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<期間限定・東京怪談ダブルノベル>


■■ 玲瓏の鈴 ■■



「……おや」

ぶうらりぶうらりと、一人蓬莱館の森の浅い所を散歩していたレイベルが其れに気付いたのは、「其れ」が月明かりに透けている所為だった。きらきらと煌いているものが暗い森に一人ぽつんと浮かんでいれば、其れは見つからない方が可笑しいという物だ。背中に猫が引っ掻いたような月を背負う「其れ」──少女幽霊のミコは、小さく微笑んでレイベルへと近寄っていく。

「あなたは確か、さっきの」
「そう、さっきの幽霊」

レイベルはすい、と腕を持ち上げ、軽くミコを指し示す。ミコは小さく笑んで、ぺこりと小さな礼をした。ミコがどうしてまだ帰らずに此処に留まっているかなどは、レイベルは小さく肩を竦めたものの、別段気にしていないようだった。

「皆に、お礼が言いたくて。色んな人の所、回ってるの」

ミコはぽつりと呟くと、ふうわりと中空を舞い、レイベルの眼前に其の小さな身体を据えた。
そうして、ちょこんと着物の端を摘み、ゆっくりと深く礼をした。有難う、と感情の滲み出た言葉に、レイベルはひらひらと右手を振りながら苦笑した。

「辛気臭い感謝はよしてくれ。……あなたの気持ちだけで十分だ」

そう言うと、レイベルは顔を上げたミコを見てふ、と思考を巡らせた。一瞬だけ、其の視線がミコから夜空へと流される。

「そう言えば……どうしてあなたは亡くなったんだ?」
「……えっと」

ミコは呟くと、其の小さなぷっくりとした紅葉のような手を口許に当てた。どうやら彼女の癖らしく、瞳は考え事をするように、先程のレイベルと同じく夜空を見上げていた。
ちょこんと首を傾げて、ミコは緩く肩を竦める。

「流行り病だよ。村にはお医者様が居なかったから」
「……そうか」

ミコの言葉にそう相槌を返し、ややあってレイベルは口許に薄く笑みを浮かべたまま、ゆっくりと口を動かした。私が其の時其の場に居れば、治してやれただろうに。静かな呟きに、ミコは驚いて顔を上げた。
が、直ぐに其の顔を諦めのように歪めた。年相応の少女が見せる表情にしては、随分と寂れた様子だった。

「だって、ずぅっとずぅっと昔のことなのに。きっと、貴女は生きてないよ」
「どうかな。私はこう見えても、395歳でね」

其の言葉に、ミコはぽかん、と口を開けた。ややあって、くすくすと小さな笑い声を漏らす。だが其の声は言葉の可笑しさに笑うようなものではなく、唯純粋に笑っている様子だった。

「そうなんだ。……貴女が居れば、良かったな。そしたら、村の皆、死なずに済んだのに」

寂しげにぽつりと呟いて、返事も待たずにミコはふうわりと夜空に舞い上がった。レイベルも特には引き止めない。彼女には残された時間は僅かなのだろう。鈴は彼女の手に戻ったのだから。此れから彼女は、遠い空の向こうまで行かねばならぬのだ、きっと。
レイベルは、大きくひらりと手を振った。ミコも小さく手を振り返す。

「……あのね。身体が苦しくて困ってる人が居たら、助けてあげてね。苦しい思いなんか、きっと誰もしたくないと思うから」
「ああ、勿論。私は医者だからな」

ミコの小さな呟きに、レイベルは頷きながらそう返す。

最後の瞬間、ミコは微笑んだのだろうか。逆光となっている月の光で良くは判らなかった。
風に飛ばされるように、ミコの姿は其処からふわりと掻き消えた。



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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0606 / レイベル・ラブ / 女性 / 395歳 / ストリートドクター】

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■         ライター通信          ■
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今回は私をご指名頂き、有難う御座いました。(礼

レイベルさんはかっこいい女性のようでしたので、かっこよくかっこよく、と自分にずっと暗示を掛けておりました。
お陰で、そう壊すことなくキャラを書けたような気がするのですが・・・登場頻度が少し少なかったかな、と。(汗
其れだけが心残りです。(しくしく)何はともあれ、楽しんで頂けましたなら幸いです。

また機会が在りましたら、宜しくお願い致します。(深々