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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


『蓬莱館』の真実
●合わせ鏡【8B】
「零様、いかがですか?」
「わあ……本当に誰も居ませんね」
 裸になった零はデルフェスの言葉を聞きながら、きょろきょろと辺りを見回した。女性用露天風呂『甲寅の湯』での光景である。
「お湯もいいですわよ。ささ、入りましょう」
「はいっ!」
 デルフェスに促され、かけ湯をしてから湯舟へと入る零。デルフェスもそれに続く。
「へえ……」
 湯舟に入った零は、面白そうに腕に湯を何度もかけていた。
「お湯が滑らかなんですね」
「何でもお肌がつるつるになるそうですわ」
「つるつる……。草間さん、最近お肌が荒れているみたいだから効くのかな……」
「効くと思いますわ。ただ武彦様の場合、お肌の荒れは煙草の吸い過ぎが原因だと思いますけれど」
 この時、草間がくしゃみをしていたかどうかは定かではない。
「草間さん……か」
 零が不意に思案顔でつぶやいた。
「どうかされましたか?」
 不思議そうに尋ねるデルフェス。零がゆっくりと頭を振った。
「ううん、何でもないです。ただ……」
「ただ?」
「草間さんの所に来て本当によかったな……って、ふと思って。草間さんが居て、シュラインさんが居て、皆さんが居て……あ、もちろんデルフェスさんも居て」
 笑みを見せる零。それに呼応するようにデルフェスも微笑んだ。
 そんな時だった。ある気配を感じ、2人が同時に同じ方向を向いたのは。
「…………!」
「……気付いておられますか?」
 驚きの表情になった零にデルフェスが小声で尋ねた。こくんと頷く零。
「やはり来られていたのですね……エヴァ様。武彦様のお部屋に伺う途中に気配を感じ、もしやと思ってはいたのですが……」
 そう、デルフェスはエヴァ・ペルマネントの感じていたのだ。その上で、零を人気のない露天風呂に誘ったのである。
 エヴァは人目がない所で襲ってくるだろうと思い、また襲撃時の被害を最小限に食い止めるために――。
 少しして、2人の目の前にエヴァが姿を見せた。デルフェスがすっと零の前に出た。と、エヴァが右手を前に突き出してこう言った。
「待って、今は戦う気はないから。私は姉さんに話があるの」
 奇妙なことに、今のエヴァは話だけをするためにここに姿を見せたようなのだ。
「話……?」
「簡単なこと。私の邪魔はしないで。もし姉さんが邪魔をするというのなら……その時はこの間の決着をつけましょう。決して手加減はしない」
 微笑むエヴァ。それは冷たき微笑であった。
「エヴァ様。エヴァ様はいったいここで何を……」
 デルフェスが口を挟む、
「……新たなる『霊的エネルギー』を求めて。とだけ言っておきましょうか、せっかくだから。あと言っておくけど、あなたはライバルじゃないから」
 どうもエヴァ、デルフェスがエヴァのライバルを自称していることを耳に入れていたらしい。
「……ああ、やりにくい。どうしてこう、私を気にかけるのが多いのかしら……」
 エヴァがぼそっとつぶやいた。
「エヴァ様はそれを得て……どうされるおつもりなんですか」
「私がどうこうする訳じゃないわ。全ては『虚無の境界』のためよ。私はそう命令を受けた。……誰かさんたちのために、この間は計画を滅茶苦茶にされたからね」
 そう言ってエヴァはじろっと零を睨み付けた。
「それじゃあ姉さん。姉さんはゆっくり温泉入ってなさいな……あはははは……」
 高笑いとともに去ってゆくエヴァ。後に残されたのは零とデルフェスだけであった。
「…………」
 エヴァが居なくなり、零が立ち上がって湯舟から上がろうとした。デルフェスが零の腕をつかんだ。
「零様、どちらへ行かれるんですか」
「……放してください。私……彼女を止めないと……」
 零が頭を振りながらデルフェスに言った。
「……今の彼女の姿は、昔の私の姿ですから」
 そして笑顔を見せる零。それはとても寂し気な笑顔であった。
「零様……」
 いつしかデルフェスは、零の腕から手を放していた。
「……わたくしもご一緒いたしますわ」
 立ち上がるデルフェス。零とデルフェスは湯舟から出ると、手早く服を着てエヴァを追いかけることにした。
(でもどうして、エヴァ様はここで零様を襲おうとなさらなかったんでしょう……)
 唯一、デルフェスはそのことが引っかかった――。

【『蓬莱館』の真実・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 2181 / 鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)
     / 女 / 19? / アンティークショップ・レンの店員 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全38場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした。ここにようやく『蓬莱館』の真実をお届けいたします。『蓬莱館』とはこのような所でした。皆様はいかが思われたでしょうか? 今回もまた共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』へようこそ』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回高原が書かせていただきました『高峰温泉』2本ですが、不老不死・陰陽(精霊含む)・IO2・『虚無の境界』・シリアスとコミカルの危うい同居……といった所をテーマにしておりました。果たしてどの辺りまで達成出来たかは分かりませんが、もし楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・分かりにくかったかもしれませんので、時間軸のお話を少し。『『蓬莱館』へようこそ』は麗香逗留3日目から4日目にかけてのお話、『『蓬莱館』の真実』は逗留5日目と後日談のお話でした。
・当初の予定では、エヴァはもっと暴れる(戦闘する)はずでした。でも実際の本文ではそうはなっておりません。これはプレイングの影響を受けたためです。普段の高原の依頼もそうなんですが、『高峰温泉』は特にプレイングの影響で流れが変わっております。書かなくてはならないことも雪だるまのごとく増えてゆきましたし。
・あと余談なんですが、この『『蓬莱館』の真実』では麗香に深く関わるとどんどんと麗香が壊れてゆく様子が見られる予定でした(しかも、ろくに情報が手に入らないというおまけつき)。その片鱗は共通ノベルや一部の個別ノベルに出ているかと思います。いや、予定ではもっと凄かったんですけれども……ちょっと残念。
・鹿沼・デルフェスさん、ご参加ありがとうございました。とりあえず、エヴァはデルフェスさんのこと気にはしているようです。零を露天風呂に誘ったのは別の意味で正解だったかもしれません。心情を吐露していますから。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。