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百年に一度だけの夢■貴方なら何とかなりますよ(〜共通ノベル後)
一段落付いたところで。
アリステアは御土産屋さんに来ていた。
教区の子供たちへの御土産に、何か良い物は無いかと。
色々と見て回っている。
温泉饅頭(…)やらちょっとしたギミックの玩具と言った温泉の定番品に、蓬莱館のサービスで出している各種中国茶の茶葉やら何やら、色々とある。
茶葉の方は自分の趣味で手に入れたくもあるが――元々大好きな西洋の紅茶のように、発酵度が強く、芳醇な香り高い種類のものもあったので――御土産屋さんなのでやはり御土産の方が先。
「どうしましょう…」
こんな時、師父なら何を選ぶでしょうか…?
思いながらアリステアはひとつひとつ、物色。
と。
「美味しそうなおまんじゅうですねえ…あ、これはこちらのサービスででも食べられるんでしたっけ」
ひょっこりと横から顔を出して来たひとりの男性。
何処となく、アリステアと似た印象の。
「ええ、確かに美味しかったですよ。胡麻餡のものとか…色々中身は種類があって」
「そうですか。…アリステアが言うなら確実ですね。私はまだ頂いてなかったんですが」
「自信を持ってお勧めしますよ。…教区の子供たちへの御土産も、こう言ったものの方が良いかなとも思っているんですが…」
と。
アリステアはそこではたと気付く。
…今、自分の名前が呼ばれた。
それも、『アリステアが言うなら確実ですね』と妙に知り合いらしい言い方で。
その上。
その声は。
アリステアはそこで、声の主を初めて見遣る。
にこりと微笑み返された。
僅か、目尻に出来る笑い皺が優しくて。
………………見慣れた、その顔。
孤児だった私を神の道に導き、暴走しがちだった私の力を抑えてくれていた方。
一昨年前に、神に召された筈の方。
「………………師父?」
「はい」
にこにこと微笑む姿が頷く。
「お久しぶりですね、アリステア」
「――」
驚いて絶句するアリステア。
かぁっ、と顔が赤くなっている。
「お、お久しぶりです…あの…えっと…」
「へー、浴衣なんかも御土産であるんですねえ。…ハイカラな形ですから御土産には喜ばれるかもしれませんか」
山積みですよ。
赤くなっているアリステアの事に気付いているのかいないのか、師父と呼ばれた相手は素知らぬ振りで土産物を物色している。こちらは富士山を象ったキーホルダーですね、場所が富士の裾野だからでしょうか。…これは御香ですか? 森の匂いですか。色々種類がありますね。…等々、長閑な態度で。
「…御土産、選んでらっしゃったんでしょう?」
そして、アリステアに声だけ投げて来た。
「…ここで、お目に掛かれるとは…」
思いませんでした。
神に召された貴方が。
アリステアは茫然と口を開く。
………………それは、『二度と逢えない人に逢える』と話は聞いていた。
幾つかの事実も見た。
凋叶棕と言う方の元に居た少年、真咲誠名と言う方の元に居た少女。どちらも、生死の掟から外れてしまっていたような方だと言う話で。そんな相手でもここでは逢える、と。
…それでも。
ここは。
異教の理であるが故に、他ならぬ神の僕である師父に逢う事が叶うとは。
思わなかった。
「…異教の理であっても、気にする事はありませんよ」
貴方の中にある、信じるものが揺らぎさえしなければ。
愛は無限です。
狭量に考えては何も始まりませんから。
…それにこの場は、厳密には異教の理からも外れた場所だと言う話ではありませんか。
別の理を下敷きにした場であっても、人の『思い』がそこにある限り、私は否定はする気はありません。
アリステアの心を読んだように師父が言う。
「それに、折角の珍しい機会なんですからちょっとくらいこちらにお邪魔したって、主は怒らないと思いますし」
…色々あって面白いじゃないですか。
悪戯っぽく言いつつ、師父はアリステアを見る。
「人間、息抜きは必要ですよ」
「はぁ…」
アリステアは目を瞬かせている。
…こんな風に、この方に色々な意味で圧倒されるのも、一昨年前までは、いつもの事で。
取り直して再び御土産選び。
アリステアの師父も、アリステアの隣で色々と見て回っている。
ふと、尋ねてみた。
「…何か、師父のお勧めはありますか?」
「私ですか? …まぁ、どれも気になりますねえ。珍しいものもありますし」
アリステアの問いに対し、ふむ、と考え込むように師父は腕組みをし、顎に手をやる。
「…と、言いますか。私のお勧め聞くよりも、アリステアが自分で選んだものが一番良いと思いますよ」
貴方の教区の子供たちに、の御土産なんでしょう?
「それはそうなんですが…」
「…私が師であっても、貴方が私になる必要は無いんですよ、アリステア」
「…」
「貴方が選ぶ事が重要なんです。私の弟子である貴方なら、何とかなりますよ」
ふわりと。
微笑む姿が踵を返す。
…部屋にあったサービスのおまんじゅう、頂いてきますね、とアリステアに告げて。
私が、居なくとも。
貴方が選び取るのです。
私ではなく。
………………アリステア・ヨハン・ラグモンドと言うひとりの司祭が。
残された言葉は。
今、『お土産を選ぶ』と言う行為に託されてはいるけれど。
もっと、別の意味もこめられていて。
死した今でも、自分を導いてくれるこの方に、アリステアは感謝する。
「…再びお目に掛かれて、幸いでした」
師父の姿を見送ったアリステアはぽつりと呟いている。
そして、無意識の内に十字を切り、祈っていた。
………………神の御許で、どうか、安らかに。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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■整理番号/PC名
性別/年齢/職業
■3002/アリステア・ラグモンド
男/21歳/神父(癒しの御手)
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ライター通信
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深海残月です。
今回は発注を頂き有難う御座いました。
…それから今回、極個人的にスケジュールが凶悪な状況(汗)になってしまいましたので、
ライター通信は普段と比べ妙に簡略形で失礼致します。
初めましてです(って某PC様と同PL様の気がしますが)
神父さん、ぽややん出来たのか微妙に謎ですが(汗)
それから師父、こんな感じの御方で宜しかったでしょうか…?(なんかハイカラとか言ってますけど/汗)
イメージ逸れてたら申し訳無い(汗)
※また今回、今まで私がお渡し致しました色々なノベル&部屋に置いているサンプルが関連している部分も多くなってしまいましたので、参考までにそれらのノベルを上げておきます。
こちらの話も知っていると、今回の共通ノベルは色々深読み出来てまた面白いかもしれません。
「草間興信所:夜のお店にゃ危険がいっぱい」→暁闇が舞台。紫藤暁、間島崇之、谷中心司の関係です。
「草間興信所:腕に覚えは」→真咲誠名が草間興信所に依頼を持って来た話です。
「草間興信所:月下の凶縁」→真咲誠名の死亡時の状況関連。
「草間興信所:アルバイト募集(秘密厳守致します?)」→碧(我妻)&暁闇の面子関連。
「ゴーストネットOFF:迷い幽霊預ってます」→高比良弓月と凋叶棕の関係です。
「ゴーストネットOFF:死神さんのお手伝い」→高比良弓月と凋叶棕の関係、それから死神もここ。
「クリエーターズショップのサンプル:暖かい闇」→暁闇が舞台。間島が訪れると店内こうなると言う例です。
※真咲御言に関してはこれらすべてに出てまして、密かに何処でも関連してます(出る機会が多いです)
…取り敢えずこんなもので。
では、失礼致します。
深海残月 拝
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