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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


『蓬莱館』の真実
●巳主神冴那ワンマンショー【10B】
「……どこに行ったのかしら……」
 冴那はバスケットを抱え、『蓬莱館』の館内を歩いていた。足元には小さな蛇たちが付き添い、冴那の身体には白い錦蛇の藤乃がべったりと巻き付いている。
「温泉に行こうと思ったのに……居なくなるだなんて……やんちゃな子ね……」
 冴那はそう言ってゆっくりと周囲を見回した。どうも蛇が1匹、勝手に居なくなってしまったようである。
 さて、冴那が居なくなった蛇を探して歩いていると、そのうちに突き当たりに水墨画のかかっている十字路に差しかかった。
 そう、草間が盛大に引っかかったあのトラップがある十字路だ。だがしかし、ここにトラップがあることを冴那が知るよしもなかった。
「あら……水墨画ね……」
 警戒する様子もなく、とことこと歩いてゆく冴那。蛇たちが少し冴那に先行するように這ってゆく。
 と、蛇たちが残り1メートル半といった所に差しかかったと同時に床が少し沈み――床から左右の壁から瞬時に長い棒が何本も伸びてきた。
「……あら……遊び道具……?」
 トラップが作動した後の光景は、冴那には蛇たちの遊び道具が出てきたように見受けられた。何故なら蛇たちは、出現した棒に面白そうに絡み付いていったから――。
「楽しそうね……」
 棒を避けながら、水墨画の前へ向かう冴那。そして、冴那が水墨画の前に立った時である。
 がいん。
 冴那の頭上に天井から一斗缶が振ってきた。
「……痛いわ……」
 無表情で頭を押さえる冴那。
「これも……遊び道具……?」
 120%違います。
「……せーっ! ここから……」
 その時、小さいながら何やら青年らしき声が聞こえてきた。その方角は水墨画の方からだった。つまり、壁である。
「誰か居るのかしら……?」
 何気なく壁を叩き出す冴那。それを見ていた蛇たちも、真似をして尻尾でドンドンと壁を叩き出した。
 すると、だ。何の拍子にか、水墨画の下の壁がスライドしたではないか!
「ああ……からくり屋敷なのね……ここ。懐かしいわね……」
 冴那は特に驚くでもなく――勘違いしたまま――スライドした壁の奥に続く通路を、中腰になって進んでいった。
 数メートルほど進み、やがて行き着いた場所は薄暗く狭い部屋。そこに転がされていたのは、鎖でがんじがらめにされ、紅いバンダナで目隠しをされている西船橋武人であった。
「囚われたお姫様……ならぬ王子様……みたいね」
 ぼそっとつぶやく冴那。ということは、武人を見付けた冴那は白馬の王子様ならぬ白蛇の妖姫様になるのだろうか。まあ『お姫様』という言い方が妥当であるのかはさておき。
 武人は冴那に気付いているのかいないのか、助けを呼んで叫んでいた。
「出せーっ! ここから出してくれーっ! 誰か居ないのかーっ!!」
「……居るわ」
 冴那がまたつぶやいた。武人の言葉が一瞬止まった。
「居るのかっ! 居るんだなっ!? おい、出してくれ! 俺を出せーっ!」
「出してもいいけれど……何が起こっているのか教えてもらえない……かしら」
 冴那もなかなかしたたかである。助けるにしても、とりあえず状況を把握してからのつもりらしい。
「あなたは……誰なの……?」
「…………」
 途端に無言になる武人。さすがにこういう状況下にありながらも、喋りたくないことは喋らないつもりのようだ。
「実は……探しているのだけれど……」
 すると冴那は話の方向性を変えてきた。
「キングコブラ……あなたご存知……?」
「コ……コブラ……?」
 武人の顔面に、どっと汗が吹き出したように見えた。
「姿を消して……探しているの……。ひょっとして……あなたの後ろに居たりはしない……かしら……ね……」
「喋ります! 喋らせてください!!」
 武人が白旗を揚げた。冴那が意図してこんな話をしたかは分からないが、結果的に武人はキングコブラの前に敗北したのであった。
「あなたは……誰なの……?」
「……IO2捜査官、西船橋武人」
 冴那が再度素性を尋ねると、今度は素直に武人は答えた。
「IO2……噂に聞いたことはあるわ……」
 冴那がそうつぶやくと、武人がぴくっと反応した。
「……確か二酸化炭素のこと?」
「それはCO2」
「違ったの……? じゃあ……水?」
「それH2O!」
「オリンピック……? 今年はアテネだったかしら……」
「そりゃIOCだーっ!!」
 冴那、ぼけ倒しである。

【『蓬莱館』の真実・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全38場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした。ここにようやく『蓬莱館』の真実をお届けいたします。『蓬莱館』とはこのような所でした。皆様はいかが思われたでしょうか? 今回もまた共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』へようこそ』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回高原が書かせていただきました『高峰温泉』2本ですが、不老不死・陰陽(精霊含む)・IO2・『虚無の境界』・シリアスとコミカルの危うい同居……といった所をテーマにしておりました。果たしてどの辺りまで達成出来たかは分かりませんが、もし楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・分かりにくかったかもしれませんので、時間軸のお話を少し。『『蓬莱館』へようこそ』は麗香逗留3日目から4日目にかけてのお話、『『蓬莱館』の真実』は逗留5日目と後日談のお話でした。
・当初の予定では、エヴァはもっと暴れる(戦闘する)はずでした。でも実際の本文ではそうはなっておりません。これはプレイングの影響を受けたためです。普段の高原の依頼もそうなんですが、『高峰温泉』は特にプレイングの影響で流れが変わっております。書かなくてはならないことも雪だるまのごとく増えてゆきましたし。
・あと余談なんですが、この『『蓬莱館』の真実』では麗香に深く関わるとどんどんと麗香が壊れてゆく様子が見られる予定でした(しかも、ろくに情報が手に入らないというおまけつき)。その片鱗は共通ノベルや一部の個別ノベルに出ているかと思います。いや、予定ではもっと凄かったんですけれども……ちょっと残念。
・巳主神冴那さん、ご参加ありがとうございました。本文では記せなかったんですが、キングコブラは自分で部屋に戻ってました。しかし……武人との図を想像すると面白いのは何でなんでしょう。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。