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百年に一度だけの夢■今はひとりの君たちと(〜共通ノベル合流前)
セレスティ・カーニンガムはアタッシュケースをぶら下げた部下の男を連れて歩いている。このアタッシュケースの中身はチェス一式やらトランプやらの類。事前に丁香紫に蓬莱に関する話を聞いていたセレスティは、これらの道具も持参して蓬莱館に来ていた。この蓬莱館、車椅子で動いても構わない構造ではあるようだが、色々と融通を考えてステッキに頼り自身の足で歩く事にセレスティは決めている。あまり長々と歩き回れはしないが、部下たちに目的の場所を探してもらったり蓬莱に聞いたりして自分の足で適宜動いた方が結局、楽らしいと思った為。…非常に広そうに見える建物だが、用のある場所は…何処もあまり遠くない。温泉にしろ遊技場にしろ、セレスティの望む場所はそれ程の負担を掛けずに向かう事が出来る。細かく考えれば、場所が一定ではないような疑念まで浮かぶ程。大雑把に考える限りは違和感や不自然の無い程度に、こちらの都合の良い場所が目的の場所になっている。
これもまた蓬莱館の不思議の一端か。
何となくそう思いつつ、セレスティは歩いている。…先程蓬莱嬢に温泉の場所を聞いたついでに、「ここに来る前に丁香紫君から話を聞いているのですが…御時間出来ましたら何かゲームでも致しませんか?」と声を掛けてみた訳で。一旦はきょとんとした顔をされたが、有難う御座いますと非常に朗らかに微笑みを向けられ、「では、カーニンガム様の都合の宜しい時にでも」指定されたロビーに向かっているところ。
カーニンガム様の都合の宜しい時にでも、との蓬莱の言い方が引っ掛かる事は引っ掛かるが、この蓬莱館の本質はそちら側なのかも知れないとセレスティは考えてみている。…即ち、行き過ぎなのではとこちらが心配したくなるくらいにとことん、御客様本意。御客様最優先。それは本来のサービスの方でも、その隙間の事であっても。言わばこの蓬莱館と言う『存在自体』がここに訪れる者をとても大切に思っているような、そんな印象がある。従業員らしい人の姿は蓬莱しか見かける事は無い。それでも特に不便は無さそうな辺りが、さすが高峰沙耶の誘う温泉だけの事はあるとも言えそうだ。
ともあれ、部下をひとり連れ、セレスティは歩いていたのだが…。
…そんな中廊下で、迷った風な小柄な人物と行き会った。
セレスティにすれば見知った相手。
当然、声を掛けてみる。…困っている風であるなら、余計に声を掛けないで済ます訳は無い。
「…どうなさいました? 真咲君?」
――だとは思ったのだが。
「?」
呼び掛けに振り返った、真咲君――真咲誠名だと思った相手は…ひとりの少女。
…確かに、真咲誠名にとても良く似た容貌をしてはいた。
が、明らかに『別人』…で。
「…あの?」
恐る恐ると言った風に少女がセレスティに問い返そうとする。
セレスティは失礼しました、と少女に告げた。
「ああ、すみません、人違い…のようです。…ですが君が何か困ってらっしゃる事は間違いない御様子。私で何か助けにはなりませんか?」
改めてそう進言する。
少女は途惑ったような顔を見上げセレスティを見た。
と。
その時。
「や、すみませんねカーニンガムさん。沙璃が御世話掛けまして」
セレスティの後ろから掛けられたのは憶えの無い低音。
但し、その口調だけは憶えがあって。
「…それと、ある意味では人違いでもありませんよ。外見さて置き『中身を見る方』なら別人と思うでしょうがね。…『こちら』でお会いする事があろうとは思いませんでした」
そう言いながら歩いてセレスティの正面まで来、にやりと笑い掛けてきたのは背の高い男。やや栗色がかった黒髪は短め。彫りの深い顔立ちに縁無しの眼鏡を掛けた…やっぱり見覚えの無い男。それなりに若そうだが、間違っても子供では無い印象。沙璃と呼ばれた少女の頭に、ぽんと大きな手を乗せている。しなやかな細く長い指に強靭そうな関節、肉厚の掌。…ピアニストか、もしくは拳銃でも操る事に慣れているかと思わせる手。兄か父親か。…いや、それにしては彼らは外見がまったく似ていない。だが、客観的に見てそんな雰囲気ではある。
が。
セレスティにするとまた違った見方も出来る訳で。
この『彼』の言う通り、セレスティは『中身を見る方』だから。
外見以外の要素で、その『男』が誰か、の察しが付いた。
「真咲…君ですか?」
「その通り。…びっくりしました?」
「…ええ。丁香紫君のお話を聞いていたので…ひょっとしたら…とは思っていたんですが」
まさか本当に、お会い出来るとは思いませんでした。
セレスティがそう言うと誠名は苦笑する。
「俺も御言経由でその話聞いて興味本意で来て見ただけなんですがね。…色々細かい条件付けはあるみたいなんですが、簡単に言うとどうも生者と死者の『区別』が無くなる空間でもあるらしいんすよ、ここ。…だからかわかりませんがここに来るなり、そこはお前の居場所じゃねぇ、とばかりに俺はこの子の身体から追っ飛ばされた訳で。それだけじゃなく気が付きゃこの子の身体の方にはどうやらこの子本人が入ってて、しかも実際生きてる時ゃまともに出歩けもしなかったみたいだってのに平然と立って元気に歩いてるし、俺の方も俺の方で気が付いたら生きてる時同様の格好でいるとなりゃ、どうせだからこのままで暫く居させてもらいましょうか。って事になりますよ。で、折角温泉宿でもあるのでついでに寛がせてもらってます」
誠名は苦笑しつつ自身の身体を指す。
蓬莱館の男物の浴衣。ちなみに上着は着ていない。そのせいもあり、余計に体格はわかりやすい。
…骨格からして確り男である。
当然ながら、『普段の』面影無し。
但しやっぱり表情や仕草等は、違和感無く『普段』通りで。
………………つまりは、確かに『真咲誠名』であるらしい。
一方のセレスティが誠名と思い呼び止めた少女、こちらも蓬莱館の…こちらは女物の浴衣を着ている。上着も帯も確り締めた状態で。…よく考えれば誠名にしては明らかな女物と言う時点で少々首を傾げるし、更に言えば格好がかっちりし過ぎとも言える。誠名はあまり御仕着せそのままと言うのは好まない。
またこの少女、髪は肩口辺りで切り揃えてある。印象が随分違うのは、そのせいもあるのかもしれない。
「では、こちらは…」
「…ええ。…死の際に、今の俺に身体をくれた子ですよ。名前は刑部沙璃」
さらりと。
「それは…」
改めてセレスティは少女――沙璃を見る。
沙璃の方も、誠名の知り合いと思ったか、セレスティに向けぺこりと会釈をし、初めましてと挨拶している。こちらこそとセレスティも返しつつ、ふと話を振ってみた。
「ところで、これからすぐ、何か予定はありますか?」
「…と、仰いますと?」
「私はこれから、蓬莱嬢のところに伺おうと思って部屋を出て来たところなんですよ。…真咲君と沙璃嬢の方に特に予定が無いようでしたら、宜しければ御一緒しませんか、とお誘いするつもりだったのですが」
人伝でも、丁香紫君のお話を聞いているのでしたら、この意味はわかりますよね?
「あ、良いですね。御一緒しましょう。…そーゆー意味で言や、この沙璃も凋の旦那ンとこの高比良やここの蓬莱嬢と似たような境遇だしね。ちょうど良い機会だ」
いいだろ? と誠名は沙璃を見下ろし微笑む。沙璃の方も誠名を見上げ、控えめに微笑み返し頷いていた。
そして、そーゆーの、人数多い方が楽しいでしょうしね? と誠名はセレスティに向き直り。
その顔は初めて見たと言うのに、確かに、しっくり来る。
…やはり、誠名にとってはその身体の方が、自然な姿であるようで。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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■整理番号/PC名
性別/年齢/職業
■PC
■1883/セレスティ・カーニンガム
男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い
■指定NPC
■真咲・誠名(しんざき・まな) ※異界にてNPC登録済
男/33歳/画廊経営・武器調達屋・怪奇系始末屋
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ライター通信
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深海残月です。
今回は発注を頂き有難う御座いました。
…それから今回、極個人的にスケジュールが凶悪な状況(汗)になってしまいましたので、
ライター通信は普段と比べ妙に簡略形で失礼致します。
誠名の本来の姿を、と言う事で、逆に誠名の身体の方の御本人もついでに登場しております。…その方が自然な気がしましたので。
ただひとつ注意事項として、異界は異界、それ以外はそれ以外で御座いますのでそこのところは御了承を。企画ものや限定ものは、世界観的には通常の東京怪談とカウントしています(基本的には)。即ち、刑部沙璃の名は異界では結構重要部分にありそうにも見えますが、同じ沙璃でも異界外では役割はまた変わってくるかもしれません。血縁等人間関係も、異界外では異界設定のあの通りとは限りません。
…但し、同一人物は同一人物です。
※また今回、今まで私がお渡し致しました色々なノベル&部屋に置いているサンプルが関連している部分も多くなってしまいましたので、参考までにそれらのノベルを上げておきます。
こちらの話も知っていると、今回の共通ノベルは色々深読み出来てまた面白いかもしれません。
「草間興信所:夜のお店にゃ危険がいっぱい」→暁闇が舞台。紫藤暁、間島崇之、谷中心司の関係です。
「草間興信所:腕に覚えは」→真咲誠名が草間興信所に依頼を持って来た話です。
「草間興信所:月下の凶縁」→真咲誠名の死亡時の状況関連。
「草間興信所:アルバイト募集(秘密厳守致します?)」→碧(我妻)&暁闇の面子関連。
「ゴーストネットOFF:迷い幽霊預ってます」→高比良弓月と凋叶棕の関係です。
「ゴーストネットOFF:死神さんのお手伝い」→高比良弓月と凋叶棕の関係、それから死神もここ。
「クリエーターズショップのサンプル:暖かい闇」→暁闇が舞台。間島が訪れると店内こうなると言う例です。
※真咲御言に関してはこれらすべてに出てまして、密かに何処でも関連してます(出る機会が多いです)
…取り敢えずこんなもので。
では、失礼致します。
深海残月 拝
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