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行楽は如何ですか?《高峰温泉編》
「っかしーなー。おーいバーベキュー!!!!」
蓬莱館内部をうろつく金髪の少年の姿あり。鬼頭郡司である。
バーベキューとは人のあだ名でもなんでもなく、彼が今全力を上げて追い掛け回していた狐と狸のことだ。ちょこまかと逃げ惑う哀れな動物達を必死で追い掛け回していたが、向こうも命が比喩でなくかかっている。結局逃げられてしまった。
「ちえー、折角の獲物だったのによー」
とぼとぼと部屋に戻った郡司は、ふすまを開ける前にふんと鼻を利かせた。勿論比喩でなく。
「なんかいい匂いすんな」
そこで躊躇などしないのがある意味この一直線暴走褌雷鬼の美点である。嬉々として郡司はふすまをあけた。
「やっと念願の飯……」
滂沱の涙を流し、目の前の御前とおひつに手を合わせたのは高台寺孔志。届いている御前は郡司のを省いて四つ、おひつは丸々一つである。とはいえ他の面子はなにやら用があるようで席を外していたが。
「侘びし〜……まあ食えねえよかマシだよな」
荷物を置く間も惜しんで温泉に走り(落とし穴に落ち)期待した温泉は(女体の)桃源郷には遠く及ばず、対策会議中に褌雷鬼に楽しみにしていた食事を全部食べられてしまった。それを踏まえると一人で御前の前に付く侘しさなど如何ほどのものか。ある意味悟りの境地である高台寺孔志。
しかしかぱっとおひつを開けた瞬間、
「じゃーいっただっき……」
「あーずりいぞ! 俺も飯飯めしー!!!!」
その能天気な声に孔志は一切迷わず手にしていたおひつの蓋を郡司めがけて投げつけた。
数時間後の惨状は、戻ってきた他の三人がかぱりと口を開けるほどだったと言えばわかりやすいだろうか。
綺麗に平らげられた御前とおひつが部屋の隅に乱雑に積み上げられ、おかわりらしいおひつや御前が同じほどの量部屋の中に運び込まれている。開いている床には酒瓶がこれでもかとばかりに転がり、部屋の中は強い酒の臭気に満たされていた。
その中で褌雷鬼と、お気楽極楽軽薄店長は肩を組んで大声を張り上げている。勿論互いの肩に回っていない手には一升瓶装備だ。
「ぷはっ! 美味ぇ♪ へぇ、お前もイイ呑みっぷりだな! じゃんじゃん呑もうぜ!」
「いいかあ郡司よ〜く聞いとけ〜? 水中じゃんけんは危険だ、水中じゃんけんだけは危険なんだぜ! 俺はな、いとこが祭で掬った金魚入りビニール袋を、昼寝してる俺の顔の上に乗せ窒息しかけた。薄れる意識の中で見た金魚の尻尾が今も網膜から離れねえ〜。つまりそれっぽっちの水でも人間は溺れる、女にも金にも酒にも、どーせならいい女に溺れて弄ばれてみ……ういっく」
「なー何の話だっけ〜?」
「な〜俺結構モチモノには自信あんのよ? それが何でここで野郎とむさい酒……使いてえ!」
「ま〜ほら呑め呑め呑め呑め!!」
「お〜」
「おお! お前は漢だ! 軟弱な今のヤツらと違うぜ! なんつーんだ、昔ここらに居た……侍だっけ? アレだ! お前と俺は『恋侍』だ!」
「恋ならね〜ちゃんとしてえ〜」
「いとこは血が近すぎるから駄目なんだよな! ねーちゃんだと遠いのか?」
会話が全く成り立っていないのに何故か会話が続いている。酔っ払いの会話とはそもそもそういうものだが。
いつの間にやら『恋侍』とやらの誓いを立てた二人は翌朝にはすっかり仲良くなっていたと言う。
「あんまし記憶ねーんだけど。なんかすっきりした気がすんだよね」
後日温泉の感想を聞かれた孔志は周囲にそう語ったと言う。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2936 / 高台寺・孔志 / 男 / 27 / 花屋:独立営業は21歳から】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして、里子です。
今回はお待たせしてしまいまして申し訳ありません。
行楽は如何ですが特別編、毎度の事ながら阿呆な内容です。阿呆な内容なので書いてて非常に楽しかったですが。<待て待て
高台寺孔志さま。はじめまして。
とりあえず『恋侍』です。意味はわかりません。相手が美女だったら少しは様になったのかなとかどうでもいいことつらつら考えて見ました。
今回はありがとうございました。
また機会がありましたら、よろしくお願いします。
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