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『蓬莱館』の真実
●盲点【6B】
レイベルの組んだトラップシステム。それは本人も語っていたように、あらゆることに対し想定されている……かと思われた。
しかし、何事にも完璧は存在しない。トラップシステムにも、ただ1つ盲点が存在していた。
それは1度出現したトラップが、自動的に元に戻る瞬間である。トラップが作動しない空白の一瞬が、そこに存在していたのだ。
まるでその一瞬を見計らったかのように、先程天井を半自律式の移動監視装置が通過していた――クミノのそれだ。
●隠し通路・隠し部屋【7C】
「……驚いた」
クミノはメインモニタに映し出されたその光景を見て、ぼそりつぶやいた。メインモニタの中では、あの水墨画の下の空間がぽっかりと開いていた。
突き当たりに水墨画があることに疑問を感じたクミノは、半自律式の移動監視装置を通じてその周辺を丹念に調べていた。その結果、水墨画の下の壁がスライドすることに気付いたのである。
「中は通路が続いているようだが……」
移動監視装置を中へやり、さらに奥を調べさせるクミノ。数メートルほど進んだ時だろうか、小さな部屋に出た。薄暗く狭い部屋だ。
「ん?」
そこには何か妙な者が居た。鎖でがんじがらめにされ床に転がされていた人間――西船橋武人である。その顔は涙とよだれで汚れ、疲れているのか眠ってしまっているようだった。
(怪しい)
メインモニタに映し出された武人の姿を見て、そう思ったクミノの感性は正しいだろう。これで怪しくなければ、世に出回っているSM写真の1/6くらいは全くの健全であるということになるだろうから。閑話休題。
クミノが思う怪しさの度合としては……この『蓬莱館』と同じくらいだろうか。そう思う理由はただ1点。ささやかながら常に武器の召喚が励起状態にあるという事実である。
それはつまりこの場がある種の害意……あるいは警戒感なのだろうか、そういった物を持っているとクミノに語りかけているようなもの。
そして、そのような場所に転がっている武人。ほら、怪しくないはずがない。
(どうしたものか)
思案するクミノ。とりあえず、移動監視装置のアームでバンダナをずらし、目隠しとしてから尋問をしてみることにした。
キーを叩き、こちらからの音声を送れるようにするクミノ。準備が整った所で、アームで武人の頬をぺちぺちと叩いた。
「ん……んん……んっ!?」
目が覚めた武人は、目隠しされていることに気付いて驚いているようだった。
「ここで何をしている?」
スピーカーを通じ、クミノの声が武人に届いた。が――。
「何をしているじゃないよ! 目隠し外せ! 出せーっ! ここから出せーっ!!」
「だから何を……」
「出せーっ! 出せっつってんだろーっ! こんなのっ、ジュネーブ条約違反じゃねーのかーっ!! ここから出せーっ!!」
そう叫ぶばかりで尋問になりゃしない。呆れたクミノは武人をこのまま放置し、移動監視装置を外へ戻すことにした。
そして外に戻るとご丁寧にスライドさせた壁を元に戻させ、移動監視装置をそのまま天井に張り付かせて誰が来るのか見張らせることにしたのだった。
●あなたが動いたその理由【16B】
「全て終わったみたいだが?」
マイクを通じ、クミノの声が沙耶の方へと届く。
「ええ、知っているわ。無事に終わって何より……。招待した甲斐があったというものよ」
沙耶の声がスピーカーから流れてくる。その口調は、まるで全ての展開が見えていたかのようであった。
「私を口車に乗せて連れてきたのもその一環か」
クミノがそう尋ねると、沙耶は笑みを浮かべた。そしてその質問には直接答えず、こう言った。
「抑止力という言葉があるわ。文字通り、抑えて止めさせるための力。冷戦時代の核配備もそうだったかしら。本当に力のある物は、使われなくともその存在意義を発揮する。ただ、そこに居るだけで……ね」
「……抑止力として皆を呼んだと?」
「さあ、どうかしら」
沙耶が答えをはぐらかした。
「あなたがそう思うのであればそれが真実。真実は決して1つであるとは言い切れないのだから……」
最後にそう言い残し、沙耶は姿を消した。
【『蓬莱館』の真実・個別ノベル 了】
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■ 登場人物 ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / 年齢 / 職業 】
【 1166 / ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)
/ 女 / 13 / 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全38場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした。ここにようやく『蓬莱館』の真実をお届けいたします。『蓬莱館』とはこのような所でした。皆様はいかが思われたでしょうか? 今回もまた共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』へようこそ』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回高原が書かせていただきました『高峰温泉』2本ですが、不老不死・陰陽(精霊含む)・IO2・『虚無の境界』・シリアスとコミカルの危うい同居……といった所をテーマにしておりました。果たしてどの辺りまで達成出来たかは分かりませんが、もし楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・分かりにくかったかもしれませんので、時間軸のお話を少し。『『蓬莱館』へようこそ』は麗香逗留3日目から4日目にかけてのお話、『『蓬莱館』の真実』は逗留5日目と後日談のお話でした。
・当初の予定では、エヴァはもっと暴れる(戦闘する)はずでした。でも実際の本文ではそうはなっておりません。これはプレイングの影響を受けたためです。普段の高原の依頼もそうなんですが、『高峰温泉』は特にプレイングの影響で流れが変わっております。書かなくてはならないことも雪だるまのごとく増えてゆきましたし。
・あと余談なんですが、この『『蓬莱館』の真実』では麗香に深く関わるとどんどんと麗香が壊れてゆく様子が見られる予定でした(しかも、ろくに情報が手に入らないというおまけつき)。その片鱗は共通ノベルや一部の個別ノベルに出ているかと思います。いや、予定ではもっと凄かったんですけれども……ちょっと残念。
・ササキビ・クミノさん、ご参加ありがとうございました。唯一、沙耶の真意(の片鱗)に触れた方だと思います。ちなみに本文では記していないんですが、『蓬莱』自身がジャミングしていたりします、実は。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。
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