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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


眠り姫が目覚める瞬間

オープニング

「この娘を助けて下さい」
 草間興信所にやってきた女性は突然呟いた。
 手渡された写真を見ると、病院のような場所で眠っている女の子が写っていた。
「助けて、というと?」
「この娘の名前はルナ。今年で18になります。私の娘です。ルナの兄、秀臣が10年前に交通事故で死んでからずっと眠ったままなのです」
 女性の話を聞くと、秀臣が事故で死んだ次の日から今日まで10年間ずっと眠り続けているのだという。
「何が原因で?」
「それは…分からないんです。眠る直前に《お母さん、ごめんなさい》と一言言っただけで…」
 あの子に何があったのか…と泣き出す女性に草間武彦は困ったように頭を掻く。
「今まで色々な先生方に診てもらいましたが目覚める気配がありません。最後の希望でここを訪れたのです」
 女性が言うにはこのまま眠り続けたままだといずれ死んでしまうと医者にも宣告されたらしい。
「ルナまでいなくなったら…私は…」
 女性はまたもや泣き出す。
「とりあえず、その娘を目覚めさせる事が出来るかはわからないが、誰かをそちらに行かせる事にする」
「あ、ありがとうございます!」
 女性は何度も丁寧にお辞儀をして草間興信所を後にした。
「兄の事故死の後から眠り続ける娘、か」
 何か兄の事故死と関係がありそうだなと草間武彦は呟いた。


視点⇒ベル・アッシュ

 十年も眠り続ける少女の話を草間武彦から聞かされた。
「さながら白雪姫ってトコね」
 ベルが呟く。とりあえず、何か胸につかえている…つまりは林檎の芯のようなものを吐き出させないといけない。
「何かしら見返りがあれば上々なんだけど…」
 ベルは溜め息を漏らしながら、退屈そうに言う。それを見て草間武彦は苦笑いをしている。
「そういえば、寝てるだけ?」
「ん?あぁ、話によれば昏々と眠り続けているらしいな」
 草間武彦は新聞を読みながら返事を返す。
「そぉ、死んで詫びるほどじゃなかったのね。寝てるだけなら」
 そう言ってベルは席を立つ。どこへ?と草間武彦が問いかけてくる。
「依頼解決、一応受けた仕事だしね」
 そう悪戯っぽく笑ってベルは草間興信所を後にした。


「さて、ここか」
 ベルがあれから向かったのは病院。依頼書によればこの病院に眠り続ける少女、ルナがいるらしい。見舞いを装って受付で病室を聞くと、三階の奥の部屋だといわれたので、目的の場所へと向かう。
「この部屋ね」
 言われたとおりの部屋に来て、一応ノックをする。すると、中から「どちらさまですか?」という女性の声が聞こえてくる。
「あー…草間興信所から来たんだけどー…」
 草間興信所、という言葉に中から慌てて女性が出てきた。
「あ、貴方が…ルナを助けてくれるんですか…?」
 出てきた女性は酷くやつれていた。恐らくまともに食事も、睡眠すらも最低限しか取っていないのだろう。
「えーと、あんたが依頼をしてきた人?ここはあたしに任せてちょっと出ててもらえるかしら?」
 ベルがそう言うと女性は「…よろしくお願いします」といって病室を後にした。
「さて、はじめるかな」
 ベルが病室に入ると一人の少女が色々な機械に囲まれて眠っている姿が目に入った。
「あんたの出番よ、夢喰い」
 ベルが夢喰いを出現させて、ルナの心の中に干渉させる。ベル自身にはルナの心を覗く事は出来なくとも、夢喰いを通してなら見えるはず。何がルナを縛り付けているのかを垣間見る。
『ごめんなさい、お兄ちゃん、ごめんなさい』
 ひたすら謝り続ける少女にベルが話しかける。
「何を謝っているのかしら、お嬢ちゃんは」
「誰?私は…お兄ちゃんに謝ってるの…。私がお兄ちゃんを殺したんだから…」
「コロシタ?」
 ルナの言葉に眉間にしわを寄せてベルが問う。ルナの話を聞けば、十年前に些細な事で喧嘩をして、ルナが秀臣の気に入っていたボールを窓から投げてしまったのだとか。それを取りにいった時に車に撥ねられてしまったのだという。
「だから私は生きちゃいけない…そこにいるお兄ちゃんが許してくれないから…」
 ルナは悲しそうにつぶやいた後にベルの後ろを指差す。そこに立っていたのは血まみれでルナを恨めしそうに睨む少年。ベルが何の気配も感じなかったところを見ると、実態ではなく、ルナの罪悪感が作り出した虚像だろう。
「あんた、惨めね。死んだ人間にこんなに振り回されて。一日中寝ていることが許されるのは赤ん坊と老人だけよ、寝たきりになるには少し早すぎるんじゃない?」
 ベルがそう言うと、ルナはただ黙りこくる。
「あんたのお母ちゃんはあんなに痩せこけちゃって、甘えてるんだか、甘やかされてるんだか知らないけどさ、死んだ人間は死後の世界、生きてるあんたは現世に戻って歯車の一部になるのよ、これならまだ歯車回して社会を退廃させていく人間の方がずっと素敵だわ。自分一人位何もしなくていいって思うのは最悪よ?」
 ベルが少し笑いながら言うと、パシンと渇いた音が病室に響いた。
「あんたに何が分かるのよ!」
 ルナが突然叫びだす。ベルは頬を叩こうとしたルナの手を握り、叩かれるのを免れる。
「オハヨウ」
 ルナがハッとして回りを見渡す。
「あんたを縛っていたのは他の誰でもない、あんた自身。あんたのお兄ちゃんの気配なんて全然感じなかったもの。あんたがこれからどうするのかは知らないけど、まずは心配をかけた親に謝るのが最初なんじゃないの?」
 ベルの言葉にルナは許してくれない、とか細い声で呟く。
「そこまでは面倒見切れないわよ、いい加減他力本願はやめて自分の手で行動したら?」
「私は…っ!」
 他力本願なんかしてない、といいかけてルナは口を閉ざした。
「あんたが十年も眠り続けたのはあんたが弱かったから。死んだ秀臣とかのせいじゃない。あんたが本当のことを言う勇気がなかったせいでしょ」
 切りつけるようなベルの冷たい言い方にルナは目に涙を溜める。
「あたしに食ってかかってきたんだから度胸はあるでしょ。頑張ってみれば?まぁ。あたしの知った事じゃないけどね」
 それだけ言い残しベルは病室を後にした。病室の外に出ると、先ほどの女性が立っていた。
「…ありがとうございました…」
 そう言って女性は丁寧に頭を下げる。
 これからあの家族がどうなるかは分からないけれど、きっと今まで以上の強い絆で結ばれる事には間違いはないだろうと思う。
「それより…」
 あたしの今回の代価はどうなってるわけー…と小さな溜め息を漏らしながらベルは草間興信所に足を向けた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2119/ベル・アッシュ/女性/999歳/タダの行商人(自称)

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■         ライター通信          ■
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ベル・アッシュ様>

いつも本当にお世話になっております。瀬皇緋澄です。
今回は「「眠り姫が目覚める瞬間」に発注をかけてくださいまして、ありがとうございました。
いつも細かなプレイングに助けられております。
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくおねがいします^^

       ―瀬皇緋澄