 |
蜃宝珠
「赤、ねぇ…」
無意識に呟いた言葉に自分でびっくりして、それからゆっくりと微苦笑を口に広げた。
赤い、珠。
1つは割れ、ひとつは一緒に珠を預かった人物と同じ色で、そしてもう1つは。
摘んだ時、中に何かが見えたような気がした。
それは、それこそは幻だったのだろうか。
ワインのように赤く、深く、そして明るく。
いつまでも見つめているものではない、そう思わせる赤。
それは――血の色に酷似していたから。
「それとも、他の意味があったのかしらねぇ」
大きな旅行バッグを手に、明日からはまた事務所ー、と軽く伸びをして部屋を出。
廊下を突き当たった曲がり角で、沙耶と出会った。
「今お帰り?」
「もう少しゆっくりしてからね。貴女も?」
「私はもう帰るわ。温泉も堪能したし、身体もゆっくり出来たから。これ以上此処にいたら鈍っちゃいそうよ」
シュラインの言葉に沙耶がくす、っと柔らかく笑う。
「ずっと休暇だった訳じゃないでしょうに。戻ってもまたお仕事の山よ?」
「…その方がいいわ。頭も身体も動かしていないと落ち着かないのよ。もうこれは性分でしょうね」
自分に対し、苦笑いを浮かべて見せたシュライン。そんな彼女に沙耶がそうかもしれないわね、とそっと言い。
「此処に来てもお仕事してるくらいだものね」
「その通りね」
互いに目を合わせて笑う。それから何気なく、
「あの珠って高いんでしょう?」
そんなことを聞いた。行き先が少し気になったせいもあったが、その殆どは好奇心。
「――そうねえ…本当に滅多に手に入らないモノだから、多少はね。欲しかったら取り置いておくわよ?」
「そこまではいいわ、どうしても手に入れたいものでもないから」
そこからふと思いついて軽く首を傾げつつ、
「あの色は偶然付いたものなの?」
そう、聞いてみた。
ある意味予想通り、沙耶がそっと首を横に振る。
「あの色を決める要素は詳しく知らないけれど、各自の色らしいわよ」
それぞれに意味もあるのだという沙耶は、知らないのかそれ以上語らずに少し話題を変え、
「それにしても、綺麗な色だったわね。…過去にあの珠を見たことはあるけど、あれほど鮮やかなものは滅多にないわ」
「そうなの?」
「そうよ。大抵は混ざりかけか、滲んだような色になるものだから。…其処まで、染みこむ『色』を持っていないものらしいから」
そのうちの一色はシュラインの持つ色らしい。
「アレを使って作る品が楽しみだわね」
そう言い、それじゃあね、とシュラインに挨拶を送って先に立って行く。何となく後を追いながら、ロビー奥へと移動する沙耶とは別れて玄関へと向かった。
――染みこむ、色。
自分の…色。
ふう、小さく溜息を付いてゆるく首を振り、そしてバッグを肩に担ぎなおす。
幻とは言え、これから向かおうとする場所の主に触れた手をぎゅ、っと握り締めて。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物 ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
お待たせしました。「蜃宝珠・個人ノベル」をお送りします。
この話は依頼を終えた次の日の、外伝的な話となっています。
各自少しずつ話が違っていますので、宜しければ他の方の話も御覧下さい。
参加してくださってありがとうございました。これからはまた依頼に戻りますので宜しくお願いします。
また、いつか、どこかでお会いしましょう。
間垣 久実
|
|
 |