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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


『蓬莱館』の真実
●動くべき理由があるから【8A】
 アルベルトは『蓬莱館』の中へ入らず、まずは周辺の様子を窺っていた。
「しかし、妙な造りの建物だ。変に細長い……」
 そんなことをつぶやきながら歩くアルベルト。と、そこに女性の声が聞こえてきた。
「アルベルト」
 呼び止められ足を止めるアルベルト。そして声のした方へ振り向いた。
「お久し振りです……か」
 そこに立っていたのは、にこり微笑む智恵美であった。その智恵美の姿を見た瞬間、アルベルトの表情に動揺の色が浮かんだ。
「あ……っ! あなたが何故ここに……」
 アルベルトが敬礼をしようとすると、智恵美はゆっくりと頭を振ってそれを制した。アルベルトは智恵美の制止に気付くと、手を元に戻して深々と一礼した。
「……ご無沙汰しております」
「アルベルト。あなたがここに居るということは、間違いなくIO2が動いていると言っていいんですね」
 智恵美がゆっくりとアルベルトに近寄ってくる。アルベルトは固い表情のままだ。
「はっ」
「いったいこの『蓬莱館』の何を調べているのです、捜査官を3人も送り込んで。……3人とも姿が見えなくなりましたが」
 そう、IO2が『蓬莱館』について3人の捜査官を送り込み調査しているということは先日知っていた。だが西船橋武人を含む3人の捜査官は、今日までに全員姿が見えなくなっていた訳で。
「……異界です」
 アルベルトが溜息を吐いてから答えた。
「この『蓬莱館』を中心に、異界が発生している可能性があるため、我々が調査していたのです。何か事件が起ころうとしているのであれば……我々はそれを防がねばなりませんから。IO2が何故に存在しているのか、あなたであればよくご存知でしょう。つまりはそういうことです」
「なるほど。しかし、あなたが直々に動くとは……それだけ大きな事態であるということですか」
「ええ。『虚無の境界』が動いているという情報もありましたので。……これはまだ未確認情報ですが、エヴァ・ペルマネントこと霊鬼兵・Ωがこちらへ向かったとの話もあります。みすみす若い部下たちを死なせる訳にもゆきますまい。すでに3人の部下を失った可能性がありますからな」
「まあ、エヴァが……」
 エヴァの名前を聞き、智恵美は驚いたようであった。
「ご存知なんですか」
「ええまあ。あの娘は……どこかしら放っておけない部分がありますから……」
 幾度か接触があったのだろうか、ふと遠い目となる智恵美。
「『汝の隣人を愛せよ』ですか。実にあなたらしい」
 と言うアルベルト。智恵美は何も答えなかった。
「ともあれ、確実に言えることは、我々は『蓬莱館』に関する情報が不完全です。それを少しでも補うべく動いていたのですがね……まさか西船橋クンまで連絡が取れなくなるとは」
 アルベルトが力なく頭を振った。
「そうですか。では……私も協力いたしましょう。まず、西船橋を探すのが先決でしょうね」
 にこっと微笑んで智恵美が言った。
「部下のため、ご迷惑をおかけいたします」
 アルベルトがまた深々と頭を下げた。
「いいんですよ。それよりも、捜査官たちには改めて自らの捜査態度を見直させてください。しばらく見ないうちに、少々レベルが下がりましたか……」
 智恵美はアルベルトにちくりと釘を刺すと、武人を捜索するため探索魔法の使用を始めた――。

【『蓬莱館』の真実・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 2390 / 隠岐・智恵美(おき・ちえみ)
               / 女 / 46 / 教会のシスター 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全38場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした。ここにようやく『蓬莱館』の真実をお届けいたします。『蓬莱館』とはこのような所でした。皆様はいかが思われたでしょうか? 今回もまた共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』へようこそ』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回高原が書かせていただきました『高峰温泉』2本ですが、不老不死・陰陽(精霊含む)・IO2・『虚無の境界』・シリアスとコミカルの危うい同居……といった所をテーマにしておりました。果たしてどの辺りまで達成出来たかは分かりませんが、もし楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・分かりにくかったかもしれませんので、時間軸のお話を少し。『『蓬莱館』へようこそ』は麗香逗留3日目から4日目にかけてのお話、『『蓬莱館』の真実』は逗留5日目と後日談のお話でした。
・当初の予定では、エヴァはもっと暴れる(戦闘する)はずでした。でも実際の本文ではそうはなっておりません。これはプレイングの影響を受けたためです。普段の高原の依頼もそうなんですが、『高峰温泉』は特にプレイングの影響で流れが変わっております。書かなくてはならないことも雪だるまのごとく増えてゆきましたし。
・あと余談なんですが、この『『蓬莱館』の真実』では麗香に深く関わるとどんどんと麗香が壊れてゆく様子が見られる予定でした(しかも、ろくに情報が手に入らないというおまけつき)。その片鱗は共通ノベルや一部の個別ノベルに出ているかと思います。いや、予定ではもっと凄かったんですけれども……ちょっと残念。
・隠岐智恵美さん、ご参加ありがとうございました。IO2が動いていたのは、このような理由からでした。IO2はアルベルトの報告に納得した模様です。あと本文では明確にしていないのですが、エヴァは智恵美さんを見かけました。エヴァの行動がちと妙なのは、この影響かもしれません。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。