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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


赤根草
 ふ〜〜〜〜ッ。
 ほかほかと湯気の出る黒い頭にお気に入りの手ぬぐいを乗せ、縁側にどっしりと腰を降ろしながら気だるげな息を吐く。
 これで何度目だろうか、そして何種類目だろうか、無限とも思える広さの蓬莱館の中にある温泉にどっぷり浸かってきたのは。おもわずぢっと自らのヒレを見つめる。
 お湯でふやけ――も何もなっていない、つやつやしたヒレを暫く見ていると、それにも飽きたかぱたぱたと顔を仰ぎ、そして傍らの湯桶の中におもむろにヒレを突っ込んだ。やや悪戦苦闘の後、
 ぷしっ、
 ヒレに掴んだモノにクチバシを突っ込んでそんな音を立て、そしてぺいっ、と丸い小さな紙を湯桶の中に捨ててそれを口に運ぶ。
 風呂上りの一杯――フルーツ牛乳。
「………」
 ごっごっ、と喉を鳴らしながら呑むと、感に堪えかねてくぅぅぅ、と身体を震わせてぷはぁ、と大きく、美味そうに息を吐いた。
 ――ふと。
 そんな文太の目の前に影が差す。
 ぷん、と――鼻を刺すような甘い香り。それに混じる土の香り。
「……」
 ゆっくりと顔を上げる。
 其処に。

 花という花をすっかり刈り取られ、ダイエットしたのかすっきりした体の『それ』が立っていた。
*****
 ――見つめ合うこと、数分。
 文太がすい、とヒレを目の前の『それ』に差し出す。その中には、まだ半分程残っているフルーツ牛乳の瓶があり。
 気付けば、縁側に仲良く並んで座っていた。
 良く見れば、スレンダーな体になったのも頷けることで、体中の至る所に傷や削られた跡があり、どことなく元気がないようにも見える。
 とは言え。
 文太には隣に居るモノには見覚えが無い。…ある訳が無い。『それ』を掘り起こすだけ起こしておいて、自分は温泉を堪能していたのだから。
「……」
 まあ飲め、とヒレに持った瓶をしきりと相手に渡そうとするが、顔らしき部分を見ても口など開いている筈も無く。
 仕方ないと文太は、相手の口の辺りに瓶を押し付けて瓶を逆さに傾けて行った。…ややあって、ぶるぶると首を振った『それ』が、みるまにしおしおと口周りに残っていた葉を枯れさせてうな垂れる。
 すっく。
 それを見て急に立ち上がる文太。
 相手が弱っていることに対し何か思ったわけでは無い。
 単に、次の温泉へ入りたくなっただけだった。

 が。

「………」
 くいっ、とヒレを動かし、『付いて来い』と相手を誘う。言葉が通じるわけでもないだろうに、のそりと立ち上がる『それ』。
 そして2人――どちらも『人』では無いが――は、蓬莱館の奥へと消えていった。

*****

 何故だか、文太が林から戻ってきてから封鎖された温泉は2つになった。


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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2769/ぺんぎん・文太/男性/333/温泉ぺんぎん(放浪中)】

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■         ライター通信          ■
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長い間お待たせしました。「赤根草・個人ノベル」をお届けします。

この物語は、共通ノベルで依頼を果たした後の話となっています。参加者それぞれの物語、共通ノベルと合わせて楽しんでいただければ幸いです。
個人ノベルには他のPCは絡ませていません。いたとしてもNPCのみです。従って、それぞれ違った物語となっていると思われます。宜しければチャンネルを切り替えるように読んで頂ければ、と思います。
こうしたイベントには初参加でしたが、楽しませていただきました。またの機会があれば是非参加させてもらいたいと思っています。
それでは、またの機会にお会いできることを願って。
間垣久実