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百年に一度だけの夢■例え一目だけであっても(〜共通ノベルより分離)
ふと見えた金糸の髪。
それだけならば何も思わない。
ただ。
その金糸の髪は、ひどく懐かしく、愛おしい。
視界に入った気がしたシルエット。
………………俺が、見間違う筈が無い。
他ならぬ、きみを。
きみの髪だと。
俺にはわかった。
だから。
その姿を探してしまう。
………………俺は本来、その為だけにここに来たのだから。
例え幻でも良い。
言葉は交わせなくても構わない。
現に、きみの姿を見る事が叶うなら。
■■■
…気のせいだったのか。
落胆しつつ、シュラブローズは歩いている。
きみだと思った。確信していた。
けれどきみは居なかった。
やはり、俺の事を憎んでいるか?
殺してくれと頼んだきみ自身も。事実その瞬間を経た後は。
…後悔したのか?
頼んだ事を。
…俺に、殺された事を。
だから俺の前には姿を現してくれないのか?
…あの凋叶棕と言う男の前には、ただの死どころか魂ごと消滅している筈の少年が現れていた。真咲誠名と言う男の場合も然り。彼が現世で使用している身体の本来の持ち主だと言う、既に死んだ筈の少女が現れていた。
………………『二度と逢えない人に逢う事が出来る』。それは本当だった、と俺は他の客の前に現れた事実を見ているのに!
なのに何故、きみは居てくれない?
神よ。
俺の殺した。
最愛の人。
………………シュラブローズは瞑目する。
■■■
やがて、彼の足が向いたのは温泉。
…諦めが付いた。
思わず蓬莱たちとのゲームからは離れてしまった以上、すぐには少々戻り難いところがある。それに…いまいちそんな気分にもなれない。
だから、温泉に来てみた。
考えを変えてみようと。
湯にでも浸かれば、少しは気分が変わるかもしれない。
…それからまた、蓬莱の元に戻ってみようか。
女物の浴衣で男湯の方に入って行くとぎょっとした顔をされる。…やっぱりこの浴衣には後悔頻り。
シュラブローズはそれでも気にしない素振りで浴衣を脱ぐと、周囲の者たちから安堵の息を吐かれたりむしろ色眼鏡で見られたり。…それでもまぁ、少なくとも無闇に恐れられる事は無い。翼をもがれた背の傷は、当然魔力で隠している。素肌を晒すこんな場所では当然の配慮。
…浴衣を着るのをそろそろ止めようか。
そこはさすがに、少々悩む。
事実、先程の蓬莱のところで、特にここの浴衣を着ていない人も居た。
シュラブローズは湯に浸かりながら胸に下げた十字架をふと手に取り、眺める。
…この十字架は決して色褪せない。
原種の薔薇を抱いた十字。
俺の心のすべて。
………………諦めが付いた?
そんな欺瞞を。
なら、何故ここから帰らない? シュラブローズ・セラフィン。
どうして未だに湯に浸かって、己の胸にある十字架など見ている?
儚く笑うシュラブローズ。
…素直に自らの心を見れば、諦めが付くなど有り得ない。
溜息を吐き、シュラブローズは温泉の縁、ごつごつした岩に寄り掛かる。
もうもうと立ち上る湯煙の中。
ふと遠くを見遣る。
…心を解すのにも良い湯なのかも知れない。
そんな事を考えてみる。
と。
ふわり、と。
懐かしい気配が自分の身体を包むのを感じた。
シュラブローズは瞠目する。
あまりに近くて。
間違いの無い気配。
…堕天以来、ずっと、欲していた。
「きみなのか!?」
姿は無い。
気配は、すぐ側に居るのに。
シュラブローズは焦るように周囲を見渡す。
近いのに。
まるで、抱き締められているようなぬくもりを感じ。
――――――寂しい想いをさせてすまない
…そんな声が、耳許で聞こえた気がした。
刹那、シュラブローズから身体の力が抜ける。
…再び、力無く岩に寄り掛かってしまう。
と。
視線を投げた先。
湯煙の向こう。
立っている姿がそこにあった。
眩いばかりの金糸の髪。
誰よりも愛しいひとの。
…神はシュラブローズを見つめている。
何も言わない。
ただ、神はそこに居て。
あの時と変わらぬ、否、少し寂しげな…。
容赦無く、白い湯煙が、そこに立っていた姿を隠す。
…再び湯煙が晴れた時には、そこにはもう姿は無く。
シュラブローズは瞼を閉じる。
浮かぶのは己が手に掛けた愛しい人の姿。
たった今見た変わらぬ姿。
外せぬ十字に思わずそっと指先を触れさせる。
…外したくも無い。
シュラブローズは、その十字をぎゅっと握り込む。
もうわかった。
きみは。
――――――今もきみは、俺に微笑みを向けてくれている。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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■整理番号/PC名
性別/年齢/職業
■3043/シュラブローズ・セラフィン
男/22歳/神父 (堕天使)
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ライター通信
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深海残月です。
今回は発注を頂き有難う御座いました。
…それから今回、極個人的にスケジュールが凶悪な状況(汗)になってしまいましたので、
ライター通信は普段と比べ妙に簡略形で失礼致します。
御心配なさっていた件ですが、依頼系(調査依頼等オープニングありなもの)の場合はPC様の設定にあるNPCの登場は取り敢えず構いませんので御安心下さい。
…そもそも、それが駄目ならこの『百年に一度だけの夢』、オープニング自体がはっきり詐欺ですから(笑)
そこの部分は御了解頂ければ。
※また今回、今まで私がお渡し致しました色々なノベル&部屋に置いているサンプルが関連している部分も多くなってしまいましたので、参考までにそれらのノベルを上げておきます。
こちらの話も知っていると、今回の共通ノベルは色々深読み出来てまた面白いかもしれません。
「草間興信所:夜のお店にゃ危険がいっぱい」→暁闇が舞台。紫藤暁、間島崇之、谷中心司の関係です。
「草間興信所:腕に覚えは」→真咲誠名が草間興信所に依頼を持って来た話です。
「草間興信所:月下の凶縁」→真咲誠名の死亡時の状況関連。
「草間興信所:アルバイト募集(秘密厳守致します?)」→碧(我妻)&暁闇の面子関連。
「ゴーストネットOFF:迷い幽霊預ってます」→高比良弓月と凋叶棕の関係です。
「ゴーストネットOFF:死神さんのお手伝い」→高比良弓月と凋叶棕の関係、それから死神もここ。
「クリエーターズショップのサンプル:暖かい闇」→暁闇が舞台。間島が訪れると店内こうなると言う例です。
※真咲御言に関してはこれらすべてに出てまして、密かに何処でも関連してます(出る機会が多いです)
…取り敢えずこんなもので。
では、失礼致します。
深海残月 拝
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