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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


百年に一度だけの夢■無意識下での僅かな邂逅(〜共通ノベルより分離)


「…すみません」
「いえ、無理してまでお願いするような事じゃないですから。皆さんの御好意、たくさん頂いてますしね」
 今回は、今までにも増してとっても賑やかだって喜んでらっしゃいましたよ。
「…蓬莱さんや丁香紫さんの尺度でも、そんなに珍しい事なんですか?」
「ええ。…瀬名さんや美都さんに会う前…今までは、丁香紫さんは一切人間を頼ろうとしなかった訳ですからね。今回のように客人が仕事抜きの用事で蓬莱さんに話し掛けてくるような事も無かったと思いますよ」
 丁香紫さん辺りが予め客人に声でも掛けて無い限り、客人にとっては蓬莱さんはただの『温泉宿の若女将』、ってところな訳でしょうから。
 一緒に遊んで楽しもう、って対象にはされなかったでしょうね、確かに。
「…」
「汐耶さん?」
「………………あ、すみません」
 やはり反応が鈍い。
 御言は静かに汐耶のその顔を見上げる。
「…大丈夫ですか?」
「はい。やっぱり部屋で休んでようと思います」
 汐耶は苦笑する。…その顔にも何処と無く力が無い。
 と。


 ………………自分で確り制御出来ていても、結局それで倒れてたら世話無いわよ?


 声がした…気がした。
 思わず汐耶は足を止める。
 きょろきょろと辺りを見回す。
 同行している御言も何となく周囲を窺っている。…とは言え、こちらの彼が感じたのも、決して危険な雰囲気では無かった。何事か自分が行動し、言うべき必要も見付からない。
 …むしろ。
 御言は汐耶をそれとなく見直した。


「…本当、に?」
 思わずと言った感じで汐耶がぽつりと呟く。
 …彼女には聞こえたその声に、間違いようのない憶えがあるようで。
『…本当かどうかは貴女が決める事。ま、『ここ』ではどちらでも大差無いそうだけど』
 先程までよりはっきり、その声が届く。
 大人の女性の声。
 それは、汐耶にとって姉のような存在だった、相手の声。
「そう…ですね。そんなお話、あったんですよね」
 汐耶は自分に言い聞かせる。
 …『二度と逢えないけれど逢いたい人』。その話は知っていた。けれど、他のひとの事ばかり考えていた。
 自分の事など、忘れていた。
 それでも。
 確かに、逢えるものなら逢いたい――無意識下で、思わない訳は無い。
 自分の為に消滅してしまった『彼女』。
 …過去に、汐耶の能力の暴走を抑える為、に。
 明らかにその存在、そのものだと思える『彼女』に、汐耶はふと瞳を和らげる。
 あの頃と、同じように声を掛けてくる。
「びっくりしました」
『予想してたんじゃないかって思ってたけど?』
 くすくすと笑う気配。
「…かも、しれません」
 ふわりと笑む。
 懐かしい気配と口調。その声。
 姿は無くともすぐわかる。
 …あの瞬間まで、ずっと私を気遣っていてくれた、側に居てくれた、『彼女』。
「そう言えば、ひとつだけ言いたい事があったんです」
『?』
「ごめんなさい。…それから…有難う御座いました」
 そんな汐耶の科白に、少し、びっくりしたような『彼女』の気配がした。
 汐耶が続ける。
「伝えたくとも、我に帰ったその時にはもう、貴女は消えてしまっていて…何も謝れなかったし、お礼も言えなかったから…」
 儚い笑みを見せる汐耶。
『良いのよそんな事。あの時は、貴女は無事だったんだから。…そうね、あの時他ならない私が助けた貴女が今そうやって能力使って無理をして身体壊しかかってる、ってのは許せないわね?』
 やや悪戯っぽくそう告げる『彼女』。
 対し、ごめんなさい、今度から気を付けますね、と素直に謝る汐耶。
 …直後。
 無理と言う言葉通り…と言うか何と言うか。
 汐耶が。
 くらりと――よろけて。
 …ひどく懐かしい『この相手』に逢った故か、そろそろ本格的に気が抜けたのかもしれない。
 そんな風で。
「あまり、無理はなさらないで下さいね…本当に」
 倒れ込みそうになった汐耶を咄嗟に支え、受け止めた状態で御言は苦笑する。
「…お休みに来て、余計疲れてしまっては元も子もないんですから」
「あぁ…っと、す、すみません…っ」
 少し慌てる汐耶。
 いいえ、と御言は緩く頭を振る。


 ………………そもそも、ただでさえ、この蓬莱館は。
 ほんの僅かずつであるとは言え、『人の生気や霊気の類を借りて、存続している』と言えるのだから。
 だからこそ、高峰さんも皆を招いた。
 丁香紫も凋叶棕も、あまり誤魔化しの利かない相手、元々知っていて納得済みの相手には、正直に話して協力を頼み、その上で行ってあげてと背を押していた。…ちなみに御言もそのクチである。つまり、色々裏事情も予め聞いていて、その上で来ていたりする。得意とする武術故か生来の性質か、仙人さんたち曰くこの御言、『氣』の質も良い上内包量も多いらしく、呼び付けるには蓬莱館的にも都合の良い相手だったらしい。
 …まぁ、普通の方々…特に元気溌剌な若人の場合には何の説明も無くて構わないと判断されていたようだが。…それで特に害も無い訳なので。…本来ならば。
 過剰なところや充足しているところから頂き、足りていないところに回す。言わば、それぞれの個体の持つ生気の量がプラス側に判断されれば奪われて、マイナス側に判断されれば与えられる。仲介するその合間で蓬莱館自体の維持の為の『氣』も拝借して貯える。…それが、『心』と言う要素を横に置いておいた場合の、この蓬莱館の基本的なシステム…のような感じで。
 だから、その代わりにお客様には最高のもてなしを。


 ………………ちょうどボーダーラインだったようですね、汐耶さんの状態は。
 だから、蓬莱館の方で…『加減』を少々間違えた。
 まぁ、ここまでお疲れの様子では…これから後は間違いなくマイナス側に判断されるでしょうから、すぐに元通り、回復なさると思いますが。
「汐耶さんは大丈夫ですから。…どうぞ、御安心下さい」
 …この人は俺が守ります。
 と、御言はその汐耶と対話していた『意識』、に向けて話し掛ける。
 その『意識』の方も、倒れ掛かった汐耶を見てか、何処と無く気遣わしげな気配になっている。
 声からして、大人の女性。…少なくとも、そう思える存在。
 汐耶の反応と、『彼女』の方の態度からして、この『彼女』は、きっと…ずっと。
 汐耶を、見守っていた。
 …この場でしか声を掛けられなくなって――即ち、側に居られなくなってからも。


『彼女』は。
 暫くの後、そう。だったら…頼むわよ、と、何処か暖かい笑みを含んだ、けれどきっぱりした口調で御言に告げたかと思うと――気配が掻き消える。
 …直後、何も無かった気がするそこから地にとさりと落ちたのは――古めかしい一冊の本で。


 今の女性の気配と声はその本の化身――九十九神であったと、改めて、御言にも知らされた。


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

 ■1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)
 女/23歳/都立図書館司書

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          ライター通信
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 深海残月です。
 今回は発注を頂き有難う御座いました。
 …それから今回、極個人的にスケジュールが凶悪な状況(汗)になってしまいましたので、
 ライター通信は普段と比べ妙に簡略形で失礼致します。

 個別ノベルはやや砂糖化の様相が仄見えます(汗)
 いえ、真咲御言なんですが、お任せと言われましても名前が出された以上一応居た方が良いのかと…(笑)
 で、そうなると…ふらふら気味なのを放っとけはしないだろうなあと思いまして…。
 取り敢えず『狼』にだけはならないと思いますが(爆)
 また、九十九神さんの存在が、当方NPCのエルに懐いた理由とも…とのお話でしたので、少し似た雰囲気だったのだろうかと判断してみました。
 それから、御指定頂いた当方NPCである「件の死神」の方は共通ノベルの方だけでちらりと登場しましたので、こちらの登場人物欄には記載してません。


 ※また今回、今まで私がお渡し致しました色々なノベル&部屋に置いているサンプルが関連している部分も多くなってしまいましたので、参考までにそれらのノベルを上げておきます。
 こちらの話も知っていると、今回の共通ノベルは色々深読み出来てまた面白いかもしれません。

「草間興信所:夜のお店にゃ危険がいっぱい」→暁闇が舞台。紫藤暁、間島崇之、谷中心司の関係です。
「草間興信所:腕に覚えは」→真咲誠名が草間興信所に依頼を持って来た話です。
「草間興信所:月下の凶縁」→真咲誠名の死亡時の状況関連。
「草間興信所:アルバイト募集(秘密厳守致します?)」→碧(我妻)&暁闇の面子関連。
「ゴーストネットOFF:迷い幽霊預ってます」→高比良弓月と凋叶棕の関係です。
「ゴーストネットOFF:死神さんのお手伝い」→高比良弓月と凋叶棕の関係、それから死神もここ。
「クリエーターズショップのサンプル:暖かい闇」→暁闇が舞台。間島が訪れると店内こうなると言う例です。
 ※真咲御言に関してはこれらすべてに出てまして、密かに何処でも関連してます(出る機会が多いです)

 …取り敢えずこんなもので。
 では、失礼致します。


 深海残月 拝