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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


高峰温泉での休日をご一緒に

 明るい陽射しが室内に降り注いでいた。
 陽の光に瞳を細めながら、祀は勢い良く立ち上がると、
「んー、昨夜は楽しかったなあ♪ さて、と……」
 元気良く、伸びを一つ。
 そして傍らで、にこにこ微笑んでいる沙羅へと視線を合わせ。
「あのね、沙羅。ちょっと提案があるんだけど」
 と、呟いた。
 自然と沙羅の丸い瞳が更に丸みを増していく。
「なあに? 祀ちゃん」
「お土産を今から買いたいんだけどさ、その……」
 ちょっと困ったように遠くを見つめる。
 どう言ったとしても「内緒」に出来るような言葉が見当たらなかったのだ。
 …憧れていた人の家に押しかけるのも最近は止めているし「沙羅が一番!」と、常に愛のパワー……じゃなく友情パワーを送っている程だし……。

(…ど、どうすっかな…。沙羅、絶対勘が良いから気付きそうだし……)

 遠くを見つめつつも、悶々とした思考が次から次へと過ぎっていく。
 絶対、内緒!と言うか秘密にしたいのに……うぬぅ、いっそ力技で誤魔化そうかなあ……等と言う考えに辿り着きそうになってしまうのは――多分、仕方が無いことだ。

 出来るのなら隠し事なんてしたくない。
 けれど、今回ばかりはどうしても……驚かせたいし、その時に感謝の言葉も伝えたいから。
 むむむ…と、祀は更に考え込んでしまう。

 そんな祀の行動に、いつもと違う何かを見たのか沙羅は、「うん。じゃあ、お土産は別々に買おうね!」と、笑顔で答えていた。
 遠い所を見ていた祀にも笑顔が浮かび、解ってもらえた嬉しさも手伝い、ぎゅっと沙羅を抱きしめてしまう。
 照れたような沙羅の声が耳に優しい。
「ありがと、沙羅♪ 良しっ、じゃあ沙羅と鉢合わせないよう色々なところ見てくるからねーー!!」
 …駆け出していく祀を見て、沙羅が一言。
「……祀ちゃん、一杯お土産買うんだろうなあ……。うん、沙羅も頑張って色々見なきゃ!」
 ――と、拳にぐっと力を入れた。
 どう言うものがあるかなあ……、そう呟きながら、此処ではない別棟の方へ沙羅もゆっくり歩き出していった。




「いらっしゃいませ! 何を、お買い求めですか?」

 にっこり。
 そんな表現がぴったり似合う笑みを浮かべ、祀を迎えたのは蓬莱――最初に入って来た時と同じく、自分らを出迎えてくれた人物でもある。

(……何時、休んでるんだろ?)

 昨日から見ている限り、何処にでも居て、それでいて疲れている訳でもない。
 余程上手い休憩の取り方があるのだろうか……?

 奇妙な疑問が浮かんでしまうが、それはさて置き。

 祀はぐるりと、店内を見ると蓬莱へと視線を合わす。

「あのさ」
「はい?」
「……お揃いでアクセサリーか何か、無い……?」
「何方かへのお土産ですか?」
「うん、まあ……そんなトコ。なるべく綺麗なのが良いんだけどさ」

 ざっと見た限りじゃ無い様に思えたから。
 笑みを浮かべ、祀は蓬莱へと呟くと「どうなの?」と解答を急かせる。

「そうですねえ……あるにはありますけど……」

 …どうにも歯切れの悪い答えだ。
 一体何があるのかと訝しげな顔をしてしまう祀に、蓬莱は。

「…お客様は金具を変える事がお出来ですか?」
「はい?」
「ですから、金具を……」
「うん、それは解るんだけどさ……何の金具よ?」
「ピアスからイヤリングへ、もしくはイヤリングからピアスへ、ですね」
「……マジ?」
「それは、もう。私もかなり真剣ですよ。今ならあるのは……こちらの石のピアスになりますが…つけるのでしたらイヤリングに直した方が何時でも使えますし」
 そして蓬莱は緑の――翡翠に良く似ている玉の凝った細工の耳飾りを出した。
 ……若干蓬莱がつけている飾りに似ていない事も無い、その細工に「浴衣とか着る時に着けたら似合いそうかな」とも考え。
 だが、問題は。
 ――金具への切り替えだ。
 無論誰かにやってもらえば簡単に済むのかもしれない、けれど。

(折角沙羅に渡すんだもん。自分でやった方が絶対良いに決まってるし……!)

「う、うーん……あのさ、他に何か……ネックレスとかブレスとか、無い?」
「――えっと……少々お待ちくださいね?」

 記憶を追う様に、店の奥へと消えていく蓬莱を見送りながら、再び店内をぐるりと目で追う。
 お菓子や、よく見かける湯のみやタオル…そう言うものはあるのだが……。

(うーん…な、無かったらどうしようっ)

 見えない汗が流れ落ちて行くような錯覚に陥ってしまう。が、それも再び何かを持ってやってくる蓬莱によって打ち消され……祀は、ほっと息を吐いた。

「何か…あった?」
「ええ、ネックレスとかそう言うものはありませんでしたけど……髪飾りが、丁度二つ」
「見せて!」
「はい」

 箱から取り出され差し出された髪飾りを見、一瞬にして沙羅の髪に飾られた髪飾りが浮かぶ。
 透かし百合の細工がとても繊細で、これなら絶対に喜んでもらえるだろうとさえ。

『……有難う、祀ちゃん♪』

 ――何故だろう、沙羅の呟きさえ聞こえるようで祀は居てもたっても居られず、
「こ、これ買っていく!」と言ってしまっていた。
 珍しい程に即座に決めてしまった自分にも驚いたけれど、これを逃したら、絶対これ以上のものなんて見つかるわけがない――とさえ考えても居た。
 そう言って頂けて良かった、と蓬莱は言うと、
「はい、有難うございます♪ 値札等は取っておきますね? 袋やラッピングペーパーはサービスでお付けしますので、後ほどご自分でやられてください」
 そのまま箱に髪飾りを一つずつ丁寧に詰めなおし、袋へラッピングするのに必要な様々な物を入れていく。
「……いいの?」
 普通、店員がそれってやるもんじゃ……。
 が、祀はその一言を言わずに、頷いてくれる蓬莱へ、戸惑いながらも
「…ありがとう」と告げた。

「…帰られても楽しい思い出が残りますように」

 蓬莱が微笑む。

 祀は代金を支払うと「絶対そうするよ。だってそのために来たんだから!」と、言い、そのまま走り出す。
 沙羅も今頃、違う場所で誰かへのお土産を買っているだろうか……。

(その中にあたしのお土産もあると良いな……)

 かさかさと。
 袋の持ち手が掌の中、揺れる。
 楽しかった思い出を振り返るように、ゆらりゆらりと踊るように。




―End―

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■   登場人物                  ■
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【2575 / 花瀬・祀  / 女 / 17 / 女子高生】

【2489 / 橘・沙羅 / 女 / 17 / 女子高生】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターの秋月奏です。
今回は、こちらのダブルノベルにご参加、本当に有難うございました!
以前は別のお方で本当にお世話になりました♪
ダブルノベルで花瀬さんにお逢い出来て本当に嬉しくって……。
仲の良い友人同士のご旅行、そして帰る前のお土産選び。
どれもこれも、大好きな友達と一緒ならば楽しい事の一つ一つで、
…そう言う思い出作りに私が少しでも協力出来ると言うのは
幸せなことだなあと思います(^^)

蓬莱が言った言葉を繰り返すようですが、旅行から辿り着いても。
何時でも楽しい記憶が残りますよう。
それでは、また何処かでお逢い出来ることを祈って……。