コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


■■ 玲瓏の鈴 ■■



ミコを送った其の日、蓬莱館での自室に戻ったセレスティは、大きく息を吐いてゆっくりと壁に凭(もた)れ掛かった。
少女の鈴は見つかった。あの子は無事に、父親や母親と逢えただろうか。
大喜びして、上擦った声で何度も何度もお礼をしていた少女を思い出す。自然と、セレスティの口許が小さく緩んだ。

「こんばんわ」

ふと、そんな幼い声が振ってくる。セレスティはおや、と小さく首を傾げた。この声は確か、ミコのものではなかったか。そう思い、ぐるりと自分しか居ないはずの室内を見渡した。
こんばんわ、姿を現しても良いかな。もう一度、たどたどしい子供の声が聞こえた。幽霊だから私を吃驚させてはならないと思っているのだろうか。小さく微笑みながら、セレスティはどうぞ、と呟いた。

途端、透き通るような子供の身体が、そろりと空間から滲み出る。其れは直ぐに形を為し、セレスティの予想通り、小さな少女の形になった。

「こんばんわ、ミコ嬢。帰ったのではなかったのかい?」
「お礼が、したくて」

はにかんだように、少女幽霊は微笑んだ。くるりと空中で一回転して、ふわりと何も無い中空の其の場に腰掛ける。セレスティに向き直ると、えへへ、とまた、はにかんだようにミコは笑った。
中空から腰を下ろし、すい、と子供ながらに胸を張って背筋を伸ばす。ミコは自分の着物の裾をちょこんと摘み、小さな小さな礼をした。

「本当に、有難う。これでやっと、お父さんやお母さんとお空に行けるわ」

ミコはそう言うと、にっこりと花のように微笑んだ。生前はさぞ可愛らしい女の子だったのだろう。セレスティの頬は、ふわりと緩んだ。
ああ、そうだ。セレスティが思い出したように呟く。

「ミコ嬢、キミに聞きたいことがあるんです」
「なぁに?難しいお話じゃなければ、答えれると思うんだけど」

きょとんとした表情のミコは、小さく首を傾げてみせる。セレスティは其の頭を撫でてやろうと手を伸ばしたところで、彼女は幽霊なのだと思い出した。撫でられないな、と少々残念そうに腕を下ろす。

「キミは、鈴を持っていただろう。幽霊体のキミが、どうして実物の鈴を持てたんだい?」

セレスティが問うと、ミコはああそんなこと、と小さく微笑んだ。そして、自分の懐から、大事そうに何かを掴み出す。此れでしょう。ミコが差し出した掌にころりと転がっていたのは、確かに自分達が探していた鈴だった。
だが、つい数時間前の状態とは、少し違って見えた。半透明なのだ、要するに。数時間前は生身の自分達でも触れた実体の鈴だったというのに、彼女の手で気紛れにころりと転がる鈴は、彼女の身体と同じく半透明だった。

「つまりね、これは思いの欠片」
「思いの欠片?」

もう一度鈴を懐に押し込めながら、ミコはそう言った。鸚鵡(おうむ)返しにセレスティが聞き返す。

「そう。長い間をかけて思いを蓄積したものは、其の人をお空へ導く道標になってくれるの。其れは唯の物体であっても、私のような『導くべきもの』に対しては、ちゃぁんと道案内をしてくれるのよ」

ミコはそう言うと、ふわりと上空へ浮き上がった。
セレスティはそうか、と静かに頷く。そうして、緩く手を振った。ミコに、小さく手を振った。

「さようなら、有難う。……元気でね」

ミコは笑顔のままそう言うと、空気に滲むように消えていった。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物                  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

今回は私をご指名頂き、有難う御座いました。(礼

セレスティさん、占いはあのようなもので宜しかったのでしょうか・・・(汗
疑問がおありだったようですので、個人ノベルでは其方をお片付けさせて頂きました。
お楽しみ頂けましたら幸いで御座います。

また機会が在りましたら、宜しくお願い致します。(深々