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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


― 蓬莱夢魂譚 ―


気が遠くなったのはどのくらいの時間か。
気がつくと周囲に皆の姿は無く、ただ虚空に原始の月が大きく白く浮かんでいた。
武神・一樹(たけがみ・かずき)は己の隣に居るべき者の姿を求めるが、
その金色の姿も柔らかな微笑みもこの場にはないことをわかっていた。

『貴様ノ様ナ者デモ、相方ノ不在ハ心細イカ。』

突如聞こえた声に降り返ると、其処には先ほど無散した筈の蚩尤。

「!」

気を発し、戦闘態勢へと展開させる一樹は蚩尤の変化に気づく余裕がなかった。
常の冷静な彼にしては稀有な事と云えよう。

重力波を最大で解き放つ。
が、
相手へと届く瞬間、其れは力場を変換され一切を無効化された。

「…………っ、」

そしてその衝撃で蚩尤の姿が牛頭の其れで無い事にようやく気づく。
青く耀く身体、一本足の龍。
その姿は威厳に溢れ、超然とした神々しさを発していた。
静かに一樹へと語りかける。

『此レガ我ノ本来ノ姿。応龍・武神一樹、此処ハ我ノ世界、故ニ貴様ニ負ケタ我デハナイ。』
「…………、では今此処にいるのは、」
『我ハ蚩尤、苗族ノ英雄神、戦神。向フノ我モ蚩尤、漢民族ニ吸収サレ貶メラレタ化ケ物ヨ。』

その声は苦渋に満ち、その目は知性を宿していながら血の涙を流す。
誇り在りし者の、尽きせぬ屈辱が一樹にも伝わってきた。
例え神と云えど歴史に彩られた存在であり、人間界のそれに組み込まれてしまう。
その悲哀に一樹の戦闘本能も沈静化する。

「そうか、礼に失した此方の振舞い、容赦されたい。」
『ソレハ仕方アルマイ、例エ応龍ト云エド此レハ貴様ノ知ル由ノナイ事ユエ。』


――応龍。
翼の在る龍、羽の在る全ての祖とされる。南方に住み、雨を蓄える能力を持っている。
蚩尤と闘い倒すものの神通力をひどく消耗した為天に帰還する事適わず、
地上に棲むようになったという。
その戦闘能力、神通力は計り知れない。


『応龍・武神一樹、貴様ニ問フ、何故蓬莱世界ヘト来タ。
 ヤハリ不老不死ガ欲シイノカ……、貴様ガ望メバソレデ不死ニナレルト云フニ。』
「俺は……、」

一樹の脳裏に、金の糸の様な髪に淡い櫻色の面影が映った。
此れは先程天上聖母からも問われたもの。
問われるも答える事為らずして蚩尤との戦いが始まったのだった。
だが一樹の心は既に一つの決意が在る。

「……俺は、不老不死は要らない。
 さくらと共に生きることを全く望まないではないが、彼女がそれを望まないことも分かっている。
 “限りある生”を生き、死を迎えるは人としての身が持つ天然自然の理ではないか。」
『然シ貴様ハ応龍ダ、ソシテ相手ハ天狐……人デハナイ。』
「違う!」

一樹はかぶりを強くふり、其の衝動で周囲の空気も震え風が唸る。
だが蚩尤は其れを静かに見つめている。

「応龍で在る俺も真実かもしれん、別の世界ではまた別の存在として在るのも真実かもしれん。
 だが今、此処に在る“武神一樹”と云う存在は人として在った、さくらもそうだ。」
『元始天尊ノ言葉ヲモ否定スルノカ、今、此処ニ在ルハ羽ヲ持ツ蒼キ龍ノ貴様ダ。』
「否定ではない、が俺は人としての記憶を持っている。それは俺が人として在る証に他ならん筈だ。
 若し俺が応龍として在るならば、応龍としての記憶を持つ筈だ……俺は今其れを持ってはいない。」

激していたものの一樹の心は静かだった。
決まっていたからだ、己の在るべき場所を。

「全ての事象は自然の理の上に在る、故に花が咲き、そして散る様に俺もその理の中で生きる。
 例えこの身が滅びようとも、御霊は常にさくらと共にある。
 永遠に生きるが生には非ず、朽ちても尚在り続けるのが“生”というものだと俺は思っている。」
『…………ヨイ覚悟ダナ、』

普段は口に出して云う事はないが確実にある気持ち。
そしてそれは彼女にも伝わっていると確信している。
いつの日か時がふたりを別つとも、其れは“身”としてであり“心”は共に。

『ナラバ往ケ、コノ蓬莱ノ世界ニ貴様ノ求メルモノハ無イ。
 ソシテ限リアル命ヲ思フ存分生キヨ、応龍……イヤ、人ノ子、武神一樹ヨ、』

蚩尤から笑いの波動が伝わってくる。
其の指し示すは原始の月。

「ああ、帰ろう、彼女のもとへ……俺の居るべき場所へ。」

重力を操り浮遊する。


次第に小さくなってゆく姿を見下ろす一樹と見上げる蚩尤。
別世界では互いに戦い、一方は勝ち一方は敗れた。
だが此処に在るは互いを認めあう荒ぶる神々。

其処に何の交信が在ったものかはわからない。



ただ煌々とした月光だけが其れを見ていた―――










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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【 0173 / 武神・一樹 / 男性 / 30歳 / 骨董屋『櫻月堂』店長 】

NPC : 蚩尤


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■         ライター通信          ■
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再びお目にかかります、伊織です。
此の度は蓬莱夢魂譚にご参加頂き、真に有り難う御座いました。
高峰温泉と云う特別企画の参加にて、常とは違う趣となりましたが如何でしたでしょうか。

難易度「やや難」のNG行動ですが、ご参加頂きました皆さん全員無事に通り抜けられました。
今回のNG行動は、併せて記載しました質問弐の答えに微妙に関っておりました。
天上聖母がどの様な聖母かが解れば、後はさほど難しい事ではない問題でした。
以下、答えの発表です。

NG行動 : 女神像への無礼な振舞い
質問壱 : 攻撃回数
質問弐 : 天上聖母のあなたへの心象
質問参 : “欲しい”の場合は与えられた事でしょう
質問四 : 蓬莱でのあなたの姿
質問伍 : 蚩尤との戦いに於いてのあなたの行動

今回は大筋はあるもののフリーシナリオ形式をとっておりましたので
プレイングかけるにも質問事項が在るとはいえ、難解だったかと思われます。
然し皆さん其々に質問事項についてご自分の考えを述べられていたり、
このノベル全体の推測を練られていたり、と
様々な人柄がでてらっしゃいましたので大変参考になりました。
寧ろ今回の冒険譚は皆さんで創りあげられたもの、と云って宜しいかと思います。

折角の舞台ですので中国神話と荘子の「胡蝶の夢」を題材に、何故か怪獣大戦争の気配もしています。
冒頭から皆さんの描写で不可解なものに気が付かれるかと思いますが
此れは全て後半に明かされる皆さんの姿ゆえ、でした。
再度読みなおされると納得されるのではないでしょうか。



>武神一樹様

こんにちわ、一樹様。
再びお目にかかれ、然も今回はお連れ様とのご参加、大変嬉しく思いました。
又某会場では有り難う御座いました、然しご挨拶も儘ならず失礼致しました。
以前も申しましたが、其の能力が充分に在りながら攻撃ではなく防衛に、との答え。
“強さ”というものを知り且つ其の使い方を心得てらっしゃる。
それ故一樹様には“応龍”となって頂きました。
龍ですから「天」のイメージが在りますが、応龍は地上に棲む事になった龍ですので適任かと。

さくら様への想いはWRの胸にかなり響きました。
おふたりの絆がいつまでも在り続ける事を祈って止みません。

祭は明け、舞台は再び日本へと戻りますが、
次回、お目にかかれましたら宜しくお願い申し上げます。
此度はご参加、真に有り難う御座いました。