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■■ 玲瓏の鈴 ■■
其の窓がこつこつと控えめに揺れたのは、瑠璃花が蓬莱館にて割り当てられた部屋に戻って、人心地ついた時だった。
瑠璃花は小さく首を傾げ、カーテンを開け、からりと窓を開ける。流れ込んできた夜の冷気に、思わず眉根を寄せて浴衣の上に羽織った上着の前をかき合わせた。先程までは歩き回って身体が熱いくらいだったというのに。
「どなた?」
見つからない人影に首を傾げたまま、瑠璃花はそう問うた。く、と首を伸ばして、其の侭きょろりと辺りを見回す。ふと、自分の頭上よりほんの少し高い場所から甲高い声が降ってきた。耳につくようなそういった類の甲高さではなく、子供特有の其れ。
「上だよ。此処、此処」
「まぁ、ミコさま!」
声に吊られて上空を仰ぐ。ふうわりと漂う霊を見て、瑠璃花は驚いたように瞳を瞬かせた。呼ばれたミコは何処かはにかんだように微笑んで、ふわりと瑠璃花の元へと舞い降りた。
瑠璃花は驚いたような、其れでいて嬉しそうな表情を見せる。先程帰ったばかりだと思った幽霊は、ちょこんと可愛らしくお辞儀をした。
「お礼、言いたかったの。鈴、どうも有難う」
蕩けるような笑みで、ミコはそう言った。瑠璃花も誘われるように、ふわりとした笑みを見せる。
二人で暫く微笑みあった後、嗚呼そう言えば、と瑠璃花が思い出したようにぱふん、と自分の胸の前で小さく手を叩いた。
「お別れに、聖歌を唄って差し上げようと思ったんですけれど、忘れていましたわ」
悪戯っぽい笑みでそう言うと、瑠璃花はきょとんとした表情のミコに、にっこりと微笑みかける。
すぅ、と息を吸うと、甘く冷たい夜の気温が瑠璃花の胸を満たした。其の侭、滑らかに唄を唄い始める。柔らかな声で綴られ始めた聖歌に、ミコは瞳をきらきらさせて其の様子をじぃ、と見つめた。
伸びやかな声だった。月明かりの下、窓枠に軽く手を掛けて綺麗な声で唄う少女は、まるで天使のようで。
唄う声は尾を引きながら消えていく。小さく腰を折って礼をした瑠璃花に、ミコは慌てて拍手をした。余りに綺麗で、見蕩れていた。時間が其処に存在していることすら、忘れてしまうくらい綺麗な唄。
拍手とはいえ、実体が無い為音はしなかったが、其れでもミコは一生懸命手を打ち鳴らした。
「……お父さまとお母さまに、やっと逢えますわね」
拍手が終わった後、瑠璃花は僅かな微笑を顔に燈したまま、優しくそう語りかけた。ミコは頷く。
「うん。……お唄、有難う。とっても綺麗だったよ」
「喜んでもらえて、光栄ですわ」
ミコの熱を含んだ言葉に、瑠璃花は嬉しそうにくすりと笑みを零す。ふわりと一段上の上空へ舞い上がったミコに、気をつけて、と瑠璃花は小さく声をかけた。そっと、其の小さく細い手を振る。
「もう迷子になっちゃ、駄目ですわよ?」
「大丈夫だよ」
ミコは力一杯頷くと、自分も小さく手を振り返した。ふわりと身を翻して、其の侭ふうわりふうわりと、月の掛かる夜空へと舞い上がっていった。
瑠璃花は其の後姿に、何度も何度も、其の姿が完全に闇夜に消えてしまうまで手を振っていた。
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■ 登場人物 ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1316 / 御影・瑠璃花 / 女性 / 11歳 / お嬢様・モデル】
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■ ライター通信 ■
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今回は私をご指名頂き、有難う御座いました。(礼
瑠璃花ちゃんは可愛く、そしてとても動かしやすいキャラでした。(笑
其れ故、お転婆にしないよう、かといって可笑しなキャラにならないよう頑張ったのですが・・・如何でしたか?
楽しんで頂ければ幸いです。
また機会が在りましたら、宜しくお願い致します。(深々
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