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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


『蓬莱館』へようこそ
●貴様の芸を見せてみろ!【17】
 宴会は酒も入ったこともあり、次第にヒートアップしてゆく。乾杯と最初の1杯だけで部屋に戻った桐伯を覗き、まだまだ皆やる気十分といった様子であった。
「第467回チキチキ大隠し芸大会〜っ☆」
「いえーいっ!!」
「まーってましたぁっ!!」
 唐突にそんなことを言い出す雫に盛り上がるギャラリー。何が何だか分からぬうちに、各人による隠し芸の披露が始まった。
「1番! 拳を口の中に入れます! はいっ!」
「おおーっ!」
「2番! ヨガやります! ……っと、こらせ……いででででででででっ!!」
「あーっはっはっは、失敗してやんのーっ!」
「18番! 『鉄道唱歌』歌います!」
 何故そこで番号が飛ぶ。
 さらに歌おうとした矢先に、こんな野次が入ってきてしまった。
「ちょーっと待て! 『鉄道唱歌』何番まであると思ってんだーっ! 却下だ却下!」
 注:『鉄道唱歌』は東海道編だけでも66番まであります。
 ……とまあ、面白いような馬鹿馬鹿しいような隠し芸が続いてゆく。そのうちに、撫子が引っ張り出されてしまった。
「何やってくれるの〜?」
 期待に満ちた目で撫子を見る雫。とりあえず、何か芸をしないと席に戻れそうにはない。
(本当はこういう使い方はあれなのですけど……)
 撫子は何故か宴会場にあった林檎を見付けると、それを手に取ってこう告げた。
「では……この林檎を食べやすくしてご覧にいれます」
 まずは準備。撫子は足元に皿を1枚置いた。そして懐より鋼糸を取り出してみせる。
「いざ……」
 林檎を放り上げる撫子。鋼糸を持った手が瞬時に動いた。やがて林檎がそのまま皿の上に落ちてきた――かと思われた。
「うおーっ! すげーっ!!」
 何と林檎は皿の上に落ちるや否や、ばらりと綺麗に8つに分かれたではないか。
「すごーいっ☆ ねえねえ、どうやったの?」
 パチパチと大きな拍手をする雫。拍手喝采である。
「お粗末様でした」
 撫子は微笑みを浮かべ、ぺこんと頭を下げた。
「次、私やりまふ!」
 撫子に触発されたのか、入れ替わりに美紅が前に出てきた。さて、どんな芸を披露するつもりなのか。
「39番! 暗算やりまふ! そっひはら、順に1個るつ数字らしれってくらはい!」
 そう言い、美紅は端から順番に数字を聞いていった。デルフェスがその数字をメモしてゆく。
 やがて全員が数字を言い終わった所で美紅は少し思案し、答えを口にした。
「……4376れふ」
「合ってる?」
「4376、正解ですわ。美紅様お見事です」
 雫に聞かれたデルフェスは、にこり微笑み頷いた。これまた拍手喝采。
「今度はデルフェスさんれふ」
 美紅が次の演じ手にデルフェスを指名した。
「はい? わたくしはそんな、皆様の前で披露するような芸は……」
「いいからやっれくらさい!」
 美紅がデルフェスを強引に引っ張ってくる。少しの間デルフェスは困っていたようだったが、覚悟を決めたのか近くの膳の上から箸袋を取り上げた。
「ではわたくしは……この箸袋を石のように固くしてみせますわ」
 そう言い、両手でピンと箸袋を張るデルフェス。
「美紅様、どうぞお触りください」
 デルフェスに促され、美紅が箸袋に手を触れた。
「あっ……」
 箸袋を指先で叩く美紅。箸袋は曲がることもなく、コンコンと乾いた音を返していた。
「本当に固くらっれる!!」
「おおおーっ!!」
 またまた拍手喝采。そしてデルフェスはまた、美紅に箸袋を触れさせた。今度はぐにゃりと曲がる箸袋。
「すっげー!」
「あれ、どこにタネがあるのかな?」
 口々にそう言っているのが聞こえてくる。見ている限りではさっぱりタネが分からない。まあ、分からないのが当然なのだが……。
「はーい、次の人どうぞー☆」
 雫が次の演じ手を募る。
「……シジュウニバン……タクサンタベマス……」
 ぼそっとつぶやきが聞こえ、いつの間にやら宴会に紛れ込んでいたソネ子が、皆の手をつけていない料理を猛烈な勢いで食べ始めていた。
「うおおおおおおーっ!!」
 何故か拍手喝采。……どうやら酒が入って何でもよくなってきた者が大多数らしい。
 隠し芸大会はまだまだ終わりそうになかった。

●あなたがその職を選んだ理由【23C】
「美紅様、酔いの方は大丈夫ですか?」
「ふぁい……」
 デルフェスの問いかけに、美紅が力なく答えた。
「すぐ酔うんなら、飲まないといいのに」
 くすくすと笑って雫が言った。
「だって飲まないとマナミ刑事みたくなれないし……」
 唇を尖らせ言う美紅。苔の一念という言葉があるが、まさにこの美紅のことを示すのかもしれない。
 デルフェス、美紅、雫の3人は未だ宴会続く宴会場を抜け出し、『乙卯の湯』へ入りに来ていた。
 湯舟に浸かる3人の姿。半分酔いが抜け始めていた美紅にとっても、これがちょうどいい酔い覚ましになることだろう。
「そんなに、その刑事のマナミ様は素晴らしい方なのですか?」
 興味を抱いたデルフェスが美紅に尋ねる。
「うん! 私の憧れだもん。マナミ刑事が居なかったら、警察官になってなかっただろうし……」
 うっとりとする美紅。そこに雫が口を挟む。
「でもドラマだからねー。『あぶれる刑事』ってドラマがあったの、昔。よく再放送やってるけど。マナミ刑事って、やり方が過激なんだよ?」
 ……ドラマの刑事に憧れて、今も目標にしている現職刑事というのは、いったいどうなのであろうか。それも過激な手段を使う刑事で。
「そういえば、美紅様はまだ刑事に成り立てでしたわね。……気苦労など多くはないのですか?」
 少し心配そうに尋ねるデルフェス。すると美紅は雫と顔を見合わせて、苦笑いを浮かべた。
「んー……着任早々が大変だったから、少しの気苦労はもう大丈夫……かな?」
「あー、あの事件だよねー」
 うんうんと頷く雫。どうやら共通認識であるらしい。
「ふう……。そろそろ身体も洗おうかな」
 湯舟から上がろうとする美紅。するとデルフェスがそれに続こうとした。
「お背中お流ししますわ」
「あ、いいなー。あたしも後でお願いしまーす☆」
「はい、雫様」
 デルフェスがにっこりと微笑んだ。のんびりとした、和やかな時間が今は流れていた。そう、今は。

【『蓬莱館』へようこそ・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 2181 / 鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)
     / 女 / 19? / アンティークショップ・レンの店員 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全51場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした、『蓬莱館』での出来事のお話をここにお届けいたします。今回共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』の真実』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回プレイングを読んでいて思ったのは、直球ど真ん中ストライクなプレイングが結構あったかな……と。ひょっとして、高原の考えが読まれていたのでしょうか。
・鹿沼・デルフェスさん、ご参加ありがとうございました。雫や美紅についていたのは正解だったと思います。換石の術も的確だと思いました。美紅との交友は深まったと思いますよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。