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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


『蓬莱館』へようこそ
●あなたは誰?【7B】
「おっかしいなあ……教えられた通りに進んだのに」
 武人は『蓬莱館』館内を、まだうろうろと歩き回っていた。早合点したのは自分なのだから、杉並たちを発見出来なくて当然である。
「今度はあっち進んでみるか」
 それに、あちこちと場所を変えるのも問題であった。こういう場合、1度どこかで立ち止まり張った方が発見出来る確率は高くなるはずなのだが……何故気付かないのだろう。
 そうして、てくてくと歩き回る武人。やがて、とある曲り角で人とぶつかってしまった。
「あっ、すみません!」
「いいえ、どうぞお気になさらず」
 謝る武人に対し、ぶつかられた智恵美はにっこりと微笑んで言った。
「本当にすみませんでした!」
 武人はもう1度智恵美に謝ると、またきょろきょろと辺りを見回しながら歩き始めた。それを呼び止める智恵美。
「あの、もし?」
「はい?」
「何かお探しなんですか?」
「あ、えーっと……ちょっと人を」
 少し困った表情になりつつも、智恵美の質問に答える武人。
「お知り合いの方ですか? もしよろしければ、ご一緒にお探しいたしましょうか? これも神のご意志でしょうから」
 胸の前で、すっと両手を組む笑顔の智恵美。さすがシスターである。
「あ……いや、結構ですから……」
 困りつつも断る武人。まあ当然である。それからしばし、他愛もない会話を続ける2人。
「ところで――」
 今までの他愛もない会話の延長であるかのような口調のまま、智恵美がさらりと武人に尋ねた。
「IO2の方が何をされているのですか?」
「!!」
 一瞬にして武人の顔が強張った。
「あなた……どうしてそれを」
「あらあら、やっぱりそうでしたか」
 にっこり微笑む智恵美。武人はその笑顔を見て、『しまった!』といった表情を見せた。
「……どのような目的で来られたんです」
 智恵美が尋ねるが、武人は口を閉ざした。そんな武人をじっと見て、小さく頷く智恵美。
「甘い所はありますが、基本的なことはきちんと教育をされたようですね……。何にせよ、あまり周りに迷惑をかけないように、お仕事頑張ってくださいね」
 そう言って智恵美は武人の肩を軽くポンと叩くと、てくてくと離れていった。その後姿を見つめる武人。
「何者なんだ、あの人……」
 武人は怪訝な目を智恵美に向けていた。

●コネ【13B】
「……はあ、そうですか。派遣されたのは3人。その彼らはここを……」
 智恵美は公衆電話から、どこかに電話をかけていた。何故に公衆電話なのか、それは盗聴の可能性を避けてのことであった。
「今の所、動いているのは捜査官だけなんですね?」
 電話の相手に尋ねる智恵美。相手から『そうだ』とでも返ってきたのだろう、少しして智恵美が小さく頷いた。
「……いえ、それは関係なく。ただの好奇心ですから。それでは……どうもありがとうございました」
 智恵美は相手に礼を言うと、受話器を置いた。
(高峰所長が誘う訳ですね……)
 どうして誘いを受けたのか、合点した智恵美であった。

●だから、あなたは誰?【14C】
 『蓬莱館』の外。黒服の男2人が、未だ『蓬莱館』の様子を窺っていた。
「ホワイトルークより本部。時折男の悲鳴が聞こえるものの、現在まで大きな異常はなし。監視を続けます。どうぞ」
 男の1人が持っていた無線機でどこかに連絡をする。
「本……り……トルーク……解……のま……監視……」
「相変わらずのノイズだな」
 もう1人の男が呆れたように言った。
「ジャミングされているか、場所が場所だからか……だろう」
 無線の交信を終えた男が答えた。
「西船橋はちゃんとやってるんだろうな」
「あいつ、捜査官としての自覚があるのか? そもそも服務規程を何だと思ってるんだ」
「だがこういう場所ではそれが幸いしている。俺たちがうろついてみろ、すぐに警戒されるぞ」
「はは、間違いない」
 と、会話していた男たちだったが――。
「しっ! 誰か来たぞ」
「ああ……」
 気配を感じた男たちは懐に手をやり、気配の主を確かめようとした。すると、女性の声が聞こえてきた。
「こんばんは」
 現れたのはにこやかな表情をした智恵美であった。
「あなた方も温泉ですか?」
「…………」
「…………」
「こちらで何をされておられるんですか?」
「…………」
「…………」
 何も答えぬ男たち。もちろん手は懐にやったままである。明らかに警戒しているのだ。
「『蓬莱館』の監視は順調ですか?」
「!!」
 智恵美の言葉に、男の1人が懐の物を抜こうとした。が、もう1人の男に制止された。
「待て! あんた……何者だ」
「そうですねえ……通りすがりの情報屋と申しておきましょうか。単なる好奇心です」
 にっこり微笑む智恵美。
「……情報屋か。話すことはない、とっとと立ち去ってもらおうか。素直に従ってもらえないなら、我々もそれなりの行動は取らせてもらう」
「55点」
 脅しとしか聞こえない男の言葉。智恵美がぼそっとつぶやいた。
「ん?」
「いえ、こちらの話です。くれぐれも迷惑だけはかけぬようお仕事頑張ってください……では」
 智恵美はそう言い残すと、来た道をまた戻っていった。
「何だありゃ?」
「……さあな。しかし、どっかで見たような……あの女」
 男の1人が首を傾げた――。

●異変察知【29】
(……姿が見えなくなりましたね……)
 朝起きて、智恵美は『蓬莱館』の回りを歩いてみた。だが、昨日は居たはずのIO2捜査官2人の姿がどこにも見当たらない。
 引き上げたのだろうか。それともあるいは……?

【『蓬莱館』へようこそ・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 2390 / 隠岐・智恵美(おき・ちえみ)
               / 女 / 46 / 教会のシスター 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全51場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした、『蓬莱館』での出来事のお話をここにお届けいたします。今回共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』の真実』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回プレイングを読んでいて思ったのは、直球ど真ん中ストライクなプレイングが結構あったかな……と。ひょっとして、高原の考えが読まれていたのでしょうか。
・隠岐智恵美さん、ご参加ありがとうございました。今回のお話の裏サイド……という感じでしょうか、個別ノベルは。『蓬莱館』にはIO2が動くような何かがあるのでしょう、きっと。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。