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最後のライフライン
「あ、あの…どこに行くんですか、本郷さん……」
嬉璃が用事なのだと聞いた途端、そこはかとない不安を感じるのか、三下は妙に及び腰だ。それを引っ立てるようにして旅館の廊下を歩きながら、源は笑う。
「そんなに怯えずとも良い。獲って食おうなどと言っているのではないのだからな。第一、三下殿は食えないではないか」
「…そんな、食えたら食う、みたいな言い方しないでくださいよ〜」
「大丈夫ですよ!例え食用が可能でも、三下さんを選り好んで食べる人なんていませんって!」
慰めているつもりなのだろう、恵美の言葉は、ただ三下の細やかなプライドを鮮やかに抉り取ったに過ぎない。
「…でも源さん、別に三下さんに協力して貰わなくても、そのうち電気も復帰するんじゃない?」
「確かにそうかも知れぬが、あの女子(おなご)の話では、飽和状態の生気を正常の濃度に戻すには、それなりの時間が必要らしい。もし、例の放映時間に間に合わなければ、わしらが何を言われるか分かったものではないからな」
「…そうね」
「だっかっらっ、協力って、僕は一体何をするんですか〜!?」
「遅い!」
嬉璃の開口一番はそれだ。ある程度予想をしていた源と恵美は平気な顔だが、三下は可哀想なぐらい怯えて身をちぢこませている。
「そう言うでない、嬉璃殿。まだ放映時間には暫しの猶予があるではないか。今からなら確実に間に合う、安心めされ」
「おんしら、物事は全て三十分前集合だと教わらなかったのかえ」
「大丈夫よ、だってまだ数時間前だもの」
的確な恵美のツッコミに、嬉璃はただ睨み付けるだけだ。
「まぁ良い。三下、この自転車を漕げ」
「……は?」
さすがの三下も、その展開の急激さに思わずあんぐりと口を開いてしまう。が、それでも身体は言われるがままに自転車にまたがってしまう辺り、三下の三下たる由縁か。
「…あの、……」
「良し。漕げ」
「………はい」
既に諦めきった、ドナ○ナの子牛状態の三下は大人しく自転車のペダルを漕ぎ始める。暫くすると、消えていた室内の蛍光燈が、始めは瞬いていたがやがて安定し、明るい白色光を四人に注ぎ始めた。
「あ、点いた!」
「上出来ぢゃ、三下。では、頼んだぞ」
「って、ちょっと待ってくださいよー!」
三下の悲痛な叫びも、既に心はテレビへと飛んで行ってしまっている嬉璃には届かなかったようだ。
その後、三人は揃って例のテレビショッピングを楽しんだ。その頃には、実は旅館内のライフラインは全て復活していたのだが、源始め皆、すっかり三下の存在を忘れ果てていたので、三下はそのまま、必要の無い電気を一人せっせと作り続けていたのであった。
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■ 登場人物 ■
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【 1108 / 本郷・源 / 女 / 6歳 / オーナー 小学生 獣人 】
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■ ライター通信 ■
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この度はダブルノベルのご参加、誠にありがとうございました。こんばんは、ライターの碧川桜でございます。
本郷・源様、いつも本当にありがとうございます!ホントに感謝の念で一杯です。これからもよろしくお願いしますね。
ダブルノベルと言う、初めての試みに戸惑う部分もありました。共通ノベルと個別ノベルと言う、ダブルノベル固有の特色を活かせた内容になったかどうか若干不安な点もありますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
ではでは、今回はこの辺で。また東京怪談の何処かでお会い出来る事をお祈りしつつ…。
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