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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


『蓬莱館』へようこそ
●お誘い【15】
「おや」
「あ」
 桐伯が部屋へ戻ろうとしていた途中、宴会場の前を通りがかった時である。宴会場から出てきた女性用浴衣に身を包んだ美紅と、ばったり顔を合わせたのは。
「今日は何か事件の捜査でこちらへ?」
「まさか!」
 桐伯の言葉に、手をパタパタとさせて答える美紅。まあ桐伯も半分冗談でそう言ったのだが。
「今日は非番ですよ。捜査だったら、こんなにのんびりしてませんって」
「そうでしたか。けれども、刑事や探偵が出かけた場所ではよく事件が起きたりしますからねえ……」
 何故かしみじみとつぶやく桐伯。
「それって『謎は全て解けた!』とか、『真実は常に1つ!』って奴?」
 宴会場よりひょっこり顔を出し、雫が会話に加わってきた。
「それで画面がぐるぐると回ったら完璧だよね☆」
 何が完璧なんだ、何が。
「これはまた……珍しい組み合わせですね」
「『ゴーストネット』のオフ会に美紅さんも誘ってきたんだよ。あ、そうだっ! 今から宴会始まるから、桐伯さんもちょっとどう? 最初の乾杯だけでも、ねっ!」
 雫がぐいぐいと桐伯の浴衣の袖を引っ張った。
「飛び入りしていいんですか?」
「大丈夫だよ、もうとっくに1人増えてるしっ☆ さあさあ、1名様ご案内〜☆」
 そう言って雫は桐伯を宴会場に引っ張り込んだのだった。

●酒の味【20】
「お待たせしました、お酒をお持ちしました」
 すでに布団の敷き終えられていた桐伯の部屋に、蓬莱が瓢箪に入った酒を持ってきた。
「ああ、どうもすみません。瓢箪入りとはまた……乙ですね」
 面白そうに受け取った瓢箪を見る桐伯。いったいどこまで中華テイストがあるというのだ、ここは。
「それはこれで……」
 頭を下げ、部屋を出てゆく蓬莱。桐伯はさっそく盃に酒を注ぎ、最初の一口を味わった。
「うん。これはなかなか」
 悪くない味だ。けれども、ちょっと引っかかる物があった。どこかで味わったことがあるような味に思えたのだ。
 それが何なのか、ほどなく思い出せた。中国の白酒だったろうか、その味に似ていたのである。
(とことん中華ですね)
 でも――どうして日本でこの味なのか?

●あなたが与える物、私が求める物【21B】
「あの……お久し振りです……」
 何から話していいのか戸惑いつつも、まずは無難に挨拶から入る深雪。部屋の入口を背にし、突っ立ったままで。
「お久し振り……ですね」
 静かに答える桐伯。静まる部屋。
「とりあえず、座りませんか?」
「……はい」
 桐伯から座布団を勧められ、深雪は素直に従った。少し距離を置き、向かい合う形となる2人。だからといって、ぽんぽんと言葉が交わされる訳でもなく、また部屋は静かになる。
「……お手紙読みました」
 しばらくし、深雪が口を開いた。
「桐伯さん……あの内容なんですけど……」
「あのままですよ」
 変わらぬ微笑みを見せ、桐伯が言った。まともに顔が見れない深雪は終始うつむき加減であった。
「どう解釈するかは、深雪さん次第です」
「……怒らないんですか」
「何をです?」
「こんな状態にした……私のことを……」
 ちらりと桐伯を見る深雪。桐伯が少し思案してから答える。
「怒ることで全てが上手く解決するのなら、そうすることもあるのかもしれませんね」
「桐伯さん……いつもそう」
 ぼそっと深雪がつぶやいた。
「考えてみれば桐伯さんが私に対して怒ったこと……ありませんよね」
「そうでしたっけ……」
 とぼける桐伯。
「どうしてですか」
「怒る必要がないからでしょう」
「でもっ……!」
「でも?」
 桐伯が深雪の言葉を促した。
「でも私は……桐伯さんに真剣に怒って欲しかった……1度でいいから真剣に……」
 深雪はそう言って唇を噛み締めた。その目に涙が浮かんでくる。
「……だから余計に……私があなたに何を求めているのか曖昧に……自分で自分が見えなくなってしまう……」
 深雪の頬を涙が伝ってゆく。
「ごめんなさい……ごめんなさい……うっ……うう……」
 しゃくり上げる深雪。これ以上、言葉が続かなくなってしまう。
 いつの間にか桐伯が深雪のそばへ来ていて、涙を流す深雪をぎゅっ……と抱き締めた。
「……この間もそうやって、1人で完結しようとしましたよね」
「桐伯さ……んっ、んんっ……!」
 深雪の唇に、桐伯の唇が重ねられた。その時間はほんの10秒ほどだったろうか、しかしそれより長く感じられたかもしれない。
「知っていますか。叱ること、それだけが『怒り』ではないと……」
 意味深な言葉をつぶやく桐伯。2人の身体はそのまま、折り重なるようにして畳の上に倒れた。
 しばらくして――桐伯の部屋の明かりが、消えた。

【『蓬莱館』へようこそ・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全51場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした、『蓬莱館』での出来事のお話をここにお届けいたします。今回共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』の真実』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回プレイングを読んでいて思ったのは、直球ど真ん中ストライクなプレイングが結構あったかな……と。ひょっとして、高原の考えが読まれていたのでしょうか。
・九尾桐伯さん、ご参加ありがとうございました。全てのプレイングやその他要因などから判定した結果、このようになりました。で、地酒。ここからちょっと面白い情報に繋がっております、実は。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。