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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


赤根草
「ありがとう。――あれだけの量を一度に洗うと大変じゃない?良かったら手伝うわよ?」
「これも仕事ですから」
 大きな籐籠を手に、点々と汚れが飛んだ服を回収して回っている蓬莱がにこりとシュラインに笑いかける。
「偉いわねぇ。自分の所に来た仕事でさえ気乗りしない人も居るって言うのに」
 その籠の中に、きちんと折りたたんだ服を静かに入れながら言うと、くす、と悪戯っぽく笑い、
「私は仕事と生活の境目が無いですから」
 そう言いながら、御預かりしますと籠を持ち上げる。そしてシュラインの顔を見、
「――あ」
 一言呟いて、呟いた事にも気付いたのだろうか、口をもごもご動かしながら目を逸らすことも出来ずシュラインの顔――そのすぐ脇にひたりと目を当てている。
「どうかしたの?」
「その…髪の一部にも付いていたみたいです。どうなさいますか?落としましょうか?」
 シュラインから見て右、ひと房垂れ下がっている髪を持ち上げてみるとなるほど、下の一部が穂先に朱墨を含ませたように赤く染まっていた。
「気付かなかったわ」
 道理で温泉に入った時に何人かが不思議そうな顔で見ていたのか、と今更ながら納得する。メッシュを入れるにしても髪の毛の先だけというのも頷けないし、本当に朱墨だったにしても落ちる様子は無く。
「どうしようかしらね…」
 毛先を摘んで指先でくるくると回しながら、少し考える。
「害があれば別だけど、今はいいわ。何かあったら少し整髪してしまえばいいだけのことでしょ?」
「そうですね…その場所なら問題ないと思います」
「なら放置するわ。それにしてもこんな場所にまで飛んで来てたなんて…そう言えばアレはどうなったの?もう解体した?」
「お客様にお渡ししました。先程伺った時には、特に見当たりませんでしたが」
 …荷物にでもしたのだろうか?一瞬そんなことを考え、アレを持って帰ってきた時の大きさを思い返してまさか、と小さく呟き。
「それでは、明日朝にお返ししますので。何かありましたらまたお呼び下さい」
「ええ。ありがとう」
 よいしょっ、と大きな籠を抱えた蓬莱がその状態でぺこりと頭を下げて部屋を出て行った。
*****
 流石に試行錯誤したと言うだけはあり、翌朝配られたシュラインの服は何処にあの染みが付いていたのかと思う程綺麗になっていた。運んで来た蓬莱もいささか得意そうで、そして。
「此れは中に入っていたのですけれど」
 綺麗に畳まれたハンカチ一枚をす、っと差し出す。
「…あら?でもこれは…」
 確か白だった筈、と呟き――そして、顔を上げた。どことなく得意げな蓬莱の目と合う。
「もしかして染めたの?」
「分かりますか」
 服に付いていた時とは全く別な、淡い淡い穏やかな赤。それが布のあちこちに微妙な濃淡を見せながらほぼ均一に染められている。
「綺麗ね」
「染料としても役に立つんですよ」
 得意げに話す蓬莱に礼を言いつつ、それをそっと手に取る。
 色のせいか、それとも他の理由からか、手に取ったハンカチはほんのりと暖かい、ような気がした。

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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

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■         ライター通信          ■
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長い間お待たせしました。「赤根草・個人ノベル」をお届けします。

この物語は、共通ノベルで依頼を果たした後の話となっています。参加者それぞれの物語、共通ノベルと合わせて楽しんでいただければ幸いです。
個人ノベルには他のPCは絡ませていません。いたとしてもNPCのみです。従って、それぞれ違った物語となっていると思われます。宜しければチャンネルを切り替えるように読んで頂ければ、と思います。
こうしたイベントには初参加でしたが、楽しませていただきました。またの機会があれば是非参加させてもらいたいと思っています。
それでは、またの機会にお会いできることを願って。
間垣久実