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駅前マンションの怪
●眠りのマンション
その日の気温はぽかぽかと昼寝にとっても良い陽気。空は青いし風は爽やか。
お昼寝日よりとはまさにこんな日を指すのだろう。
しかし今日は一応用事があって歩きまわっているのだ。なかなかに魅力的な思いつきも、今実行するわけにはいかない。
三春風太は今日、一人暮しの物件を探しつつの散歩中だった。
「……入居者募集中?」
とあるマンション前の掲示板にでかでかと張られたチラシに、風太は足を止めた。入居希望者は管理人室まで、と書かれている。
広さ、駅からの距離もさることながら、値段がとてもお手ごろ価格。
「へぇ……良い感じかも」
ひょいと中の様子を窺ってみる――と。
「あれ、なんだか寝てる人がいっぱいいるぞ?」
廊下だとか階段だとか妙なところで寝ている人ばかりだが、どの人もみんな寝顔は気持ち良さそう。
「ボクも混じっちゃおうかな〜」
でもその前に物件の話を先に済ませて、のんびり昼寝する方が気分は良いだろう。
「うん、そうしようっと」
管理人室に行くべく一歩マンション内に踏み込んだ途端、なにやら猛烈な眠気に襲われた。
「あれぇ?」
目をこすりつつも、とりあえず管理人室の前まで辿り着いて、風太はひょいとチャイムを押した。
●チャイナ服の少女を探せ…?
何故か眠気の襲ってこない大家宅に、お客が三人――シュライン・エマ、天薙撫子、三春風太の三人だ。
「どうなってるのかしら……。大家さんは何か知ってます?」
廊下側の窓の方にちらと視線を向け、シュラインは大家に視線を戻してから尋ねた。
それに対しての大家の答えは至極簡単。
「春の妖精が何故かここに留まっているんだよ。いつもならもう次の土地に行っている頃なんだがなあ」
「春の妖精?」
ぽかぽかと眠気を誘う暖かい陽気を思い出して、風太は楽しそうに聞き返す。
「もしかして……お団子頭にチャイナ服の女の子ですか?」
「おや、シュミンに会ったのかね」
思い当たるところのある撫子の問いかけに、大家から肯定の言葉が返ってきた。
「はい」
「シュミンちゃんって名前なんだ〜」
頷く撫子の後ろで、妖精の名前を知った風太が楽しげに彼女の名前を繰り返す。
大家の様子から察するに、その春の妖精は悪い子ではないらしい。つまり、意地悪して留まっているわけではないということ。……もしかしたらなにか困った事が起こって移動できなくなっているのかもしれない。
「まずは本人に直接聞きに行くのが良いかしら」
「ええ。でも睡魔をどうにかしませんと……。お祖父様、お部屋に張ってある結界を応用して彼女の眠気の効果を抑えることってできませんか?」
撫子の問いを聞いて、風太がなにやら考えこむ様子を見せた。
「風太くん?」
シュラインが尋ねると、風太はじーっと外を見て、
「シュミンちゃんは、ちゃんと眠れてるのかな? もしかして、ボクらに陽気を運ぶのに忙しくて寝る時間なかったりしないかな……?」
唐突にそんなことを言い出した。
ちょっと論点がずれているのでは? と思うシュラインと撫子であったが、それをそのまま口にしたりはしない。
「それじゃあ、その事を聞くためにも、シュミンを探さないとね」
大家に小さな簡易結界を張ってもらった一行は、春の妖精・シュミンを探すべく、管理人室を後にした。
●行き倒れ、一名。
階下から順に。春の妖精を探して上へと上へと昇っていた三人は、不本意に眠ってしまったのだろう者を発見した。
なんでそう思ったのかといえば、それは落ちていたカフェインの錠剤の瓶のせい。
「起こした方が良いのでしょうか?」
「そうねえ……」
撫子とシュラインは彼と面識があった。悠桐竜磨――このマンションの住民にして人外の存在である。
「でも、気持ち良さそ〜だよ?」
風太の一言もまあ、間違っていない。
春の妖精にして、春眠暁を覚えずの言葉通りの眠りをもたらす妖精でもある彼女の影響による眠りは、必ず良い夢が見られると言う。だから、竜磨の表情がけっこう幸せそうなのは不思議でもなんでもない……が、どんなに幸せな夢を見ていようが、眠りっぱなしでいたいと思うかどうかは別問題だ。
とゆーわけで。
「大丈夫ですか?」
ゆっさゆっさと揺らしてみる。
「悠桐くん、起きて!」
さらに揺らす事数回。
「ん……」
「おはよぉ、お兄さん」
「……おはよう」
なんとものんきな風太の挨拶に、寝ぼけ半分で答えてから、竜磨はぱっと起きあがった。
「ああっ!! あの子は!?」
「あの子?」
「春の妖精のことですか?」
撫子の問いに、竜磨はこくこくと頷いた。
「……早いところ探し出さないとマズイ」
キョロキョロと周囲を見るその様子に、シュラインが口を開いた。
「シュミンちゃんと会ったの?」
「ああ。ほんのついさっきね……多分」
多分と入ったのは、どのくらい寝ていたのかわからないからである。
「どーもあの子、自覚ないみたいなんだよな……自分が撒き散らしてる睡魔の威力に」
「……とにかくお祖父様の結界が消える前に探し出しましょう」
「ボクたちは下から順に見て回ってきたから、いるなら上のほうだよね?」
風太の言葉に頷いて、一行はさらに上へと昇っていった。
●風の知らせ
えっちらおっちら階段を昇り、一行がシュミンを見つけたのは十八階の廊下であった。
「あーっ、さっきのお兄さんっ」
お団子頭にチャイナ服の少女が、ぱっとこちらに飛んでくる。
「と、こちらさんは?」
「ボクねえ、風太!」
じっーっと見上げてくるシュミンに最初に答えたのは風太であった。元気に右手を差し出して、その意味を悟ったシュミンは小さな両手で握り返してくれる。
それぞれ名前を名乗って自己紹介を終えてから、一行はとりあえず管理人室へと戻ることにした。大家が用意してくれたお茶とお菓子を頂きつつ、シュミンに事情を聞いてみる。
「いつもならもう次の場所に行ってる頃だって聞いたんだけど……どうして今回はずっとここに留まっているの?」
シュラインの問いに、シュミンはんーっと考えるような仕草を見せた。
「わかんないっ」
「わからない……?」
「うんっ。だって風が吹かないんだもん」
「シュミンは風に乗って移動してたわけか」
「そぉよ。風が教えてくれるの。そろそろ次の場所に行きなさーいって」
「それが今回に限っては何故かなかったわけか」
単純に上手く風に乗れなかったとか道に迷ったとか言うならばまだやりようがあるのだが、風の知らせなんてどうやって探せばよいのやら……。
「そうねえ……去年から今年にかけて、新しくできたビルとかあるかしら」
もしかしたらそれで風の流れが変わったせいかもしれない。その考えには撫子と竜磨も同意した。
「だったら高いところにでも行ってみるか?」
とりあえず、この周辺で一番高い建物は実はここ……二十階建てマンションの屋上である。
「それじゃ、一緒に屋上に行ってみましょうか」
今度はエレベーターを使って、二十階まで上がり、そこからは階段で屋上へ。
高いところだけあって風は強い――と、しばらくして。
「そっかあ、高いところは風の声が聞こえやすいんだね。うんっ、良いこと知ったわ」
「……聞こえたの?」
「うんっ。どーもありがと〜」
「そーだ、忘れるとこだった。あのね、どうもありがとう。シュミンちゃんのおかげでボクら、ぽかぽか陽気の中ぐーっすりお昼寝できるんだよね」
にっこりと笑った風太に、シュミンがぱっと表情を輝かせる。
「嬉しい? 嬉しい? わーいっ!」
言うが早いかぴゅっと昇っていったシュミンは、あっという間に姿が見えなくなり……そのままどこか遠くへ飛んで行った。
●そして……
「あっ、聞き忘れちゃった……。シュミンちゃんはちゃんと眠れてるのかなって。よかったらシュミンちゃんも一緒にお昼寝しようよって誘おうと思ってたのに」
シュミンを見送った屋上で、突然そんなことを言い出す風太。
「そうねえ……。そういえばそもそも、妖精って眠るのかしら」
「さあな。とりあえず、オレは帰って寝る」
帰ってきた当初は大学に行く気でいたが、なんだかもうそんな気力もない。さすがにバイトは休めないが、それまでは思いっきり寝倒す気である。
「ちゃんと眠ってますよ、きっと」
確信のないことを言うのもどうかと思うが、少なくとも『忙しくて寝る時間がない』なんて事態とは無縁に見えたのでそう返しておく。
「ん〜……なんだかお昼寝したくなっちゃったな、ボク」
言いつつ、何故か出すのはお風呂セット。
「おねーさんたちも入る? 温泉であったまった後ってとっても気持ち良く眠れるんだよ」
――温泉効果かそれともシュミンの置き土産か。
その日の四人は、それぞれとても良い夢を見ることができたのだった。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
0328|天薙撫子 |女|18|大学生(巫女)
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2133|悠桐竜磨 |男|20|大学生/ホスト
2164|三春風太 |男|17|高校生
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ライター通信
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こんにちわ、日向 葵です。
毎度おなじみ(?)駅前マンションご参加ありがとうございました。
>天薙さん
いつも大家と仲良くしてくださってどうもありがとうございます。
「お祖父様」と呼んでいただけたのはもう、本当に本当に嬉しかったですv
>シュラインさん
毎度お世話になっております。
眠りっぱなしの人へのフォローもいろいろ入れてくださったのですが、書く余裕がなくてすみません(汗)
>竜磨さん
カフェインで頑張ってくださったのですが……眠ってしまいました(をい)
眠っている人に対しての楽しい描写があったのですが、寝たおしてやろうプレイングがなかったので書く機会がなく……ちょっと残念です(苦笑)
>風太さん
はじめまして、こんにちわ。駅前マンションにようこそいらっしゃいました♪
可愛いプレイングが楽しくて、ついつい笑みが零れました。
可愛くも優しい風太さんの台詞がとてもとても嬉しかったです。
今回はご参加ありがとうございました。多少なりとも楽しんでいただければ幸いです。
それでは……またお会いする機会がありましたら、その時はどうぞよろしくお願いします。
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