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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


行楽は如何ですか?《高峰温泉編》

 おたすけ〜と叫びながら逃げ去っていく狐と狸を無感動に見送った真名神慶悟は、ふーっと煙を吸い込み思い切り吐き出した。その隣では冴木紫が同じように煙を吐き出している。どちらの顔にも『やれやれ』と大きく書いてあるが、だからといって気が合うとかそういうことではない。
「ねえ」
「なんだ?」
 ぎゅっと煙草をもみ消した紫は無造作に問いかける。
「食われるかどうかかけない?」
「……」
「なによその沈黙は?」
「いや勝ち負けに関係なく俺が搾り取られるような気がしただけだ」
「良くわかってるわねえ」
「否定しろ!」
 怒鳴った慶悟はそのまま肩を落とした。なんのことはない何もかもが馬鹿馬鹿しくなっただけである。
「もういい。それより飲みなおすか?」
「そーねー折角ご招待なんだし呑まなきゃ損よね」
 紫も馬鹿馬鹿しさは同じだったらしい。あっさりと首肯したが、でも待ってと慶悟の浴衣の袖を引いた。
「なんだ?」
「部屋で飲みなおすのはどーかと思うわよ。どーせ郡司が散々食い散らかした後だし」
「しかし浴衣でバーと言うわけにもいかんだろう」
「風呂は?」
 あっさりと紫が言う。
 温泉で飲みなおし。風情はあるが、風情とかそういうところ以前に問題がある。誘ってきた相手は女で、誘われた相手は男という辺りにだ。
 は? と固まる慶悟を置き去りに紫はさっさと温泉へと向かって歩き出す。慶悟がついてくることを微塵も疑っていないその後姿に、慶悟はまあいいかとばかりに追いすがった。

 この時点で引き返すべきだった。慶悟は後に遠い目でそう述懐したと言う。

 ちゃぽーん。
「……まあこんなことだろうとは思ったが」
 僅かでも躊躇した自分が馬鹿馬鹿しい。
 温泉に浸りながら慶悟は溜息を落とした。
「何よなんか言ったー?」
「なんでもない」
 常より大きな声でそう返し、慶悟は盆に載った杯に手を伸ばした。どうやっているのかはまるで不明だが、湯気に当てられていると言うのにその酒は歯に沁みるほどに冷たいままだ。
「まあ悪くはないんだが」
「だからなんか言ったー?」
「なんでもない」
 反響する声は女湯から響いてくる。一緒に飲みなおしといってもこうも距離があるのでは一人酒とあまり変わらない。
 一応は男の身、多少はあった期待をものの見事にすかしてあっさり紫は女湯に向かった。
「……まあこれで一緒に入ろうものなら……」
 途中までした暗い想像を頭を振って追い出した慶悟はそのまま湯に顎を半分ほど沈ませた。
 機嫌よさげな紫の鼻歌が聞こえてくる。まあ機嫌がいいのならこちらに矛先も向くまいと、慶悟は苦笑した。

 そして時折言葉を大声で交わしながら、二人はのんびり酒と温泉を楽しんだ、筈だったのだが。

「……で?」
「温泉卓球よ!」
 あがるわよーと言う声にあわせて上がって出てきてみれば。
 男より支度に時間がかかる筈の女の身でどうやったのかは知らないがさっさと身支度を整えた紫はその場で仁王立ちしていた。
 正確には緑色の台の上で仁王立ちだ。どうやってこんなものを運んできたのかも謎だ。
「ここは通さないわよ! 通りたかったら卓球で私を倒してから行くことね!」
「……酔ってるな」
 ふうと溜息を吐いた慶悟は、取り合わずその脇をすり抜けようとしたが、勿論紫がそんなことを許す筈がない。はしっと慶悟の浴衣の袖を掴みにんまりと笑う。
「さあ行くわよ! 私を倒せなかったら身包みおいてって貰うわ!」
「追いはぎかあんたは。と言うか、俺が勝ったらどうする?」
「まあ真名神私の身ぐるみはごうっていうの? 残念だったわね売れるようなものは何もないわよ下着も新しいし」
「誰がそんなことを聞いたか!?」
「さあ勝負よ!」
「……まあこんなことになる気はしていたが」

 そして温泉卓球の熱い火蓋が切って落とされた!

 勿論後日紫に記憶はなく、しかし搾取はしっかりされた慶悟が一人黄昏ていたという。
「……何で俺がこんな目に、いや……問うだけ無駄か」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、里子です。
 今回は(も)お待たせしてしまいまして申し訳ありません。

 行楽は如何ですが特別編、毎度の事ながら阿呆な内容です。阿呆な内容なので書いてて非常に楽しかったですが。<待て待て
 冴木紫さま、毎度お世話になっております。
 温泉卓球、楽しんでいただけたでしょうか。記憶はないようですが。

 今回はありがとうございました。
 また機会がありましたら、よろしくお願いします。