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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


高峰温泉での休日をご一緒に

 駒子が温泉に来たのは――プリンキアに誘われて温泉で卓球、そして此処のお土産ものを食べれたら良いな、というのもあったのだけれど……本当は。

(いちばん、みーちゃんがしんぱいだったの……)

 だって、さいきんいつもわらってないんだもの。
 そんなにげんきがなくなることがあるんだなっておもったから。
 だから。
 
(だから、げんきになってほしくて、こまこは……)

 ぷーちゃんにさそわれて、ここまできたの。
 やっぱり、みーちゃんにはいつでもわらって《おしごと》してほしいから……。

 温泉へ駒子が一番乗りをしてから、待つ事暫し。
 プリンキアと深雪がやってきた。
 そしてその後を追う様に鈴夏とほくとが入ってくる。

 ゆっくり、湯に浸かりながら鈴夏やほくととは少し距離を置きながらプリンキアが深雪へと言う。
「Miss深雪のメンタリティを察すルと判らなクもなイでスが……」と。
 だが、その言葉へと返す深雪の言葉は。
「そう言われてもね……でも二人の気持ちは嬉しいし、早く立ち直らなければ…下を向いてばかりもいられないわ」
 と言う、形ばかりのもので、駒子が「むぅ」と呟きながら、深雪の肩を叩く。
 ぱしゃっ……と湯が飛沫をあげて、はねた。

「《ゆーきゅー》までとってここにきたのに……」
 なんでこんなに、げんきがなくなってるんだろう。
 ここ《ほーらい》は《せんきょー(仙境)》で《ごぎょーのき(五行の氣)》であふれてるから、ひとはもちろん《ひとであらざるもの》も《げんき》になるはずなのに。
 なのに、みーちゃんはかなしそうなまま。
「そうね、折角の有休なのに私は考えてばかりね……。でも…一人きりで側にいられない時想いは募るばかり。……なのに、逢う事が叶い抱きしめられると胸が苦しくて息ができなくなって……」
 寂しげな深雪の言葉に口を挟む事無く、プリンキアと駒子は静かに耳を傾ける。
 ほくとと鈴夏も何処と無く漂う雰囲気を読み取っているのだろう、静かなまま。
「この人に私は相応しい?、この人には私は必要な存在ではない、やっぱりあの女性(ひと)の方が…、』余計な事ばかり考えてしまうのよ……このままじゃ駄目、そう自分も言っていることさえ解るのに……」
 息を一つ吐き、深雪は「それに、ほら……」と言葉を続けた。
「…私、幼少時に父を亡くしているから。あの人に求めるモノが“雄”なのか“父性”なのか自分の中で混同している気がするの……」

 其処まで漸く言うと、ぽとり、と深雪の瞳から大粒の涙が零れ――湯の中へ、溶けた。
 氷の涙は綺麗な線を描き、はらはらと舞い落ちる葉のよう落ちていく。

「あのね、みーちゃん?」
「……なあに?」
 首を傾げ、こちらへ目線を合わせてくれる深雪へと駒子は自分が持っている精一杯の言葉で伝えようとした。
 こういう時、幼いままで中々上手く言えなくなる様な自分がもどかしいけれど。
 それでも伝われば良いなと思う。
「みーちゃんはそういうけど………あのね?《あのひと》のこころのなかでは、みーちゃんはちゃーんと《かけがえのない》そんざいになってるよ?」
「…そんな事あるわけ無いわ」

 ふるふると深雪は首を振る。
 が、プリンキアも駒子の意見に深く同意してくれ「ソウですネ」とやんわり、微笑んでくれて。
 自然と駒子の顔に笑みが広がっていく。
 瞳で深雪へと言葉の続きを促しつつも、プリンキアは駒子へも何かを問い掛けるような視線を向ける。
 返事代わりにとにこっと駒子は笑い……、深雪の何処か否定的な呟きが、涙と同じように――湯の中へと消えていく。

「何故、ふたりともそう言いきれるの? でも――そうね、私だって、自分が求めていたものが何であるのか解らないまま…そんな気持ちをズルズル抱き続けていたら時間も心も砕いて与えてくれるあの人に失礼な気がしたわ……だから……だから」

 それ以上は言葉にはならなかった、深雪にも決してふたりにさえ言えない言葉があるのだろう。
 それは解る、解るけれど――……でも。
(なやみは…ぜんぶなくしてかえらなきゃ――…だめだよ、みーちゃん……)
 駒子が心で呟いた言葉が聞こえたのだろうか、漸く深雪はふたりに言うのでもなく、自分に問い掛けるように小さく、話した。

「…時が経つにつれ苦しみが増していくのは何故なのかしらね……」

 再び涙を流し始める深雪にプリンキアは、ある言葉を呟いた。
 苦しみが増すのならば、その選択は間違えていたと言うことにしかならないと……プリンキアも気付き……、更には駒子でさえも気付いたのに――何故、深雪本人が気付けないだろう……?
(かなしいと…いろいろみえなくなるんだね……)
 だから何も見えなくなって全て否定したくなって。
 深雪の問いかけの言葉に呆れたように言うプリンキア。
 微妙にプリンキアの柳眉が上がりつつある様に見えるのは、駒子の気のせいだけではあるまい。

「…ミス? 誤解しテませンカ? プラトンの球体説ハご存知デスよネー?」
「ええ……知ってる、つもりよ?」
「BETTER HALFとハ傍かラ見テ『お似合イの存在』ではなク…貴女ノ欠けていルモノを補イ助ケ支エ、カバーしテくレるパートナーの事を指すデスヨー? 助ケル者と助ケラレル者ハアクマデ対等ナのでス」
 だからこそ。
「貴女が遠慮シテいて、ドウ…しますカ? ソレデは、真ノ球体ニなれマせんヨ?」
「プリンさん…例え私とあの人が互いに“そうであった”としても…完全無欠の玉にはなれないわ。純粋にあの人を想う……今はそれだけ出来れば十分。そして、その苦痛と過ごすつもり」
 深雪のその言葉に、プリンキアは苦悶の表情を浮かべた。
 駒子も、ぶくぶく…と湯船に沈みたくなってしまう。
(これじゃあ、《どうどうめぐり》だよう……)
 が、それを打ち破るようにプリンキアが叫び、
「Oh……ナンて、ナンセンス! 貴女ガ、ソウである限り、ミーは何度も貴女ヲ温泉に誘わネバ、なりマセーン!」
「そのときは、こまこもいっしょだよっ!! でもね、こまこはおもうんだけれど……《たましいのはんぶん》をごっそりもってかれたりしたら、みーちゃんはいきていけるの? なにはともあれ、ふぁいとだよっ!」
 それに対し駒子も同意する。
 忘れないで欲しいのは、深雪が一人ではないということ――それだけなのだから。
「……ナンセンス? ファイト? ……どうあっても、ふたりは私が頑張るべきだと言うの?」
「モチロンデス!」
「もちろんだよっ」
「…手強いわね、ふたりは……けど、うん……そうね…明日の朝になったら少しは考えが変わるかも知れない……」
「それが一番デス。何も貴女を待ってイルのは痛みバカリと限りマせんカラ」
「………」

 深雪は、プリンキアのその言葉には答えず空を見上げる。
 ずっとずっと、考え続けていた全てを整理するかのように。
 そしてプリンキアと深雪につられる様に、何時しか駒子も――皆で共に澄み切った夜空をただ眺めた。
 空にあり続ける満天の星空を見つめ続け――ぽそりと小さな声で。

「本当にふたりが、居てくれて良かった……」
 静かに、しっかりとした口調で深雪は呟き微笑を浮かべた。
 
 ――……遅れて、こちらへとやって来たふたりの少女を歓迎するように柔らかで、かつ晴れやかな笑顔を見せながら。
 そして駒子はと言えば。
 晴れやかな笑顔を浮かべてくれた深雪がただ嬉しくて幸せで、遅れてきた人物らに対し、にこにこと駆け寄っていった。



―End―

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■   登場人物                  ■
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【0291 / 寒河江・駒子  / 女 / 218 / 座敷童子(幼稚園児)】

【0174 / 寒河江・深雪 / 女 / 22 / アナウンサー(気象情報担当)】
【0818 / プリンキア・アルフヘイム / 女 / 35 / メイクアップアーティスト】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちは。ライターの秋月奏です。
今回は、こちらのダブルノベルにご参加、本当に有難うございました!
仲良しの3人なのだろうなと楽しく書かせていただきました。
個別ノベルでは相談をそれぞれの視点で書かせて頂いてまして
特に、駒子ちゃんは座敷童子ですが、幼稚園児ともいうことで
どうやったら可愛く書けるかな、と考えたりして(^^)
でも、本当にお三方の友情は素晴らしいな、と思います。
落ち込んでいる人を見守るだけでなく色々と励ましたりして……
様々に思う事も多々あると思いますが、
どの方にも、沢山の幸福が降り注ぐ様、祈っております。

それでは、また何処かでお逢い出来ることを祈って……。