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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


■■ 玲瓏の鈴 ■■



中空に漂っている彼女を見つけたのは、私の傍らを歩いていた巳影さんが先でした。
月明かりを背にして散歩と僅かな会話を楽しんでいた私達の目の前、幽霊である彼女──ミコは、何かを待っているように視線をぼんやりと彷徨わせていました。
隣をゆっくりと歩いていた巳影さんが覚束無げに足を踏み出し、彼女に声を掛けましたが、私は余りこの世ならざるものを好ましくは思えません。彼女から幽霊を遠ざけるように、私は巳影さんの前に足を踏み出しました。

「……何の用ですか」

私が踏み出したのを見て、幽霊はぴたりと此方へ浮かび寄る仕草を止めました。自分が招かれざる者であると認識したのでしょう、其の表情は泣き出しそうでした。還りなさいという言葉を発する前に、巳影さんが私の顔を覗き込みました。

「ごめんなさい、すぐに還るよ。……お礼が、きちんとしたかったの」

さっきは、鈴が戻ってきた嬉しさで、碌(ろく)にお礼が言えなかったから。恥ずかしいのか其れとも居心地が悪いのか、膝小僧を擦り合わせながら幽霊はそう呟きました。笑也さん、と自分の名前を呼ぶ声が、巳影さんから発せられます。

「笑也さん、大丈夫よ」
「……」

だけど私はまだ心配でした。強い力を持たない彼女が、幽霊に誑(たぶら)かされてはしまわないかと。だけど巳影さんの表情は必死で、私は道を開けました。僅かに表情を綻ばせ、幽霊を名を呼びながら、巳影さんは駆け寄っていきました。
彼女は安堵しているような、そうでないような複雑な表情浮かべたまま、此方をじぃっと見つめていました。私がちらりとその表情に目を走らせると、幽霊は申し訳なさそうに小さく会釈をしました。

「態々(わざわざ)お礼を言いに来てくれたんのですね?有難う」

巳影さんが微笑みかけながらそう言うと、私を警戒しているのか、そろりと彼女に近寄りながら幽霊は頷きました。幽霊が笑んだ顔はとても少女らしいもので──これが生来の姿なのだろう、と彼女の生き様を見出したような感覚に囚われました。

「二人とも、有難う。……えぇと、貴方の狛犬さんが、風を起こして見つけてくれたんだよね?」

狛犬、の言葉に私は少々面食らいました。何しろ、私に話題が振られるとは思っても居なかったのですから。幽霊の恐る恐るとした表情と、私の面食らったような表情が可笑しかったのでしょう。小さく巳影さんは笑みを零されました。
少々ばつがわるい思いをしながら、巳影さんの方をちらと見遣ります。彼女の瞳が細められ、唇がごめんなさいを綴るのを見、私の頬も視線と緩むのを感じました。

「ええ、そうです。……私の、狛犬の式神で」
「有難う」

私が答えると、幽霊は嬉しそうに私と巳影さん、両方に微笑みかけました。幽霊はす、と首を上げ、眼前の月を仰ぎ見ます。もうすぐ時間になってしまうから、そろそろ行くね。其の言葉を聞いた巳影さんが残念そうな表情をしたのでしょう、幽霊は少しだけ寂しげに微笑みました。

「お空には、お父さんとお母さんが居るから」

巳影さんはそっと頷き、私が見守る中、幽霊に静かに囁き掛けます。

「大事な物は、ぎゅって掴んでてね」

幽霊は力強く頷くと、ふうわり、夜風に攫われるようにして消えていきました。
彼女はちゃんと、空の上まで辿り着けるのだろうか。そんなことを思いながら、私は巳影さんと少しだけ、黙祷をしました。



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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2268 / 氷川・笑也 / 男性 / 17歳 / 高校生・能楽師】

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■         ライター通信          ■
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今回は私をご指名頂き、有難う御座いました。(礼

笑也さんはクールにかっこよく、とのイメージが私の中にありましたので、其れに沿うように仕上げてみました。
かと言って、冷血になりすぎないよう、ほのぼの感もほんの少し。(笑
如何でしたでしょうか?少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。

また機会が在りましたら、宜しくお願い致します。(深々