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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


赤根草
「どうでした?」
「もう少し時間があれば、お会いしたのに、との事ですけれど…今は忙しくて無理だそうです。その代わり、これを頂いてきましたので」
 依頼をした客を紹介して欲しいと言ったシリルの話を聞いてぱたぱたと駆け回っていた蓬莱が申し訳なさそうに頭を下げる。
「気にしないで下さい。絶対というわけではないんですから」
 義母への土産、というわけではないが――はっきり惚れ薬を貰ってきた等と言ったら怒られるのが当然だろうから――何も無いよりは、あった方がマシという考えの元、その依頼人に会わせて欲しいと蓬莱へ頼んでいたのだったが忙しくて断わられてしまったらしい。
 残念、と呟いたシリルの目の前にすっと差し出された紙を見て首を傾げかけ、そしてなるほど、と手を打った。
 蓬莱が差し出したのは一枚の名刺。その裏には走り書きで電話番号が書かれていた。どうやら依頼主の番号らしい、が…。
 名刺の表を見て、シリルが酷く不思議そうな顔をする。
「大学の、教授ですか」
「そうみたいですね。穏やかで良い方ですよ」
 蓬莱がまるで我が事のようににこにこと笑いながらこくんとシリルの言葉に頷いて返す。
「そんな人が…惚れ薬を?」
「私も始めは驚いたのですけれど…過去にこの旅館に泊まりに来てくださった方の血筋の方だそうです。その方も薬の調合が御上手だったそうで、その方の書いた情報を元にずっと材料を探していたそうですし」
 嬉しいですよね、そう蓬莱が言って軽く頬を染めた。幾つなのか知らないが、こういう時の蓬莱は女将と言うより見た目相応の歳の少女に見える。
「でも、お客様に会えないなんて…ごめんなさい。私がもっとしつこく頼んでいれば」
「いいんですよ。家に戻ってからじっくり電話をかけます。…それに、名刺をくれたということは、後で連絡して下さいということでしょう?」
「ええ、それはそうなのですけれど」
 まだ気になるのか、しきりに謝る様子を手で止め、
「大丈夫ですよ。私も今すぐにお会いしたいというわけではないんです。念のためですから」
「――どなたか、お使いになりたい方でもいらしたんですか?」
 ううん、とふるふる首を振りながらシリルが笑い、
「私に必要と言うわけではないんですよ。…ほら、良く言うじゃないですか、備えあれば〜って」
 シリルにとって大事な人だから、幸せになってもらいたい。
 そう思えばこその今回のお願いだったが、蓬莱に通じたかどうか。今もシリルの言葉の意味を探るように見ているが、やがて何か納得したのか判りました、と頷き。
「戻ってからお会いになれることを陰ながら祈っていますから」
「そんな、大袈裟な…駄目なら駄目でも構わないんですから」
 大袈裟と言われた蓬莱が小さく苦笑したのにも気付かないまま、もらった名刺を無くさないようにしっかりとポケットに仕舞ってその上からぽんと手で叩いた。
 きっといつかは必要になる。
 そう思いながら。

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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2409/柚木・シリル/女性/15/高校生】

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■         ライター通信          ■
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長い間お待たせしました。「赤根草・個人ノベル」をお届けします。

この物語は、共通ノベルで依頼を果たした後の話となっています。参加者それぞれの物語、共通ノベルと合わせて楽しんでいただければ幸いです。
個人ノベルには他のPCは絡ませていません。いたとしてもNPCのみです。従って、それぞれ違った物語となっていると思われます。宜しければチャンネルを切り替えるように読んで頂ければ、と思います。
こうしたイベントには初参加でしたが、楽しませていただきました。またの機会があれば是非参加させてもらいたいと思っています。
それでは、またの機会にお会いできることを願って。
間垣久実