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高峰温泉での休日をご一緒に
温泉に遊びに来たのは折角の休日をエンジョイするためと――そして。
傍らにいる、深雪の苦痛を癒してあげたいが為、だった。
(第一、暗いママでは、折角ノ有休も無駄ニなりマスし……)
だから。
そう、だからプリンキアは温泉で皆が皆それぞれに話す場所から、ホンの少しばかり離れ……深雪へと、こう言ったのだ。
「Miss深雪のメンタリティを察すルと判らなクもなイでスが……」と。
だが、返す深雪の言葉と言えば。
「そう言われてもね……でも二人の気持ちは嬉しいし、早く立ち直らなければ…下を向いてばかりもいられないわ」
と言う、形ばかりのもので、駒子が「むぅ」と呟きながら、深雪の肩を叩く。
ぱしゃっ……と湯が飛沫をあげて、はねた。
「《ゆーきゅー》までとってここにきたのに……」
「そうね、折角の有休なのに私は考えてばかりね……。でも…一人きりで側にいられない時想いは募るばかり。……なのに、逢う事が叶い抱きしめられると胸が苦しくて息ができなくなって……」
寂しげな深雪の言葉に口を挟む事無く、プリンキアと駒子は静かに耳を傾ける。
ほくとと鈴夏も何処と無く漂う雰囲気を読み取っているのだろう、静かなまま。
「この人に私は相応しい?、この人には私は必要な存在ではない、やっぱりあの女性(ひと)の方が…、』余計な事ばかり考えてしまうのよ……このままじゃ駄目、そう自分も言っていることさえ解るのに……」
息を一つ吐き、深雪は「それに、ほら……」と言葉を続けた。
「…私、幼少時に父を亡くしているから。あの人に求めるモノが“雄”なのか“父性”なのか自分の中で混同している気がするの……」
其処まで漸く言うと、ぽとり、と深雪の瞳から大粒の涙が零れ――湯の中へ、溶けた。
氷の涙は綺麗な線を描き、はらはらと舞い落ちる葉のよう落ちていく。
「あのね、みーちゃん?」
「……なあに?」
「みーちゃんはそういうけど………あのね?《あのひと》のこころのなかでは、みーちゃんはちゃーんと《かけがえのない》そんざいになってるよ?」
「…そんな事あるわけ無いわ」
ふるふると深雪は首を振る。
が、プリンキアも駒子の意見に深く同意を示し「ソウですネ」とやんわり、微笑む。
深雪は何を其処まで怯えているのだろうか……?
瞳で深雪へと言葉の続きを促しつつも、駒子へもプリンキアは視線を向ける。
……駒子も同じ気持ちだったのだろうか、深く、深くプリンキアへと頷くと、にこっと笑った。
「何故、ふたりともそう言いきれるの? でも――そうね、私だって、自分が求めていたものが何であるのか解らないまま…そんな気持ちをズルズル抱き続けていたら時間も心も砕いて与えてくれるあの人に失礼な気がしたわ……だから……だから」
それ以上は言葉にはならなかった、深雪にも決してふたりにさえ言えない言葉があるのだろう。
人は決して――同一とはなれない。
解ったような気がするだけ、と思う深雪ゆえに。
涙を拭いながら、どうしていいかわから無いまま、深雪はぱしゃんと掌から湯を零す。
さらさらと砂の如く、湯は温泉へと戻ってゆく……。
そう、全ては戻るべく戻るもの、なのに深雪にはそれが見えていない――そして、それがプリンキアにとっては何より歯がゆかった。
「…時が経つにつれ苦しみが増していくのは何故なのかしらね……」
再び涙を流し始める深雪にプリンキアは、あえてある言葉を呟いた。
苦しみが増すのならば、その選択は間違えていたと言うことにしかならないと……プリンキアも、駒子でさえも気付くのに――何故、深雪本人が気付けないのか……?
「…ミス? 誤解しテませンカ? プラトンの球体説ハご存知デスよネー?」
「ええ……知ってる、つもりよ?」
「BETTER HALFとハ傍かラ見テ『お似合イの存在』ではなク…貴女ノ欠けていルモノを補イ助ケ支エ、カバーしテくレるパートナーの事を指すデスヨー? 助ケル者と助ケラレル者ハアクマデ対等ナのでス」
だからこそ。
「貴女が遠慮シテいて、ドウ…しますカ? ソレデは、真ノ球体ニなれマせんヨ?」
「プリンさん…例え私とあの人が互いに“そうであった”としても…完全無欠の玉にはなれないわ。純粋にあの人を想う……今はそれだけ出来れば十分。そして、その苦痛と過ごすつもり」
深雪のその言葉に、プリンキアは苦悶の表情を浮かべた。
駒子も、ぶくぶく…と湯船に沈んでしまうような真似をしてしまうし……。
本当に…ほんっとうに!
何と…何と言う、自虐的行為!
何と言う思慮深さか!
ぷちっ☆と、心の奥底で糸がぷつりと切れるのをプリンキアは感じた。
「Oh……ナンて、ナンセンス! 貴女ガ、ソウである限り、ミーは何度も貴女ヲ温泉に誘わネバ、なりマセーン!」
「そのときは、こまこもいっしょだよっ!! でもね、こまこはおもうんだけれど……《たましいのはんぶん》をごっそりもってかれたりしたら、みーちゃんはいきていけるの? なにはともあれ、ふぁいとだよっ!」
「……ナンセンス? ファイト? ……どうあっても、ふたりは私が頑張るべきだと言うの?」
「モチロンデス!」
「もちろんだよっ」
「…手強いわね、ふたりは……けど、うん……そうね…明日の朝になったら少しは考えが変わるかも知れない……」
「それが一番デス。何も貴女を待ってイルのは痛みバカリと限りマせんカラ」
「………」
深雪は、プリンキアのその言葉には答えず空を見上げる。
ずっとずっと、考え続けていた全てを整理するかのように。
そしてプリンキア自身も、何時しか深雪と――駒子と共に澄み切った夜空をただ眺めた。
空にあり続ける満天の星空を見つめ続け――ぽそりと小さな声で。
「本当にふたりが、居てくれて良かった……」
静かに、しっかりとした口調で深雪は呟き微笑を浮かべた。
――……遅れて、こちらへとやって来たふたりの少女を歓迎するように柔らかで、かつ晴れやかな笑顔を見せながら。
そして――漸くプリンキアも、様々なことを共に考え悩んだ時が終わったのだと、「hm…」と柔らかな呟きを、零した。
…明日はきっと、気持ちよい晴天の空が見れるに違いない。
そんな風に思いながら。
―End―
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■ 登場人物 ■
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【0818 / プリンキア・アルフヘイム / 女 / 35 / メイクアップアーティスト】
【0174 / 寒河江・深雪 / 女 / 22 / アナウンサー(気象情報担当)】
【0291 / 寒河江・駒子 / 女 / 218 / 座敷童子(幼稚園児)】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、ライターの秋月 奏です。
本当にお久しぶりにプリンキアさんにお逢い出来て嬉しくて!
今回、こちらの個別ノベルでは、温泉内での相談事の
シーンを使用させて頂きましたが……如何だったでしょうか?
(尚、それぞれの心理状況等で個別となっておりますので
深雪さん、駒子さんも合わせてお読みいただければ♪)
プリンキアさんなりに、深雪さんを心配している…友情のようなものが
描けてると良いな、と思うのですが(^^)
相談できる友人が居て、更にその友人を心配し付き合うプリンキアさんが居る……
本当に素晴らしいことだと思います♪
出来うれば、プリンキアさんにも深雪さんにも、駒子さんにも沢山の幸福が
降ります様に……。
それでは、また何処かでお逢い出来ることを祈って……。
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