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■■ 玲瓏の鈴 ■■
蓬莱館に割り当てられた自室の扉を開けて電気を点けた圭織は、ほんの少し面食らった。何故なら明るく照らされた部屋の中央には、ふうわりふうわりと赤い着物の少女が漂っていたからだ。
圭織は後ろ手に扉を閉め、少しだけ首を傾げて彼女──つい数時間ほど前に送り出したばかりのミコに近寄った。
「貴女、還ったんじゃなかったの?」
「皆にお礼、したくて」
ミコははにかんだような、少女らしい笑みを浮かべて圭織の問いにそう答えた。
圭織は小さく息を吐き、やれやれとでも言いたげに、やんわりとした笑みを其の顔に浮かべる。温泉に入ったばかりで、まだしっとりと重く濡れている髪をかきあげ、ミコに向かって其の笑みを向けた。
「やっと、ご両親に会えるわね」
圭織の言葉に、ミコは満面の笑みを浮かべる。彼女が生身であれば、風を切る音が聞こえたであろう程、力強く首を縦に振った。
「うん!」
圭織は其の花のようなミコの笑顔に、そっと口許を綻ばせた。彼女の服装──彼女と同じく、空気に半分溶けかかった赤い色の其れ──死後ゆうに半世紀は経っているだろう。両親と逸(はぐ)れてしまったのはそんなに長い間ではないとは言え、この空間で独りぼっちだったのだ。其の笑顔の、何と美しいこと。
「ちゃんと、心配かけてごめんなさい、ってご両親に言うのよ」
少し顔を顰めて、諭すような言い聞かせるような口調で圭織はミコに言う。言われたミコは、こっくりと頷き、ちゃんと言うよ、と又はにかんで見せた。何年、何十年も彷徨っていたとはいえ、中身は子供に変わりは無い。微笑ましく思って、圭織は目元を緩める。
「きっと、貴女の元気な姿を見て、喜んでくれるわ」
「……そうかなぁ。怒ったり、してないかな?」
圭織の言葉に、少々不安げにミコは眉根を寄せた。圭織は小さく苦笑して、少しは怒ってるかもしれないわね、と付け足した。途端、先程まで輝いていたミコの表情は、風船が萎(しぼ)むように急速にくしゃり、と歪められた。
くすくすと喉奥から笑い声を漏らしながら、圭織はそっと其の顔を覗き込む。
「なぁに考えてるの。其れだけ心配されていたってことでしょう?」
元気出しなさい、と圭織は言葉を投げ掛ける。ミコは小さく頷くと、ふわりと彼女から離れ、部屋の真ん中、中空まで浮かび上がった。
「それじゃあ、行くね。まだご挨拶してない人、居るの」
「そう。……元気でね」
圭織が別れを惜しむように、ぽつりと別れの言葉を口にする。
ミコは小さく頷いて、貴女も、と口を動かした。
ゆらりと空気が掻き乱される感覚が部屋を包んだ瞬間、ミコの姿はぽっかりと其の場から抜け落ちていた。
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■ 登場人物 ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2313 / 来城・圭織 / 女性 / 27歳 / 弁護士】
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■ ライター通信 ■
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今回は私をご指名頂き、有難う御座いました。(礼
圭織さんは久遠さんとセット、ということで、思い切り動かしてみました。(笑
首を締めすぎ、とのご意見が出たらどうしようかと思っております・・が、書いている私は非常に愉しかったです。
少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。
また機会が在りましたら、宜しくお願い致します。(深々
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