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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


『蓬莱館』へようこそ
●陰陽五行【8B】
「ソレは楽しそうデスネー」
 駒子が猫を追う微笑ましい様子を頭に思い描いたのか、プリンキアからも笑顔が浮かんでいた。そんなプリンキアを、じーっと見つめる駒子。
「どうシマシタ?」
「……ぷーちゃんてさー、『よーせい』さんだけどやっぱ『おばさん』だよねー……」
 それを聞きプリンキアの表情が、ほんの一瞬強張ったような気がした。
「ナニカ言いマシタカ?」
 にっこりと、にっこりと微笑むプリンキア。怖い怖い、その微笑みが何だか怖い。
「んーん、こまこなにもいってないよ〜」
 駒子はすぐさま、にこぱっと笑顔で切り返す。無邪気さは、時としてナイフよりも槍よりも鋭かったりするいい例だ。
「……ソウいえば、Miss深雪はドウしまシタ?」
「みーちゃんおしごとでおくれるのー」
 話題を変えるかのように、深雪のことを尋ねるプリンキア。すると駒子は少ししゅんとした様子となった。
「What?」
「……こまこしんぱい〜。みーちゃんずっとげんきないんだよー。きゅーちゃんのしゃしんみて、こないだためいきしてたの、こまこみたもん。なんどもだよー」
「hmm……Mr.九尾トノことデスか?」
 プリンキアが聞き返すと、こくこく頷く駒子。
「なんとかしないと『あきたのばばさまたち』にもうしわけがたたないよ〜」
 じたばたじたばたじたばた。もどかし気にその場で暴れる駒子。それを見て、プリンキアは苦笑した。
「まァ、2人トもシャイですからネ。ンー、tooシャイシャイラヴァーズ……? 背中からノ後押しが必要なんでショウネー」
 恋愛話は、何故か当事者よりも周囲の者たちの方がよく知っているものである。まあ客観的に見られるからこそ、当事者が気付かぬ物も見えているのだろう。
「ぷーちゃん、『ごぎょーのき』わかるー?」
 駒子が不意に全く違う方面の話題を振ってきた。
「ゴギョー……? OH! 陰陽五行! チャイニーズの哲学デシタネ」
 一瞬首を傾げたプリンキアだったが、すぐに思い当たりパンと手を叩いた。
「みーちゃん、きづいてないんだよね〜」
 大きな溜息を吐く駒子。どうも違う話題などではなく、関係する話題だったようだ。プリンキアも思い当たる節があるのか、ちょっと思案してからこんなことを言い出した。
「確かニMr.にはファイアエレメント、Missにはウォーターエレメントの気配を強く感じマース。ナルホド……気付イテいないヨウデ、気付いてイルかもシレマセンネー」
 気付いていないようで気付いている。ありきたりかもしれないが、意味深な言葉。頭で分かっていなくとも、感覚的に分かることだって世の中にはたくさんある。
「『みず』のみーちゃんだからこそ、『ひ』のきゅーちゃんを『やけど』せずうけとめられるってことなのに〜」
「五行相剋の考エなら水剋火、水は火を剋ス……いわゆル打ち消し合ウ、相性がヨくなイ関係と言われマスからネ」
 駒子とプリンキアのつぶやきが重なった。が、2人とも同じようなことを言っているが、微妙に意味合いが違っていた。
 水と火の関係について駒子の言葉は肯定的、プリンキアの言葉は否定的な意味合いと言っていいだろう。これらの見方は表裏一体、どっちでもありどっちでもない。別の言い方をすれば、状況次第でどちらにも転びうるということだ。
 その、『どちらにも転びうる』ことを駒子の言葉を聞いたプリンキアは思い出した。
「AH……ソウでしタ。五行ダケじゃナいデス、陰陽五行デシタネ。陽の気ト陰の気ガ関係シマス。陰の気満チル場所なら打ち消し合ウダケかもしれマセンが……」
 一旦言葉を止め、ゆっくりと周囲を見回すプリンキア。そして笑みを浮かべ、満足げに頷いた。
「……ココなら安全でショウ」
「あー、ぷーちゃんもわかったのー?」
「オフコース。『蓬莱館』ハ常春の気候でシタから☆」
 ぱちんとウィンクするプリンキア。
「だよねー。『ほーらいかん』は『よー』よりなの、みちてるの、ほんとだよー☆」
 駒子もプリンキアのそばを、嬉しそうにぐるぐると回る。
「分かりマシタ」
 やがて、プリンキアが凄く嬉しそうにこう言った。
「そのヘンについては、ミーが責任を持っテ深雪に説明してあげマショー」
「ぷーちゃん、ありがとー☆」
 駒子がにこぱーとプリンキアに笑顔を見せた。

●駒子のお願い【9】
「おぃちゃんだっ!」
 フロントに居た十三は、その声に振り向いた。そしてそこに居た駒子を見て、ニカッと笑った。
「……っと、座敷童の嬢ちゃンか。どうしたい?」
「あのねー、ねこのぜーちゃんおいかけてたのー☆ おぃちゃん、ぜーちゃんしらない?」
「悪ィなァ、猫は見てねェンだ。黒い服のネズミはちらちら見かけッけどよ」
 へっ、と鼻で笑って玄関の方に目をやる十三。今はそこに誰も居ないが、きっと何者かが居た瞬間があったのであろう。
「おぃちゃん、ここではたらいてるの?」
「おう、ここの番頭だゼ」
 大嘘である。まあ十三にしてみれば冗談の範囲なのだろうが。
「ばんどーさん?」
「……そらァ、名古屋の方の元野球選手だァな。番頭だ、番頭。女将さンの次に偉い人ッてことよ」
「おぃちゃんすごーい! えらいんだねー☆」
 冗談を真に受けた駒子が、尊敬の眼差しを十三に向けていた。
「そっかー、えらいんだー……」
 その尊敬の眼差しが、次第に思案を含んだ物へ変わってゆく。当然十三がその変化に気付かないはずもなく。
「何か用か?」
「……あのねー」
 駒子は椅子の上に立ち、少し身を屈めた十三の耳にこう言った。
「もしきゅーちゃんもここにおよばれしてるんだったら、みーちゃんとおんなじおへやにできない?」
「は?」
 十三が駒子の言葉を飲み込むまで、若干の時間を必要とした。きっと別方面の用事を想定していたのだろう。だが、言葉を飲み込んでからの十三の反応は早かった。
「……そりゃー、出来ねェ訳じゃねーが。九尾の旦那もここに居るこッたし」
 そして辺りをきょろきょろ見回し、誰の姿もないことを確認して、駒子をフロントの隅へ連れていった。
「おねがい! おぃちゃんえらいひとなんでしょー?」
 じーっと十三を見つめる駒子。
 じーーっ。
 じーーーっ。
 じーーーーっ。
 じぃーーーーーっ。
「分かッた、分ァかッたから! 九尾の旦那にもよろしく頼まれたしなァ……」
「おぃちゃんありがとー☆」
 にこぱーと微笑む駒子。十三が視線に耐え切れなくなったので、駒子の勝ちである。
 で、駒子の視線に負けた十三がどういう行動に出たかというと……極めて単純。台帳の改竄である。
 改竄というと悪い印象があるが、やることは簡単。深雪の部屋の場所をこっそり書き換えるだけのことだ。
 単純かつ簡単な作業。すぐに終わるかと思われた。が、実際はそう上手くゆかなかった。
「かー! 元に戻ッてやがる!」
 そうなのだ、書き換えて数秒後に見てみると、台帳から書き換えた跡はすっかり消え失せ、書き換える前の状態に戻っていたのである。
 2度、3度と同じく試みる十三。しかし、その度に台帳は元に戻ってしまう。
「強制力かァ……? おい、何とか融通してくれよ。若い2人の男女の将来がかかッてんだ、頼む!」
 けれどもその十三の願いも虚しく、深雪の部屋を桐伯と同じにすることは出来なかった。
「チッ! 融通きかねェ野郎だ! 同じ部屋くらい、してやッてもいいだろうに……!」
 叩き付けるように筆ペンを置き、激しく舌打ちする十三。しかしこの瞬間、十三はあることに気付いた。
「うン……待ッた。同じ部屋にすると元に戻ンだよな。ならよォ……」
 十三はもう1度筆ペンをつかむと、改めて深雪の部屋の場所を書き直した。桐伯と同じ部屋ではなく、桐伯の隣の部屋へと。台帳は……元に戻ることはなかった。
「こいつァ役人か? どっか間が抜けてやがンな。ま……妥協の産物ッてェとこか」
 苦笑する十三。目標は達成出来なかったが、それでも極めて近付けることは出来た。
「おぃちゃんありがとー☆」
「いいッてことよ。さ、後は任せときな。きっちりお嬢を案内してやッから」
 礼を言う駒子に対し、十三はニカッと笑った。
「うん! じゃあこまこ、またぜーちゃんさがすねー。おぃちゃんもばんどーさんがんばってねー☆」
 十三に手を振ると、駒子はまたゼーエンを探してパタパタと駆けていった。
「番頭さんつッてンだがなァ……」
 結局駒子は、『番頭さん』ではなく『ばんどーさん』で覚えてしまったようである。

●ここはどこ?【10A】
「あ、ぜーちゃんだー!」
 ゼーエンを探していた駒子は、ようやくその姿を見付けることが出来た。ところがゼーエンは駒子の姿を見るや否や、タタッと走って逃げてしまう。
「まてー、ねこー☆」
 追いかける駒子、逃げるゼーエン。渡り廊下を越え、中庭を抜け、通路を走り、ぐるぐるぐると敷地内を追いかけっこ。
 そのうちにどこをどう来てしまったのか、駒子はへんてこな場所にやってきた。そこは暗く湿気のある、下に傾斜する洞窟のようであった。
「まてー、こまこがつかまえるよー」
 現在地など気にせず、目の前で逃げているゼーエンを追いかける駒子。やがて、ゼーエンがぴたっと足を止めた。
「つかまえたー☆」
 ようやく追い付き、駒子はゼーエンを捕まえた。ゼーエンも逃げようとはしなかった。
「……ここで何をしているんですか」
 その時、洞窟の奥より現れた者が居た。蓬莱である。
「こまこ、ぜーちゃんおいかけてたのー。あれ、ここどこー?」
 素直に答える駒子。この時ようやく、自分の居場所に気が付いたようであった。
「ああ……知らず知らずにここに来てしまったんですね。ここは危ないから出ましょうね」
 にこっと微笑み、駒子に優しく話しかける蓬莱。そしてゼーエンを抱えた駒子は、蓬莱に連れられて洞窟の外へ出てきたのだった。
 洞窟を出て、館内に戻ってきた2人と1匹。するとゼーエンを呼ぶ者が居た。
「ゼーエン」
 その女性の声を聞き、ゼーエンは駒子の腕の中からぴょこんと抜け出し、女性の所へ駆けていった。
「あ〜」
 追おうとする駒子。だがそれよりも早く、ゼーエンは女性――高峰の腕の中に入っていった。
 他の宿泊客同様、女性用浴衣姿の高峰。漂う神秘的な雰囲気ゆえだろうか、あるいは浴衣のデザインゆえか、仙女ぽく見えないこともない。主観の問題かもしれないが。
「あ、さーちゃんだ……」
 駒子がぼそっとつぶやいた。
「ゼーエンと遊んでくれていたのね。どうもありがとう。……行きましょう、ゼーエン」
 高峰は静かに駒子に礼を言うと、くるっと背を向けて歩き出した。
「ぜーちゃんまたね〜☆」
 ぶんぶんと手を振る駒子。その隣では蓬莱が腕を組み、深々と頭を下げていた。

●作戦成功?【28B】
「ぷーちゃんだっ! おはよー☆」
 館内を駆け回っていた駒子は、朝風呂に向かおうとしていたプリンキアを発見した。
「グッモーニン、Miss駒子☆」
「ありがとー、ぷーちゃん! みーちゃんもきゅーちゃんもげんきなのー☆」
 見たままをプリンキアに伝える駒子。それを聞いたプリンキアが、とても嬉し気な笑顔を見せた。
「OH! ソレはベリィナイス! ヨカったでスネー☆」
「よかったー。こまこほっとしたのー」
 にこぱっと微笑む駒子。
 でもしかし、複雑怪奇なのが男女の関係という物で……本当に喜んでいていいのでしょうか、ねえ?


【『蓬莱館』へようこそ・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0291 / 寒河江・駒子(さがえ・こまこ)
         / 女 / 幼稚園児? / 座敷童子(幼稚園児) 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全51場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした、『蓬莱館』での出来事のお話をここにお届けいたします。今回共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』の真実』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回プレイングを読んでいて思ったのは、直球ど真ん中ストライクなプレイングが結構あったかな……と。ひょっとして、高原の考えが読まれていたのでしょうか。
・寒河江駒子さん、ご参加ありがとうございました。えーっと、何故か不思議な情報がついていますが……気にしても、気にされなくとも結構です。何故そうなったのか、ちゃんと理由はあるのですけどね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。