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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


赤根草
「…此処に居るのも飽きたな」
 ロビーで寛いでいた英彦がそう呟くなり外へと視線を向ける。
 此処、というのがロビーを指すのか、それともこの旅館全体を指すのかそれは判らなかったが退屈を感じているというのだけは間違いないようだった。
 頼まれ事は果たし終えたし今すぐやらなければいけない事も無い。本を読むにも貸し出ししているわけでもなく、時間潰しの道具に乏しいこういった旅館は落ち着かないな、そんな事を考えながら立ち上がる気にもなれず深々と座ったソファの背もたれにゆっくりと寄りかかった。

 ざわざわと声が鳴る。
 その声にぱちりと目を開いた英彦が声のするほうを見ると、何やら人だかりが出来ていて面白そうに何かを見つめていた。その上を見ると、男湯と女湯という文字。どうやら温泉のようだ。
 そう言えば一緒に目的の品を探した後、一部屋分の温泉が入浴禁止になったらしいが、其処で何かあったのだろうか。
 これは良い暇潰しになるかもしれない、とひょいと身軽にソファから降りて足早に人だかりへ向かう。
「何かあったのか?」
 いきなり子供めいた姿の英彦から声をかけられて驚いたらしい1人がああ、と奥へ視線をもう一度投げてから少年を見下ろし、
「何やら三角関係らしいな」
 とくとくと、やたら嬉しそうに話し始めた。どうやら話の端々から想像するに、三角関係らしい、と言うことだけは想像が付く。
「しかしどうしてこんな場所で」
「浮気の現場を見つけられたんだとさ。それ以上の事は俺も知らないんだがね」
「そうか」
 ひと気のない所に愛人を連れて行ってゆっくりと風呂にでも浸かろうかと考えたその時、封印されたこの温泉に気付いたのだろう。中を見ても故障でもなさそうだし、人が入ってくる気使いもない。まさに絶好の…と思ったに違いない。
 だが、其処は絶好どころか、ある意味では最悪の場であった。
「おぉ。女が男に掴み掛かってるぞ」
「女も負けてないな、もう1人の女にかかっていった」
 …人数は3人のようだ。わざわざ解説してくれる男が居たお陰で状況が手に取るようにわかる。
 普通の三角関係のようだったが、雲行きがおかしくなって来たのはその後のこと。
「違うのよ!私が好きなのは……」
 突然、何を思ったのか女が恋人の男の手を振り切ってもう1人の女へとしがみ付いた。それに対する女も振り払うかと思いきや、がしっとその想いのたけを受け止めて抱き寄せる。
 納まらないのは男の方で、右も左も抱き寄せようとして2人から同時に足蹴にされてひっくり返ってしまった。
「――薬が散開すれば効果は切れるだろうが。その後どうなるかは…難しいところだな」
 ぽつりと呟いて、下で呆然と見上げている男を冷たい目で見下ろしながら口の中で小さく呟いていた。
 呼ぶ人があって来たのか、蓬莱が慌てて飛んできて周りの見物人を先ずこの場から距離を置かせ、その上で中でまだ取っ組み合いの喧嘩を続けている3人を外へと引きずり出して外の新鮮な空気を思い切り吸わせる。
 やがて、暫くして憑き物が落ちたようなきょとんとした表情の3人が、蓬莱に説明を受けて仰天し周りの人間にしきりに頭を下げていた。
 ――やれやれ。罪作りな事だ。
 風呂へ植物を持ち込んだことも、そのまま放置した事も今の騒動の原因になっている訳だから。
 ひょいと肩を竦めた英彦は、それでも3人に何か言うでなく、自体の収拾に当たっている蓬莱を手伝う事も無くその場を去った。
*****
 それから少しして再びあの場に戻ってきた英彦が見たモノは、蓬莱がやったのだろう、何重にも封を施され、入り口に『立ち入り禁止』の文字が貼り付けられた温泉の姿だった。


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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0555/夢崎・英彦/男性/16/探究者】

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■         ライター通信          ■
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長い間お待たせしました。「赤根草・個人ノベル」をお届けします。

この物語は、共通ノベルで依頼を果たした後の話となっています。参加者それぞれの物語、共通ノベルと合わせて楽しんでいただければ幸いです。
個人ノベルには他のPCは絡ませていません。いたとしてもNPCのみです。従って、それぞれ違った物語となっていると思われます。宜しければチャンネルを切り替えるように読んで頂ければ、と思います。
こうしたイベントには初参加でしたが、楽しませていただきました。またの機会があれば是非参加させてもらいたいと思っています。
それでは、またの機会にお会いできることを願って。
間垣久実