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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


蓬莱館の秘宝 〜あるいは、天才・河南教授の異界フィールドワーク

■補講:美容の研究

 蓬莱館、滞在二日目である。
「あら、あなたも来てたのね」
 ロビーで百合枝にそう声をかけてきたのは碇麗香だった。
 高峰沙耶の招待に乗じて、敏腕編集長が休暇をとったのは実に三年ぶりであるらしく、それ自体がちょっとした事件と言えた。
「ちょうどいいわ。いいもの手に入れたのよ。これ見てちょうだい」
 麗香は百合枝を手招きした。そして百合枝の手の上に、小瓶を並べてゆく。
「これが化粧水でしょ、こっちが乳液、パックに、クレンジング……」
「麗香さん、これって……」
「蓬莱館ブランドのエステセット。高峰さんもこっそり使ってるって噂よ」
「ええっ、ホントに!? これ一体どうしたの」
「ふふふ、ヒ・ミ・ツ。ねえ、ちょっとわけてあげるから、試してみない?」
「いいの? それじゃ――」
「お言葉に甘えて」
「って、教授ッ!?」
 いつのまにか、百合枝の背後に立った河南創士郎が、興味津々といった面持ちで、蓬莱館ブランドのエステセットとやらをのぞきこんでいた。
「これレディースよ」
「大した違いじゃないでしょう。ぼく、色白でもち肌だから、レディースの化粧品のほうが合うんです」
「そ……そうなの? っていうか……」
 そして――。
 その日、蓬莱館の一画では奇妙な光景が見られた。
 砂風呂から頭だけ出した百合枝、麗香、そして河南教授。
 しかも三人とも顔は目鼻口だけを残したパック。
「……なんで、砂風呂?」
「どうせなら発汗を促したほうがパックの効果も倍増するというものです」
 わけ知り顔で河南が言った。
「河南教授は美容術も研究してるの?」
「研究というか、関心はありますよ。もちろん」
 もちろん、というところに妙なアクセントがあり、百合枝はその瞬間、情熱の炎がごおっと燃え上がるのを、たしかに見た。
「美しいということは、ひとつの価値であり、能力です。これもまた……変若水がもたらす不老不死と同じく、人類が永きにわたり追い求めた、永遠なるもののひとつなのですから」
「あ…………、そう」
 百合枝はため息まじりに、気のない返事をした。だが、
「あら、面白いわね。……たしかに永遠に老いずにいたい、というのは、永遠にきれいなままでいたい、ということでもあるから、蓬莱館のお湯は永遠の美貌を約束してるものだとも言えるわけよね」
 意外にも麗香は興味を持ったようだった。
「そのとおりなんです、麗香さん。さすが編集長、聡明でいらっしゃる」
「そういうテーマで、一本、原稿をお願いしようかしら」
「是非、書かせてください。いやあ、アトラスに寄稿させていただくのはぼくの長年の夢でしてねぇ――」
 いつのまにか仕事の話になっているふたりをよそに、百合枝はそっと目を閉じた。
(永遠の美。永遠の命。……どうして、ひとは永遠のものばかり欲しがるのかしら)
 理解できないわけではない。現に、百合枝だって、熱心に蓬莱ブランドのエステに勤しんでいるのだから。だが――。
「ねえ……ちょっと熱くない? もう出てもいいんじゃ……」
「なにを言ってるんです、百合枝さん! 充分に皮膚の老廃物を出してからでないと!」
「そうよ。すこしくらい我慢。永遠の美は努力なくしては手に入らないの」
「さすが編集長! 仰ることがいちいちごもっともだ!」
「…………」
 結局。
 その後、2時間にわたって、教授のスキンケア講座から、麗香秘伝の美容体操まで、時ならぬエステティックフルコースに強制参加させられた百合枝は、すっかり疲労困ぱいしてしまい、エステの効果がいかほどであったのかは、さだかではないままだったという。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1873/藤井・百合枝/女/25/派遣社員】

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■         ライター通信          ■
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リッキー2号です。
このたびは河南教授のフィールドワークへのご同行、ありがとうございました。
しかし、なんとも妙なテイストのノベルになってしまいました(笑)。
「河南教授登場編」のつもりだったのに、「八島さん受難編」になってるし……。

なぜだか、河南教授とエステと砂風呂になってしまいました(笑)。
そういえば、以前、調査依頼でエステの怪にも挑戦していただいたことを
思い出しました。もしやエステは鬼門……?

ご参加ありがとうございました。