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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


高峰温泉での休日をご一緒に

 明るい陽射しが室内に降り注いでいた。
 陽の光に瞳を細めながら、祀は勢い良く立ち上がると、
「んー、昨夜は楽しかったなあ♪ さて、と……」
 元気良く、伸びを一つ。
 そして傍らで、にこにこ微笑んでいる沙羅へと視線を合わせ。
「あのね、沙羅。ちょっと提案があるんだけど」
 と、呟いた。
 自然と沙羅の丸い瞳が更に丸みを増していく。
「なあに? 祀ちゃん」
「お土産を今から買いたいんだけどさ、その……」
 ちょっと困ったように遠くを見つめる祀を見、沙羅は「ん?」と小首を傾げた。
 ふわふわの髪がその加減により揺れる。

(何か考え込んでるみたい……あ、もしかしたら!)

 心の中で沙羅は手をぽむ!と叩く。
 もしかすると、一人でお土産を買いに行きたいのかもしれない……まだ出ていく時間ではないけれど慌てるより先に買っておいた方が良いものだし……。

(それに……)

 実際、沙羅も内緒で祀の為に何かを買ってあげたかった。
 折角一緒に来たんだし記念になるものを贈りたい、と言うのもあって。
 でもこれは絶対にまだ内緒。
 帰ってから渡すの。
 …だって、祀ちゃんの驚いた顔を見たいし……その後で嬉しそうな顔を見れるのは、もっと嬉しい事だから。

だから。

 沙羅は、「うん。じゃあ、お土産は別々に買おうね!」と、笑顔で答えていた。
 遠い所を見ていた祀にも笑顔が浮かび、解ってもらえた嬉しさもあったのか、ぎゅっと祀にを抱きしめられてしまう沙羅。
 そして祀は照れたような声を出す沙羅に向かい、
「ありがと、沙羅♪ 良しっ、じゃあ沙羅と鉢合わせないよう色々なところ見てくるからねーー!!」
 と、元気良く駆け出していった。沙羅はぽつりと一言。
「……祀ちゃん、一杯お土産買うんだろうなあ……。うん、沙羅も頑張って色々見なきゃ!」
 ――と、拳にぐっと力を入れた。
 どう言うものがあるかなあ……、そう呟きながら、此処ではない別棟の方へ沙羅もゆっくり歩き出していった。




 別棟の方へ足を運んだ沙羅は、何と言っていいのか…ただただ、あまりの広さに驚いていた。
 実際、温泉へ入った時でさえ、一緒に来た面々で貸切のような状態だった。
 泊まった部屋だって、隣に男性の面々が居たけれど…やはり広さゆえかすれ違う人は皆無だった様に思う。

 充分にスペースを取られた廊下、高い天井と採光を大きく取られた窓……あまりに明るくて、そして広くて此処に居るのが一人きりなのではないかと疑ってしまうほど。

(…か、かなり、どきどきするなあ……)

 引き返そうかな……そう思い、くるりと向きを変えようとすると。

「……何処にいくのかな?」
 黒尽くめの服が見え、沙羅は瞬きを数回し、漸く目の前の人物を見た。
「え……? あ……猫さん、でしたっけ? ちょっと探検…のつもり……」
 なんですけど…と、次の言葉さえ言えずに言葉が詰まる。
 猫はそれを知ってか知らずか。
「この棟ではね」
「…え?」
「上の階に行くと、少しばかりではあるけれど物品を売っているところが在るよ」
 とだけ言うと、そのまま再び歩き出してしまっていた。
「あ……」

 呼び止めることも出来ず、消える背を見送る沙羅。
 だが猫の姿が視界から消えてしまうと。
 もしかすると、猫も用事があったのかもしれない、と考えていた。

 再び沙羅は方向を変えて歩き出す。
 彼が言っていた「上の階」にあるお店を探すべく。




 とことこと辺りを見回しながら様々な所を見て回る。
 時折、人が忙しそうに働いている音が聞こえたり、それに交じり掃除機の音が消えたりするところも在れば。
 鳥の声しか聞こえない所もあり……此処でもない、あそこでもないと探した末、漸く、沙羅は猫が言っていた「上の階」に辿り着いた。
 猫が少しばかり、と言っていたので小さな売り場なのだろうと予想していただけに普通のお店の広さがある其処を見た時は瞳を丸くしてしまったけれど。

 だが見るべきところは多い方が良いのかも知れない……沙羅は一歩踏み出すと、辺りを真剣に吟味し始めた。
 祀に渡せるような綺麗なもの――勿論お揃いで持てて、記念にもなるようなもの。

(あると良いな……)

 丹念にあちらこちらを見、探す。
 とは言え、中々「これ!」と言えるものが欲しい時には見つかりにくい、と言うのも良くある話で。
 心の中で「うーん……」と唸りつつ、目に付く商品を手に取り、祀を思い出す。

 商品と一緒にイメージして似合うのであれば買って行くのも良いと思えるのに、何処か持っている所を想像できなかったり、ちぐはぐな印象になってしまい、その度沙羅は商品を棚に戻す。

 思わず知らず、溜息が出てしまうのを沙羅は抑えられずに「ふぅ」と溜息を吐くと、また一つの商品を手に取った。
 何の変哲もないようなキーホルダー。
 コイン型のそれは両面とも彫りこみがされているタイプのもので、いつもならばきっと、すぐ棚に戻すタイプのものであった。
 が、今はどれか一つでも気に入ったものを探したい一心で沙羅はマジマジとそのキーホルダーを見る。
 コインの表面には、丹念に彫りこまれた、桃源郷を思わせる絵と裏面には蓮の花に偶然だろうか泊まりに来た日付が刻印されていた。

 何度か手に持ち、考えてみる。
 キーホルダーなら鞄につけられる…勿論お揃い、にもなる……でも、何かが違う。

(…何だろう、何かが足らない様な……)

 言うなれば「これでなくてはならない」と言う物が無いと言うか……。

 そして次に見た品は…携帯用の手鏡。
 落ち着いた色合いと、涼やかな縁取りのついた、カードサイズの手鏡は持っているだけで楽しく、しっくりと手に馴染んでいく。
 キーホルダーと同じように蓮の花が小さく裏面に添えられており、邪魔にならないデザインだったのが、返って目を引いた。
 手鏡なら結構見ることもあるし、お揃いと言う感覚もある。
 それに大事に使ってもらえそうだし……。

(うん…決めた! これにしよっと♪)

 沙羅は早速、手鏡を二つ取り、会計するべくレジへと向かう。
 一つは贈り物なので綺麗に包んで下さいね?と言う事も無論忘れずに。

『帰ったら、渡すの』

 連れて来てくれて有難う。
 その、感謝の言葉を添えて。
 一番大好きな――"親友"へと。


―End―

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■   登場人物                  ■
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【2489 / 橘・沙羅 / 女 / 17 / 女子高生】

【2575 / 花瀬・祀  / 女 / 17 / 女子高生】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターの秋月奏です。
今回は、こちらのダブルノベルにご参加、本当に有難うございました!
橘さんとお逢いするのは、これで二度目ですね(^^)
ダブルノベルにてお逢い出来て嬉しかったです♪
本当に可愛い方なので、可愛く書けてるだろうか悩みつつも
楽しく書かせていただきました。

仲の良い友人同士のご旅行、そして帰る前のお土産選び。
どれもこれも、大好きな友達と一緒ならば楽しい事の一つ一つで、
…そう言う思い出作りに私が少しでも協力出来ると言うのは
幸せなことだなあと思います(^^)

それでは、また何処かでお逢い出来ることを祈って……。