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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


百年に一度だけの夢■例えひとときの夢であっても(〜共通ノベルより分離)


 …勝利様。


 呼ばれて。そこで。
 姿を探した。
 葵?
 けれど見えずに、幻だったかと…俺は探すのを止めていた。
 ………………その後、あの場に居た皆は、気もそぞろになっていた俺を見兼ねていたらしい。


 やがて、ゲームの輪から、わざと仲間外れにされた。
 …それは、つまりは蓬莱さんや他の皆さんに――送り出された、とも言い替えられる訳でもあって。


□□□


 …時間は無限じゃない。『目的』を見付けたならば行けば良い。つまりは俺たちも自分の都合でここに居る訳だから引き止める気もまったく無い。…行ってやるべきだろう?
 あっさりと言う男――凋叶棕の姿。


 …こっちの立場としても、そりゃ、客観的に見れば自分も相手も騙してるみたいな形に見えるかもだけどさ、それでもやっぱり…逢えるのって嬉しいし。
 あっけらかんと言う、弓月――現世では死どころか、魂ごと喪われていると言う、少年。


 …『夢』の期限は最長でもここに足を踏み入れたその時から数えてぴったり一ヶ月だけだから。
 ホントに時間は無駄に出来ないよ〜?
 さっきの銀髪の神父さんみたいに、追いかけた方が後悔しないよ。
 浴衣故か、余計に少女めいた姿に見える紫の瞳の人物――この蓬莱館に来る前からその話をしていた、丁香紫。


 …この場では幻が幻で終わる事はありません。私は過去に五度こちらには伺っておりますが、その度、こちらで現れる方の実体と存在を確認させて頂いていますから。この場では現世の理は通用しない。この場ではそれぞれの想いがすべての理。蓬莱館はそれを助けているだけ。
 この場での主体は何処までも『来訪した貴方自身』です。
 静かに言うのは、瞳の色が違う以外は丁香紫と瓜二つの姿、けれど印象はとても違って見える人物――牙黄。


 …綺麗な声の方ですね。
 ここで逢えるような方がいらっしゃるのでしたら、是非に行ってあげて下さい。
 ふわりと微笑む、蓬莱本人の声。
 直後、あ、そうだ、と声を上げると、蓬莱は浴衣の袖の中からひとつの鍵を取り出していて。
 ぱたぱたと何処ぞへ駆けて行く。
 で。
 戻って来た彼女が持っていたのは、大きな長細い包み。
 宜しかったらお使い下さいね、と。
 何故か勝利に、差し出されていた。


 中身は。


□□□


 …この場では、存外に…不老不死、もしくはそれに近い存在も、多いようで。
 孤独感は和らぐ気もする。
 けれど。
 自分が、大切な者たちを置いて行ったと言う事には何も変わりは無く。


 勝利はひとり中庭に面する縁側を歩いている。
 僅か鳴る床板。
 …ああは、言われても。
 声は聞こえても。
 何処に居るかなんてわからないだろう?
 本当に、俺の、願望が聴かせただけの声かもしれない。
 幻では終わらないと言われても。
 事実居たとしても、不甲斐無い俺の前に現れる事を望んでいない事もあるのではないか?


 ふと、足を止める。
 屋内から、中庭を見て。
 勝利は別れ際、袋を渡されると共に蓬莱に言われた言葉を思い出す。
 …そうは、言っても。
 その好意、無駄になる可能性も、高いだろうに。
 勝利は寂しげに微笑んでいる。


 再び、歩き出そうとした。
 中庭から目を逸らし。


 と。


 歩き出そうとした正面。床板。足許。
 三人の幼子の姿が見えた。
 その後ろには、ひとりの女性。
 顔を上げる。
 間違いなかった。
 …勝利が家を出た、その頃の姿のままで。


「葵…?」


 淑やかに微笑み、頷く姿。
 それ以上、言葉が出なかった。
 勝利は思わず、そこに居た『奇跡』に手を伸ばしていた。
 殆ど無意識の内に、強く、抱き締めていた。
 存在を確かめるように。


 腕の中から懐かしい声が返る。
「…お久しゅう御座います、勝利様」
「本当に葵なんだな」
「…はい。漸く言葉を交わす事が出来ました」
「…ちちうえ」
「瀬名か。達者であったか…とは言えないな。…寿王丸に乙若も、こちらに」
 呼び、三人の幼子ひとりひとりも、妻と同じように。
 抱き締める。
 …ここに居る。
「寂しい思いをさせてすまない。…父は未だに、お前たちの元に行けないのだ」
 もう、七百年以上も経っていると言うのに。
「いいえ。貴方様はずっと私たちの側に居て下さいましたよ」
「葵」
「…そうでしょう? 貴方様は、ずっと私たちの事を忘れずに居て下さるのですから」


 私たちの居場所は、ここです。
 言って、葵は勝利の胸をそっと突いた。
 勝利は瞠目する。
 …ずっと置いて行ってしまったと思っていた。
 なのに。
 彼らは。


 込み上げてくるものを堪え、勝利は己が妻に慈しみをこめて微笑みかけた。
 そして今度は、三人の幼子に。
 瀬名の頭を優しく撫でつつ、寿王丸と乙若、ふたりの男子を見つめた。
「…久々に弓の腕でも見せてくれぬか」
 子供たちは不思議そうな顔をする。
 が、勝利の持つ包みを見て察したか、きらきらと目が輝いた。


 ここは富士の裾野でもある。
 その事実に、幕府で催された巻狩を思い出す。
 日頃鍛えた武技を披露する場。
 あの頃の空気と。
 まるで、変わらない。
 …この蓬莱館は、時が止まっているようだ。


 ………………蓬莱に渡されていた長細い包みの中身は、日本古来の、弓矢一式。
 この蓬莱館でありながら大陸のものでもなく、使い慣れた形のそれを見せられて、勝利は正直、驚いた。
 中庭に行けば、的もありますと告げられて。
 その意味を察する事が出来た。


 そして今、その通り。
 …これを使う機会が訪れた。


「負けませんぞ、父上!」
「乙若だってやりますっ」


 元気な声が。
 気を付けるのですよと注意する葵の声も、何処か、嬉しそうな笑みを含んでいる。
 喜び、無邪気に笑んでいる瀬名。
 ………………すべて、疾うに喪われた筈の。


 欺瞞でも構わない。


 ………………例えひとときの夢であっても。
 今この場では、現実。


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

 ■2180/作倉・勝利(さくら・かつとし)
 男/757歳/浮浪者

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          ライター通信
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 深海残月です。
 今回は発注を頂き有難う御座いました。
 …それから今回、極個人的にスケジュールが凶悪な状況(汗)になってしまいましたので、
 ライター通信は普段と比べ妙に簡略形で失礼致します。

 初めまして。
 蓬莱館的に「旅館内一周」は無理だった模様です(なので罰ゲームは敢えてそれを選んでみたとも言いますが)
 御家族の皆様とは…個別ノベルのこんな形になりましたが、如何だったでしょうか。
 性格、口調等に違和感あるようでしたらお気軽に言ってやって下さいまし。


 ※また今回、今まで私がお渡し致しました色々なノベル&部屋に置いているサンプルが関連している部分も多くなってしまいましたので、参考までにそれらのノベルを上げておきます。
 こちらの話も知っていると、今回の共通ノベルは色々深読み出来てまた面白いかもしれません。

「草間興信所:夜のお店にゃ危険がいっぱい」→暁闇が舞台。紫藤暁、間島崇之、谷中心司の関係です。
「草間興信所:腕に覚えは」→真咲誠名が草間興信所に依頼を持って来た話です。
「草間興信所:月下の凶縁」→真咲誠名の死亡時の状況関連。
「草間興信所:アルバイト募集(秘密厳守致します?)」→碧(我妻)&暁闇の面子関連。
「ゴーストネットOFF:迷い幽霊預ってます」→高比良弓月と凋叶棕の関係です。
「ゴーストネットOFF:死神さんのお手伝い」→高比良弓月と凋叶棕の関係、それから死神もここ。
「クリエーターズショップのサンプル:暖かい闇」→暁闇が舞台。間島が訪れると店内こうなると言う例です。
 ※真咲御言に関してはこれらすべてに出てまして、密かに何処でも関連してます(出る機会が多いです)

 …取り敢えずこんなもので。
 では、失礼致します。


 深海残月 拝