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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


水辺に浮かぶ二つの奏鳴曲(ソナタ)
〜Capitolo della stella.〈月の章〉

V-b

「はぁ、疲れましたねぇ、さすがに……、」
 怒涛の如くの、マイムマイム。周囲の激しい盛り上がりに、回を重ねる度に速くなる麗花の旋律。
 確かに、自分も自分で盛り上がっていたといえば盛り上がっていたのだが、終ってしまえば、どっと疲れが押し寄せてくる。
 しづごころなく、花の散るらむ――、どこかで聞いた事のある言葉を心の中に、そのままとさり、と腰掛ける。
 そのままユリウスは、空を、見上げた。
 ――先ほどまでの、舞踊の賑わいはどこへやら。一転静まり返った桜の園に聞え来るのは、夜半の森の、静かな囁きのみであった。
 息を、吐く。
 ああ、それにしても、
 ……疲れましたね。
「――ユリウス様?」
 もう歳でしょうかねぇ……、と、しみじみ心の中で呟いた時、不意に、視界にひょっこりと顔を現したのは、先ほどまで女性の霊が天へと帰るのを見送っていた、瑠璃花であった。
「はい?」
「いえ、お疲れのようですから……大丈夫ですの?」
「ええ、まぁ……」
 心配そうな表情で小首を傾げた瑠璃花へと、ユリウスは微笑を浮かべて見せる。
 懐から、いつものようにチョコレートを取り出して、
「明日麗花さんが寝かせてさえ下されば、大丈夫ですよ」
 銀紙を剥きかけ、あ、瑠璃花さんもお食べになります――? と、小さく問いかける。
 瑠璃花はありがとうございますわ、と、愛らしい微笑を返すと、
「――でもユリウス様、あまりお菓子ばかり食べていらっしゃると、御体に差し支えるのではありませんでして?」
 しかし再び、心配気な面持ちで付け加える。
 ――ユリウスにしてみれば、それは日常生活の中では、あまり経験した事の無い出来事であった。
 確かに日々、周囲からは、甘いものばかり食べていると健康に差し支えると、色々と注意はされているのだが、
 ……そんなに心配されたのは、いつぶりでしょうかねぇ。
 身の回りには、何かと厳しい人が多いのだ。
 ――と、
「どこにも行きません! もう帰ります!」
「まぁまぁ、そんな事は言わずに、折角ですから、今度は一緒に――、」
「散歩なんてしません! 冗談じゃないわ! もう寝るんだから……! ねぇ、瑠璃花ちゃん」
 向うの方から歩み寄って来たのは、相変わらず姦しく言葉を交わす、裕介と麗花とであった。
 麗花は、瑠璃花の傍につくなり、早速味方を見つけたわ! と言わんばかりにその手を取って、
「私は瑠璃花ちゃんと一緒に帰ります。田中さんは、そこの年寄りでも連れて帰って来て下さって結構ですから」
「「麗花さん……、」」
 つん、と言い放たれた麗花の言葉に、裕介とユリウスとが、同時にその名前を呼んだ。
 しかし麗花は答える事も無く、麗花の手を引き、さっさと宿へと歩みを向ける。
「行きましょう、瑠璃花ちゃん――あの二人に構っていたら、埒があかないもの」
「――そういえば、麗花様。宜しければこの後、一緒に温泉に参りませんか?」
 三人の様子に微笑んだ瑠璃花も、麗花に手を引かれるがままに、一緒になって歩き出す。
 くまのぬいぐるみを抱え直し、そうして問いかけ、麗花を見上げた。
「一緒に?」
「ええ、沢山踊って、少し疲れていると思いますの。ですから、露天風呂に入って、一緒に星でも見上げてのんびりと致しませんか?」
「……それは、良いわね」
 麗花としては、願ってもみなかった誘い。
 心から、微笑んで、
「勿論です! 今でしたら時間も遅いでしょうし、人もいないだろうから、」
「のんびりと、できそうですわね」
「ええ。それから、湯上りには、ホットミルクなど、飲みましょう? きっと、」
 きっと、
 ――言いかけて、一瞬だけ背後を、振り返る。
 溢れる桜の中差し込んでいるのは、天へと続く、月の光の細い銀道。
 先ほどまでは、この世とあの世とが交差していたその空間――持て余されるだけの寂しさが、ふわりふわりと舞っていた場所。
 あの方も――それに、他の幽霊さん達も、皆さん、
「良い夢見で、眠れますわ」
 きっと無事に、お帰りになって下さっていますわよね――。
 良い夢を。
 不意に、そんな事を思う。
「……瑠璃花ちゃん?」
「いいえ、何でもありませんの」
 首を振る。
 瑠璃花は再び麗花へと視線を戻すと、手を握る手に、ほんの少しだけ力を込めた。
 麗花も優しい瞳で、瑠璃花を見つめ返すと、
「それじゃあ、少し急ぎましょうか。後ろから変な人達、追いついてきちゃうものね」
 ――その時丁度、瑠璃花の耳にも、後ろの裕介とユリウスとの声音が聞こえて来ていた。
「先生っ! きちんと立って下さい!」
「いえだって、私、もう眠たくて……、」
「先生ってば! 寄りかからないで下さいよ!――ああ、麗花さん行ってしまうではありませんかっ!」
 思わず瑠璃花も、くすりと声をたてて笑ってしまう。
「麗花様、助けてさし上げないんですの?」
「そんな必要ありません! 二人ともお互いに自業自得なんだから……!」
「でも裕介様は、随分と麗花様の事を、慕っていらっしゃるようですわね」
「――慕ってるだなんて、そんな!」
 麗花は肩越しに裕介を一瞥すると、自分でも気付かぬうちに、その歩みを速めていた。
 自分でも、何かに満足できない様子で、じっと夜道の先を見据えながら、
「何かしらある度に、ああやってついて来るんだから……本当困った人よね、田中さんも……!」
 声音だけで、瑠璃花へと同意を求めて呟いた。



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            I caratteri. 〜登場人物
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<PC>

★ 御影 瑠璃花 〈Rurika Mikage〉
整理番号:1316 性別:女 年齢:11歳
職業:お嬢様・モデル

★ 田中 裕介 〈Yusuke Tanaka〉
整理番号:1098 性別:男 年齢:18歳
職業:孤児院のお手伝い兼何でも屋


<NPC>

☆ ユリウス・アレッサンドロ
性別:男 年齢:27歳
職業:枢機卿兼教皇庁公認エクソシスト

☆ 星月 麗花 〈Reika Hoshizuku〉
性別:女 年齢:19歳 
職業:見習いシスター兼死霊使い(ネクロマンサー)



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          Dalla scrivente. 〜ライター通信
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 まずは長々と、本当にお疲れ様でございました。
 今晩は、今宵はいかがお過ごしになっていますでしょうか。海月でございます。今回はご発注を頂きまして、本当にありがとうございました。まずは心よりお礼申し上げます。

 このお話の方は、前編後編の二編で構成させていただきました。この後半は、主に麗花の修行……と申しましょうか、そちらがある意味では軸となるはずでもあったのでございますが、何せ日々サボり癖が酷くなるどっかの誰かさんのせいで結局はカリキュラム(笑)も組まれていなかったようですから、そういう面では、どうだったのかなぁ、と、麗花に同情したくなるような気もあったりするのでございますが……。
 それでも、皆様色々とお気遣い下さりまして、麗花としましても、そういう面では非常に為になったのではないかな、と思われます。
 ちなみにユリウスは、フォークダンスの果てに疲れ果てて死にそうになってしまったようです。もうかなりの歳になりますのに、無理をするとこうなるのでございますね。……普段の酬いで、あるような気も致しますが。
 本編も含めまして、ここで明らかにされなかった部分も少々残ってはおりますが、そのところは、個別の方で、色々と明らかにさせていただいたつもりでおります。もし余力のある方がいらっしゃりましたらば、他の方の個別もお読み頂けますと幸いでございます。所々話が繋がる部分もある事と存じますので……。

 では、今回は、この辺で失礼致します。
 何かありましたら、ご遠慮なくテラコン等よりご連絡をよこしてやって下さいませ。

 またいつか、どこかでお会いできます事を祈りつつ――。


13 maggio 2004
Lina Umizuki