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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


『蓬莱館』の真実
●壊れた麗香【3C】
「うにゃぁ……何度入ってもいい温泉にゃのー……」
 温泉から上がり、部屋へ戻った麗香はテーブルに突っ伏していた。湯上がりで身体がまだ火照っているのだろう、風通しが少しでもよくなるように浴衣の胸元を大きく開けている。
「失礼いたします」
 そこへ1度自分の宿泊している部屋へ戻っていた撫子が姿を見せた。
「ふにゃ? 何か用にゃのー……?」
 顔だけを撫子の方へごろんと向ける麗香。見た感じ、腑抜け度120%といった所か。
(普段の反動なんでしょうか)
 今の麗香の様子を見て、撫子はそんなことをふと思った。いつも気を張って仕事をしているから、たまにこうして長い休暇が取れると、緊張の糸がぷつんと切れてしまうのではないか……と。
「……にゃー? どーしたの、そこに突っ立ってー……」
 麗香がぼーっと撫子の顔を見ていた。はたと我に返る撫子。そうだった、怠惰な麗香を見ている場合ではなかった。別に本題があるのだから。
「……少し失礼いたします」
 撫子は麗香のそばに座ると、霊視を始めた。けれどもそれは通常の霊視ではない。最近覚醒した能力――撫子は『龍晶眼』などと呼んでいるが――を用いての霊視である。
(……これは……)
 『龍晶眼』によって麗香より見えた物に、撫子の眉が一瞬ぴくっと動いた。麗香が見たと『乙卯の湯』で言っていた幻覚、その説明と全く同じイメージが見えたのである。
 それだけではない。そのイメージは、撫子が『蓬莱館』にやってきてから見るようになっていた夢とかなり似通っていたのだ。
 当初撫子は『龍晶眼』が過敏に反応し過ぎていて、妙な夢を見ているのではないかと考えていた。第一、最初に見た時は長さはほんの僅かで、しかも映像はソフトフォーカスでもかかっているかのようにぼやけていたのだから。
 だが日を追うごとに夢の長さは長くなり、映像はクリアになってきていた。そこに麗香の話だ。単なる夢であるとは考えにくい。
(そのようなイメージを見させる何かが、『蓬莱館』にはあるのでしょうか……? いえ、あるのでしょうね。そうでなければ、一昨夜のようなこともなかったはずですから)
 思案する撫子。一昨夜の事件の際、杉並は確か『虚無の境界』などと名乗っていた。つまり、命令なのか独断なのかは分からないが、そういった組織が調べに来るような『何か』がここ『蓬莱館』にはあるに違いないのだ。
「うにゃー? にゃに黙ってるのよー……?」
 無言である撫子を不思議に思ったのだろう、麗香が話しかけてきた。
「いえ……何も。もう済みましたから。どうもありがとうございました」
 静かに言う撫子。そしてすくっと立ち上がると、一礼して部屋から出ていった。
「変にゃのー……。まー……いいかにゃ……寝ちゃお……」
 麗香はぼそっとつぶやくと、そのまま目を閉じて眠りの世界に落ちていった。

●報告【4C】
「あ、撫子姉さま。お帰りなさいませ」
 麗香の部屋から戻ってきた撫子は、浴衣に着替えて部屋で待っていた亜真知に笑顔で出迎えられた。
「どうかされまして、撫子姉さま?」
 撫子の表情が浮かないか何かしていたのだろう、若干心配そうに亜真知が尋ねてきた。
「いいえ、わたくしは何も。でも……」
 と言って、撫子は麗香の部屋での話を亜真知に聞かせてみせた。例の幻覚の話である。
「それは……不思議なお話ですわね」
 撫子の話を聞き終わり、気になった様子を見せる亜真知。『そうでしょう?』といった表情で、撫子は亜真知の顔を覗き込んだ。
「一緒に調……」
「すみません、撫子姉さま」
 撫子が話し出したと同時に、亜真知が頭を下げた。
「わたくしのお友だちが来られているようなので……そちらへ向かわなければなりません」
「……そう。それでは仕方ないですね」
(自分で調べることにしましょう)
 撫子は少し寂し気な笑みを浮かべた。

●ある仮説【8C】
 『妖斬鋼糸』と御神刀『神斬』を携えた撫子は、『蓬莱館』を内外問わず歩き回っていた。それというのも、麗香が見た光景に似た場所がないか探していたからであった。
 しかし、どこにもそれらしき場所は見当たらない。本当に麗香が幻覚を見ただけだったのだろうか。
 と、そんな時だった。ふと撫子の脳裏にある考えが浮かんできたのは。
(空間の位相がずれている……?)
 空間の位相がずれる――それは分かりやすく例えると、光が水で屈折するような物だろうか。
 水中で目の前にあると思われていた物が、実は少しずれた場所にあったということがある。これは水によって光が屈折した結果、実際の位置がずれて伝わったからである。
 空間の位相のずれも、これに似たような物だ。そこに居るのに、位相がずれているから見えない。でも何かのきっかけで見えることもある、と。
 もちろん確証はない。けれども……気配はあるのに従業員の姿が見えない『蓬莱館』のことを考えると、この考えもあんまりずれていないように思えるのは気のせいだろうか?

【『蓬莱館』の真実・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全38場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした。ここにようやく『蓬莱館』の真実をお届けいたします。『蓬莱館』とはこのような所でした。皆様はいかが思われたでしょうか? 今回もまた共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』へようこそ』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回高原が書かせていただきました『高峰温泉』2本ですが、不老不死・陰陽(精霊含む)・IO2・『虚無の境界』・シリアスとコミカルの危うい同居……といった所をテーマにしておりました。果たしてどの辺りまで達成出来たかは分かりませんが、もし楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・分かりにくかったかもしれませんので、時間軸のお話を少し。『『蓬莱館』へようこそ』は麗香逗留3日目から4日目にかけてのお話、『『蓬莱館』の真実』は逗留5日目と後日談のお話でした。
・当初の予定では、エヴァはもっと暴れる(戦闘する)はずでした。でも実際の本文ではそうはなっておりません。これはプレイングの影響を受けたためです。普段の高原の依頼もそうなんですが、『高峰温泉』は特にプレイングの影響で流れが変わっております。書かなくてはならないことも雪だるまのごとく増えてゆきましたし。
・あと余談なんですが、この『『蓬莱館』の真実』では麗香に深く関わるとどんどんと麗香が壊れてゆく様子が見られる予定でした(しかも、ろくに情報が手に入らないというおまけつき)。その片鱗は共通ノベルや一部の個別ノベルに出ているかと思います。いや、予定ではもっと凄かったんですけれども……ちょっと残念。
・天薙撫子さん、ご参加ありがとうございました。麗香の見たイメージを確認したのはよかったと思います。空間の位相はずれている……んでしょうねえ、異界ですから。あと、恐らく個別で壊れた麗香を見た唯一の方だと思います。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。