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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


キラキラ





「温泉は楽しんでいるかしら」

 ――蓬莱館の一室。
 古びた中華風の家具が揃うその部屋に、翼は高峰沙耶と共にいた。
 翼は蓬莱館に戻った後、浴衣に着替えていた。紺のラインのその浴衣は翼の高い身長をいっそうすらりと見せており、沙耶は笑う。
「よくお似合いだこと」
「そんなことより」
翼は無理やり会話を断ち切り、沙耶の方へと一歩詰め寄る。
「話があって来ました。よろしいですか」
「……何かしら」
「蓬莱嬢の逃避行に僕を同行させたのは、貴方の意思ですか」
 沈黙。
 沙耶の膝に丸くなる黒猫が、その細い光彩をじっと翼に向けている。
「僕は……ずっと恐れていた。この体に流れる血が、新たな敵を呼び寄せることを」
その整った顔を歪め、翼は苦しげに俯く。
「どんなに忘れようとしても……何時の時も僕は、僕自身の運命を思い知らされる。
幾ら嫌っても僕は、あの父の血を引いているから」


 ……なぜ、あのようなことを言ってしまったのか、と思う。
蓬莱と共にいる時、翼はこう言ったのだ。「子犬を治す方法ならある」と。
 今思えば、我ながら浅はかな言葉だった。
自然の理を犯し、不老不死の円環に閉じ込めるなど……こんな苦しみは、自分だけで充分だというのに。


「『誰か一人のために』と言ったわね、あなたは」
「……やはり見ていたのですか」
翼の言葉に含まれた棘は、一見沙耶に何のダメージを与えていないように見える。
「それは、あなた自身のことね」

 返事がないのは、この時肯定を意味している。
 沙耶は怪しげな笑みを漏らした。
「よろしいこと」
「……どういう意味ですか」
「言葉の通り。よろしいのでなくて? その言葉は、あなたの優しさであり、また迷いがあった証拠。……苦しみなさい、そして惑いなさい。
それを乗り越えた時、きっと未知の力が目覚めるはず」
 睨みあっていた二人だったが、ふっと沙耶がその視線をずらした。
「私は確認したかった。あなたがあの時、その『血』の力を使うかどうかを。
……見事、あなたは私の期待に応えてくれた。
あの時力を使っていたなら……ふふ、もしかしたら恐ろしいことになっていたかもしれないわね」

 膝の黒猫が一声鳴いた。
 牙の合間から覗く、目に鮮やかな赤い舌。
「やはり、あなたに同行していただいたのは正しかった。
いえ、あなただけではなく他の皆もまた、必然であり運命」

 沙耶の膝から、黒猫が音もなく床に降り立った。
 それに一瞬遅れて沙耶が立ち上がる。
 ――彼女もまた、猫のようだ。翼はそう思った。
猫のように、音もなく翼に歩み寄ると、柔らかな仕草で翼の顔のラインに触れる。
黒く塗られた彼女の爪が妖しく翼の頬を滑った。
 そして紅に光る唇が間近に迫り、翼の耳元で小さく囁いた。
「今日この日の事を、お忘れなきよう」
「あなたは……僕がどうなることをお望みなんですか。
父の血に覚醒することを? それとも母の力を引き継ぐことを?」


 返事はない。
 沙耶はそのまま翼の横をすり抜けると、部屋を出て行った。
 背後で扉の閉まる音。一人取り残された翼は、拳をぎゅっと握り締め、呟いた。
「僕は……」


 言葉にならない想いに、返事はなかった。






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■   登場人物                  ■
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【2863 / 蒼王翼 / 女 / 16歳 / F1レーサー兼闇の狩人】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、つなみです。この度は発注いただき誠にありがとうございました。

実は今回、私にとって初の多人数ゲームノベルでした。
そして図らずも、発注していただいた方々が「これは」と唸る方々ばかりで……!
口幅ったい言い方ながらも、「この話を書く為に集まってくださった方々だなあ」と思ってしまいました(笑)

今回は皆様のキャラクターに助けられた部分が大きいと思います。
本当にありがとうございました。
ライターとしては、せっかくのこの魅力を殺さないよう、精一杯努めさせていただいたつもりです。

翼さんには今回蓬莱嬢のサポートを勤めていただきました。
翼さん自身の秘めた優しさやその力ゆえの迷いなどを上手く表現したいな、と思いながら執筆しましたが、さていかがでしたでしょうか?

もしまた機会がありましたら、ぜひお立ち寄り下さいませ。
ご意見ご感想ありましたら、お寄せいただけると嬉しいです。
それでは、またお会いできることを願っております。つなみりょうでした。