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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


『蓬莱館』の真実
●1世紀の隔たり【6A】
「ふむ……内出血の様子もなく、たんこぶすら出来ていない。問題なし」
 草間の頭を診ていたレイベルは、そう言って草間の背中を叩いた。
「……正直言って、精神的ダメージの方が大きいがな」
 草間が溜息混じりに言う。最後の一斗缶がやはり堪えているようである。
「そうか、やはり精神的ダメージは大きいのか。狙い通りだ」
 しかしレイベルは草間の言葉を、別の意味で解釈したようだった。
「は? どういうことだ?」
「ああ、『捻り』のような解錠能力に対応するために組んだ物だったんだ、元は」
 草間の問いかけにさらっと答えるレイベル。だが、草間はますます訳が分からないといった表情を見せた。
「そうじゃない。『狙い通り』とは、どういう意味だと聞いてるんだ」
「どういう意味も何も、そのままだが? そもそも、あのトラップの原形は私が組んだ物だからな」
「な……!」
 絶句する草間。レイベルは草間の様子など無視して話し続けた。
「あれは確か100年ほど前……バルチック艦隊がどうのこうのというニュースが街を騒がせていた頃だったか。事情があって、トラップのシステムを組んだんだが……ここに納品されていたのには驚いた」
 トラップに目をやるレイベル。すると各種トラップは、自動的に元へと戻っていった。もちろんあの一斗缶も吸い込まれるように天井へ。
「で、作った本人も引っかかったって訳か」
 草間がわざと意地悪い口調で言った。しかしレイベルはそれを気にする様子もなく、普通に答えた。
「ああ。もっとも、変な改装が加えられてたので対抗してさらにバージョンアップさせたよ」
「……バージョンアップだと?」
「私が引っかかった際には金タライが降ってきた」
 一瞬の沈黙。
「ということは……一斗缶はお前のせいかあーっ!! 変な所でバージョンアップするんじゃないーっ!!」
「一斗缶は平方センチ当たりの圧力を考慮した結果だったんだが……まあ、他にも細々と調整している。恐らく10%前後は効能が上昇しているだろう」
 レイベルが何を怒っているのかといった表情で草間を見た。
「……もういい。それで? 何でシステム組んだんだ?」
「ああ、そのことか。先程も言ったように解錠能力、ちょっとそういう能力を持った奴らを閉じ込める必要にかられてね。ほとんど普通の物質で組んだ訳だが、作動は私が保証する」
 きっぱりと言い切るレイベル。よほどシステムに自信があるようである。
「『無空』で跳んでもちゃんと反応するし、『風王』で轟風でも起こそうものなら『神の鉄槌』が喰らわせられる……」
 草間にとっては専門用語が多く出てきているのでよく分からないが、要は様々な対策が講じられているということのようだ。
「ちょっと待て。トラップってさっきのあれだけじゃないのか!」
「当然だ。あれでも3割出てるかどうかだろう」
「100年も前に、よくそういう芸当が出来るな……」
 感心したような呆れたような視線をレイベルに向ける草間。その時、ふっとあることを思い出した。
「……100年前だと?」
「どうかしたのか?」
「それはつまり、100年前にはここに『蓬莱館』があったということか?」
「それは知らんよ」
 レイベルが首を横に振った。
「私が初めて日本へ来たのは戦後のことだ。だから、100年前にここがどうしていたのかは分からん」
「そうか……」
 草間は溜息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。
「そういや、お前はどうしてここに居るんだ?」
「招待を受けたのだが?」
 何気なく答えるレイベル。と、草間が眉をひそめた。
「……高峰沙耶か」
「ご明察。どうして私の所に招待状を送ってきたのか、まだ本人に会っていないので理由は聞けないが。そもそも、ここに居るのかさえ私は知らない」
「やれやれ。本当に何を考えてるんだ……? ともかく、俺も部屋に帰るとするか。じゃあな」
 ぶつぶつ文句言いながら、部屋へ戻る草間。レイベルはそれをその場で見送っていたが、やがて思い出したようにこうつぶやいた。
「さて。私も行くとするか……どうしてこれがここにあるのか、聞かなくてはならないからな」
 歩き出すレイベル。聞くべき相手――蓬莱の姿を探して。

●盲点【6B】
 レイベルの組んだトラップシステム。それは本人も語っていたように、あらゆることに対し想定されている……かと思われた。
 しかし、何事にも完璧は存在しない。トラップシステムにも、ただ1つ盲点が存在していた。
 それは1度出現したトラップが、自動的に元に戻る瞬間である。トラップが作動しない空白の一瞬が、そこに存在していたのだ。
 まるでその一瞬を見計らったかのように、先程天井を半自律式の移動監視装置が通過していた――クミノのそれだ。

●単刀直入【8D】
「蓬莱様」
 『蓬莱館』館内を歩き、ようやく蓬莱の姿を探し当てた亜真知は名前を呼んだ。
「はい? どうされましたか、お客様」
 にこっと微笑み、振り返る蓬莱。すると亜真知は笑顔でこう言った。
「何か手伝えることがありますか?」
「え? いえいえ、お客様に手伝っていただくようなことは何も……」
 笑って断ろうとする蓬莱。だが亜真知がもう一言付け加えた。
「ここで感じられる霊気にも関係することですよ?」
 その途端、蓬莱の顔色が変わった。
「あなた……いったい……」
「手伝うこともやぶさかではない……のは、私も同じだが? ただし、話の内容次第だ」
 そこにひょっこりとレイベルが現れた。こちらはこちらで、聞きたいことがあって蓬莱を探していたのであった。
「どうして私の組んだトラップがここにあるのか……と聞こうと思ったのだが、それより先に聞くべきことを思い出した」
 腕を組み、近くの壁にもたれかかるレイベル。
「蓬莱、少々面白い者たちが招待され過ぎたようだ。もっとも今回の黒幕は他に居るようだけど。さて……そろそろ目的に必要なことは教えてくれないかな?」
 レイベルが蓬莱の顔を見つめた。亜真知も亜真知で、蓬莱の顔を笑顔でじーっと見ている。
「分かりました。説明するよりも、見ていただいた方が早いでしょうね……」
 溜息を吐き、複雑な笑みを浮かべる蓬莱。
「どうぞこちらへ」
 そしてレイベルと亜真知を促すと、蓬莱は先頭に立って歩き出した。

【『蓬莱館』の真実・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0606 / レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)
           / 女 / 20代? / ストリートドクター 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ダブルノベル 高峰温泉へようこそ』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全38場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・大変お待たせし申し訳ありませんでした。ここにようやく『蓬莱館』の真実をお届けいたします。『蓬莱館』とはこのような所でした。皆様はいかが思われたでしょうか? 今回もまた共通・個別合わせまして、かなりの文章量となっております。共通ノベルだけでは謎の部分があるかと思いますが、それらは個別ノベルなどで明らかになるかと思います。また、『『蓬莱館』へようこそ』と合わせてお読みいただくと、より楽しめるかと思われます。
・今回高原が書かせていただきました『高峰温泉』2本ですが、不老不死・陰陽(精霊含む)・IO2・『虚無の境界』・シリアスとコミカルの危うい同居……といった所をテーマにしておりました。果たしてどの辺りまで達成出来たかは分かりませんが、もし楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・分かりにくかったかもしれませんので、時間軸のお話を少し。『『蓬莱館』へようこそ』は麗香逗留3日目から4日目にかけてのお話、『『蓬莱館』の真実』は逗留5日目と後日談のお話でした。
・当初の予定では、エヴァはもっと暴れる(戦闘する)はずでした。でも実際の本文ではそうはなっておりません。これはプレイングの影響を受けたためです。普段の高原の依頼もそうなんですが、『高峰温泉』は特にプレイングの影響で流れが変わっております。書かなくてはならないことも雪だるまのごとく増えてゆきましたし。
・あと余談なんですが、この『『蓬莱館』の真実』では麗香に深く関わるとどんどんと麗香が壊れてゆく様子が見られる予定でした(しかも、ろくに情報が手に入らないというおまけつき)。その片鱗は共通ノベルや一部の個別ノベルに出ているかと思います。いや、予定ではもっと凄かったんですけれども……ちょっと残念。
・レイベル・ラブさん、ご参加ありがとうございました。金タライとくれば、一斗缶かなと。ちなみに本文では記せなかったトラップの納品経緯を。あのトラップ、流れ流れてアンティークショップ・レンへ回り、今年『蓬莱館』へ納品されたのです。で、作動したのが本文当日からだったと。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またどこかでお会い出来ることを願って。