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『蓬莱館』へようこそ
●内緒のお話【3B】
「そういえば、あのバニライムのコスプレした時、楽しかったなー☆ またああいう機会ってないの?」
他愛のない会話の途中で、過去の話を持ち出す雫。よほど面白い経験だったのであろう。するとプリンキアが思い出したようにこう言った。
「そうデス、バニライムデース! Mr.内海ニ近々ハッピーなコト、アリますヨ☆ バット……シークレット」
くすっと悪戯な笑みを見せ、人指し指を唇に当てるプリンキア。
「え、え、え、何なのー? 教えてよ〜」
「ウフフ……ソノうち分かりマース☆」
意味深な笑みを残し、プリンキアが雫から離れてゆく。
『魔法少女バニライム』の監督、内海良司がいよいよ入籍し、披露宴パーティを行うと雫が知るのはこれからもう少し後のことであった。
●陰陽五行【8B】
「ソレは楽しそうデスネー」
駒子が猫を追う微笑ましい様子を頭に思い描いたのか、プリンキアからも笑顔が浮かんでいた。そんなプリンキアを、じーっと見つめる駒子。
「どうシマシタ?」
「……ぷーちゃんてさー、『よーせい』さんだけどやっぱ『おばさん』だよねー……」
それを聞きプリンキアの表情が、ほんの一瞬強張ったような気がした。
「ナニカ言いマシタカ?」
にっこりと、にっこりと微笑むプリンキア。怖い怖い、その微笑みが何だか怖い。
「んーん、こまこなにもいってないよ〜」
駒子はすぐさま、にこぱっと笑顔で切り返す。無邪気さは、時としてナイフよりも槍よりも鋭かったりするいい例だ。
「……ソウいえば、Miss深雪はドウしまシタ?」
「みーちゃんおしごとでおくれるのー」
話題を変えるかのように、深雪のことを尋ねるプリンキア。すると駒子は少ししゅんとした様子となった。
「What?」
「……こまこしんぱい〜。みーちゃんずっとげんきないんだよー。きゅーちゃんのしゃしんみて、こないだためいきしてたの、こまこみたもん。なんどもだよー」
「hmm……Mr.九尾トノことデスか?」
プリンキアが聞き返すと、こくこく頷く駒子。
「なんとかしないと『あきたのばばさまたち』にもうしわけがたたないよ〜」
じたばたじたばたじたばた。もどかし気にその場で暴れる駒子。それを見て、プリンキアは苦笑した。
「まァ、2人トもシャイですからネ。ンー、tooシャイシャイラヴァーズ……? 背中からノ後押しが必要なんでショウネー」
恋愛話は、何故か当事者よりも周囲の者たちの方がよく知っているものである。まあ客観的に見られるからこそ、当事者が気付かぬ物も見えているのだろう。
「ぷーちゃん、『ごぎょーのき』わかるー?」
駒子が不意に全く違う方面の話題を振ってきた。
「ゴギョー……? OH! 陰陽五行! チャイニーズの哲学デシタネ」
一瞬首を傾げたプリンキアだったが、すぐに思い当たりパンと手を叩いた。
「みーちゃん、きづいてないんだよね〜」
大きな溜息を吐く駒子。どうも違う話題などではなく、関係する話題だったようだ。プリンキアも思い当たる節があるのか、ちょっと思案してからこんなことを言い出した。
「確かニMr.にはファイアエレメント、Missにはウォーターエレメントの気配を強く感じマース。ナルホド……気付イテいないヨウデ、気付いてイルかもシレマセンネー」
気付いていないようで気付いている。ありきたりかもしれないが、意味深な言葉。頭で分かっていなくとも、感覚的に分かることだって世の中にはたくさんある。
「『みず』のみーちゃんだからこそ、『ひ』のきゅーちゃんを『やけど』せずうけとめられるってことなのに〜」
「五行相剋の考エなら水剋火、水は火を剋ス……いわゆル打ち消し合ウ、相性がヨくなイ関係と言われマスからネ」
駒子とプリンキアのつぶやきが重なった。が、2人とも同じようなことを言っているが、微妙に意味合いが違っていた。
水と火の関係について駒子の言葉は肯定的、プリンキアの言葉は否定的な意味合いと言っていいだろう。これらの見方は表裏一体、どっちでもありどっちでもない。別の言い方をすれば、状況次第でどちらにも転びうるということだ。
その、『どちらにも転びうる』ことを駒子の言葉を聞いたプリンキアは思い出した。
「AH……ソウでしタ。五行ダケじゃナいデス、陰陽五行デシタネ。陽の気ト陰の気ガ関係シマス。陰の気満チル場所なら打ち消し合ウダケかもしれマセンが……」
一旦言葉を止め、ゆっくりと周囲を見回すプリンキア。そして笑みを浮かべ、満足げに頷いた。
「……ココなら安全でショウ」
「あー、ぷーちゃんもわかったのー?」
「オフコース。『蓬莱館』ハ常春の気候でシタから☆」
ぱちんとウィンクするプリンキア。
「だよねー。『ほーらいかん』は『よー』よりなの、みちてるの、ほんとだよー☆」
駒子もプリンキアのそばを、嬉しそうにぐるぐると回る。
「分かりマシタ」
やがて、プリンキアが凄く嬉しそうにこう言った。
「そのヘンについては、ミーが責任を持っテ深雪に説明してあげマショー」
「ぷーちゃん、ありがとー☆」
駒子がにこぱーとプリンキアに笑顔を見せた。
●私があなたに出来ること【19B】
「何シてマシタ? エらク音がシまシタガ」
深雪の部屋に入ったプリンキアは、開口一番そう尋ねた。
「いえっ……別に何も」
「ソウですカ? マサかスパイみたク、隣覗クなんテコト……」
「やってません!!」
ぶんぶんと頭を振って否定する深雪。その様子を見て、くすくすと笑うプリンキア。
「フフ、アメリカンジョークデス☆」
いや、あんたイングランド出身でしょうが。
「デモ……隣気ニなリマセんカ? Miss深雪」
「それは……」
深雪の表情が変わった。気にならないはずがない、だって桐伯の隣の部屋であるのだから。
「ミーが来タのハ、そノ話デス」
プリンキアが真面目な表情を見せた。
「え」
「エレメント……陰陽五行、アンダスタン?」
プリンキアの質問にこくんと頷く深雪。
「チャイニーズの哲学デスが……ウォーターエレメントは『陰中の陰』、ファイアエレメントは『陽中の陽』なンテ言わレモしマス」
「……ええ、聞いたことはありますけど」
「マルで、ドコかの誰かサンたちミタいデスネ?」
ふふっとプリンキアが笑みを浮かべた。
「…………」
視線を逸らし、押し黙る深雪。
「相性がヨくなイ関係ダとバカり思ってマセンカ? デモ、五行ハ常に流転スるモノデス。巡リ巡っテ、関係のリバースもありマス。ソウ……ですネー。火ヲ水で消スことモ出来マスけド、火デ水を沸かすコトも出来ますヨネ。美味しいスコーン用意シテ、お茶会ダって出来マース☆ 実ハ先日、美味しいジャムが……」
とそこまで言い、はたと話が脱線したことに気付くプリンキア。
「uh……何のオ話デシた?」
「五行の……」
「OH! ソウでしタネ☆ ツマリ、互イに相反スる反面性質が異なルが故ニ引き合イ、交合し森羅万象のあらユる存在を産み出するモノ……と聞いていまース。MissとMr.の関係デモ、そう言エルと思いマスよ。ミーはソレは、自然界にとっても喜ばシいコトだと思イまスガー……Miss深雪?」
プリンキアがひょいと深雪の顔を覗き込んだ。深雪は無言で思案顔だった。
「hmm……仕方ナイですネー。ミーがメイクしてあげマース。そのママ動かナイデ」
やれやれといった様子で立ち上がり、プリンキアは何故か深雪の背後に回った。そして、おもむろに深雪の背中を軽く押した。
「……え……?」
深雪に戸惑いの表情が浮かんだ。これがメイク……?
「今ノMissにハ、コレが一番のメイクでス☆ ダイジョウブ……エレメンツは2人を応援シテまス……」
プリンキアが深雪の耳元で囁いた。この地の精霊たちに敵意はない。勇気を出し動いたなら、きっと力となってくれることだろう。
「Missも感じマセンか? 『蓬莱館』ハ陽ノ気が満ちテるコト……」
そうもう1度囁き、プリンキアはすっと深雪から離れた。
「ミーが出来ルのハ、ココまでデース。グッドラック☆」
そしてプリンキアはそのまま部屋を出ていった。後に残されたのは深雪ただ1人。沈黙が部屋を支配する。
「ここには陽の気が満ちている……か」
深雪はゆっくりと周囲を見回してからつぶやいた。確かにプリンキアの言う通り、『蓬莱館』は陽の気が強い。
深雪は部屋の入口の方に向き直ると、深々と頭を下げた。
●作戦成功?【28B】
「ぷーちゃんだっ! おはよー☆」
館内を駆け回っていた駒子は、朝風呂に向かおうとしていたプリンキアを発見した。
「グッモーニン、Miss駒子☆」
「ありがとー、ぷーちゃん! みーちゃんもきゅーちゃんもげんきなのー☆」
見たままをプリンキアに伝える駒子。それを聞いたプリンキアが、とても嬉し気な笑顔を見せた。
「OH! ソレはベリィナイス! ヨカったでスネー☆」
「よかったー。こまこほっとしたのー」
にこぱっと微笑む駒子。
でもしかし、複雑怪奇なのが男女の関係という物で……本当に喜んでいていいのでしょうか、ねえ?
【『蓬莱館』へようこそ・個別ノベル 了】
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■ 登場人物 ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0818 / プリンキア・アルフヘイム(ぷりんきあ・あるふへいむ)
/ 女 / 35 / メイクアップアーティスト 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全51場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした、『蓬莱館』での出来事のお話をここにお届けいたします。今回共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』の真実』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回プレイングを読んでいて思ったのは、直球ど真ん中ストライクなプレイングが結構あったかな……と。ひょっとして、高原の考えが読まれていたのでしょうか。
・プリンキア・アルフヘイムさん、ご参加ありがとうございました。直球ど真ん中ストライクなプレイングだと思いました。それゆえ、判定はプラス方向で見ております。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。
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