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蜃宝珠
「っ…」
目が覚めた途端、きりりと頭に痛みが襲い掛かる。思わず額を手で押さえ、痛みの部分を握り潰そうとでもしているのか指先に力を込めた。
理由は分かっている。
下手に『力』を使ってしまったためだ。なるべくなら使わずにおきたかった其れを。
「っ、ふぅ…」
少し和らいだところで、手を離し、よろりと立ち上がり洗面所へ向かう。
冷たい水を頭から浴びせかけると多少楽になったような気がした。
戻って私服に着替えながら、昨日のことを思う。預かった品は1つ割れ、もう1つは鮮やかな色を残し手元に戻った。もちろん、今は沙耶に渡したから無いのだが。
あの色を見た時のことは今も鮮やかに思い出せる。
――あの色。
まるで自分を映し出したとでも言うように、柔らかく、そして深みのある色合い。
そう考えて小さく苦笑した。自分で自分を褒めているような考えに笑いを誘われてしまったからだ。
まさかな。
各々の持ち出した珠の色がそれぞれ違うこともあり、ふとそんなことを思ってしまった自分をもう一度笑い、そして帰り用のバッグに手を伸ばす。
それなりに騒動もあったが楽しめた、この休みの日を思い返しながら。
たまにはこんな休暇も良いかもしれない、と。
何を見たのか、何故力を使ったのか、そんなことはもう思い出せない。
思い出す努力もしようとしない。それは何故なのか、そう考える事すら――嵐は完全に放棄し、そして無意識にしろ幻覚の中で見たモノへと思考が移動するのを止めた。
いや。
無理やり、其処へ向かう意識をシャットダウンしていた。
「さて…土産は何にするかな」
うろうろ。
土産コーナーを回りながら、常の近寄りがたい雰囲気を増幅させた嵐が渋い顔をする。
同僚達への土産を買うために各自の好みを反映させた結果、量も資金もとんでもないものになってしまったため一旦諦めて予算から検討を始め、そしてそうなったらそうなったで全ての好みを満たせなくなったことに気付き。
はぁ、と大きく溜息を付いてこの際だから妙なデザインのキーホルダーでも買って帰るかと真剣に悩み始め。
「どうなさいました?」
気付けば蓬莱が、殺気混じりに近い視線でキーホルダーを睨みつけている嵐へおそるおそる声をかけてきていた。
「いやなに」
土産を――とぼそぼそ語尾をはっきりさせずに話すと、ああ、と蓬莱がにこりと笑い。
「此方は如何でしょうか?」
煎餅と饅頭の詰め合わせを差し出してきた。
「どちらも日持ちしますし」
製造元も材料も何1つ書いていない品だったが、旅館での料理の美味さを考えればさして冒険しなければ食べられない品ではないだろうと結論付け、
「じゃあ、これで」
あっさりとその品を手に取った。
「ありがとうございました。…また…機会があれば、いらして下さいね」
寂しいのか、ほんの少し表情に陰を滲ませながら蓬莱が笑みを浮かべる。
「ああ。また来るよ」
面白かったしな。
そう小さく続けた嵐にぱっと表情を明るくする蓬莱。
「きっとですよ?――それでは、またのお越しをお待ちしております」
見送られ、外へ出る嵐は気付かなかっただろう。
嵐が背を向けた途端に笑みを消した蓬莱の姿には。
――再びこの館が現れる時には――再び、蓬莱の目が覚める時には――恐らく、今回訪れた客の殆どが来ることは出来ない筈で。
それを知っていて、きっと、と約束をした事に小さな罪悪感を覚えているに違いなかった。
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■ 登場人物 ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2380/向坂・嵐/男性/19/バイク便ライダー】
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■ ライター通信 ■
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お待たせしました。「蜃宝珠・個人ノベル」をお送りします。
この話は依頼を終えた次の日の、外伝的な話となっています。
各自少しずつ話が違っていますので、宜しければ他の方の話も御覧下さい。
参加してくださってありがとうございました。これからはまた依頼に戻りますので宜しくお願いします。
また、いつか、どこかでお会いしましょう。
間垣 久実
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