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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


高峰温泉での休日をご一緒に

 前を向きたかった、凄く。
 見栄でも虚勢でも良い、自分で立てる力が――でも、それでも。

(自分では無理だった……何故なのかしら、凄く苦しくて)

 駒子ちゃんとプリンさんに誘われ、この高峰温泉へと来ても辛くて、駄目で。
 楽しそうな人を見るたびに何処か苦しい笑みだけが漏れて。

 だから。
 そう、だからなのかもしれない。
 プリンさんに温泉に入った途端に言われた言葉に知らず反応していたのは――。

「Miss深雪のメンタリティを察すルと判らなクもなイでスが……」

 プリンさんが何を言いたいかは解る。
 でも解ると言うことと心がそれに追いつくかどうかは全く別の問題で……形ばかりの言葉を言うしかなかった、私。

「そう言われてもね……でも二人の気持ちは嬉しいし、早く立ち直らなければ…下を向いてばかりもいられないわ」

 形ばかりの言葉だと気付いたのだろう、駒子ちゃんが「むぅ」と呟きながら、私の肩を叩く。
 ぱしゃっ……と湯が飛沫をあげて、はねた。

「《ゆーきゅー》までとってここにきたのに……」
「そうね、折角の有休なのに私は考えてばかりね……。でも…一人きりで側にいられない時想いは募るばかり。……なのに、逢う事が叶い抱きしめられると胸が苦しくて息ができなくなって……」

 駄目だと言う声ばかりが聞こえてくる。
 決して私では、あの人の隣には立てはしないのだと囁く声が。
 …ああ、この場所はこんなに静かだったかしら?
 私の声しか聞こえない……まるで私一人で此処にいるかのよう。

「この人に私は相応しい?、この人には私は必要な存在ではない、やっぱりあの女性(ひと)の方が…、』余計な事ばかり考えてしまうのよ……このままじゃ駄目、そう自分も言っていることさえ解るのに……」
 息を一つ吐き、深雪は「それに、ほら……」と言葉を続けた。
「…私、幼少時に父を亡くしているから。あの人に求めるモノが“雄”なのか“父性”なのか自分の中で混同している気がするの……」

 其処まで漸く言うと、ぽとり、と深雪の瞳から涙が零れ――湯の中へ、溶けた。
 氷の涙は綺麗な線を描き、はらはらと舞い落ちる葉のよう落ちていく。

「あのね、みーちゃん?」
「……なあに?」
「みーちゃんはそういうけど………あのね?《あのひと》のこころのなかでは、みーちゃんはちゃーんと《かけがえのない》そんざいになってるよ?」
「…そんな事あるわけ無いわ」

 ふるふると深雪は首を振る。
 が、プリンキアも駒子の意見に深く同意を示し「ソウですネ」とやんわり、微笑む。

 ふたりとも何故、そう言いきれるの?
 私には――そう、言い切れるだけの何かが無いのに。
 何故、皆……自分に自信がもてるの…?

「何故、ふたりともそう言いきれるの? でも――そうね、私だって、自分が求めていたものが何であるのか解らないまま…そんな気持ちをズルズル抱き続けていたら時間も心も砕いて与えてくれるあの人に失礼な気がしたわ……だから……だから」

 選択したのよ。決して楽になりたい訳ではなかったし、間違ってはいなかった…のに。

 なのに、どうして――?

 何故、心は安らいでいかないの?

 どうして未だに辛いままなの?

 どうして……どうして……ドウ、シテ……?

「…時が経つにつれ苦しみが増していくのは何故なのかしらね……」

 涙だけが、また頬を伝い流れていく。
 困ったような顔をプリンさんも駒子ちゃんもしている。
 何か私はおかしな事を言っているの?
 ゆっくりとプリンさんの眉が僅かながらに上がっていっているかのように見えた。

「…ミス? 誤解しテませンカ? プラトンの球体説ハご存知デスよネー?」
「ええ……知ってる、つもりよ?」

 でも、それが何になると言うのだろう?
 きっと、あの人にとってのBETTER HALFとは私も知っている別の、人だから。
 なのに、プリンさんはまるで私の考えを見透かしたかのように瞳を輝かせた。

「BETTER HALFとハ傍かラ見テ『お似合イの存在』ではなク…貴女ノ欠けていルモノを補イ助ケ支エ、カバーしテくレるパートナーの事を指すデスヨー? 助ケル者と助ケラレル者ハアクマデ対等ナのでス」
 そして再びプリンキアは言葉を続ける。
「貴女が遠慮シテいて、ドウ…しますカ? ソレデは、真ノ球体ニなれマせんヨ?」

 ……違うわ、人は決して同一とはなれないの。
 共に溶け合えないのと一緒に傷一つ無い玉になることさえも出来ない。
 …折角言ってくれたのに、また私は否定的な言葉を呟かなくてはならないのが――凄く、辛い。

「プリンさん…例え私とあの人が互いに“そうであった”としても…完全無欠の玉にはなれないわ。純粋にあの人を想う……今はそれだけ出来れば十分。そして、その苦痛と過ごすつもり」
 深雪のその言葉に、プリンキアは苦悶の表情を浮かべた。
 駒子も、ぶくぶく…と湯船に沈んでしまうような仕草を見せる。
 耐え切れない!、まるでそう言うかのごとくプリンキアが叫び、
「Oh……ナンて、ナンセンス! 貴女ガ、ソウである限り、ミーは何度も貴女ヲ温泉に誘わネバ、なりマセーン!」
「そのときは、こまこもいっしょだよっ!! でもね、こまこはおもうんだけれど……《たましいのはんぶん》をごっそりもってかれたりしたら、みーちゃんはいきていけるの? なにはともあれ、ふぁいとだよっ!」
 それに対し駒子も同意する。
 ふたりの言葉にひたすら瞬きを繰り返す深雪。
 ……何時の間にか、考えるだけで溢れていた涙が止んでいた事に気付き、微かに笑んだ。
 そしてふたりが気付かないように、笑みを消すよう…つとめながら、
「……ナンセンス? ファイト? ……どうあっても、ふたりは私が頑張るべきだと言うの?」
 と、聞いてみることにした…無論、答えはわかりきっているのだけれど。
「モチロンデス!」
「もちろんだよっ」
 やはりね――予想通りの答えを聞き、どうしようもなく笑みが出る。
 否定的な答えを出していても、更にそれを打ち砕き否定するふたりの存在――この事を相談して本当に良かったのか、悪かったのかはまだ、解らない。
 だが。
「…手強いわね、ふたりは……けど、うん……そうね…明日の朝になったら少しは考えが変わるかも知れない……」
 自然と口をついて出る前向きな言葉に深雪自身驚きながらも上を見る。
 満天の星空。
 月に寄り添うように輝く星があり「ああ」と思う。
 球体は無理でも、あのように寄り添えたらどんなに幸福だろう――?
 無理かもしれない、けれど前を向かなくては何にもならないのだから。
「それが一番デス。何も貴女を待ってイルのは痛みバカリと限りマせんカラ」
「………」
 あたたかなプリンキアの言葉には答えず深雪は空を見上げる。
 そしてプリンキアも深雪につられる様に、何時しか駒子も――皆で共に澄み切った夜空をただ眺めた。
 空にあり続ける満天の星空を見つめ続け――ぽそりと小さな声で。
「本当にふたりが、居てくれて良かった……」
 静かに、しっかりとした口調で深雪は呟き微笑を浮かべた。
 
 ――……遅れて、こちらへとやって来たふたりの少女を歓迎するように柔らかで、かつ晴れやかな笑顔を見せながら。




―End―

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■   登場人物                  ■
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【0174 / 寒河江・深雪 / 女 / 22 / アナウンサー(気象情報担当)】

【0291 / 寒河江・駒子  / 女 / 218 / 座敷童子(幼稚園児)】
【0818 / プリンキア・アルフヘイム / 女 / 35 / メイクアップアーティスト】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちは。ライターの秋月奏です。
今回は、こちらのダブルノベルにご参加、本当に有難うございました!
えと、深雪さんのお名前はお相手の方…と言って宜しいのでしょうか
その方のを見て存じておりまして(^^)
何時か、書かせていただけたらな…と思っておりました。
ですので書かせていただけて本当に嬉しくて!
3人でのご旅行、そして相談事……本当に本当に仲の良い
3人なのでしょう、プレイングもそれぞれ楽しく描かせて頂きましたv
深雪さんがお元気になられるようにと、それから、
どの方にも、沢山の幸福が降り注ぐ様、祈っております。

それでは、また何処かでお逢い出来ることを祈って……。