 女 ／ 26 ／ 翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員
2380 ／ 向坂嵐 ／ 男 ／ 19 ／ バイク便ライダー
2618 ／ 蒼樹海 ／ 女 ／ 25 ／ 天邪鬼
■□ ライター通信 □■
蒼樹海様
初めまして、とーいと申します。
この度は『神様の言うとおり』へのご参加ありがとうございました。
今回のシナリオはコメディ傾向のはずだったのですが、少々詰め込みすぎたせいでコメディになってません。
申し訳ありません！まだまだ修行が足りませんね・・。
なにやら皆様に嫌われ傾向な行動で、こんなのでよいのかと・・・。(^^;
中々天邪鬼な行動というのは難しいです・・・。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
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